無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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黒鎌帝①

「ん。少しだけ、必要な情報を伝えに来たよ」

 

捻れ曲がり歪んだ世界で、可愛らしい笑みを浮かべながら神はそう言った。

何も知らない普通の高校生だった時は、その笑顔に見惚れていたものだが、今はもう次はどんな摩訶不思議が起こるのか気が気じゃない。

 

けれど味方になってくれるのならば、これほど頼りになるものが存在しないというのもまた事実だ。

 

「本当か!助かるよ、今は些細な情報でもいい!」

「(……んー、分かってたけどここで「黒鎌帝が宝姫咲輝を攫う前に戻してくれ」とか言わないあたり……)」

「?」

 

目線を逸らして口を閉ざした真衣を見て、数馬は頭に疑問符を浮かべている。

そこまで考えていないのか、それともまだ咲輝が死んでいないと信じているのか。真衣は鈴木数馬を除いたこの世の全てを知っているため、咲輝がどうなっているのかも知っている。

ただそれを伝えてしまうのはやりすぎだ。まったく手掛かりがなく、手詰まりという彼のこの状況を打破する情報を与えるくらいが妥協点。

 

「この新世界には地下通路があって、今二人はそこにいるよ。入口はどこもかしこも巨大な施設の関係者しか入れない場所にあって、しかも基本的に関係者ですら知らない。王様専用の隠し通路ってところ」

「無理矢理にでも入る!どうすれば」

 

と、数馬が言い切る前に。

 

──ゴゴゴゴッ

と、どこからか音が聞こえた。どこからか、というのも今のこの不思議な状況だと彼女以外の音が酷く歪んで、あちこちに反響して聞こえるからだ。

 

「言ったでしょ、巨大施設の関係者以外立ち入り禁止の場所にあるって」

「……そうか、だからここがいつまで経っても取り壊されていない理由か」

 

納得した。確かにそういう通路があるのならば、安易に取り壊しなんてできない。

 

「ここから入って行って、二つ目の部屋に探してる人が居るよ。それと、気を付けてね。彼は強いよ」

「そんなこと関係ない。咲輝は助けなきゃいけないんだから、助けに行く」

 

神の忠告は主人公特有の謎理論で一蹴された。言っていることは分かるが、そう短絡的になれるのが主人公というポジションなのだろう。昔は、彼もそうだった。なんて思いつつ、真衣は数馬の言葉に頷いた。

 

「……そうだ、それとさ」

「ん?」

 

先程までの勢いを無くして、数馬が少し不安そうな声で切り出した。

 

「七尾さんが持ってたあの写真……そこに映ってた人は」

「それは内緒。恥ずかしいから」

「……なんだよそれ。もう答えてる様なもんじゃねえか」

「ふふっ、どうだろうね」

 

二人で少し笑って、けれどあまり長くそうもしていられない。時間を止めて話し込んで居られるほど、この世界は丈夫(・・)にできていない。

 

「頑張ってね」

「おう!」

 

一言ずつ交わして、世界が戻る。数馬の部屋から歪みは消え、音が正しく認識できる。

 

「よし、行くか」

 

この部屋に現れたぽっかりと開いた扉。特殊なタイプだったのか扉が開いた様な形跡は全くなく、壁自体が溶断されたかのようにすっかり綺麗に真っ暗な通路へと続く穴が空いている。

携帯電話を取り出してそれでライトを付け、右手で先を照らしながら真っ暗な通路を駆け出した。この先には黒鎌帝が居て、その先に宝姫咲輝が居ることを確信して。

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ走り続けたのかは分からない。二、三分か十分か、照らしている視界以外が真っ暗だと本当によく分からない。体感時間がそろそろ狂い始めたと思った頃。

 

「……はぁ……っと、なんだ、これ」

 

数馬は箱状の物に行く手を阻まれた。荷物が入ってそうな物ではなく、側面がガラス張りで、どこかグリーン地区にあるロープウェイのゴンドラの様な物で──そこまで考えてそれが移動用のゴンドラだと察した。

