無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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外界遠征②

廃墟として未だに取り壊されていないホワイト地区の廃園に、タンタンタンとコンクリートを蹴る音だけが軽快に響く。

 

「はぁはぁ……っ……」

 

結構な時間走り続けたせいか、息が切れている。肺が休息を求めているのが痛みとして伝わってくる。だけれど休息を取るなんていう選択肢はない。今は一刻も早く宝姫咲輝を見つけなければならない。

 

シェイカー博士のあの物置から消えていた物を黒鎌帝が持ち出した物であるならば、一刻も早く止めなければ行けない。そうでなければ咲輝の命はない。

 

そう思えばこの苦しさなんて無視できる。咲輝は家には戻っていなかった。だから後はこの廃園の、この前帝が居たあの劇場。きっとそこに二人揃っている。そう確信して、鈴木数馬は劇場のドアを力任せに開いて彼がいたあの地下の控え室へ向かう。

 

「咲輝っ!」

 

最後の扉を開いて、名前を呼ぶ。

 

「…………っ」

 

だが、そこには誰も居なかった。ただ椅子と机が取り残されている。それだけの部屋だった。

 

「っ……クソッ!!」

 

悪態を吐いて、膝を着いた。

 

「遅かった……」

 

昨日、愛菜にシェイカー博士の家を教えて貰い、それから半日ほど時間を費やして黒鎌帝が言っていた人から魔力を受け取る装置を発見した。

 

そう、発見したのだ。最初に見つけた時は、「この装置を使って魔力の受け渡しをするのか」と楽観視したが、ふと冷静に考えてみるとその装置はこの世に流通していない。もし仮にオリジナルのこれ一つしか無いとすると、では帝はこれを持っていかずにどうやって受け渡しをするのか。

 

それを帰宅して日を跨いでから思い出し、もう一度シェイカー博士の物置宅へ。

そして今度は壁に貼ってあった物のリストから欠けている物を発見した。

臓器交換機。高さ2m、幅3mの大きな装置だけがこの家から欠けていた。もし、これを帝が持ち出しているのだとしたら、彼は咲輝を騙し、彼女の心臓を自分に移植しようとしているのではないか。

 

そう気付いたらもう止まらない。シェイカー博士の物置を飛び出し、咲輝に電話しながら彼女の家まで全力で走る。だが咲輝は電話には出ず、家にも居なかった。嫌な予感どころじゃない。予感は確信に変わり、続いてこの廃園まで走ってきた。

 

そして今、膝を着いているのだ。

 

「(どうする、他にどの宛がある、由紀や根本さんは今日外界遠征に行ったばっかで連絡は取れないし、寧音を巻き込むわけにもいかない……後は……)」

 

誰かに協力を仰ぐなんて選択肢は本来有り得ないのだが、今回に限ってはもう悠長な事は言ってられない。

手掛かりが全くないのだ。宛が全くないこの状況では、少しでも情報が欲しい。かと言って、本当に無関係でこの新世界の裏側について知らない者まで巻き込む事は出来ない。足を踏み入れたら、もう二度と今まで通りの生活なんて送れない。そういう世界であることは数馬自身がよく分かっていることだからだ。

 

「けど、どうすりゃいい……」

 

足りない頭をフル回転させる。けれど一向に案など浮かんで来ない。

当然、諦めるなんて選択肢は数馬の中には存在しないが、手詰まりというこの状況では……と、考えていたその時。

 

──タン、タン、タン

と、ゆっくりと足音が背後から聞こえた。まさか帝が戻ってきたのか、とは思わなかった。なぜなら、姿を見なくても確信を持ってソレが誰だか言い当てられるほどの気配があるからだ。

 

空気が震えている。視界に広がる光景が、ぐにゃぐにゃと濡れた紙に描かれた風景画の様に歪んでいる。数馬にはこの異常な光景を見た経験が一度だけあった。この廃園で、恐らく今後ろにいる彼女が戦う意志を見せた時だ。

 

「……ま、さか……」

 

呟いて、振り返る。

 

「こんにちは」

 

この異常な風景には合わない。

 

この捻れ曲がった空間で彼女の姿だけが、ただ真っ直ぐ、正しく存在している。

 

