無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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勇気を振り絞って作品の詳細を見たところ、沢山の方々に評価とお気に入り登録頂いておりました。お付き合い頂いてありがとうございます!


汚れていく心

時刻は昼を過ぎて、新世界のドームのてっぺんに太陽の映像と溜め込まれた太陽光を照射する時間。一応、それに合わせて気温も上がっているのだが、26℃と相変わらず人にとっては過ごしやすい気温。服だって長袖半袖、長ズボン半ズボン、或いはスカートと選べる幅が広い。

 

「(買い物は後にするか)」

 

しかし、だからと言って革ジャンは暑い。まともな人間の感性なら見ているだけで暑い。故に、その姿で亮が外出する時は、たまに「うわお前マジかよ引くわ」といった視線が彼に注がれる。

もちろん亮だってそんな視線には気付いているが、我関せずと言った様相だ。

 

「……さて」

 

そんな彼が真昼間から廃墟の遊園地の金網を前にそんな呟きをしていた。

 

もちろん、それを他人に見られれば「怪しい」という自覚を持っているので、既に姿は他の存在からは認知されない、いつもの透明な状態になっている。

ここにはいくつものカメラがレンズを光らせていている。廃墟になった遊園地をここまで監視する理由は、つい昨日収束した帝の件で使用した地下通路のせいだろう。

インターセプターという壊滅した暗部組織の拠点があったことも挙げられる。表の世界から裏の世界を守るための設備達。だが、彼等が壊滅し、地下に帝が潜む必要もなくなったので、そろそろここも取り壊すべきだろう。

個人的にはまたショッピングモールになるのだけは辞めてもらいたい。なんて思いつつ、高さ8mの金網の上へとジャンプして越える。

 

「……そういやどこ行けばいいんだ?」

 

宮里由紀は「廃園に来い」としか言っていない。具体的にこの廃園のどこで合流するのだろうか。亮の喰らった人の中にこの経験はあった。「駅集合ね」「はいよー!」なんて言ったはいいが駅が広すぎて合流までにかなりの時間を要した。合流してからは「次は具体的にどこにするか決めよ」なんて言ったはいいが次回もまた同じミスをする。

 

「まぁ、いいか」

 

記憶の中でもそうだが、こういう時は適当に歩き回っていれば見つかるものだ。

 

亮が入った場所から少し進むと老朽化した建物が二つ並んでいて、それを繋ぐようにアーチ状の電光板が残っている。ココがゲートで、この下をくぐり抜けると勝手に入場料を支払ってくれる流れだった。電光板には「ようこそ」とかそういう言葉がマスコットキャラの映像と共に流れていた気がする。

 

もちろん今はそんなシステムは生きていない。普通にゲート潜り抜け、いくつもの土産屋がならんでいたのだろう店舗が建ち並ぶ通りを抜け、AR技術を駆使したパレードを行っていた広場に出て──

 

そこに宮里由紀が居た。

 

青いジーパンに黒いジャケットを羽織ったボーイッシュな姿は、どこか亮と共通していて暗いイメージを与える。目付きも鋭く、明確な敵意はそれだけで見て取れた。

ある程度距離を空けた位置で立ち止まる。まずは由紀の言葉を待った。

 

「……アンタがお母さんを殺したの?」

 

その質問は予想していた。

 

「いや違う」

 

なので簡潔に返す。

 

「本当に?」

「あぁ、殺す理由がない」

「……前はお母さんを人質にした」

「そうだったな。だがあの時はお前から情報を聞き出すという理由があった。ンでお前が話したから手は出していない」

 

事実だけを端的に並べて問答を繰り返す。この場所でこの状況。別に向こうだって会話がしたかった訳では無いだろう。

 

「そう。じゃあもういいわ」

 

言って、由紀は左足を少し前に出し、右手を掲げて氷の矢を数本作り上げた。

 

「死んで」

 

