無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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九尾の狐②

話をする。という事で、亮は柱に背中を預け、片膝を立てて座り込んだ。神の方はわざわざ自分が座していたボロボロな座布団をこちらへ持ってきて、そこに正座をする。

 

「ンで、会話をするのは構わないがなにを話すんだ」

「……言われてみれば確かにの」

 

長い間、人付き合いなるのものが無かった亮はなにを話せばいいのかわからない。神の方も神であるがゆえに世間話というものはした事がない。

 

「本日はお日柄もよく?」

「お日柄良過ぎて虎はバテてたぞ」

「ふむ、あとで労ってやらんとの」

 

基本的に彼女は面倒見がいいタイプのようだ。一人で社の中に閉じこもって加護を与えているから、他の者は働いて当たり前。みたいな思考回路かと思っていたが、そういうわけではないらしい。上下関係を作った上で自分はやるべきことをやっているのだろう。目の前のこれが正しく神だと再認識した上で、気になったことを尋ねる。

 

「そういやお前を信仰する者はどれだけ居るんだ?まさかあの虎だけってことはないだろうが」

「さての。具体的に把握してはおらんが、そこそこ居ると感じておるよ」

 

そういえば炎神もそんなことを言っていたと思い出す。自分の事を信じてくれている人が居れば、自然とその想いが伝わるそうだ。位置はわからない。けれど居ることは伝わる。そういう曖昧な感性だそうただ。

 

「立派に神様してんだな」

「さぁどうかの。皆のためになる事をと思い動いてはおるが、妾程度では世の二神には程遠い」

 

この世の二神と言えば炎神や水神の事だろう。あれらは自分のやりたい事をやっていれば周りに自然と人が集まり信仰してくれる、という化け物だ。水神は未だに出会っていないのでわからないが、炎神は誰かのために動く事を全く苦痛に思わず、むしろそれで誰かが喜んでくれるならと率先して行動するタイプだった。

初めて会った時も、炎神は畑仕事の手伝いをしていたし、行動だけ鑑みれば過の偉人達の思う神とはほど遠い。

 

「お前がアレらを越えようとする姿勢を見て、お前を信じてるやつもいるだろ。届かなくても、気にする必要はないと思うが」

 

と思ったままを口にした。それを聞いて神は小さく微笑んで口を開く。

 

「……ふむ、お主はやはりいい奴なんじゃの」

「別に、客観的に判断しただけだ」

「なんと言ったか。……ツンデレ?」

「黙れ」

 

くっくっと笑い出す神を見て溜息を吐きつつ、まずはこの神の思惑を思考する。

神は亮に自分を信仰させ、人と魔物の架け橋にしたいと語っていた。多くの魔物と人を殺めてきた自分にその役は不適当な気はするが、逆に魔物も人も敵である自分が降れば、他の人々も協調できるというアピールになる、ということだろう。狙い所は悪くない。

 

「……お主の言葉は嬉しいが、人と魔物を纏めるのに人の頂点に劣っているようではならぬ」

 

この神の想いは本物だ。ただこうして会話しているだけで伝わってくる。きっと自分が降るとか関係なしに、やがては炎神、水神達のように大きな存在になるはずだ。

だが、そんな気持ちを受け取っても、亮の心を動かすには足りない。

 

「まぁがんばれ」

「うむがんばる」

 

そう言って小さく笑う神を見て、亮は神から別の思いを感じ取った。と同時に。なんとなくだが、この神と初めて会った気がしなかった。そして多分、向こうはこちらのことを知っている気がする。自分に向ける笑顔の眩しさがそう思わせる。

 

「(……だが、俺はこの神に会った記憶がない)」

 

そうやって既視感を抱かせる様なタイプの神なのだろうか。会話を続けているだけで自分に好意を抱かせるような。有り得ない話ではない。狐につままれる、という言葉がある程度に、狐という生き物はズル賢いとされている。その「ズル賢い」の特性が見た目の年齢詐称に留まればいいが、併せて神である以上、何があってもおかしくはない。亮はよく知っている。神が白と言えば黒は白になる。この世の法則程度、神には通用しないことを。

