無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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準備

「(……ンー)」

 

先日ナナシと通話した時に感じた違和感。「インターセプター」のリーダーが拠点の廃園で行方不明になったという話。その違和感が今晴れる。

 

「(本当にお前は……)」

 

拠点の廃園で行方不明。冷静に考えると意味がわからない。なぜ拠点で行方不明になったのに今まで違和感がなかったのかと。これは恐らく彼女がここに居る黒鎌帝について誰にも知られたくなかったからなのだろう。

そこはいいと割り切る。よろしくない点は。

 

「(色々とガバガバ過ぎんだろ)」

 

今この瞬間まで「鈴木数馬と七尾真衣がインターセプターのリーダーをこの世から消したという事実を魔人に知られない」運命を決定していたのだとして、行方不明の違和感について神の介入があったのは今となればよく分かる。

まぁ確かに、もっと前の段階で彼女が廃園に現れていたとしたら、一人で隈無く廃園を捜索していた自信はある。彼女に繋がる微かな手掛かりがあるかもしれないのならば、それだけで世界だって壊せるのだから。

そうさせないためにこういう設定にしていたのだろうが……

 

「(まぁ、仕方ないか)」

 

取り敢えず。

 

「やはり……目的は私の心臓になるのですね」

「……咲輝の心臓って?」

「それは、私の口から説明して構わないかな?」

 

今は自分の目の前で繰り広げられている、三人の話の内容に耳を傾けている方がいい。

 

「(……早く終わんねえかな)」

 

体を気体にしているせいで耳──は無いのだが、耳を傾け、それでも興味があるわけでもなく。暇な時間を潰すためのBGMとして黒幕の計画を聞き、ただただ時間が過ぎ去っていくのを待つのだった。

 

 

 

 

 

「待ってくれ、咲輝の心臓には宝石が着いてるってだけの話だろ。なんでその魔人ってやつを抑えるための手段になるんだ」

 

宝姫家の長女の心臓には宝石がくっついている。それはこの世界で周知されていることのはずだ。

 

「咲輝から聞いていないかい?その話は偽りだと」

「なんだって?」

 

数馬が確認するように咲輝へ視線を送ると、小さく首を縦に振った。

 

「咲輝の心臓に宝石がついてはいない。宝石が心臓なのだ」

 

帝の言葉に、数馬は疑問符を浮かべた。

 

「宝石が心臓って事は……じゃあなんだ、咲輝は心臓を持ってなくて、代わりに宝石があるってことか?」

「その通りだよ」

「っ……」

 

数馬としては冗談で言ったつもりだった。

人は心臓を持たなければ生きていけない。そんなことは子供でもわかる前提事項。

それがひっくり返ってしまっているのが、宝姫咲輝という人物らしい。

 

「咲輝の心臓は宝石が果たしている。そして、その宝石が少々特殊でね」

 

少し間をあけて。

 

「血に触れさえすれば無限に魔力を生成し続ける」

 

どこか。苦しそうな表情で言った。

 

「魔力って、元々人の体にあるもんだろ。人の代謝みたいな要領で手に入るんじゃないのか」

「厳密には違うのだ。その方法では魔力が回復するだけだ。筋肉と同じだよ。休めば酷使された筋肉は回復するだろう。咲輝は違う。血が流れれば流れるだけ、筋肉が増えていく」

「……私、女子なのですが」

「すまないね。適切なたとえが他に見あたらなかった」

 

帝と咲輝がそんなやり取りをする中、数馬は言葉を失っていた。帝の話が本当ならば、咲輝はこうしている今も魔力を生み出し続けていることになる。

 

「それじゃあいつかパンクするんじゃ」

「この話を聞いて、そちらの疑問を先に聞いてくる辺り、さすがは咲輝が信じた人だね」

「……数馬様、私は直ぐに魔力が外に漏れ出すため、体が魔力で溢れることはありません」

 

咲輝の補足に、数馬は肩を降ろす。魔力を大量に持ちすぎると、外界の魔物のように凶暴性が増すという話を聞いたことがあった。

 

「ここで本題だ。私は咲輝を一度とある装置に入れて、心臓から流れ続ける魔力をこの身に受け続ける」

「なに……?」

 

ここで。一気に帝が怪しい者に見えてくる。

 

「魔力を宿し続けて力を得る。そして、安定装置の守護者、魔人と相対する」

 

王族は魔力一切持たない。だから魔術を扱う上で咲輝から魔力を貰い受けようという話なのだろう。そのために咲輝を得体のしれない装置に放り込むという。

 