 

「……そっか、王の隠し部屋に繋がってんだもんな。ここホワイトだし、セントラルの近くにまでこれが運んでくれるってことか」

 

冷静に考えてここからセントラルまで走っていくのは無謀だ。間に合う間に合わない以前にそもそも一日走り続けて到着できるのか怪しい。

取り敢えずゴンドラの搭乗口から中へ入り、そこに何かのパネルがあることを確認する。少し正面を照らしてみると、レールのような物も見えた。ゴンドラを動かしていくのが正しいのは間違いなさそうだ。

 

「……えーと、これか?」

 

適当にそれらしいボタンを取り敢えず押す。そうすると、ボオオオンという起動音が聞こえた。どうやら無事に起動はできたみたいだ。

 

「15秒後に出発致します。安全確保のためシートベルトをお締めください」

「は?シートベルト?」

 

車か何かとツッコミを入れつつ、少々時間を使ってからその意味を理解する。

 

「あぁ、そっか。セントラルまではかなり距離があるもんな。これもリニアみたいにすっごい速度で走るって事か……………………やべええええ!!!」

 

直ぐに背後を振り返る。六人ほどが座れそうな長椅子を発見した。飛びがかかる様にそれに座り込み、ベルトを探して──

 

「出発致します」

 

音声の直後、尋常じゃない加速Gに見舞われた。

 

「っ!?」

 

余りの速度に尻が浮き上がりそうになるが、両腕でシートの座の部分の出っ張りを握り締めて耐える。シートに腰掛けて居なかったら背後の鉄板に叩きつけられていた事は間違いないだろう。

何が何だか分からない存在と戦う前に重傷を負っていたところだ。

 

「…………ひ、一安心かな」

 

しばらく進んだところで加速が止まり、安定してきた。このままの体制を維持していれば大丈夫そうだ。

 

「間もなく到着致します」

「はやっ!?」

 

安心したのも束の間、アナウンスに慄く。当然だが加速したんだから減速もする。まぁつまり。

 

「ぎゃああああああああああああああ!?」

 

急激に減速。今度は減速の衝撃で前方に体が引っ張られる。

 

「あっ、無理」

 

とうとう耐えきれなくなり、前方に放り出された。ゴンドラのフロントガラスにドン!と体を打ち付ける。

 

「ぐっ!……ふっ……」

 

空中でクルっと回されて背中から行った。しかしそこまで強烈な痛みはなかった。ゴンドラが完全に停車し切ってから体を起こし、溜息をついてから降りる。

 

「……帰りは乗りたくねえなぁ……」

 

そんなことをボヤきながら再び真っ暗な通路を携帯電話の明かりで照らしながら進んで行き、直ぐに変化があった。

 

「見つけた……これが一つ目か」

 

今度は分かりやすい扉だ。鉄か何かでできている扉には何も書かれていないが、この扉の向こうから感じる空気が何となく違う。それなりの場数を踏んで来た数馬は、こういう感が馬鹿に出来ないのをよく知っている。

一度深呼吸して、扉を見据え、歩み出す。近づくと、カシャッと小さな音ともに扉が横にスライドした。

 

部屋の中は先程の通路と違い明るく、視界はよく効く。きちんと端から端まで見渡せるのだが、だからこそこの光景に度肝を抜かれた。

 

「なんだ……これ」

 

まず目に着いたのは、綺麗に並べられた謎の大きな試験官だ。これはいつだったかテレビ番組で豚の培養をしている所を映したのを観たことがある。

番組ではこの試験官の中に豚が眠っていたが、ここにある試験官の中には臓器の一つと思われる何かがあった。それが部屋いっぱいにある。数馬には何が何だかわからない液体に浸されている臓器の数々に、生理的嫌悪感を抱く。

 