 

「しかし話題がないの……」

 

うむむと唸る姿は幼子の様にしか見えない。見た目以上の年齢なのは間違いないが、少なくとも自分にこんな知り合いは居ない。

 

「(どう詮索したもんか……)」

 

下手な事を話題にして敵対するのはまだ早い。炎神の時と違い、もうやり直しはできないのだ。殺されてしまえばそれで終わる。まずはこの神をよく知るのが先決だ。知っている事はそのまま武器になる。相手を知り、有利な立ち回りができれば、この程度の神ならやれる。

とりあえずはこの無意味な会話に付き合い、情報を引き出そうと決めた時、神の方が口を開いた。

 

「のう、お主の連れの女子はどうしたのじゃ?」

「……なんの話だ」

 

ここ数十年以上、誰かと行動を共にした事はない。

 

「何十年前かの……居たであろう、黒く長い髪の少女が」

 

そう言われて、該当する人物は一人しか居ない。だが、彼女がこの世から消え去ったのはその数十年以上前の話だ。つまり、目の前の神と自分は数十年以上前に会ったことがある可能性が高い。

 

「お前、どこかで会ったことあるか」

「うんむ、お主は覚えとらんみたいじゃがな」

「お前みたいな個性的なのと会ってたら忘れねえよ」

 

彼女がいた頃の自分は、確かに今の様な記憶力はなかったが、狐の耳と尾を持つ幼女なんてそうそう忘れる事はないだろう。

 

「では、炎神の治めていた土地付近で倒れていた狐を介抱した記憶はあるか?」

「……ある」

 

いつものように探索をしていた時のことだ。道端で負傷していた狐がいた。体の至る所が折れて抉れ、片耳と尾を失い瀕死の状態。それでもなお意識があり、通り掛かりの自分達を見るや立ち上がってこちらを見据えてきた。間違いなく魔物であり、状態からして殺すのは容易い。だが亮達はそうはしなかった。

狐を抱え、自分達の家に連れて帰り、水や食料を与えた。回復し次第、狐に攻撃される可能性もあったが、狐は特にその様子も見せず徐々に回復していった。それからしばらくして、傷が癒えるという時にあの日が来た。それ以来、狐がどうなったかは知らないし、今の今まで忘れていた。

 

「……覚えて、おるか?」

「さてな」

「……はぐらかすでない。妾が、どれだけこの日を心待ちにしていたと思っておる」

 

かつて狐だった神が、あの時と同じ瞳でこちらを見据える。冗談を言えるような状況ではないことを察する。雰囲気から恨みなどは感じない。別れ方が別れ方なだけに恨まれている可能性も否定できないが、ここで有耶無耶にし続ける方よりマシだと思って口を開く。

 

「俺たちが拾ったのは、全身傷だらけの狐だった。体を洗ってやる時になぜかいつも、俺だけ親指噛まれてたのは忘れてない」

 

と言っても、今思い出したことである。だがそう付け足すわけにはいかなかった。言った直後に、対面の神が、かつての狐が涙を流し始めたからだ。

 

「覚えていて、くれたのか……」

 

まぁ今思い出したとはとても言えないし、狐なんかよりも、噛まれる自分を見て彼女が心配したり、笑ってくれたり色々あった思い出の方が大切とも言えない。

 

「狐みたいな女の子を拾った記憶はないがな」

「……ふふ、この姿は妾の願いによるものじゃ。妾は正真正銘、お主達に助けられた狐よ」

 

願い。種族という枠を取っ払って人の形になれるほどの想いの強さを、この神は持っている。あの後、何があってどういう想いを抱いて狐が神になったのかはわからないが、拾ったペットが今の自分に必要な力を持ってきたという事実が目の前にある。

