無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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違える道

「きゃああああああああああああああああっ!!」

 

と、深夜のホワイト地区に宮里由紀の悲鳴が響き渡った。

 

「うるせえよ」

 

あまりにも元気の有り余る声量だったがために、亮はどっかの誰かの「消音」の魔術を用いてホワイト地区に響き渡るハズの音を最小限に抑えた。抑えているはずなのにそれでも近くにいる亮には相当な音量で聞こえてしまっている。

これは多分魔術を使っていなければ「ホワイト地区中に響く女性の悲鳴」として怪談話か何かにされていただろう。

 

「そ、そりゃ悲鳴だって上げたくなるわよ!!どーなってんのよコレ!?」

 

と、由紀は抗議の声を上げた。

 

まぁ、空に向かって落下したり、地に向かって落下したり、空に対して平行に落下したりしているのだから仕方ないのかもしれない。

 

「体感してんだろ、それが全てだ」

「理解できないから──きゃっ!」

 

言葉を紡ぎ切る前に、斜め上へと体が引っ張られた。

 

「なんでこんな……」

「お前がバランス取れてないからこういう選択肢しかなかったんだよ」

「うっ、それは……」

 

右肩から先を喪失した由紀は、乱れたバランスに慣れていない。ちょっとの段差に躓いたりと歩いて行くには難がありそうだった。ならばいつも愛菜やらを移動させるときのように、魔力の手で運べばいいのだが、アレはアレで結構神経を使う作業なのだ。

 

そして、先程、ナイフでザクザクされたのが割りと痛かった。痛いだけで別に害があるわけではないだが──だから気を回してやるのがなんだか癪で、他の手段を取る事にした。

 

それが重力操作の魔術。彼は今宮里由紀にかかる重力を自在に操る事で擬似的な飛行に成功させている。

ちなみにこの術で重力を操れる範囲はあまり広くない。精々街一つ潰せるかどうかの範囲なので、惑星を軽々握り潰せる魔力の手に比べればやりやすいのだ。

 

「これ……っ……がっ、アンタのま、魔術……なのっ!?」

「これも、だ。つーか、ンな喋りづらいなら口閉じてろよ舌噛むぞ」

 

対する亮は悠々自適に魔力の手で擬似的に空を飛んでいる。飛行ペースを由紀に合わせているのは彼なりの優しさだったりするのだが、むしろ自分は優雅に飛べてるぞという見せしめくらいにしかなっていなかったりする。

 

「……」

 

由紀は言われるがままに口を閉じてみた。そうすると、やがて落ち着いてクルクル回転しまくる景色を意識する事もできるようになる。

 

「(何も、変わらない……)」

 

街灯の光や、少しの民家から漏れる光だけがこの景色を作り上げている。コレは、あの場所に行く前に、もっと言うならば、連鎖した不幸が始まる前から変わらない景色だ。

これだけ見ていれば自分の身に起こった事なんて嘘のように感じる。今ここで降りて帰路に着けば、最終的には暖かい家が待っていてくれる様な気さえした。

 

そこでグルっと重力が反転し、体も回る。そこで自分の本来右腕があるはずの場所に夜の景色が流れた。

そのせいで、あの日常が戻ってこない事に実感が湧く。

目も当てられない現実が帰ってくる。唯一残された「復讐」という儀式も失敗して、あまつさえ別の復讐相手に助けられる始末。

 

これから先、自分はいったいどうすればいい。

 

そんな拭うことの出来ない不安が頭を過って──だがそんなことよりも。

 

「おえっ……」

 

度重なる回転で胃の中の物が逆流し始めた。何も食べてはいないが確かホテルで飲み物は飲んだので、それだ。

 

「うっ……ぷ……」

「悪かった止まる落ち着け流石に上空からソレを吐き出すのはまずい」

 

魔力の手で由紀を包み込み、重力操作の魔術を解除。空中で静止させた。流石の亮も吐瀉物を魔力の手で掴んで直接体に取り込むとかはしたくなかったからだ。

 