「(七尾さんは二つ目の部屋に居ると言ってた……これが一つ目の部屋だとしたら、もう一つ先に部屋があるって事だよな……)」

 

一つ目の時点でなんだか陰鬱な気分になっている。いくら場数を踏んでいるとは言えど臓器なんて教科書のイラストくらいでしか見たことがない。こうも人体に関わる直接的な物を見ると気分が萎えるのは仕方ない。

 

「……早く助けに行かねえと」

 

だが一々気にかけている場合でもないので、部屋の中を進んで次の扉を探す。扉は直ぐに見つかった。

真正面の試験官の奥に隠れていただけだったからだ。この部屋が何なのかは分からないが、これより先に部屋があるのならばこれよりヤバいことは間違いないだろう。そんなところに咲輝を居させるわけにはいかない。早く連れ戻さなければ──

と、そこまで考えた直後。

 

──カシャッ

と、見据えていた扉が小さく音を立てて開かれた。

 

「どうやってここに?」

 

初めからここに居るということは分かっていたが、まさかこんなに早く会う事になるとは思って居なかった。

言わずどもがな出てきたのは黒鎌帝だった。

 

帝も帝で数馬が居ることには本当に驚いていた。王の血筋か、もしくはあの名前のない者くらいしかこの道を知る者は居ないはずなのだ。それに、どの入口も普通の人間が入れる場所にはない。

しかし、元々数馬が自分の前に立ちはだかる事も予想はしていた。咲輝が信頼を置いていた者だ。ここに来れない道理はない。

 

「そんなことより!咲輝は!?」

 

数馬が怒鳴るようにして尋ねる。帝の問いに答えるつもりはなく、何より彼女の安否が最優先だった。

 

「私のこの後ろの扉を抜けて通路を進めば、私の隠した部屋に行ける。そこにその答えがある」

 

答えは自分の目で確かめろと。そう言った。

 

「なら、お前をぶっ飛ばしてから確かめてやる」

 

臆することは無い。元々帝に言わるまでもないと、睨み付けて数馬が宣言する。

 

「いいだろう。来たる本命の前の準備運動と行こう」

 

帝が数馬の言葉にそう返したと同時に、帝の左胸が赤く輝き始めた。

 

「っ……」

 

不思議な現象だ。崩れなんてないほどスーツを完璧に着こなして居るのに、その赤い輝きが数馬にも見えている。スーツですら遮光し切れていないほどの輝きは美しくもある。

当然だが見とれているわけには行かず──気が付けば帝は数馬が認識し切れない程の速度で接近していた。

 

「ふんっ!」

 

──ダッ!

と、大振りな右拳が数馬の胸板を殴り付ける音が響く。

 

「ぐっ!?」

 

ただ吹き飛ぶ。浮き上がって背後の壁に叩き付けられる。当たる直前、これまでの経験のせいか肉体強化の魔術をほぼ無意識に発動させ、体の重心を後ろにずらし、ダメージを最小限に抑えていたつもりではあったが、それでもこの威力。

 

「っはぁ……はぁ……」

 

肺が空気を求めている。けれど胸に叩きつけられた拳と壁に当たった背中の衝撃で思うように呼吸もままならない。

 

「腹の底から力が湧いてくる。これが、魔力……力か……」

 

幸いなことは帝が自身の力の方に関心していて、追撃が無い事だ。今同じ様に追撃されてしまうと避けることも身を守ることも出来そうにない。

 

「……これほどの力を持っていながら……アレは……」

 

数馬には聞こえないほど小さな声が発せられ、帝は再び右拳を強く握り締めた。

 

「(……来る!)」

 

やっと呼吸が整ったとほぼ同時に、帝が腰を低く構えた。30mか、それほどの距離がゼロになるのにその動作から一秒と時間は掛からないだろう。

だから、その段階で数馬は起き上がって右に転がった。

 

──バンッ!!