 

「(どう殺すかな)」

 

つい先程までは、この神を放置し、力をつけさせてから食らう選択肢もあった。だがなぜだろう、これがあの狐だったとわかると、その気が失せた。

早い段階で終わらせると心に決める。

 

「のうお主、それを踏まえて、もう一度、妾の元へ来い」

「断る」

「……悪いようにはせぬよっ!」

「なんだ、俺以外は悪く扱うのか」

「ぬぅ、あの頃より遥かに捻くれとる……」

「ほっとけ」

 

ともかく、そうやって二人はしばらく会話を続けていた。神が勧誘して亮が断り続けるだけの本当に意味のない会話の応酬だった。途中から勧誘というか、一方的に神の方が過去の話を吹っかけていただけだったが。亮としてはその頃の話はあまりしたくない。もし心なんて物があるなら、壊れているとは思う。が、過去を思い出して青かった自分に辟易したり、青いどころかもうなんか自分じゃない自分が起こした理解不能な行動に身悶えすることがないわけではないからだ。

それでもこの無意味な会話でそんな気持ちにならなかったのは、神が真衣の名を出さなかったからだろう。いつの間にか、察して話題に出さない程度の気遣いはできるようになったらしい。全く人間らしいと思い知らされる。

 

「────つまりそういうわけで、お主が我が元へ降れば、時間はかかるとは思うが過の偉人達が暮らしていた時代のようにもなれるってことじゃよ。人が集まれば情報も増える。うぃんうぃんな関係というやつじゃ」

「なんか発音違くねえか……まぁ、そろそろ諦めろよ」

「……はぁ、確かに、今日のところはこの辺にしておくかの。なにやら……騒がしいしの」

 

騒がしいのはお前だろと思ったが、そういう意味ではないと理解したのはその直後。神は立ち上がり社の出入り口へ視線を送った。

 

「My lord!敵の急襲です!!」

 

亮は視線を移さなかったが、その言葉で案内人の虎が入ってきたというのはわかる。しかし敵とはなんなのか。話には出てきていない。

 

「数は?」

「Twenty。ただいま同士が罠を張って抑えています」

「うむわかった」

 

虎の言葉に頷き、神は立ったまま亮に視線をやり口を開く。

 

「すまないの、妾はこの戦いを抑えに行く。少し待っててくれぬか」

 

そう言った言葉と、瞳には力が宿っている。怒りすら垣間見える。自分を慕ってくれる者に牙が剥かれたから許せない。人間らしく、神らしい動機だ。

 

「いや、俺が行こう。お前は神らしく構えて待ってろ」

「……これは妾達の問題であるのじゃが」

「昔のよしみってやつだ」

 

それだけ行って立ち上がる。理由としては余りにも弱いが、彼が一度言い出すと聞かないのは、神は自分がまだ狐だった頃に知っている。ため息をついて、神は敵の情報を伝える。

 

「……敵は水神を信仰する者達じゃ。時々こうして妾達を攻撃してくる」

「人が敵か。わかった」

 

てっきり魔物だと思っていた。しかし相手が人であるならば。それも炎神の居ない今、もっとも規模の大きい神、水神の信仰者となれば、今目の前にいるこの神を食らうのに使えそうだ。そう考えて亮は頷く。

 

「時間が惜しいの。連れて行こう。場所はどこじゃ?」

「社から南下した二つ目の泉付近です」

「うむ」

 

と、神が頷いた瞬間。虎が消えた。

 

「ン?」

「え?」

 

突然の消失に驚く亮と、どういうわけか亮を見て驚く神。しばらく二人は無言で顔を見合わせ、亮が口を開いた。

 

「……虎が消えたぞ」

「むしろなんでお主は移動せぬのか」

 

どこか会話がズレているのはわかった。移動と言った事も考えて、虎は一瞬にして消えたのではなく移動したのだろう。恐らくは人に想われることによって生まれる、神の力を行使して扱う神の術によって。そして自分はその術で移動できなかったというわけだ。