「それで咲輝はどうなるんだ」

「全てが終わるまで、その装置の中で眠っていてもらう。咲輝が死ぬことは無い。全てが終わったら、今まで通りの生活ができるようにはなる」

 

ここで数馬の中の何かに引っかかった。

 

「待てよ。後の安全が保証されてるからって、咲輝をモルモット扱いする気か」

「そういう風に捉えられてしまっても仕方あるまい」

 

数馬の言葉でも、帝の表情が変わることは無い。その通りだと、隠すつもりもない様だ。

 

「……咲輝、行こうぜ。わざわざこんな話に乗ってやるまで」

「いいえ、鈴木様。私はこの話、受けようと思います」

「えっ」

 

数馬が差し出した手を、咲輝が振り払った。

 

「鈴木様、少し昔話になるのですが、私は親の事を覚えていません。私が物心着いた頃には、二人とも亡くなってしまいました」

 

数馬へと視線を向けて語る。今まで触れたことのなかった咲輝の話を、数馬も心して聞く。

 

「この心臓のせいなのかは分かりません。その頃の私には自分の心臓の価値が分かりませんでした。色んな人のお力を借りて、成長し、やがて自分に、宝姫家のこの呪いについて知りました。当然です。どんな場所へ行っても、私が宝姫の者だと知られれば、一人になってしまいますから」

 

宝姫の表立った事情は新世界で周知されていることだ。宝石という、この世で価値のあるものを抱えている少女。好き好んで近寄ろうとする者はそうそう居なかったのだろう。

子供だって、親に言いくるめられるとかで離れていくのも頷ける。

 

「そんな時、なんの混じり気もなく接してくれたのが帝様です」

「……」

 

帝も黙って咲輝の話を聞いていた。

 

「彼は私に色んなことを教えてくれました。この心臓の本当の価値もそうです。ただ寂しかった私の傍に居て、人の暖かさを教えてくれました。今でも忘れません。人はみな自分の人生という物語の主人公だ。諦めてしまったら、そこで物語は終わってしまう。だからどんなに辛くても、希望を捨ててはいけない。きっと、それを見て、分かってくれるものが君に手を差し伸べてくれると」

「……受け売りだがね」

「それでも私は救われました。そして巡り会えたのです」

 

言って、数馬に微笑みかける。

 

「鈴木様、貴方様は私に手を差し伸べてくれました。ですが、本当の、一番最初は帝様が手を引いてくれたのです。その手の恩を返せるのならば、私は、この心臓を差し出す事くらいやってみせます」

 

咲輝の瞳。そこには強い覚悟が宿っている。数馬はその瞳にどこか見覚えがあった。

 

「(……あの時の、由紀と同じ……)」

 

宮里由紀が宮里由美を助けて共に生活をしていくと、守っていくと決めた時の瞳。何を言っても聞かない、女の子の覚悟が宿った瞳。

 

「……説得は、できそうにないな」

「申し訳ありません、鈴木様」

 

ペコリとお辞儀をして、咲輝が謝罪する。

 

「黒鎌帝」

「なにかな」

 

咲輝の覚悟を覆すことは出来ない。であるならば、数馬が言うことは一つだ。

 

「咲輝をちゃんと返せよ。咲輝の物語は、まだ終わりになんかならねえ」

「当然だ」

 

帝の方もそうだった。咲輝と同じ、覚悟を瞳に宿している。

 

「ここに宣言しよう。この安定装置というふざけた物に支配され、犠牲が認められている世界を変える。そして、たとえ私自身を犠牲にしようとも、宝姫咲輝の物語はまだ終わらせない」

 

確固たる意志を持った約束をして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ続けんのかよこれ」

 

結構続きそうだったのを見越した亮は、聴覚だけ先程の部屋に置いてきて、劇場の屋上で喫煙していた。

なんだかんだここで戦いになる気がしていたのだが、予想が外れ、なんだか二人で固い約束を交わしていた。

 

「人は自分の人生という物語の主人公。間違って受け取られたみたいだな」

 

以前、亮が帝に投げ掛けた言葉の真意はそれじゃないのだが。

確かに、帝の受け取り方の方が夢があっていいんじゃないかと訂正する気にもなれず、取り敢えずただただ煙を味わっていた。

 

「自販機でもあればいいんだがな」

 

当然廃墟の遊園地に生きた自動販売機などあるはずもない。タバコには缶コーヒーと亮の中で決まっているのだが、今回はタバコだけで我慢するしかないようだ。

 