「深呼吸しろ胃液を飲み込め」

「すっ……すー……ウウッ!?」

「…………マジかよ……」

 

この後、無事に目的地には到着した事だけは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家主の居なくなった一軒屋。そろそろ家具などがホコリを被りそうではあるが、この家を表の清掃業者に掃除させる訳にもいかない。それはこの家に捨て置かれている道具の数々のせいだ。

どれもこれも、失敗作ではあるかもしれないが、それはDr.シェイカーという天才に取っての失敗作であり、凡人から見てみれば時代の先を行く革新的な物ばかり。

そしてそれらを安易に表に出すことは新世界を裏側から管理する者としてはばかれる事だった。だからここはこのまま放置。ここは表の世界の中に紛れ込んだ闇の世界。

 

そんな場所だから、これからの宮里由紀の立場を決めるのには打って付けだった。

 

「あなたは……」

「昨日ぶり、だな。絶対零度」

 

この家の中で唯一綺麗なリビングで二人は邂逅した。由紀から一歩下がった位置に亮が控えている。ここから彼の出る幕はない。

 

「…………」

 

言葉を失う。昨日、車で送ってくれた外界遠征の総司令官が、自分の妹の殺害を指示した黒幕だと信じたくなかった。

 

送ってくれただけだった。でも、それでも自分のためにあんな特殊な車両を持ち出してまでしてくれた者に対して、少なからず好意を抱いていたから。

 

「予め言っておこう。謝罪はしない」

「……いまさら、ごめんなさいと頭を下げられても許す気はないわ」

「そうだろうな。だから私は君の抱えるこちら側の件を解決させようと思う。言葉を尽くそう、許す気はなくとも理解だけしてくれれば嬉しい」

 

君の抱えるこちら側の件。それはナナシが指示し、亮が実行した宮里由美の殺害の件だろう。

 

「全ての始まりは、リバースオブダークネスと銘打たれた計画。新世界ができて間も無い頃に存在した魔術師、深淵のクローンを生み出す物だ」

 

始まったのは、途方もない昔話だった。

 

「……深淵?何の話よ」

「関係ある。だから聞いてくれ」

 

クローンという点しか共通していない。それでもナナシは関係あると言い切った。

 

「初代深淵のDNAを用いてクローンを作り、深淵の世界を研究することが目的だった」

 

深淵の世界。一つ前の世代の深淵が、影の中に世界があると言って、それをメディアが報じていたのは由紀も知っていた。だがそれはあくまで術者のみが行き来できる、言ってしまえば自分達には関係の無い話だと思っていたが……どうやら世界にとってはそう単純な話ではないらしい。

 

「闇しかない世界。その世界とこの世界を闇の中ならば行き来する、二つとない特殊な魔術。もし闇しかない深淵の世界を全ての人類が自由に行き来できるなら。或いはその深淵の世界の更にもう一枚別の世界があるのならば。未開の世界で人類は魔物や自然災害に脅かされることなく生活出来るかもしれない」

 

とてつもない机上の空論。「かもしれない」が複数重なった酷く曖昧な理屈ではあるが、新世界ができて初代深淵が絶えた時代ならば、かつての世界の終わりを知る者が居た時代。

ならば、新しい平和な世界を目指そうとしたのは当たり前の事なのかもしれないと納得した。

 

「だが、新世界は数百年もの間に深淵の魔術を呼び出すことは出来なかった。そしてとうとう計画は打ち切られた。リバースオブダークネスの名は忘れ去られ、深淵の名は原初の魔術として永遠に謎のまま終わる、ハズだった」

 

それで終わらなかったから、現代の深淵が存在する。それは明確だ。

 

「しばらくして新世界が地球の海に着水、外界遠征を始め、アバターを回収した時に流れは変わった。ある研究者がどこからかリバースオブダークネスの計画を知り、アバターの細胞を用いて計画を再び始動させたのだ」

 

アバター。

その魔物の名前に由紀は顔を顰める。

 