自分が移動しなかった理由ならば心当たりはあるし、多分それで間違いない。だがそれをこの神に伝えてやる義理はない。

 

「どういうことじゃ……」

「考えるより先に方角を教えてくれ。でないと虎が危ないぞ」

「それもそうじゃの。方角的にはそっちじゃ」

 

神はそう言って指を指す。それだけで十分だ。

 

「ンし、行ってくる」

「うむ」

 

歩いて開きっぱなしの扉へと進む。さて、どうやって物体の瞬間移動をする神を食らおうかと考えながら。

 

「待てお主!」

 

不意に、声高に神に呼び止められた。

 

「なんだ」

「今度は、きちんと帰ってくるのじゃぞ」

「……さてな」

 

簡潔にそう答えて歩き出す。神には申し訳ないが、ここは自分の帰る場所にはなり得ない。もっと言うならばこの神の元が帰る場所ではない。

社を出て沈みかけの太陽を眺める。赤く輝く太陽に鬱陶しさを感じながら、地を蹴って空へ飛び上がる。

 

「そこか」

 

遥か高くから狐の指差した方向を見れば、何匹かの魔物が人と闘っているのを確認できた。背中を起点に魔術を使って炎を生み出す。その勢いを使ってその場所へと向かう。

神曰く、敵は水神を信仰する者達。水神が自分を信仰する者に対してどういう加護を与えているのかはかわらない。だがいい機会だと思う。いずれ水神も糧にしなければならないと思っていた。

 

「原初の魔術師の片割れ水神。まぁその前に魔物の神か」

 

今後の自分の立ち回りを再確認して呟いて、目的の泉の付近の人間を射程圏内に捉える。その内の一人が、先ほど社にいた虎に対して斧を振りかざしているところだった。

 

「(……あいつは色々知ってそうだったな)」

 

別にそのまま見捨てても良かったが、アレにはまだ聞かなければならない事があるので助ける事にする。右の掌を対象に向け、あとはただ掌から魔力を高濃度で圧縮、バレーボールサイズに固形化させ、打ち出すだけだ。音速の二倍程度で飛んでいく球体は見事に人間の手元に命中した。そのまま魔力の球体が触れた部分は、魔力のエネルギーに溶かされ、単純にその人間は両手を失った。

痛みと手を失った絶望からか、叫び声を上げていた。その程度で叫び出す手合いならば特に警戒する必要もなさそうだ。とタカをくくって急降下し、虎の隣へ降り立つ。

 

「What's!?」

「ブレないな、お前」

 

背後には何匹かの力尽きているいろんな種類の魔物と、傷を負った魔物。相手側は三人ほど死亡してはいるが、戦力差では俄然向こうの方に分がある。数も質も向こうが上だ。ならば後はこっちでケリをつけてやるだけだ。

 

「後は任せろ」

「But……」

「大丈夫だ」

 

いいながら、先程と同じ様に掌を敵へ向け、純粋な魔力の球体を放つ。違いと言えば大きさだ。先程よりも小さく、それでいて高濃度。掌を向けてからコンマ5秒程度で作り上げる即席の攻撃。それを敵に飛ばす。動作だけ見れば、それは大したことない攻撃。余りにもあっさりしていて、簡潔的。それが手前にいた、先程両手を失った男に命中する。当たって爆発など大仰な事にはならない。ただ当たった部分からそのまま貫通する。この場合は頭だ。頭が溶けてそのまま終わった。

 

「この膨大な魔力、黒い革のジャケット……っ、すぐに撤退し、報告だ。ディザスターが魔物側に付いたと!」

 

誰かが叫んだ。少し前に水神を信仰する者達の集落を半壊させたせいか、どうやら自分の顔はかなり広い範囲で割れている様だ。このまま敵を一人逃し、その後どうなるか気になるところではあるが、堂々と出てきてしまった手前、あまり無様晒すのには抵抗がある。