「にしても、俺も随分過小評価されてるもんだな。たかだか無限の魔力程度で抑えられると思ってんのか」

 

宝姫家の心臓を利用して無限の魔力を得る。発想自体は悪くないが、自分という存在と相対するにおいて、魔力なんてものは意味を持たない。無限に魔力があろうと神聖に叶うはずがないのだから。

 

そんなことは亮が身をもって知っている。

 

「まぁいい。帝を止めるのは、どうせ俺の役目じゃないからな」

 

黒鎌帝、前国王の企みは鈴木数馬が止めるはずだ。現状で二人はなんだか分かり合えてしまっているようだが、確かシェイカーが開発していた魔力を流し込む装置は、宝姫の心臓を入れるの専用で、心臓しか入らないはずである。

人工血液を通すことで心臓の効力を最大活用し、魔力排出用のチューブを人にくっつけることで、永遠と魔術を打ち続けられる固定砲台にするための装置だったはずだ。

魔人の取り込み、分解の特性を手に入れれば、その装置ごと体に取り込むことで無限の魔力も夢ではない。

 

それさえ知れば、数馬が帝と相対する流れになるはずだ。

 

「(……つーか、まだ出てこねえのかよ)」

 

三人で今後の作戦について話しているのが聞こえる。どうせその期間中は外界遠征に行っているので、特に亮には関係の無い話だった。

 

「……はぁ」

 

ため息と共に、紫煙が空を舞う。そこそこ登ってきた日差しが、どうにも憂鬱だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完結に言うならば、五日間で何事も無く宝姫咲輝の護衛は終了した。問題だったインターセプターも来ることなく、黒鎌帝との話以降は本当に何も無くない終わった。

帝と咲輝が合流するのは外界遠征が始まってからの様で、その期間は亮も外界に出ているため、もうこの件に首を突っ込む事は無いだろう。

 

「ンー」

 

そんなわけで、もう護衛は要らないというナナシの命令により、亮は帰路に着いた。悩みの種は明後日の外界遠征だ。

 

帰還の命令が出た時、ナナシが発言した事だが、どうやら外界の拠点に巨人が出現したらしい。

巨人と言っても、身長は20m前後。確かに大きいが、そこまで強い類の魔物では無かったはずだ。亮の基準で言えばそこら辺の雑草を踏むのと大差ない手間で殺せる存在ではあるらしいが、ナナシ曰く、明後日は極術師による乱戦になると踏んでいるらしい。

 

「(そこまで強くなっているわけがないんだがな……)」

 

正直、マグナスどころか宮里由紀の火力で十分瞬殺できるレベルの存在だと思う。乱戦になるほどの敵ではない。だが、ナナシの談ではマグナス一人でもだいぶ時間がかかるとの事。

つまり亮はなにか裏があると踏んでいるのだ。

 

「(まぁ、行ってみれば分かることか)」

 

明日の朝、亮は極術師達より一日先に旧世界へ向かう事になった。目的は先んじて巨人を始末しておくこと。と言っても全滅させる訳ではなく、二、三体残しておく必要はあるそうだ。巨人のような目に見えて強そうな存在を自分達の手で撃破できれば、自信もつくとの事。ただ自分の知る限りの極術師達にはそういう願掛けのような物は必要ないと考えてはいる。

 

路地を右に曲がり、数歩進んだところで足を止め。

 

「と、そろそろいいか?」

 

先程から自分に着いてきている者に声を掛け、振り向いた。

わざわざ遠回りの路地に足を踏み入れたのもそのためである。

 

「やはり気が付いていたか」

 

声を聞かずとも、誰が着いてきていたのかは分かっていた。

マグナス・スローン。青いコートに身を包んだ彼がそこに居た。

 

「なんか用か。宝姫咲輝の件なら終わったと連絡があったはずだろ」

 

ナナシに頼んでマグナスへ連絡が入れて貰ったのだ。

 

「あぁ、連絡は受けた」

「ならストーキングされる理由はないと思うんだがな」

「本当に、そう思っているのか?」

 

確かに、ストーキングした上で攻撃される心当たりならある。が。

 

「当然だ」

 

もちろんシラを切る。回避できるなら回避するに越した事は無いのだ。

 

「……先程、名もなき者から連絡を受けた際、電話口から深淵の声を聞いた」

「……あぁ」

 

