無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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「そんな感じだったんだね」

 

亮が思い出を語り終えると、愛菜は視線を夜景から亮へと移す。その時の彼の目は、時々見る、彼がとても脆く見える色をしていた。彼は未来が嫌いだ。過去を語る時だけ、本当の彼が見え隠れする。愛菜はそれをよく知っている。

 

「んー、じゃあ今も亮は私をお母さんの言葉に従って養ってるわけだ」

「ンー、どうだろうな。少なくとも、今の俺にとってお前は無くてはならない存在だ。あの人がもういいって言っても今の環境を壊す気はないよ」

「……っ!?」

 

思わぬ言葉に一瞬愛菜がビクッと震える。これが昼間なら「っしゃおらぁ!」などと叫んでいたかもしれないが、満月の夜空と街の光が織り成す夜景のせいでそこそこ雰囲気が出ているため空気を読む。

 

「八代も、優衣も同じだ。けど、しょっちゅう考える。愛菜が死んだ後、どうすんのかなってな」

「……」

 

懐からタバコを取り出して、火をつけ吸って吐く。いつも通り、吐き出した紫煙は宙に溶けて消える。面白くも何ともないのに、それを目で追う。

ちなみに最初の言葉で愛菜が冷静になったのは言うまでもない。

 

「絶対に守る。幸せにしてみせる。なんかのドラマだかアニメだかゲームの受け売りだか忘れたけど、俺はそう誓ってダメだった。そんな想いだけが先行して、大切な人達を死なせた上に一番大事な人を何だかよくわからない存在に昇華させた。守るために戦ったはずなのに、全部失って勝利した。大切な物は無くしてから気づくって言うけど、無くさなくても大切だってわかってたのにな」

 

仲間を失いたくなくて、大切な人を守りたくて戦ったのに。誰一人守れず、ただ無敵なだけの存在になった。何百年とただ曖昧なものにだけ縋り付いて、無意味に生きた。

 

「俺はお前達が大切だ。失いたくない。八代はいい。優衣も大丈夫。多分そこ二人は死ぬってことがない。けどお前は絶対に死ぬ。お前はちょっと変わった魔術を使うだけの人だからな」

 

それは避けられない。避ける方法はあるが、するべきじゃない。魔人なんてならなくていいならならない方がいい。こんなのはただ強いだけの悲しい存在だ。

そしてそれは、必然的に別れがあることを指す。

 

「お前が死んだら。その後がなんか、想像付かなくて」

 

違う。想像なんて付く。四十年前のように何のあてもなく神聖さを求めて歩き回るだけ。方法はわかる、だが終わりが見えない。しかしそこまで考えて、ふと気がつく。今だって神聖さを求めて動いているではないか。この前の聖光だって見た時は歓喜し、躊躇なく食らった。問題になって万が一でも愛菜に何か被害がないとは限らなかった。それでもやった。

愛菜の有無は目的にはなんの関係もーーーーと、そこまで考えて。

 

「んー、亮。そこはさ、ほら」

 

少し唸って考えて、愛菜は亮の心を見透かしたかの様に言う。

 

「私が死んだら寂しい。でいいんじゃないかな。私だって亮が居なくなったら寂しいもん」

「……そうだな」

 

さすがはあの人のクローン。いや、娘と言ったところかと感心する。言うことが変わらない。先の見えない未来があるからとか、無駄に長く築き上げて来た経験のせいでまた忘れていた。

大事な人が居なくなるのは寂しい。ただそれだけだったと。

 

「じゃそういうわけで、もっと二人の時間を大切にするという理由をこじつけて一緒に寝よう」

「あー、ホントお前は素直っていうか」

「そういう風に育てられたからね!」

「……どこで育て方間違えたんだろ」

「え、ねえ亮、今のなんかマジっぽいんだけど……」

「ごめんな、愛菜」

「そのタイミングで謝られると……え、え、あれホントあの……」

「ほら、寝るなら早くこい。俺の部屋でいいか?」

「え、う、うん…………ちょっと、悔い改めないといけない感じなのかなこれ」

 

必要のない、無意味な時間だった。ただそれでも、その愛菜は亮の膝を枕に、ゆっくり寝れた。亮はいつになっても変わらない愛菜の寝顔を見ながら、いつまでもこの寝顔を守りたいと思った。