 

「(……ンー、まぁあの神の戦いも一度見ておくのがいいか。あわよくば、水神と一戦交えてもらって消耗したところを二人まとめてって手もある)」

 

人々の悲鳴を聞き流し、先程と同じ手順で残る敵を殲滅していく。ただし、後で食らって情報を得るために、頭部は破壊せず、胴体を貫いたり、真っ二つにしたりといった具合だ。いくら水神傘下と言っても、当然だがただの人が飛び抜けて強いわけではない。確かにそこらの人間よりかは強いのかもしれないが、それでも亮からすれば誤差の範囲内だ。現に、敵が抵抗して様々な魔術で攻撃してくるが、どれもこれも当たりはするが亮には効果がない。

だからあっという間に17人もいた敵は一人になる。

 

「……ぅ、ぁ……」

 

消え去った右腕の痛みと、顔色一つ変えず、片手間で次々と仲間を殺害して行った亮への恐怖に腰を抜かし、無様に後ずさりながら呻く。

とりあえずメッセンジャーはこいつでいいだろうと、逃がすために歩いて近寄って行く。無事に生かして逃がすためには、誤って消し飛ばしてしまった彼の右腕の傷口を塞がなければならない。今はいいが、あと一分も経たずに出欠多量で絶命するだろう。そこだけ治療して逃がそうと────と、突然足を握られた。

 

「に、げ……ろ」

 

途中で殺したはずの誰かが、上半身だけの状態で歩みを進める亮の足を握った。

 

「ン、やるな」

 

意識を失う以前に絶命してるのが当たり前の体だ。気力で、仲間を助けるために自分の限界を超えた事に賞賛を送る。しかし悲しいかなその程度では彼の歩みを遮るに足りない。

触れられた足が黒く歪み、男の手がその歪みに消える。そしてズルズルと引きずって、やがて男を徐々に吸い込む様に食らっていく。

仲間を、友を助けるために気力で戦った男は、5秒足らずで人生で積み上げてきた全てを亮に奪われた。

同じ境遇に陥って、出会い、高め合い、共に戦い、そうやって積み重ねた友情がここで最期の力になった。

それを感じた亮は鼻で笑ってから口を開く。

 

「まぁなんだ、お前らの友情に敬意を表して」

 

面倒臭くなったので怯える男に対して高速で近寄り、男が亮の移動に気付く前に腕の切断部に触れ、傷口を焼き塞ぐ。そのまま回復魔術を用いて体力を回復させた。

 

「報告するんだろ。逃してやる」

「あ……あ」

 

男は死の間際から生還したが、目の前で起こった光景で今度は亮に対する恐怖で満たされる。

 

「どう報告するかは知らんが、ディザスターとかよくわからないニックネーム付けるのやめろって絶対に伝えてくれ」

 

それだけ言って男に背を向け、虎の、魔物達の方へ戻る。どうせしばらく腰を抜かして動けないだろうが、それでも間違いなくこの報告は水神や、少なくとも彼等の集落の長に伝わるはずだ。

 

「Thanks your help。おかげでこちらの被害は少なく済みました。正直、我々だけでは……」

「気にするな。ンで俺は戻るが」

「私も戻ります」

 

そう言ってから虎は他の魔物達に魔物の言語でなにやら指示を飛ばす。どうやら生き残った者達は半分が引き続きこの泉の防衛に当たり、もう半分が亡骸の埋葬に当たるようだ。魔物にも死者を埋葬する風習がある事は、食らった魔物達の記憶から理解している。亮としては彼等の記憶を頂戴したいが、さすがにそうは言えなかった。

各々動き出したのを見てから虎は「Let’s go」と呟いて、亮と共に社への帰路につく。

逝ってしまった仲間達を思ってか、しばらく虎は静かにしていたが、五分ほど歩いたところで口を開いた。

 