前回と同じ──ではなく、前回よりもさらに強い氷の矢が飛んで来る。数も威力も速さも以前とは比べ物にならないが、それは二の次だ。

 

「(恨み、憎み、嘆き)」

 

矢を食らえば、そんな由紀の気持ちが心に刺さる。強い想いだ。

理不尽な世界と、何より無力な自分を恨んで憎んで嘆く。この前よりも比べ物にならないくらい、矢にはそれらの想いが含まれていた。

 

「(だがそんなものより、根底にあるのは寂しさか)」

 

元々持っていただろう力ある者特有の孤独。

 

その上さらに彼女には重い現実がのしかかった。

 

せっかくできた新しい家族を守れなかった無力感、喪失感。

ようやく自分を見てくれた者が、自分だけを見てくれた訳じゃなかった寂しさ、嫉妬。

トドメは最大の理解者で、いつでも自分の味方でいてくれた唯一の肉親、母親の死。

 

孤独から抜け出したと思っていたのに、それら全てが改めて自分が独りだと実感させた。

しかも、全てはこの一年以内に起きた出来事。彼女はこの短い間に数少ない自分の柱を全て失ってしまった。

 

心が壊れるのには十分すぎる。

 

「タネはわかってるわ。あなたは幻覚か、もしくはここにいるあなたは遠隔操作されてる存在」

「……あ?」

「今ここにいるあなたに攻撃しても意味は無い。本体はどこにいるの?」

 

全く的外れで、けれど自信満々に言い切った由紀に、亮は溜息を吐く。

死にかけの心を復讐心で支えるのは立派ではあるが、ポジティブシンキングも現実を曲解しだすと憐れなものである。

 

「全くどうしてそういう都合のいい解釈するんだか」

 

確かに、創作物ではそういう展開がテンプレートだったりする。亮の知っている物の中では、適当な味方が足止めし、主人公が本体の元に行ってる流れが多いが──恐らく由紀のコレもそういう影響を受けての発言だろう。強大な敵を前に、弱点を探し、諦めることなく戦うのは立派な事だし、尊敬に値する物ではあるが、今回に関しては現実逃避が過ぎる。

 

「……あくまでバラす気はないってこと?」

「現実見ろよ。そんな馬鹿なことある訳ねえだろ」

 

言って再びタバコに吸って、吐き出してから続ける。

 

「俺は幻でも何でもない。お前とは違った生物なだけだ。お前だってそうだろ?」

「っ……」

 

最後の一言は文章の構成としてはおかしい。だけど、意味は明確に伝わった。

由紀の脳裏に、自分を「化物」だと指差して離れていった者達のシルエットが浮かぶ。

 

「……理解されていないだけだって……言いたいの?」

「ンなところだ。よく言うだろ、上には上がいると」

「いちいち癪に障る言い方……っ」

 

深く考えずとも、自分より上の存在だと言われているのが分かった。ただこの面倒臭い言い回しと、余裕たっぷりな態度に腹が立つ。

 

「説得力を持たせるなら……そうだな、わざわざ幻や人形はタバコなんか吸わねえだろ」

「知らないわよ、そんなの」

 

何言っても言葉は届かなさそうだと諦め、短くなったタバコを吸いきって吸殻を掌から取り込む。

 

「……そうかよ。シェイカーの研究資料から何を見たんだか……ンじゃキリが無さそうだから、攻撃するぞ」

 

声色を変えることもなく、大層面倒くさそうに予告された。この前のように、見えない何かにやられる前にと由紀は正面に氷の壁を展開させる。

パキパキと音を立てて地面から生えてくる氷の壁は、ドームの様に曲線を描き、由紀と亮を隔てる。これが実際に効果があるのか、由紀には分からないが、前回は一瞬で意識を失ってしまったのに、今回はまだ意識がある。

 

彼の魔術は一定時間、対象を視界に収め続けていなければいけないとか、そういう条件があるのだと思考する。

 

「(なら、氷で盾を作るとか……上手い具合にアイツの魔術を発動させないようにして戦えば、勝機はある)」

 

相手の手の内は分からずとも、防ぐ手立てがあれば時間をかけて分析して──

 

バキンッ!!!