人は人を守れない。だけどそれは守ろうとする意思が無駄だと言うわけじゃない。そんな矛盾を抱えて、自分が寂しくならない様に、守りたいとまた決意を固めた。

 

「黒いの、貸しじゃぞ」

「愛菜ちゃんよかったね」

 

翌朝、八代と優衣がそう言って愛菜の肩を叩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうなんか忘れそうになるが、根本亮は紙媒体の書物を販売するお店の店長である。

 

「ンー、どこだ」

 

インターネット通販で注文された商品を本棚から探す。一応タイトルは五十音順で並んでいるので、普段はすぐに見つかるのだが、今日だけは直ぐに見つからなかった。

 

「氷河期戦争……ひょうがきせんそう。だよな……」

 

「ひ」の列を探すもその本は見当たらない。ここにある本は笹塚より託された検索機に全て登録されているので、無いと言うことはないのだが。

 

「あーるじー、あーそーぼー」

「仕事中だ」

「これ以上働いてどうするん?お金ならたんまりあろうて」

 

確かに夜の仕事で貰っている金額はかなり多い。が、悲しいことにその金額の大半は自分の貯蓄という事にはならない。どう言うことかと言うと、金額が膨れ上がりすぎて国営に影響を及ぼす規模になっているので、一応自分が好きに使えはするが国が税金とは別に持っていく事があるというもの。

まぁそれでも生活に困ることはないのだが、自分だけの金が欲しいとか、そういう自己満足を満たすための仕事だ。

 

「つーか、お前邪魔だから上でやれよそういう遊び」

 

八代の方に目をやると、通路で自分の家族達、つまり八体の顔の骨を積み上げて遊んでいた。子供が積み木で遊んでいる構図に似てはいるが、積み木がとってもホラーだった。

 

「ちょい、顎の部分削っていい?」

「あかん」

 

狐の顔の骨が短く抗議する。

 

「唐突に喋んなこええよ」

「あるじー!ヤスリとかある?」

「いっそお前のレーザーだかビームだか、あれでいいんじゃねえの」

「おお、その手があったか」

「ファッ!?」

 

一体どこからそんな甲高い声が出ているのか気になるところではある。

まぁそんな感じで物騒ながらも平和な時間が流れていた。宮里由紀のアバターがどうとか色々あったが、やれと言われなければ、八代や愛菜や優衣に害を与えられなければ、亮には全くなにも関係のない話なのだ。

 

「ンー、マジでねえな。やべえどうしよう」

 

と、未だに行方の分からない氷河期戦争を探していたその時。

ーーーーガチャッ

 

「「っ!?」」

 

店の入り口のドアが開いた音がした。愛菜と優衣の気配ではない。殺意や敵意なども感じない。それらの条件を合わせて導き出される答えは一つだ。

 

「こ、こんにちは……」

「「いらっしゃいませ」」

 

客。お客様である。めっちゃ久しぶりのインターネット通販ではなく店頭での客である。

 

「(お前マジで失せろ)」

「(え、やだ。妾もこんな辺鄙なところで店頭購入する変人の顔を拝みたい)」

「(八つ裂きにするぞ八代。大事なお客様に何言ってる)」

「(八代だけに?…………や、主それ仕舞おう。こんなギャグパートで使われる封印した主の誓いの刀が流石に不憫すぎる!!)」

 

お客様をバカにした上に死ぬほどつまらないギャグをかます者の制裁には全力を注いでも多分無問題。が、流石に客がいるのに八代を八つ裂きにしてしまうと普通に問題なのでなんとか抑える。

取り敢えず八代を切るのに出した、かつて亮が人だった頃に使っていた刀を体の中に仕舞って、来店されたお客様の元へと足を運ぶ。

 

「いらっしゃいませ。向こうの端末が検索機になっております、何かお探しの物がありましたら、ご活用ください」

「あ、ご丁寧にありがとうございます」

 

来たのは紺色ブレザーを着た、金髪の女子高校生だ。制服に見覚えはある。愛菜と優衣の通うホワイト地区第一高等学校の物。そういえば二人もそろそろ帰ってくる時間だ。

必要なことをお客様に伝えたので、亮は改めて氷河期戦争を探すことにする。流石に八代も見られるのはマズイと思ったのか、狐の顔の骨と耳と尻尾を仕舞って適当な本を読み始めていた。幼い少女が文学してるのは中々可愛らしい絵になるが、読んでいる本のタイトルが「主人との蜜月記」であるがために全て台無しになっている。

