無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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宝姫②

朝三時。新世界を覆うディスプレイには未だ満天の星空と輝く月光が映し出されている。新聞紙が存在しない新世界ではこの時間を支配するのは静寂で、昼間のホワイト地区の和やかな雰囲気とは違う。この世界には自分しか居ないんじゃないかと、使い古された静寂の比喩が過ぎる。だが時々、ほんの稀に通りがかる人や、まだ明かりの点いている住宅を見ればそうでもない事に気がつく。

現在はそんな時間。そういう時間の公園に、亮、愛菜、八代の三人は居た。

 

────ズズズズズッ

と、割と大きな音を立てて銀髪ロリっ子の八代はカップうどんを啜っていた。

 

「うまうま」

 

狐がきつねうどんを食べるなどもうギャグにもならない。

 

「いけねぇ……いけねぇよ……こんな時間にカップ麺を食べるなんて……はぁ、うま」

 

ぶつぶつ言いながら静かに麺を啜るのは愛菜。男の亮にはわからないが、この時間にカップ麺を食べるというのは背徳感というスパイスが追加されて最高に美味になるらしい。愛菜曰く人を殺してる時より悪い事をしてる気がするとのこと。普通に考えれば法律で禁止されている方が悪い。

二人から少し離れた喫煙所で喫煙している亮は、視線をベンチに腰を下ろして食事をする二人からゴミ箱へと目を向け、飲み終えた缶コーヒーの缶をゴミ箱めがけて放り投げる。正確無比なコントロールで投げられた缶は綺麗すっぽり正しく捨てられるべき場所に捨てられた。

 

「「はぁ、スープうまぁ〜」」

「太るぞ」

「「うっさい!」」

 

とりあえずその仲の良さを日頃から常に発揮しといて欲しいものである。というか両者とも太るだの痩せるだのはないと思うのだが、その辺りは複雑な乙女心というのが関係しているのか。気になるのは八代がいつ難解な乙女心を学んだのかである。

 

「満足したら行くぞ。もうマグナスは引いてるみたいだ」

 

先ほどマグナスの撤収をナナシから伝えられた。本当なら今すぐにでも向かわなければいけないが、なんだかんだ二人には甘い亮。こうして食べ終わるまで待っている次第である。が、先程からナナシの催促の連絡が続いているので流石にそろそろ配置につかないとまずい。

 

「「は〜い」」

 

緊張感のない返事が深夜の公園に響いた。

 

今回の案件は最終手段として、亮が宝姫咲輝を食らう、もしくは殺すという物がある。のでぶっちゃけこの護衛自体は失敗しても構わないと亮は考えている。だが国としてはそういうわけにもいかない。

亮達の所属する暗部は王と安定装置直属の、国のために働く謂わば公務員だ。国の、国民のために、一人でも多く救うための暗部だ。だから宝姫咲輝を見捨てることは許されない。ただし、もし宝姫咲輝が誘拐され、その結果奪われる命が増えるのが確定すればその限りではない。

まぁそんなことよりも。

 

「お、油揚げ残ってんじゃん」

「手を出すな!!それは妾が最後まで楽しみにとっておいた至福の一枚!」

「あぁ、そういえば楽しみは最後まで取って置くタイプだったね」

「そういうことよ。……うむ、うまうま」

 

一緒に護衛を務めるこの二人がまともに仕事してくれるのかが果てしなく不安だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宝姫咲輝はふと目を覚ました。なんとなく、どこからか視線を感じたからだ。眠たい目を擦りながら状態を起こして、暗い部屋を見渡す。

当然だが部屋の中には誰も居ない。月の微かな明かりに照らされているのは変わり映えしない自分の部屋。ふと気づいたのは幼い頃に両親に買ってもらった、吸血鬼の妖精「どらきゅん」が枕元で倒れていたことくらい。どういう設定か背中に背負っている十字架に押し潰されるような形になっていた。むしろなんで彼は苦手な十字架を背負っているのだろう。今更考えてすぐに思考を破棄し、改めてこの場に誰もいないことを確認する。

 

当たり前だ、この家はホワイト地区の高級住宅街の中でも王居並みのセキュリティを有している。警報機付きの赤外線カメラにレーザー、動体探知機、流行りの魔力探知カメラ。上空からの襲撃にすら備えられ、もう家主である自分ですら警備体制を把握できていないくらいにはなっている。

 

「……寝ましょう」

 

呟いて再び布団に入る。明日は何の予定もない日だ。あまり起き上がっていると睡魔が引いてしまう。そうしてせっかくの休日を寝過ごすわけにはいかない。

 

「鈴木様…………」

 