と、氷の壁が砕け散った。

 

「……っ!?」

 

飛び散っていく氷の破片の先には、先程と同じく表情のない亮がゆっくりと歩いてこちらに近付いているのが見える。

 

「(……あの……目だ。また……)」

 

これで二度目。いや、三度目だとここで確信した。

 

「(この目に、私は映っていない。本当に、心の底から興味が無い……だから……)」

 

様子を見るとか、戦闘不能にして口を割らせるとか、そういう事も考えていた。

 

「(あぁ、やっぱり、コイツはここで)」

 

だがそんな論理的思考に裏打ちされた理性よりも、殺意が勝った。

 

情け容赦はしない。絶対零度の名を持って、自分の想いに誓って、ここで殺す。

 

──その強い復讐心が、力を与えた。

 

「はああああっ!!」

 

由紀を中心に目に見える形で冷気が溢れ出る。好き放題生い茂った草、土、近くにあった看板、それらがたちまち凍りつき始める。ついには空気すら白く輝き始めた。

 

「(前よりマシになったか)」

 

足を止め、彼女の起こす魔術を分析する。廃墟を彩る白銀の雪景色などもう見飽きてしまったものだが、短時間でこれをやれるくらいに成長したのならば、中々興味深いものだった。

 

なんて思いつつ眺めていると、視界あらゆる場所に氷の矢が現れた。視界のあらゆる場所にだ。数は十、二十じゃ足りない。百にたどり着くかどうか。

 

「死ねええええええええええ!!!」

 

はち切れんばかりの叫びと共に、それらが何のモーションもなしに降り注いできた。

確か、彼女も彼女の母親も矢や槍を飛ばす時は飛ばすために何かしらの工程を挟んでいたのだが、それすらない。

 

「(まぁ将来が楽しみだ)」

 

ネガティブな感情でここまで成長できた事に感心する。大体、復讐だなんだ言って理性を失ったキャラクターは、主人公などと一度敵対するも必死の説得でその復讐心を克服し、志新たに力を身に付けるものだ。

彼女も一度その工程を踏んでくれればもっと強くなるはずだ。

 

なんて考えている間に氷の矢の全てが亮に向かって飛んできて、全てが体に刺さる。まぁ意味は無い。それらは取り敢えずまとめて食らってみる。

刺さった部分が黒く歪み、その歪みの中に氷の矢が消えていく。

 

矢から感じたのは、やはり先程と変わらない思いの数々だが、先程よりも数倍以上の重みとなった殺意が印象的だ。背負った心の傷を、自分への復讐心に組み込むことで生み出した殺意。

これほどの殺意をぶつけられたのは久し振りだった。旧世界でなりふり構わず人を食らって回った時以来の物。

 

しかしそれだけだ。

 

「…………ぇ?」

 

由紀の表情は絶望に染っていた。

 

「ン?どうした、そんなもんか」

「…………ぁ……」

 

徐々に辺りの温度が戻っていく。物体を覆っていた氷が溶けだす。それは由紀の魔術が解除されたことを示している。

 

「……な……んで」

 

今のは、紛うことなき由紀の全力全開を超えたものだった。本来、最初の冷気で人は意識を失うはずだった。当然だ、気温25℃からマイナス130℃近くまで瞬時下げられたのだから。人なら温度差で死亡し、何かの奇跡で生き残っても呼吸するだけで死亡する。

だがそれでも尚、亮は動じなかった。だから残りの魔力を使って氷の矢を放った。

 

その結果がこれ。前回と何も変わらない。顔色一つ変えず、それで次はなんだと言ってくる。

 