 

「……あのぅ」

 

と、お客様が亮へと声をかけた。

 

「こちらのお店でアイスエイジ・ウォーという本を注文した者なんですが」

「(……これアイスエイジウォーって読むのかよ)」

 

とうの昔に他界したここの前任者に憤りを感じる。検索機でのタイトルの読みは「ひょうがきせんそう」になっていたのだ。完全に登録ミスである。確かにその読み方に考えが及ばなかった自分もいけないのかもしれないが。

と、まぁそこまで言われればこのお客様、確か注文者の名前は佐々木歩美。彼女が何しに来たのかは想像できる。

 

「申し訳ありません、ただいまその商品の方の準備をしているところで」

「では整い次第、ネットでの注文を取り消して店頭購入での形を取らせてもらってもいいですか?」

「承知致しました。それまではどうぞご自由に店内を見て回ってください。あちらの方に休憩スペースもございます。気になる本がございましたら、手にとって読んでいただいても構いません」

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

電子書籍が一般となっている現在、紙媒体の本は触れることすら珍しい。教科書などはテーブルと一体化した端末を使って読むものだし、本なんかは自分の携帯端末にダウンロードするものだ。試し読みで最初の何ページかを読むことはあれど、こう手に取って買ってもいない本を読むなんて本当に珍しいことなのだろう。

 

「(よし、アイスエイジ・ウォーだな)」

 

「あ」の列に移動して、本を探す。そこがわかってしまえば早いものだった。あ行の頭の方に氷河期戦争の背表紙を見つける。それを手に取って本の状態を確認する。目立つ汚れや破れがあれば、お客様に確認してもらい、減額しての販売だったり注文の取り消しを受け付けたりする。今回は特になかったので、カウンターの方は持っていき、表紙全体を柔らかい箒で払って埃を落とし、ビニールで包んでビニール袋に入れる。

休憩スペースで椅子に腰を下ろし、本を読むお客様、佐々木は本当に楽しそうに本を読んでいた。本を読むことが好きなのが見ているだけで伝わってくる。電子書籍の場合は読まずとも朗読機能があったりするので、文字を読まずとも本を読むことができるが、わざわざこうやって足を運び、選んで触って読む。それが好き。その気持ちは亮にもよくわかる。

 

「お客様、お待たせしました。こちら商品になります。当店は自動会計に対応しておりませんので、お帰りの際にお声掛けください」

 

本の世界に入っているのを邪魔するのは気が引けるが、そっとを声を掛けてさっさと用件を伝えて済ませることにする。

 

「それとこちらは当店からのサービスです。ごゆっくりどうぞ」

 

言って、トレイに載せたホットコーヒーと砂糖、ミルクを差し出す。別にそこまでする必要はなかったが、せっかく足を運んでくれた常連でもある。基本的に亮は自分と自分の家族以外がどうなろうが知ったことではない。が、それはそれ、これは仕事である。リピーターを増やし、儲けを出すためならばこういう気遣いも厭わない。

 

「ありがとうございます。でもいいんですか?」

「えぇ。お恥ずかしいところですが、当店までわざわざ足を運んで来てくれる方なんて稀ですので。寂しい場所ではありますが、せめてゆっくり本を味わって頂きたいと思っております。それに、佐々木さんにはご贔屓にしていただいているので」

「そうですか……ではお言葉に甘えて、頂きます」

「では、失礼します」

 

そうして佐々木の元から離れる。

 

「(ン……まぁ結果オーライか)」

 

勝手に長居すると決めつけてホットコーヒーを持って行ったのは間違いだったかもしれない。もしかしたら後で予定があるかもしれないので、アイスコーヒーを持って行った方が良かったか。

その点を反省しつつ、とりあえず亮はいつも通りの作業へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

四人揃って夕食の時間が始まる。今日の夕飯は炊き込みご飯にトンカツ、キャベツの千切りにポテトサラダと海鼠の味噌汁。この家では平均的な食事である。

 

「義兄さん、今日も美味しい」

「そうか、それはよかった」

 

そう言ってくれるだけで作る甲斐があるというものだ。

 

「むぅ、油揚げがない。主、明日は妾も手伝うから味噌汁に油揚げを入れるのじゃぞ!」

「手伝ったらな」

 

手伝うとその日のおかずの一品を選べる。というのはこの家の暗黙の了解みたいなものだ。作る側としてもリクエストがあった方が悩まないで済むのでありがたい。

 