「……One target、逃していいのですか」

 

一人逃した事を心配しての質問だった。

 

「これでしばらく襲撃は無くなると思う。俺の事が知れているなら、向こうは気安く手出しできないだろうからな」

 

問いかけてきた虎に対して、簡潔に返す。嘘は言っていない。本当にしばらくは水神傘下の者達は襲って来ないだろう。

 

「確かにあなたは自身が我々に付いた事を否定しなかった……」

「そういうことだ」

 

そう。だから、次に襲撃があるとしたら、向こうは総力を挙げて潰しに来る。そして或いは水神という炎神亡き今、誰かさんに次いでもっとも力のある神が来る。

 

「Well……そこまで見越しての行動なのですね」

 

褒める虎を見て、所詮は獣の頭と心の中で呆れる。意図を読まれたら読まれたで、あの場にいた全員は不慮の事故に遭ってもらうつもりだった。が、どうやら。

 

「まぁ、残党が居たってことにしておくか」

「Wha──」

 

────ぷちゅ

っと、虎は、血肉の弾ける音を聞いた。直後に、頭に衝撃が走り、併せて自分の体が倒れるのを見た。突然の視界の変化に一瞬惚けるが、右肩から先が刀に変化している亮の姿を見て全てを把握する。

言うまでもなく、隣を歩いていた亮の仕業である。

 

「もらうぞ、お前の記憶を」

 

自分の頭に向けて伸ばされる左手。

 

「(My 主……やはり、人と魔物は、分かり合えるわけがないみたいです……)」

 

掌が視界の光を遮ったところで、虎は自分の信じて来た物に失望し、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「悪い。突然の事で対処できなかった」

 

社へ戻り、亮は白々しくも虎の胴体だけになった遺体と、食らって来た適当な人の死体を神の前に並べた。

 

「いや、構わぬよ」

 

そう言うものの、神は沈痛な面持ちで首から先のない虎の遺体を撫でる。

 

「よくがんばってくれた。ゆっくり休んでくれ」

 

そうやって、自分を信じて着いて来てくれた者に感謝を伝える。間違いなく、この神は立派に神をしていた。

 

「すまんが、その遺体は適当に処理してもらえぬか。妾は此奴を弔ってくる」

「あぁ、わかった。それと、なんだ。しばらくはここに滞在しよう。こいつの代わりに戦ってやる」

「……すまんの、助かる」

 

それだけ伝えて、亮は人の遺体を抱えて社の外へ出た。森の中で人目がない事を確認してから、その遺体を再び体の中へ取り込む。

 

「……どうっすかな」

 

取り込んだ虎の記憶から、色々と状況を整理する。あの神が扱う神の術は、ありとあらゆるものを移動させる力だった。あの虎は普通の魔物だったが、神の思考力の一部を移動させる事で、人の言葉や知識を手に入れた。そう、何も物の移動だけではなく、形のないものですら移動させる。移動というのが、人の持つ言語で一番近い形なのでそう表現するが、実際はそういう言語で表現できるものではなさそうだ。

例えば、虎の記憶から見つけた、人を岩に移動させるシチュエーション。見事に人の下半身が石に埋まっていた。では岩の中ではどうなっているのだろうか。答えはわからないが、どれだけ力を込めて岩に埋まった人を取り出そうとしても抜けないあたり、一応岩の中で下半身は存在しているらしい。

自分はどういうわけか神の力で移動しないらしいので、恐らくその心配はしなくていいのかもしれないが、いくらでも応用できそうな力だ。戦った際、何をされるのか全く見当がつかない。

ともかく時間はまだある。あまり長くはないかもしれないが、その間になんとしてでも対処法を見つけてみせると誓う。

 

「しかし……最後の最後まで言語が不安定な奴だったな」

 

ポツリと呟きながら、社へと戻っていった。




一応まだ生きてますorz
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