大好きな彼を思い描いて眠りにつく。きっといい夢が見られる。そんな気がして意識を手放した。

 

 

 

そしてそのベッドの下の暗闇の中の世界では。

 

「王手、詰みだ」

「ぐぬぅ……いい線いったと思ったんじゃけどなぁ」

「ちょっとそこ二人!!人が確認してるのに将棋打つな!」

 

愛菜は暗闇の中からあっちこっち移動して表の確認。この中では全く何もできない亮と八代は将棋に興じていた。

 

「っても、この中から外の景色が見えるのはお前だけだ。こっちはすることねえんだぞ」

「そうじゃぞ、マジでこの中なんもないんじゃから仕方ないのじゃ」

「……大体、なんでこの光のないとこで視界が効いてるの!?」

「今さら」

「それな。じゃ」

「ん、そうだね。まともな回答を期待してちゃダメだったね」

 

片や魔人だから。片や元神だから。その辺で納得しておかないといけない。本当にいろんな意味で今更だった。

と、そうやって自分を棚にあげる愛菜だが、こんな世界に人を出入りさせられるのも有り得ないことだ。揃って三人とも化け物だということを彼女は理解できていない。

 

「そういや主、白いのはどうした?」

「優衣は昨日の体育で疲れたって言ってたから寝かせてきた。それに万が一もある。仕事に連れてくるわけには行かない」

「相変わらず過保護というか……あっまあまだよね」

 

優衣に対するベクトルがこっちに向いてくれればと思いつつも、そんなことはないので二人揃って溜息をつく。それも今に始まった事ではないので、愛菜は引き続き闇の中から光の世界を探し始める。

基本的に異常は見当たらない。まぁこれだけハイテクな防犯設備が整っていれば家にまで押し掛けてどうのとはできないだろう。今の自分達もこうして闇の中にいるからこそできる。八代にそんなカモフラージュ能力はないし、亮はどれだけ魔力を隠そうと常人レベルにしか隠せない。対魔物用のセンサーは避けられても、新世界の対人用は避けられない。

そう考えれば、今回は少しでも彼の力になれた様な気はする。そう考えると頑張れる様な、そういう温かい気持ちが湧いてきた。

 

「……ないのじゃ」

「ン」

「あー、そう。将棋の次は囲碁……」

 

なんだか台無しにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三人は三時間の間、暗闇の中で過ごした。ある程度暗闇を歩き回り、少し離れたところに監視する者も居ないと確認した。襲撃が少なくとも今晩はなさそうだと分かっても、愛菜が起きていなければこの空間から出られないので、亮は彼女に回復の魔術をかけたりして何とか起きててもらう。

外に日が昇り、闇が完全に払われる前に三人は咲輝の家から出る。日が差してしまうと動ける範囲が狭まる上に、日の当たり方次第では咲輝の部屋の中からしか表の世界へ出てこれなくなるからだ。

亮は自分と愛菜、八代に透明化の魔術を掛け、三人揃って隣の家の屋根へと登る。咲輝の家の屋根にはカメラやセンサーやらが巡らされていたのだ。

 

「ねむ……」

 

ずっと神経を張り巡らせ監視していたせいか、愛菜の顔には疲れが見て取れた。帰って休めと伝えようとしたが、その前に愛菜はゴロンと亮の膝に頭を預けた。

 

「ふへ……すぅ」

 

満足そうに笑うや否やすぐさま眠りついた。

 

「まぁ、今は渡しといてやるかの」

 

実質護衛は愛菜一人で勤めていた様なものだ。いつもは喚き出す八代も今回は大人しく身を引いた。

 

「主、黒いの風邪は引かないんじゃろうが」

「ン、分かってる」

 

全身が高濃度なエーテル細胞になってる深淵。もちろん風邪や病魔になど侵されることはない。だが寝ているならば寒くなるだろうし、屋根の上で寝ていれば起きた時に体が痛くなる。ので、見えない魔力の手で愛菜の体を浮かせ、体から寝袋を出現させて愛菜の下に引き、その上に降ろす。これでマシになる。

 

「ん……」

 

一瞬愛菜が頷いた。言葉はなくとも、朦朧とした意識の中でお礼を言ったのが分かる。

 

「どういたしまして」

 

そう言って朝の日差しが彼女の目に入らない様に、自分の方へと寄せ、そっと目尻の辺りに手を置く。これで眠りを妨げる光はない。

 

「くっ、妾も眠るのを視野に」

「お前は寝なくて生きていけるだろ。黙って監視してろ」

「うぃっすなのじゃ……」

 