「あ、そういえば亮って鈴木さんと知り合いだったの?」

「鈴木数馬のことか?知らないが」

 

昨日尾行時に初めて見た、なんか妙に優衣と親しいがどこにでもいる平凡な高校生。というのが亮の印象だ。優衣と親しいという点を除けば覚えるに値しない、道端で見かけるただの高校生。

 

「そっか。なんか怪しかったから報告だけど、鈴木さんは亮のこと知ってるみたいだったよ」

「へぇ」

 

どうせいい覚え方をされているわけではないだろう。犯行を見られたとか、殺した者の遺族とか、どうせそんなところだ。

 

「あ、それは多分、姉さんが持ってた義兄さんの写真を見たからだと思います」

「……は?」

 

優衣の言葉に亮が手を止めた。箸と茶碗を落とさなかったのは力が抜けるとかそういう概念がないからだろう。もし彼がまだ人だったら床にぶちまけて叫び散らかしていたに違いない。

 

「私はこの世に元々居たとして組み込まれたわけじゃなくて、姉さんが仮の体で過ごしてたものとすり替わった存在なのです」

「じゃなにか、真衣は愛菜と優衣のいる学校で普通に学生してた時期があるってことか」

「はい。姉さんは肌身離さず義兄さんの映ってる写真を持っていて、それを鈴木君が見てしまったのだと」

「……なんで、それを早く…………あぁいや悪い」

 

言葉を飲み込んだ。確かに。自分も、予測できたはずの真衣が人の形を持って存在したという可能性を考慮できなかった。

 

「……これだから神は」

 

八代が呻くような低い声で言う。そう、誰も考慮できなかったのだ。それくらいできるはずなのに考えが及ばなかった。そんなのは決まっている。彼らが抜けていたのではなく、その可能性を考慮しない運命を神が決めたのだ。

 

「姉さんはよく、理由はわかりませんが鈴木君と行動を共にしていたので、そう言う機会があっ」

「「主(亮)待てえい!」」

 

椅子に座ったまま聖移を用いて本気で数馬を殺しに行こうとした亮を八代と愛菜が叫んで止める。危うく未曾有の大虐殺が発生しかけた瞬間だった。

いつものことだが、亮は真衣の事となると思考回路が極端になる。ヤンデレは自分の恋路を邪魔する者を殺害するものだが、亮の場合は過程で世界を破滅に導く可能性もあるので物騒極まりない。

 

「悪い。取り乱しかけた」

「「かけた……?」」

「義兄さん面白いね」

 

全ての原因はお前の発言にあるんだと、愛菜と八代は心の中で叫ぶ。もしかして狙ってやっているのではないかとすら思う。

 

「腹わたがあったら煮えくり返ってるところだが、まぁ真衣が元に戻るのにその鈴木数馬の力を欲しているのはわかった」

「鈴木さんの力って。あんなのどこにでもいるただの肉体強化系の下位術師だよ?そんななら直接亮の力を借りてる方がいいと思うんだけど」

 

実際、数馬にやれて亮にやれないことなんてほぼないだろう。物理的な力、精神力、戦いや交渉における技術。全てにおいて亮の方が上だと断言できる。

 

「愛菜、そういう単純な話じゃない。どうせ、鈴木数馬は仲間達と共に大きく成長して負けられない戦いには何があろうと勝利してどんな苦痛だろうとそれに負けない人間離れした意思の持ち主なんだろ。お前もよく言ってるだろ、主人公だって」

「……それは物の例えだけど」

 

トラブルメーカーでラッキースケベで巻き込まれ体質で。創作物の中でしか見ないような事ばかりだからそう例えているだけ。しかし亮はそれに意味があるという。

 

「俺は俺のやり方で目的のために動く。真衣は真衣のやり方で動いてる。そんだけだろ」

 

目的が同じでもプロセスが違う。同じ目的に二人で協力して取り組めないのは本当に悔しいが、必要だと言うのならば仕方ないことだ。

 

「よし、飯が冷める前に食べるぞ」

 

そうして食卓に戻る。特に何事もなさそうに食事をとる亮を見て、愛菜達も箸を進めた。本人が気にして居ないのならば、自分達が喚いても仕方ないものだ。

 

「……ちなみにだが着替えを覗いたとかないよな?」

「「めっちゃ気にしとるやん」」

 

独占欲の強い化け物だった。




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