と、真左で大きな音が響いた。予想通り、転がっていなければ意識を刈り取るか、最悪死亡するレベルの拳を叩き込まれただろう。

その証拠に殴られた壁に帝の拳がめり込んでいた。

 

「なに……!?」

 

帝は驚きながらも数馬の方に視線を向けながら壁に埋まった拳を引き抜き──

 

「っぶね ……ねぇ!!」

 

間髪空けず。帝が体制を整える前に強化された左拳を帝目掛けて奮う。

 

「ぐ……!」

「まだぁッ!」

 

左が気持ちいい具合に帝の胴体を抉るようにヒットしたのを確認して、ついで右拳を帝の左頬目掛けて振り被る。

 

「ぐはっ!!」

 

予想外にも、帝は数馬の拳を受けて後ろへ吹っ飛んだ。

 

「えっ……?」

 

ミートしたのは手の感触から分かる。右拳もヒリヒリと痛んでいるし、身体強化を右腕に注ぎ込んで殴りつけたのだから、かなりの威力が出ている自覚もある。

 

「(咲輝の心臓を使って生み出される「魔人」って、こんなもんなのか……?)」

 

おかしい。こんな大仰な手順を踏んで出てきた敵は、自分の全力で通用するはずがない。

 

「くっ……想像と大分違うものなのだな、魔人とは」

 

帝が起き上がってそう言葉を吐き捨てていた。

 

「まさか、痛みを感じるとは」

「ちっ……」

 

やはりアレだけの拳を受けても帝に外傷はない。というか、これは予想通りだった。むしろ先程の拳で吹っ飛んだ事が不思議なくらいだ。

 

「いい目だ。もう少し付き合ってもらおう」

 

さて、と思考を始める。先程のはほとんどまぐれで交わして拳を叩き込めたが、帝が新しい力に少し理解を示した事で、次はそう簡単に打ち込めないだろう。

かと言って交わすことを諦めるわけにはいかない。当たれば一発KOは免れない。相手の攻撃を避けきった上でカウンターを決めるしかない。そこまで考えて。

 

「ばっ!!?」

 

尋常じゃない衝撃が走った。何が起こったのかは考えるまでもない。数馬が認識できないほどの速度で近付かれ殴られただけだ。

 

──ドンッ!!

と、再び数馬は壁に打ち付けられる。この二つの衝撃で意識を持っていかれなかったのは不思議でしょうがない。たた不思議がってる場合でもないのは確かで、早くその場から動かなければと体に力を入れようするも、今度は体の方が言うことを聞かない。

 

もう、たったこれだけで体に力が入らない。

 

「がっ……く……そ」

 

覆しようのない圧倒的な力の差だった。たった一撃で全身が悲鳴を上げている。視界も効いていない。見えてはいるが視界から入ってくる情報を脳が処理してくれない。万年赤点の頭は全て痛みの認識に使われてしまっている。

 

「拳が痛む。か、やはり、魔人になっても痛覚はそのまま……」

 

呟きながら帝が歩いて数馬に近寄って来る。数馬は五秒ほどで思考できるほどに回復したが、もうその頃には帝が目の前におり、そのまま胸倉を掴まれ宙に浮かされた。

 

「さて、こんな体制で申し訳ないが、少し話を聞いてもらおう」

 

そう帝が言うも、そんなつもりは全くないと数馬は足に力に身体強化の魔術を発動。足に全力を集中させて蹴り飛ばす。が、ガンッ!という音がしただけで、今度も帝に外傷はなく、そして痛がる素振りも見せなかった。

 

「大人しく聞いておけ。鈴木数馬、私がしようとしていることは、かつて君の両親がなそうとした事だ」

「な……に?」

 

唐突に。帝はそう切り出した。

 

「二人は、セントラルタワーで働く優秀な職員だった。よく働いてくれたよ。本当に……だから辿り着いてしまった。安定装置の真実に。そしてそれは、触れなくていい新世界の闇だった」

 