二人は揃ってあたりの警戒に努める。こういう暇な時間が長いのは、護衛やら監視やら尾行やらをしていれば当たり前だ。だから好きじゃない。

アニメや漫画などの様に早々に敵が来てれればスマートだが、現実はこんなもんだ。このままナナシから連絡があるまで咲輝が大人しく家に居てくれればいいなと思いつつ、ただただ監視を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁそうそう上手く行くものじゃないとも思っていた。それでも案外なんともないことの方が多い。基本的にそういうものだ。マグナスが見張っている時間の方が長かったし、割合で言えば自分達が見張っている時間は三分の一にも満たない。なのに、なぜ。

 

「大体、数馬が足を運ぶことはない」

「しょうがないだろ、向こうはなんか訳ありみたいだからさ」

 

なぜ、鈴木数馬がこのタイミングで現れるのか。

耳を澄ませ、数馬と隣の双海寧音のやり取りを聴く。既に数馬と咲輝は知り合いであることが分かった。

二人の行動をしばらく眺めていると、チャイムを鳴らして咲輝を呼び出す。もうこの時点で頭を抱えたくなってきた。

 

大人しく三人で仲良く家に居てくれと願ったが、そんな亮の思いが聞き届けられるはずもなく、三人は揃ってホワイト地区の住宅街を歩き出す。

 

「愛菜、起きろ」

「うーん……んぁ……おへよう」

「目覚ませ。お前の嫌いな奴が来たぞ」

 

そう言って愛菜の首を回して数馬や寧音を視界へ入れさせる。

 

「うわ、朝一番から嫌なもんみちゃった……」

「お前マジで鈴木数馬が嫌いなんだな」

「生理的に無理」

 

なるほどこれが女子の裏側というものか。などと思いつつ、影でこれをやられている可能性があると思うと、なんとなくこの世界怖いと思った。

もし、万が一、優衣や今も何処かで見ているのであろう彼女に言われてるとしたらこの惑星を滅せる自信がある。

 

「まぁ、居るものはしょうがないね。大人しく見張ってよ」

「それしかないか」

 

ここで喚き散らしたところで数馬が居なくなる様なこともない。亮は大人しく愛菜と八代を連れて屋根から飛び降りる。魔力をクッション代わりにして衝撃を殺し、音を立てずに着地。彼らから少し離れた位置で通りすがる自動車や歩行者に当たらない様に気を付けながら、静かに宝姫の護衛に勤めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴木数馬と双海寧音に宝姫咲輝の三人は、ホワイト地区の高級住宅街を歩いていた。目的地はいつもの、この前襲撃のあったデパートである。

あの事件で一時は閉鎖するという見方もあったが、あまりにも大勢の人が馴染んでしまった場だし、この隔離された世界で丸々一つデパートが突然閉鎖するというのは、出店している企業やら出資者やら色々な人が迷惑を被る。死者はもちろん弔う。だがそのために今を生きる者達が不幸になるのは違う。亡くなった彼らを乗り越えて未来に邁進するのがこの世界だ。

 

「鈴木様、本日はお誘い頂きありがとうございます」

「いいって、そんな」

「そう、所詮数馬」

「双海さん!?変な四字熟語作らないで!」

 

いつもの、寧音の刺々しい言葉に隠された愛など数馬は知る由もない。

 

「それよりも、本当にデパートでいいのか?咲輝もあそこに居たんだろ」

「お気になさらないでください。確かに非日常で、あの事件は目も当てられないものでしたが、もう傷は癒えています」

「……そっか。双海は」

「私も大丈夫。七尾さんに治してもらった」

 

この三人は、この間のデパート襲撃に遭遇した集まりでもある。あれほど重傷を負い、本来なら死んでいた。なのに寧音は強い。そう感心しつつ、ごめんなと彼女の頭を撫でる。頬を赤く染めながらも気持ちよさそうに撫でられる寧音。猫みたいだなんて思った。

 

「むぅ……鈴木様、人が見ておられますよ」

「っと、そうだった悪い悪い」

「……しゅん……」

 

肩を落とす寧音。確かに仕方ない。今は休日の午前10時。これから自分達のようにデパートへと向かう人もチラホラ見かける。不特定多数に見られるのは恥ずかしい。

 

「まっ、二人とも大丈夫ってんなら、今日はしっかり楽しんで」

 

と、そこまで言いかけた時。

 

「咲輝!!」

「え、きゃっ……」

 

前方から雷球が飛んできた。かなりの早さに大きさ。並大抵の術者では出せない物だ。なんとか早く気付けたので、咲輝を突き飛ばして助けられた。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……あの」

「うん?……あ、あぁ、わわるい」

「い、いえ……」

「……所詮数馬」

 