「七尾……真衣」

 

小さく、名前を呟いた。

 

「ん。少しだけ、必要な情報を伝えに来たよ」

 

そう言って、小さく、にっこりと微笑む少女が、神がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ン?」

『ん?』

 

時は同じく、所だけ変わって旧世界。拠点の屋上に居る亮は、ふと違和感を感じた。

 

『……なんじゃ今の』

 

違和感はもちろん八代も感じている。二人は一心同体な状況なのでこれもまた当然の事だった。

 

『分かんね』

 

形容しがたい感覚がしたのだ。何かが引っかかって、けれどすぐさま戻された様な。まるでこの世の空気というか雰囲気が、重いとかではなく全く別の異質な何かに変わってしまったかのような。

ともかく、今まで亮が食らった全ての者の語彙力を使っても言葉が見当たらない程度にはよく分からない感覚だった。

しかし、そんな感覚も今はない。もう気のせいだと片付けられる程度の違和感だ。気のせいだと吐き捨てるのが正しいとは思えないが、取り敢えず後回しにするしかない。

 

理由は簡単だ。眼下で、旧世界の拠点を死守しようと極術師達が戦っているからだ。

 

先程、拠点の結界の交換作業が始まった。交換している間、無防備になる拠点を死守するのが交換に参加しない兵士と極術師の役割だ。最初は敵の姿など一切見えなかったが、気が付けば周辺には魔物が湧き溢れていた。

 

「っおらぁ!」

 

目に入りやすいのはリフレクターだ。剣を振り回し、拠点を囲うように現れた魔物の群れを縦横無尽に動き回って切り続けている。

あまり新世界では見られない戦闘スタイルだ。肉体強化を扱えるものならば、ああいった事ができるかもしれないが、ビルだらけの新世界では難しい。何より戦う機会という物が基本ないのだから、ああいったリスクのある戦い方ができる者は本当に限られる。

 

「……」

 

ついで、ドリフターこと久坂陽吾の戦いに注視する。新世界にて数少ない念力を扱い、その頂点に位置する彼。応用の利く点から、下位術でも羨ましがられる魔術だ。だから、極術ともなれば。

 

──ドオオオオオン!

と、打撃音が響き渡る。やったことは簡単だ、巨大な倒木を持ち上げて魔物の群れに落とした。ただそれだけだ。

 

「ふぅ、重たいものはちょっと疲れるなぁ……」

 

念力で宙に浮いている陽吾は、ポツリと言葉を漏らした。これも先程の巨人との戦いで知ったことではあるが、重たく大きいものはそれだけで凶器だ。念力で一体一体プチプチ潰していくよりも効率が良い。

 

「……はっ!」

 

宮里由紀もそれと似たようなことをしている。魔物たちの上に大きな氷の板を作って重力落下。永遠と氷の板を作っては落とし、作っては落とす。酷く地味ではあるが、実はこれはこれで難しい。

 

「やっぱり、瞬時に生成しないと変な向きで落ちていっちゃうわね……かと言って、脆いと殺傷力がない……」

 

口にして考えをまとめながら、それでも同じ動作を繰り返す。時々、近くに来る相手には氷の壁を作って行く手を阻んだり、氷の矢を投げたりと多彩な方法で魔物達を撃破していく。

 

「ふんっ!」

 

少し離れた位置では、マグナスの放つ業火が大量の魔物を焼き払っていた。少しでも森の木々に引火すると大惨事になるので火力は抑え気味ではあるようだが、それでも魔物達を焼死させるには十分な火力だった。

 

そんな感じで四人は各々戦っている。協力している訳では無いが、互いが互いの邪魔をしないという点では協力とも取れるだろう。襲撃してきているウォッチドッグ、猫型のクローキャット、つい先程命名された空を飛んでいるクイックバード達も数を減らしてきている。それでもまだかなりの数は残っているが、この調子ならば凌ぎきれるだろう。

 

『あれ、黒いのおらんくない?』

『ちまちまやってんだろ。あいつは一体一なら無敵に近いが、こういう乱戦には向いてないからな』

『あ、居た。なんか、あやつ土龍(モグラ)みたいじゃの』

『九之枝のモグラか。確かにな』

 