シラを切った甲斐があったようだ。彼の育て親殺害の件で無いのならば戦う必要はないだろう。

だが愛菜が関わっているとなると、これはこれでややこしい問題ではある。特に出自関係なんてどう誤魔化せば良いのやら。

最悪の場合はこの場でマグナスの頭を弄って忘れさせる事も念頭に入れた。

 

「貴様は深淵と繋がりがあるのか?終わったから帰るとかなんとか聞こえたが」

「(あのバカ……)」

 

仕事中に彼女からの連絡を無視していたのが誤りだった。わざわざナナシの所に行っていつ終わるのか確認に行ったのだろう。そのタイミングでマグナスとナナシが通話をしていたらしい。

 

「いや待てよ、なんでその話の内容で俺に繋がるんだ」

「宝姫咲輝の件以外でそのタイミングに終わる仕事など私が認知している物は他にない。加えて、名も無き者が直接噛んでいる。それは国の機密事項に当たる事がほとんどだ。であれば、国の機密である貴様を連想するのは必然。更には原初の魔術師深淵が帰るとまで繋がれば」

 

誤魔化そうと思ったが無理そうだと諦める。さすがに新世界の頂点にここまで知られると逃げ道はない。

 

「……もしそうだとして用件は?」

 

上手い具合に誤魔化すには、用件を聞いてそれを叶えてやり、借りにして黙っていてもらう他ないだろう。幸い口は固そうだ。

 

「……うむ、彼女に……会わせて欲しい」

「………………ン?」

 

とりあえず目を疑った。新世界の頂点と謳われる炎の大男、ブラスターことマグナス・スローンが目を伏せて愛菜に会わせて欲しいと言ってきたのだ。

 

「会わせて欲しいって、愛菜……深淵にか?」

「そうだと言っている」

「(マジかよこいつ趣味悪いな)」

 

亮は鈍い男ではない。マグナスが愛菜に好意を寄せた上で会わせてくれと言っているのは分かる。

だが同時に、どう足掻いてもマグナスの想いが成就しないのも理解している。

自惚れではなく、愛菜は自分以外の男性に興味を持っていない。なんなら男性のみならず、一緒に住んでいる八代や優衣以外の存在に興味を持っていないだろう。嫌っているという点を含めるなら鈴木数馬の存在があるが、なんにせよマグナスに希望があるとは思えなかった。

 

「一目でいい!軽く挨拶ができる程度でも構わない!!」

 

ガシッと亮の手を握って頭を下げるマグナス。

 

「落ち着いて俺の手を離せ」

 

そう窘めるとマグナスは手を離したが、なんともこの前会った人物とは別人だった。テンションが上がるとこうなってしまう質らしい。

 

「はぁ……わかった、愛菜に会ってくれるかどうか聞く」

「すまないがちょっとそれは……」

「なんでだよ」

「聞いたら会ってくれないだろう」

「コイツやべえ、面倒くせえ」

 

天下のマグナス・スローンの色恋ボケに辟易する亮。もしかして極術師って面倒なやつばっかりなんじゃないかと思う。

 

「それになお前、会うったってもう21時だぞ」

「む、確かに……こんな夜中に押し掛けるのも迷惑か」

 

どうやらプライドは捨てても常識は捨ててなかった模様で、亮は一安心した。わざわざ今顔を合わせなくても、明後日には嫌でも同じ潜水艦で旧世界へ赴く事になるのだ。その時に軽く話でもしてやれと、愛菜に伝えておけば解決する話だと────

 

「……最悪だ」

 

空に件の存在を感じ、呟いた。とてつもなく間が悪かった。

 

「みぃいつけたァ!!」

 

寄声を上げて空から愛菜が降ってきた。家に魔力がないと思ったら、どうやら闇の中から自分を探していたらしい。夜の闇から愛菜が飛び出て降ってきた。しかも一直線にこちらへ降下している。このままだと衝突してしまう。すり抜けさせるかどうか考えたが、マグナスがいる手前下手なことは出来ないので、魔力の壁を用いて止める事にした。

 

「あたっ……」

 

そこまで硬い壁にしてはいないが、それでも壁は壁。高いところから落ちて当たればそれ相応の痛みはある。

 

「危ないことしてるからだ」

 

ただまぁ、激痛が走ってる中でも空中で体制を整えて綺麗に着地する辺りは流石と言ったところだ。

 

「痛いよ!」

「なら普通に出て来いよ」

 

極術の無駄遣いを指摘すると、涙目で不満の表情を浮かべた。

 