だから由紀は膝を着いた。

 

「終わりか?それで終わっていいのか?」

 

そんな由紀に対して、亮は残酷にもそう口を開いた。

 

「お前の復讐心はンなもんか?まだ動けんだろ、終わってねえだろ」

 

言い聞かせるように亮が言葉を紡いでいる。

 

「こんなもんじゃない。まだ立てる、動ける、終わってない。僅かでも希望があるなら踏み出せるだろ」

「何を言ってるの……」

 

彼が、いや、コレが余りにも不気味で恐怖すら感じた。

一体何を言っているのか、何を期待しているのか、目の前の化物は何を求めているのか。

 

「心の中に巣食う痛み。悲しみ、寂しさ、恨み、憎しみ。残ってんだろ」

 

その結果がいまのコレだと、由紀は言いたかった。だけどもうそんな気力も湧いてこなくて──

 

「その想いは力になる」

 

それは、つい昨日思い出して、自分の成長の糧とした母親の言葉だった。いつだったか、母がそう教えてくれた。その言葉をコレが使った。

 

「……違う」

「ン?」

 

ゆっくりだが、確実に、脚に力が籠っていく。

 

「それは、その言葉は……そんな後ろめたい気持ちに使っちゃいけないの」

 

汚させはしない。母親が教えてくれた、前に一歩踏み出すためのその言葉を。

母親が残してくれた、その心を。

 

「それに……アンタみたいな、人でなしが使っていい言葉じゃないッ!!!」

 

左手を亮へと突き出し、魔術を使った。掌から冷気が吹き出る。ただしそれは最初の一瞬。気が付けばそれは猛吹雪に変わっていた。

 

──ゴオオオオオオオオツ!

と、爆音の様な音を立てて吹雪が亮を襲う。

 

旧世界でよく見かける吹雪。自然の起こすそれよりも遥かに強く、冷たい。これを人間が受ければ間違いなく凍死する。先程のような溢れ出す冷気とは違い、吹雪が触れる点だけを凍らせる攻撃。これも絶対零度に相応しい魔術の使い方だろう。

 

「……」

 

十秒、十五秒と時間が経過していく。先程の温度低下のように辺りは空気ごと白く輝き、美しくも死の蔓延する景色が出来上がっている。もう由紀ですら吹雪の先は見えない。殺したい対象が居た所は白に染め上げられている。

 

そして、二十秒で吹雪が止んだ。

 

「くっ……はぁ……」

 

グニャリと視界が歪んだ。魔力の使い過ぎだ。エーテル細胞から魔力を気合いで絞り出して今の攻撃をした。意識してやったわけじゃない。ただ、自分の限界を超えた行いだったということは、体が教えてくれている。

歪んだ視界はバランス感覚を奪い、フラッと横に倒れる。体を僅かに捻って受け身を取れたのは奇跡に近かった。

 

「(……ディザスター……は……)」

 

もう目を瞑って寝てしまいたい。自分の限界を超えた力を使った。もう終わって欲しかった。

 

「さっきより弱くなってんじゃねえか」

 

声が聞こえた。だが驚くことはもうない。

分かっている。手応えは無かった。百を超える氷の矢を飛ばした時より力が入っていない事も、自分では理解していた。

 

「(お母さんの言葉を汚されたのに……もう、それすら……あぁ、もうやだなぁ……)」

 

暗くなっていく視界の中で、相変わらず傷一つない妹の仇がいた。

 

「(……私じゃ、アレは殺せない)」

 

事実を再認識する。自分の持つ力全てを使い果たしても、傷一つ付けられない。それにもうこれ以上は力が入らない。

いや、言い訳だ。

 

「(……私には、無理だ)」

 

──心が折れた。

それが真実だ。どんな想いを持ってしても、自分ではアレを越えられない。どれだけ自分の限界を超えても、アレには勝てない。

頭ではなく、心がそう思ってしまっている。妹を殺した者への復讐は不可能だと。

 