「もちろん、この新世界では人間のクローンを生み出すことは禁止されている。だから目立つこと無く、少しずつ、世代すら超え、研究を続けて行った。その結果が、二代目深淵だ」

 

由紀は顔も名前も知らないが、四十年前にいた者だと言うのは知っている。

 

「だが二代目深淵は満足の行く研究成果を出さなかった。記録にあった初代深淵の魔術からはかなり劣り、深淵の世界の調査も全く進まなかった。そして、再び深淵は造られる」

 

その造られた深淵が誰か。そんな事は考えるまでもない。

 

「……じゃあ……もしかして愛菜ちゃんは」

「そうだ。三代目深淵もアバターの細胞を用いたクローン。二代目深淵と同じ、失敗作」

 

根本愛菜に感じた感覚は彼女自身の出生にあったのかと何となく理解した。本当は育ての親の問題だと言うのはまだ由紀には分からない。

 

「それに由美はどう繋がるっていうの……?」

「我々が……というよりそこの魔人が一人で三代目深淵を解放し、研究施設を破壊した。その処理で手に入れた計画の情報を、どこからかシェイカーが手に入れた。これまでの計画のトライアンドエラーを見て、シェイカーはこう考えたのだ。深淵という魔術師の細胞を使うから失敗したのではないか。ならば、一族代々、大体極術師の絶対零度の一族の細胞を使い、どうすればクローンはオリジナルに近付けるか研究しよう。と」

「それじゃあ由美は、深淵の魔術を完璧に再現するための練習、検証用ってこと?」

「そんなところだ。そして見事にアバターを使用して完璧な極術、絶対零度を再現させた」

 

そこまでの情報を前提として。

 

「でも、だからって由美を殺す必要は無いじゃない。愛菜ちゃんが許されるなら、由美だって許されていいハズよ!」

 

ここに帰結する。学校にすら行けてるクローンが居て、なぜ由美だけが許されなかったのか。その疑問は抱いて当然だ。

 

「宮里由美は完璧なクローンだ。では、その彼女が狙われて君は守りきれるか?」

「それは……」

「根本愛菜は失敗作だ。彼女を研究しても失敗作しか産まれない。そして、そこの魔人というこの新世界よりも強い者が守っている。だが宮里由美は違う。新世界の闇から君は守りきれると、断言できるか?」

 

できない。それは今さっき身をもって理解したことだ。新世界の闇の、頂点ですらないたった一人に殺されかけてしまった。あのままだったら死んでいた。自分の身一つ守れなくて、誰かを守れる訳なんてない。

 

「それに、これは我々の独断ではない。上からの命令だ」

 

目を見開く。彼女はここまで新世界の裏側を解説しながらも、中間職だと示したから。

 

「機密事項てんこ盛りの外界遠征で総司令官を務めるあなたを命令する者……まさか王様なんて言うつもりは」

「それだけじゃない、安定装置」

 

その単語に、由紀は言葉を失った。

 

「では我々の事情は置いておき、追加して聞こう。「寂しいから構って欲しい」という理由で人を殺めたクローンを、国を運営する側としてどう庇えばいい?」

「っ……」

 

更に追い打ちをかけられる。現実的で、やがて直面するはずだった問題。

 

「法廷で責任能力が無いと言えばいいのか?最も、三人以上の殺人罪は問答無用で死刑になるが……死刑になると分かっていて国がそういう庇い方をしたら、世間は国……王を信用できなくなる。それだけじゃない、弁護するお前は、お前の母親はどうなる?」

 

誰も彼もが迷惑を被る。そんな事は明確にわかる。

 

「クローンだ。複製品だ。本来産まれるハズはなく、産まれたくて産まれたわけじゃなくとも、世間にそんなことは関係ない。被害者はふざけた理由でクローンに殺され、被害者遺族はふざけた理由を認めてクローンを許さなくてはいけないのか?」

「それは……」

 

ふざけた理由で由美を殺した亮を許せなかった様に、きっと他の者もふざけた理由で殺した由美を許さないだろう。

 