「わざわざナナシの所まで行って…………あれ、ん?」

 

亮の隣のマグナスの存在に、愛菜はやっと気が付いたようだ。

 

「……図らずとも会えたじゃ……おい、どうした」

「……」

 

突然愛菜が現れたからか、マグナスは軽い放心状態に陥っていた。元々強面な顔であるがために、無表情のマグナスはなんかもう仏である。

 

「んー、思い出せない。誰この人」

「ブラスター、マグナス・スローン」

「あぁ、どっかで見たことあると思った」

 

本人を目の前にして何とも辛辣な言葉を向けた。だがそのおかげかマグナスも我に返った様で、その通りだと肯定した。

 

「んで、マグナスさん、亮に何か御用ですか?」

「いや、彼にではなく、君に。明後日に控えた外界遠征。事前の挨拶にと思ってな」

 

上手いこと理由を作ったものだと亮は関心していた。見かけによらず大分繊細な心と高度な思考能力の持ち主なのだろう。

 

「あぁ、なるほど。わざわざどうもありがとうこざいます。こちらこそ、明後日よろしくお願いしますね」

 

そう言ってペコリとお辞儀をしてから、純度100%の営業スマイルをマグナスへ送った。営業スマイルだと分かっているがために、亮は内心マグナスに同情していた。

 

「……先日、そこの彼とは拳を交えた。彼と君は?どういった関係であるか?」

「え、もちろん彼s……!?」

「兄妹」

 

躊躇いなく地雷を踏みに来たマグナスのために、せめて踏み抜かせまいと愛菜の口を魔力の手で無理やり塞ぐ。愛菜と恋人なんていう冗談は、二人の事を知っていれば有り得ないという結論に至る。だが傍から見れば二人は外見的には歳も近いし、何よりこのやり取りだって恋人同士なら別に無くは無いやり取りだ。

そこまで考えた上で愛菜の口を塞いだ。

 

「なるほど血縁者か。深淵の血筋と言うならば、存在が秘匿されている理由は分かる」

 

その甲斐あってかマグナスも納得したようだ。

 

「そういう事だ」

 

亮はすかさず肯定する。

 

「……!!……!!」

「それで彼女はなぜ先程から兄上の胸を殴り続けているんだ?」

「待て聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ」

「何の話だ兄上」

「それだよなんだよ兄上って」

 

まだ二回しか顔を合わせていない人に兄上と呼ばれるのがこれほどにない複雑な心境だった。何万人以上の記憶を持っている亮でも初体験なので、心の底から戸惑う。

 

「深淵の兄であるのだろう。ならば兄上ではないか」

「いや、その理屈おかしいだろうが」

 

愛菜にマグナスに、思い返してみれば恩師の笹塚未菜も、宮里紀子もおかしいところがあった。極術師は術と引き換えに何かを失ってしまったのだろうか。

そう思う亮に、人のことを言えないだろうと突っ込む者はいない。

 

「し、深淵、よければこの後、明後日の作戦会議などどうかな?」

 

言葉が突っかかりながらも、愛菜を誘うマグナス。こっちの話は無視かよと亮は思いつつ、それでも誘う勇気を振り絞ったことを讃えた。が。

 

「いえ、結構です」

「…………そうか」

 

間違いなくこうなるとも思っていた。

ここでフォローして愛菜を行かせるかとも思ったが、五日ぶりに帰って来たわけなので、話すこともあるだろうと踏んでマグナスにはご退散願う事にする。

 

「まぁマグナス、嫌でも明後日共闘することになるんだろ。作戦だかなんだかもその時でいいんじゃねえのか」

「……ふむ、それもそうだ。すまない、邪魔をした」

 

分かってくれたようでマグナスは二人に背を向け歩き出す。哀愁漂う背中であった。

 

「…………なにあれ」

「やめてやれ。あいつは頑張った」

「どゆこと?」

 

鈍いのは愛菜であったようだ。愛菜の場合は鈍いというかそもそも興味が無いというのが正しいか。ともかくこれから努力しても悉くスルーされるであろうマグナスに同情しつつ、亮と愛菜は二人並んで帰路に着いた。

 

「なにか変わったことはあったか」

「特に何も無いよ。優衣ちゃんが壊滅的に料理がヘタクソだったことが判明したくらい」

「……まぁ、あいつも料理できなかったしな」

「あれだよね、自分よりできない人を見ると自信湧くよね」

「いい性格してんな」

 

今年で何度目だろう。育て方を間違えた罪悪感を感じた。

 