陽の光はちょうど高いところにあるため、拠点の影が少々小さい。しかしあることにはある。それを活かして拠点の影から胸あたりまでを出して低い位置から魔物をハンドガンで撃っている。弾が切れたら再び影に潜って弾倉を交換し、再び安全な影から撃つ。

 

『ああいうのなんつーんじゃっけ。芋砂?』

『もうアレはチーターじゃねえの』

 

ゲームに例えるとそういう不名誉なレッテルが貼られてしまうが、ルール無用の実戦ではこれほど強い戦い方はない。

 

確実に安全な位置から確実に殺す。

 

深淵という愛菜の唯一無二の魔術に制限が掛けられている今、最も正しい使い方だ。

 

『……しかし妙じゃの。こんだけの数が揃っとるのに、親玉が見当たらん』

 

八代の呟きが頭の中に響く。確かに、統率者がいないにも関わらず、これだけの数が集まって連携を取って居るというのは、あまり見かけない。大抵は高い知能を持った統率者が居て、それが指示を出していたり、決まった動きを取らせていたりするものだ。

今集まっている魔物達は大雑把に「敵をみんなで囲って倒す」という戦略を取っている。それだけ聞くと戦略も何も無いような気はするが、実際亮が旧世界に居た頃は特定の種族だけが固まった動きをするというだけに留まるのがほとんどだった。

 

例えばウォッチドッグとクイックバードの二つの種族に同時に襲われた場合、ウォッチドッグを相手している人間をクイックバードが奇襲するという流れがほとんどだ。

そう聞くと協力しているようにだが、これは結局、クイックバードの方がただ隙を突いているだけに過ぎない。ウォッチドッグとの戦いに囚われ、こちらに気付いていないから攻撃するという、その場の状況から引っ張り出してきた回答でしかない。

 

だが今は違う。取り敢えずみんなで囲って殺す。ウォッチドッグ、クローキャット、クイックバードの三種族が一緒に攻撃する。そういう状況になっている。

 

『九之枝と同じくらいの魔力を持ったなにかでも産まれたんじゃねえのか』

『四十年でか……まぁ先のコケの巨人の件もあるし、その可能性も無くはないと言うところかの』

『そういうこった……ン』

 

なんて八代と考えの擦り合わせをしていると、上空のクイックバードが亮を見つけて襲いかかってきた。三十ほどの数ではあるが、尋常なく速度が速い。屋上には魔物を感知するとそれに向かって発砲する機銃が備え付けられてはいるのだが、速度が速度。鉛玉はクイックバードを半分ほど落とすにとどまる。

 

『こういう時に兵器が役に立たないのはお約束か何かなのか』

『知らんのじゃ』

 

仕方ないので残りは魔力でクシャッとそれぞれ握り潰す。悲鳴はなく、ボキボキボキと骨が折れる音だけが響いた。それだって大した音ではない。下で戦っている極術師達にこの音が聞こえることはない。

ともかく、鶏団子となったクイックバード達を海まで高速移動させて捨てる。

十四個の肉塊が目に見てぬ早さで飛んでいく様は未確認飛行物体そのものだが、人の目で終える速さではないので誰かに目撃されることも無い。

 

こんな風に万が一愛菜に何かあった時ように亮は控えていた。見ていると今は大丈夫そうではあるが、油断は禁物だ。と、改めて警戒を始めたその直後、背後に気配を感じので振り返る。

 

「魔人」

 

気配を感じた時には気付いたが、声の主はナナシだった。右手に携帯電話を持っている。

 

「なんだ」

 

大方予想はつくが、一応端的に問い返した。

 

「……王からだ」

 

言葉はそれだけで、右手の携帯電話を差し出された。普段、ナナシは無表情だが、今のナナシからは諦めに似たマイナスな表情かま見て取れる。まぁ、その表情だけでこの電話の内容は理解できる。

取り敢えず電話を受け取って会話を始める。

 

「なんだ、直接電話してくるんじゃなかったのか」

『……茶化すなよ。頼みたい事だ。前国王を、黒鎌帝を止めて欲しい』

 

王としての威厳のある態度はない。かと言っていつもの様なノーテンキな雰囲気もない。電話口から伝わってくる声色には絶望が含まれていた。

 