「……まぁ、もういいか」

 

倒れ込んだ由紀を見て、亮はそう言った。やはり復讐心だけではこの辺りが限度だろう。もちろんトドメを刺すことはしない。せっかく奇跡を起こせそうな程には不幸な人生を歩んでいるのだから。

摘み取るなら、彼女が本当に心の底から全てを諦めた時か、真っ直ぐ前を向いて歩き、奇跡に到達した時だ。

 

「なんの収穫もなく終わるのアレだろ、一つ教えてやるよ」

 

そのためには、きっと彼女が自分の母親の仇の元に到達する必要があると踏んで、今回の敵について教えてやるとする。

 

「お前の母親、宮里紀子を殺した奴らは多分、極術師を狙ってる。その内お前も誘い出されるハズだから、覚悟しとけ」

 

それだけ言って踵を返す亮を、もう由紀は追うことが出来なかった。恥ずかしくも生きている事に安堵し、そのまま、まどろみに襲われる。

 

「(……もう、いいや……)」

 

何を諦めてしまったのか、自分でも分からない。取り敢えず、現実から逃げ出したい。ただそのために、由紀は眠りに着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……」

 

次に由紀が目を覚ました時、空は夕焼けを映していた。四季なんて存在しない新世界では夕焼けになる時間帯は17時半と決まっている。あれから四時間近く眠りに着いていたのだ。

 

上体だけを起こして、頭に手を当てて考える。

 

「(……失敗した。旧世界の時以上の力は持っていたはずなのに……)」

 

未だに体からダルさが抜けない。それくらいには自分の力を使った。それでも、アレには勝てない。

 

「(いいわ、ディザスター。今は見逃しておいてあげる…………なんて、虫のいい話ね)」

 

見逃されているのは自分の方……いや、そもそもアレは自分の事を大した脅威に捉えていない。アレにとってきっと自分は虫のような存在なのだろう。

 

「(……もっと、強くならないと)」

 

極術師である自分の攻撃が通じない化物。自分達人間とは違う法則で生きている何か別の存在。アレを殺すには、自分もアレと同じ存在に昇華するしかない。今のままでは絶対に勝てない。それが明確にわかった。

 

「もっと、もっと力を手に入れないと、ね」

 

きっと直ぐには無理だろう。けれど何年、何十年かけてでもなし得てみせる。

今回の敗北で、由紀はその決意を手に入れた。

 

それが、ただの現実逃避だと指摘する者はいない。

 

そして次に考えたのは、この後どうするかだ。病院に真っ直ぐ戻るべきなのだろうが、まだ少しその気にはなれない。

 

「(そういえば、家はどうなってるんだろう……)」

 

爆発があったと聞いていた。どれだけ破壊されたのかは気になるところではある。物が残っているなら取りに行きたいものもある。

仮に立ち入り禁止が出ているなら素通りして戻ればいいだけだ。幸い、ここからならそこまで遠くはない。

 

そうと決まればと歩き出す。睡眠したことで魔力も少し回復したので、行きにやった様に、人目につかないところで氷のスロープを金網に繋ぎ合わせて作り超えていく。

 

少し歩けばもうそこは住宅街だ。ここまで来たらもう不法侵入で捕まることもない。安心して家へと歩を進めていく。

 

「(……なんだか、戦いが嘘みたい……)」

 

歩いていれば、夕方という事もあり交通量が多い。休日の部活帰りの学生や自転車を漕ぐ主婦。はたまた休日出勤で仕事帰りのスーツ姿の男性。

昨日今日でアレだけ命のやり取りをした。その感覚は未だに体の中に残っていて、どうにもこの平和な世界に違和感を感じてしまう。

 

「(私も……早く終わらせてこっち側に戻らなきゃ)」

 

全ての復讐を終えたなら、この違和感も無くなるだろう。全てを失う前のあの頃に戻れるだろう。

 