両親のことなんて初めて聞いた。確かに自分は生き返ってから両親の死の瞬間を思い出したが、思い出したのはそれだけだった。あの頃の幼い数馬には両親がどんな仕事をしていたのかは知らないのだから、覚えているも覚えていないもないのかもしれないが。

 

「新世界の闇を知って、彼らが出した答えは安定装置の破壊だった。破壊しなくちゃいけない。その理由は先日話したな」

 

安定装置は世界の平和のために人を犠牲にする。簡単に言えばそれだ。

 

「だから最後には安定装置の守護者に葬られた。私が…………そう指示した」

「な……に……ぃ?」

 

では現在なぜ彼が安定装置を破壊しようてしているのか。数馬の頭には両親を殺害した事よりも、先にそちらの疑問が浮かんだ。

 

「そんな私を変えてくれたのは、宝姫の一族だった。当時にはもう両親を失い、一人無機質に無感情に生きている咲輝に出会い、正義と一緒に育て、やがて安定装置に定められている宝姫の運命を知った」

 

数馬の疑問に答えるように、帝が言葉を続けて行く。

 

「宝姫一族は、新世界の最終兵器として扱われる予定にあった」

「兵器……」

「ロンギヌスの槍。彼の偉人達の神話に登場した全てを貫く槍。それを目指して造られた兵器が新世界にある。目的は、彼の偉人達の時代に起こった大災厄を繰り返さないため。その装置の起動には莫大な魔力を必要とする。無限の魔力とも取れるほどの魔力が」

「……じゃ……なに……か。それを使わせないために安定装置を壊そうってか!」

「その通りだ」

 

そう帝が言い切った。

 

「……しいだろ……おかしいだろ!!なのになんで咲輝が死ぬんだ!?そのためになんで咲輝を!」

「……簡単な話だ。宝姫が他に居るからだ」

「っ!?!?」

 

宝姫の一族が他に居る。それは数馬が知らない事実。だが、であるならば帝の話に辻褄が合い、そして何より許せない事実が生まれた。

 

「てめえはその誰だか分からない宝姫のために咲輝を殺したって言うのかっ!!」

 

叫んで、その怒りのままに帝を振り払おうと動く。

 

コイツは許してはいけない。

コイツは死んで咲輝に詫びなければいけない。

コイツは死ななくちゃいけない。

 

そういう怒りの感情が渦巻く。だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ダンッ!

 

 

「くっ……そ」

 

だが、届かなかった。帝の拳が数馬の鳩尾に叩き込まれた。

 

「少年。お前と私は失ったものが違う。失ってから得たものが違う」

 

地位と名誉と自分を捨てた者は、数馬を見下す。二人の間には歴然とした差がある。

 

宝姫咲輝が持っていた心臓から供給され続ける魔力によって産み出される力の差。放たれる魔力の球体、強化された脚力、腕力。単純だがわかりやすい力の暴力。

 

そして想い。この日のために自分の積み上げてきた物を捨て、目標のために新しく手にした全てを使い果たす覚悟。

 

対する数馬は、ただの肉体強化の下位術師で、しかも帝の言葉で怒りのままに彼を殺そうとした。

 

だから、勝てるわけがない。

 

「目が覚めたら次は本当の新世界だ。それまで眠っているといい」

 

数馬の返事を待たず、帝が数馬を放り捨てた。

 

「ぐっ……ふっ……」

 

痛みと衝撃で意識が薄れていく。

 

先ほどまでの怒りも段々薄れていく。そしてその薄れる思考の中でもまだ迷っていた。

 

「……本命が来たようだ」

 

薄れゆく意識の中、そんな帝の言葉が耳に入った。

 

「久し振りだな、王……今は黒鎌帝と呼んだ方がいいか」

 

どこからか、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「帝と呼ぶがいい。もう王ではない」

「ン、わかった。なら帝。終わりだ」

 

頭が曇っていて、誰かは分からない。必死にその誰かを認識しようとして──意識が途切れた。




次回で帝の下りはおしまいです
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