「止める?殺していいのか?」

『…………っ』

 

意地悪を言ったつもりは無い。亮のこの問いは、ただ彼の、王の真意を確認したいがためだ。

 

「ハッキリ言えよ。望むなら生かしたまま行動不能にさせたっていい」

『そんなことしてどうすんだよ』

 

ただまぁそんな亮の意思は曲解して理解されてしまったようだ。

 

「動けなくさせて、お前が説得すればいい。そして前国王の全ての罪に目を瞑り、顔を変えて名前を変えてただの一般人として生かせばいい。もう親子として会う事なんかできないだろうが、それでも、大事な人が生きていてくれる」

『そ……んなこと……』

 

亮が提示したその言葉は間違いなく、王ではなく、黒鎌正義(くろがま せいぎ)としての最適解だった。父が生き残ってくれる最適解。父も死なないで済む。自分も父を殺さなくて済む。悲しむ者が居ない、そんな素晴らしい答え。

 

「俺にならできる。もちろん殺せと言うなら殺そう。あいつが今何をしているのかは知らないが、王としてお前があいつを生かすべきでないと思うのな」

「魔人!」

 

と、言葉を遮ったのは意外にもナナシだった。

 

「……これ以上、虐めてやるな。十代の子供にやるにしては悪質過ぎる」

「そんなつもりは無いんだがな」

 

なんだか、彼等は自分が思ってる以上にこの問題を深く考えすぎている気がした。これが温度差と言うやつか、なんて思いつつ、沈黙して王の回答を待った。

 

『…………殺せ』

 

最初は小さい呟きだった。

 

『殺せ。彼はもう、黒鎌帝は逆徒だ。この新世界の安定装置を破壊し、混乱をもたらそうとしている。王権が絶対である以上、前国王の彼がこんな暴挙に走ったとしられるわけにはいかないっ!……だから!!』

 

涙ぐむ王の、黒鎌正義の声がする。泣いて、空気が吸えなくて、それでも彼は言葉を紡ぐ。

この世の食物連鎖の頂点、生きとしていけるもの全てを片手間で殺す魔人亮に対して、指示をする。

 

『黒鎌帝を殺せ』

 

力強く、けれど涙を隠さない。王として、黒鎌正義として、そう指示した。

 

「ン、わかった」

 

そして亮はそれに対して間髪開けずに返答し、通話を切る。

 

「ほら」

 

そのままナナシに携帯電話を差し出した。

 

「……魔人。黒鎌帝は先程セントラルタワーの隣にある競技館から地下通路に侵入、王だけが知るあの通路から彼の、黒鎌帝の隠された部屋で宝姫咲輝の心臓を移植し終えた。これからまた再び地下通路からタワーの最下層にある安定装置の居場所へ向かうつもりだ」

 

簡潔に、ただナナシが言葉を連ねる。

 

「なんで部屋が残ってんのかは聞かないが、まぁ分かった。……ちなみに、他には?」

「……現在、鈴木数馬という下位術師が地下通路内で黒鎌帝と戦闘中だ」

「やっぱりか」

「知っていたのか?……まぁいい、どこからあの通路に入ったのかは不明だが、そいつが莫大な魔力を得た帝を抑えている。お前は」

「指示はもういい。ともかくやることをやるだけだ」

 

どうせ安定装置の前で待てと言いたいのだろう。鈴木数馬を救えとは恐らく言わない。別に救うまでもなく、力を得たとしても帝が無関係な人を殺すことなんてあるはずもないのだから。

 

「……頼む」

「ン。ああそうだ、愛菜のことは頼んだぞ」

 

亮はそう言って、屋上から飛び上がり、海の方へと移動する。風を切る音だけが耳に響く。

 

「(果たして俺の出る幕があるのか)」

 

鈴木数馬がそのまま帝を殴り倒して誰も悲しまないハッピーエンドを迎えさせてくれる事を期待しつつ、亮は海に飛び込み泳いで新世界へと向かうのだった。




キリのいいところで切ったら短かった。次回はちょろっと時間が巻き戻って鈴木数馬のパートです。帝の下りはあと二話で終わる予定です
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