なんて考え事をしている間に、角を曲がれば家。という所まで来た。

しかしなんだか、妙に騒がしいなと思いつつも角を曲がれば。

 

「っ!?」

 

自分の家の前に三台の自動車と十五人ほどの人が居た。

その中に四人ほど大きなカメラを持った人が居たので、彼らが記者だというのは直ぐにわかった。

 

「(うそ……来るのが早すぎる……)」

 

基本的に、訃報についてメディアが親族等に取材できるのは、死亡した日から一週間後と定められている。ただし、親族の許可があればその限りではないとされている。

もちろん、由紀は許可した覚えなどない。にも関わらず、自分の家の前に陣取ってる者達は何なのだろう。

 

「あの、宮里由紀さんですか」

「えっ……」

 

考えている間に、後ろから声を掛けられた。振り返ればスーツ姿の若い男性が笑顔で立っていた。

 

「申し遅れました。私はホワイト地区放送の──」

 

挨拶を交えながらスーツの内ポケットから携帯電話を取り出し、名刺画面を差し出してきた。確かずっと昔からある名刺アプリケーションの画面だ。

中を確認してみれば確かに本人の名前と顔写真。それと会社の名前や電話番号が見える。疑う余地もなく、テレビ放送局の者で──つまりそれは見つかってしまったという事だ。

 

「今回の爆破テロになにか関係があると思って伺ったのですが、何か──」

「いや、うちは関係ありません」

 

なんて断言するが、関係あるだろう。きっと今世間を騒がせている爆破テロの者を追っていけば、母親を殺した者に辿り着けると感じている。意識を失う前に、アレは極術師を狙っていると言っていた。ならばそう遠くないタイミングで仇と相対する事が出来るはずだ。

 

それは逆に、今回の爆破テロの犯人は母親の仇に聞けば分かるという事。

 

「そう断言出来る理由はなんでしょう?」

「……それは」

 

なんて問答をしてしまっている内に、家の前を陣取っていた者達がこちらに気づき、向かってくるのに気が付いた。

 

「やば……失礼します!」

 

カメラマンに関しては走って来ている。恐らく姿を映すだけで十分と踏んでいるからだろう。

 

「待ってください、今回の爆破で紀子さんが死亡したというのは本当ですか?」

「どこでそれを……」

 

母親の名前を出され、一瞬足を止めてしまった。

 

「もう巷で噂になっています。どうなんでしょう?元と言えど新世界の頂点に位置する極術師が殺されたかもしれない。新世界の人々は不安で仕方ないんですよ。どうでしょう、新世界の人々のために真実をお話頂けませんか?」

 

まるで畳み掛ける様に言われた。どうやら彼らは爆発なんて二の次で、紀子の生死を確かめる事が本命のようだ。

そんなことは予想していたが……由紀は黙って走り出した。

 

「それでも極術師ですか!?世界の人に対する責任は無いんですか!!」

 

捨て台詞を叫ばれた。挑発しているつもりなんだろう。

 

「(……効くわね。今すぐ黙らせたい気持ちになってしまったわ)」

 

敵意を一般人に向ける訳にはいかない。それは問題だし、何より今の自分に手加減できる自信がなかった。

 

「(…………あーあ、なんなのよ……この世界は……)」

 

こんなにも、心が痛いのに。

 

「(……消えて無くなればいいのに。私ごと)」

 

誰も助けてくれない。

 

「(こんなのの為に外界に行って命を掛けて戦ってきたなんて、笑わせるわね)」

 

途端に新世界が憎くなってきた。しかし、理性ではディザスターを殺せなかった八つ当たりみたいな物だと分かってはいる。分かってはいるが。

 

「……疲れた」

 

由紀の呟きは、黄昏の空に溶けて消えた。




闇落ちしかけたヒロインを主人公が回収する展開あんま好きじゃないです(ネタバレ)
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