「亮の方はどうだった?」

「別に何も」

 

帝の件はわざわざ伝える必要も無いだろう。安定装置の物理的な守護は自分の仕事であり、愛菜には何の関係もない。百歩譲って鈴木数馬が負けて自分の出番が来たとしても、愛菜は絶対に行かせない。

微かな油断で魔人に取り込まれるような事がないとも限らないから。さすがに、愛菜を取り込んだ魔人を取り込んで、愛菜を自分の体から生成して出すなんてことはしたくない。

それくらい亮に取って愛菜は大切な存在だ。

 

「そんなこより、外界遠征について少しは考えたのか」

 

愛菜は外界遠征においても大きな制約がある。いつ見られるか分からないので、相手を闇に落とさない。つまりは影から奇襲を仕掛ける戦法しか使えないのだ。

これは愛菜にとって大きな負担だ。闇に相手を落とすことさえできれば、たとえ相手がなんだろうと、落とした闇の中に放置していればそれだけで勝てる。

その必殺の手が使えないわけなのだから。

 

「あ、思い付いたことあるんだよ」

「なんだ?」

「亮がたまに使う拳銃貸してくれない?」

 

というと一つしかない。笹塚未菜。自分を新世界に馴染むように育ててくれた恩師が託してくれた銃。たまに脅しとかで使う程度で、最近は使用していなかった。

というのも、昔は魔力を操作して相手を拘束する事が難しかったからだ。体を拘束しようにも、こちら側の人間は脆すぎて無意識に使うとスプラッターな事になってしまう。最初の頃はそれで何度かナナシを困らせたものだ。

だが今はその加減もわかったので、わざわざ銃で足を撃つなどをしなくていい。それで必然的に使用頻度も下がっていった。

ならば。

 

「やるよ」

 

言って、右手を黒く歪ませ、拳銃を取り出して愛菜に渡す。

 

「くれるの?やった……っておもっ」

 

片手で受け取ったら想像以上に重かったらしく、危うく落としかける。

大きなサイレンサーが付いているせいだろう。この銃は重量バランスも偏っている。真っ直ぐ撃てるようになるには、そこそこの筋力と慣れが必要だ。

 

「ンで、思いついた事ってなんだ」

 

しっかり持ち直した愛菜に尋ねる。

 

「えっとね……実演した方が早いかな。亮、的ある?」

「俺でいい」

「わかった!」

 

当てる先も確認したらところで、愛菜は銃の安全装置を解除し、亮へ向けて。ではなく、自分の足元に銃を向けた。

 

「ン?……そういうことか」

「えい」

 

亮が理解したと同時に、愛菜は引き金を引いた。

次いで、パスッ!と、軽い音が響く。

するとどうだろう、愛菜の足元、つまりはコンクリートに当たってそこで終わりのハズが、亮の頭に弾がヒットした。

 

「一度お前の領域を介して、当てる感じか」

「うん!」

 

元気よく返事をして、銃の安全装置を掛けてから拳銃を闇の中にしまう。

仕掛けはこうだ。まず、どこでもいいので闇に向けて弾を撃つ。一度闇の中に入った弾を、再び別の闇から取り出す。取り出す場所を敵の影とか、近くの暗い場所などに設定すれば不意をついてヒットする。

相手の意表を突いた一撃必殺だ。

 

「よく思いついたな」

「さすが私ってところだね」

 

実は前深淵も同じような事をしていたとは言えない。彼女は闇そのものに手を突っ込んでいた。愛菜の方が意表を突くという点ではメリットだが、その分コントロールが難しい。だがそのうち慣れるだろう。

 

「その調子で気抜かずにがんばれよ」

「うんっ!」

 

言って、愛菜は左手を亮の右手に重ねた。

 

「……あれ、振りほどかないの」

「……まあな」

 

明日。一先ず亮は一人で外界、旧世界に向かう。この五日間、家を空けていたが、また空けなくてはならない。

愛菜は特に変わらない様子で笑ってはいるが、それでもわざわざナナシのところまで出向いていたのだ。きっと寂しい思いをしていただろう。

罪滅ぼしなんて大それた物ではないが、少しそれを紛らわせてやる分にはいいかと。繋がれた手を離すことはしなかった。

 

「お、デレ期かな」

「ほどくぞ」

「ごめんなさい!」

 

五日間なんて、亮にとって大した時間じゃない。ただ、このやり取りが酷く懐かしく思えた。




サブタイトル。死ぬほど難しい
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