いつものようにラッキースケベを発動させつつ、咲輝から離れて、追撃に備えて警戒する。

 

「っていうか今のどこからだ……」

 

飛んできた先を見ても放った術師の姿はない。これは相当の手練れ。もしかしたら、由美の件で戦った暗部、この新世界の裏側の者。そんな可能性が頭をよぎる。ならば早くこの場から二人を逃さなければならない。あんな者達とこの二人をぶつけさせるわけにはいかない。

 

「上!」

 

寧音が叫んだ。その通りに視線を上にやれば、自分目掛けて男がナイフを振り下ろしながら降下していた。この距離からでは肉体強化を使っても左右へ飛んでも避けきれない。ならばと左を翳し、手のひらにナイフを突き立てさせて捕まえる。とそこまで考えて。

 

────ボン!

と、爆音にも似た音が聞こえ、男が何かに横殴りにされて飛ばされた。

 

「……白昼堂々と、それでも暗部の端くれか」

 

黒いコートを着て、左頬に大きな切り傷を持った大男が、背後から数馬達の隣に並び立った。

 

「あんたは……」

「マグナス・スローン」

 

言わずとも知れ渡る、この新世界の頂点。その中でも圧倒的な力を持つと言われる、マグナス・スローン。それが、その彼が彼らを救った本人だ。

 

「げふっ……くそ……てめえは昨日もう……」

「ふんっ!」

 

男が言い切るよりも早く、足元から火を噴射し推進力で近付き殴る。それでも殺しはしないと加減し、襲撃者の意識を刈り取るに終わる。

 

「少年、見事だった。怪我はないか」

 

振り向いて数馬へと声を掛ける。

 

「あ、あぁ。助かった」

「ならばよし……さて」

 

それだけ確認してから、マグナスは今度は数馬達の方へ歩き、そして追い越し、立ち止まり、後方を見据えながら口を開いた。

 

「そこに居るのは分かっている。出てこい、顔を見せよ」

 

側から見れば、虚空に対して口を開いたに過ぎない。

だが、そこには姿を透明化させた三人が居た。

 

 

 

 

 

 

「(なるほど、伊達で極術師じゃないってことだな)」

 

この世界に来て透明化した自分を見抜かれたのは初めてだった。マグナス・スローンという男への認識を改めつつ──けれど姿は見せない。

 

「あくまでシラを切るつもりか」

 

言って。間髪開けずにマグナスは掌から火球を作り出し、亮へ飛ばす。八代の光線ほど速くはない。それでも常人の反射速度では避けきれない。その火球を体の軸を横に向けることで避ける。

 

「ぬっ……?」

 

手応えが全くないことに慄く。その様子からするに、気配やそういう種類は探知できているだけなのだろう。正確にどこにいるかまでは分からないようだ。

ならなおさら姿を見せてやる必要はない。彼を殺すのであれば見せるのもいいが、そういうわけではない。

 

「(や、主出てあげようよ!)」

「(そうだよ!これだとあの人ちょっと……ぷっ………)」

 

まぁ、確かに白昼堂々と「そこに居るのはわかってるごっこ」に途轍もなく気合を入れてしまった痛い人にしかならない。

 

「(いいから逃げるぞ)」

 

魔力の壁で三人を包み込み、足音などが伝わらないようにしてから、愛菜と八代の首を掴んで地を蹴って空へ飛び上がり、その場から離れる。

 

「(……しかし、宝姫咲輝もあの襲撃に居合わせていたのか。なんかキナ臭い事になってきたな)」

 

段々と、この件はただの誘拐で終わりそうにない気配が漂ってきた。もし議会制民主主義派とインターセプターが繋がっているとして、その場合は表と裏が混合した大きな事件になる。

 

「(外界遠征を間近にこれか……)」

 

一悶着あると確信したところで、やっと地面が側まで近付いてきた。自分と八代と愛菜の足に魔力を使って減速、そのまま着地の衝撃を殺し、周りに人の姿が確認できないと踏んでから透明化を解除する。

ちょうどそのタイミングで携帯電話が振動した。開いて確認すると、発信者はナナシだった。

 

「ン、俺だ」

『終わったぞ。確認できた。閲覧者は幽霊だ』

「で誰だ」

 

ナナシにしては歯切れの悪い言い方だ。ただこういう言い回しをする時は大抵面倒臭い時に限っている。

 

黒鎌 帝(くろがま みかど)。死んだ前国王だ』

 

なるほど、面倒臭いと鼻で笑うのだった。

 

 




なんか気が付いたら沢山ある方々から応援を頂きました。これからもこんな感じで続いていくので、よろしくお願いいたしゃす
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