本当は、そんな事は由紀も分かっていた。分かっていても、寂しかったと抱きついてきた彼女を妹と認め、何があっても自分が守ると誓えば何とかなるなんて思っていた。救われるべき存在で、きっとそれは自分が全力を尽くせば世界だって認めてくれるんだと信じて──否、誤解していた。

 

現実を目の前に突き付けられた今だからこそ分かる。

 

「この魔人は、自分の意思で宮里由美を殺したんじゃない。確かに実行したのは彼の意思だが、本当の意味で宮里由美を殺したのは──」

 

だからナナシの言いたいことも分かっていて、それを言葉にされる。

 

「この新世界だ。新世界に生きる者が安心して幸せに生きていくために、宮里由美は殺されたんだ」

 

今度こそ、由紀は絶望した。スっと、全身から力が抜ける。立って居られず、その場に膝を着く。

今まで、これまで自分が何も日向を歩いて来れたのは、自分の与り知らぬところで悲劇があり、それを解決する者がいたからだった。そして今回はたまたま、たまたま自分の番だった。

 

由美を殺した彼は、この新世界の規律においては正しかった。間違っていたのは、自分だった。

 

「なぁ絶対零度、お前のクローンが消え、お前以外に悲しんだ者が居たか?」

 

ナナシは追い討ちとも取れる容赦ない質問を投げかけた。だがこれだって無意味な事じゃない。ナナシは由紀に認識させようとしている。

 

「お前は悲しみに暮れたかもしれない。けれど、お前が悲しんだことで世界の平和は維持された」

「……狂ってる」

「だが狂っていなければこの世界は維持できない。なにせこの世界は狂っているからな」

 

認めたくなかった。狂ってるの一言で済ませたくはなかった。安っぽい言葉でこの理不尽を表現したくはなかった。

 

新世界の平和のため。そんなもののために、理不尽な運命から逃げ出した由美は殺された。

間違っていない。由美を生かしておいて良い理由は確かに見当たらない。だからこそ、それが悔しかった。他でもない。自分が彼女を擁護出来ないで居るのが、悔しかった。

 

そうして膝を着いた由紀にナナシが一歩近づいた。

 

「今、君の前には二つの道がある」

 

一呼吸置き、ナナシが続ける。

 

「この新世界の闇を全て忘れ、母親は居ないが今までと同じ陽の当たる場所を歩む道」

 

スタッと、背後で一歩踏み出す音が聞こえた。後ろに控えている亮だ。

今ナナシの告げた前者も、後ろの彼がやってくれるんだろう。記憶の操作とか、そういう魔術で。もう後ろの存在が何をしても不思議ではない。

 

「そしてもう一つ。我々の元で、世界を守るために働け」

 

そう言って、ナナシは由紀に左手を差し出した。

 

「この仕事は、新世界の闇は、新世界の光に絶望したものでなければ務まらない」

 

この手は、鈴木数馬が差し出した右手とは真逆の手。もう由紀には数馬の右手を握ることは叶わない。だから差し出された左手。

 

手を取るか、取らないか。それを決めるために、由紀はまず口を開いた。

 

「一つ……聞かせて。狂っていると分かっていて、なぜあなたはこの世界を守ろうとするの?」

「簡単な話だ。狂ってでも守りたいものがあるからだろう」

 

その言葉は由紀の胸にストンと落ち着いた。

 

「守りたいものを守るために、何も壊さず、誰も殺さず、言葉を並べるか、少し拳を交えることで分かり合えるならそれに越したことはない。それで解決できるならば私はその解決方法に全力を尽くそう。そんな幸せで完璧な選択肢があるなら誰だってそうするはずだ」

 

それは、鈴木数馬があの時示してくれたやり方だ。そのおかげで、自分は由美を妹にすることができた。

 

「けれど、生きていればそんな選択肢を与えられない時がある。そんな時、どうすればいい?それがきっと戦うべき時だ」

 

それは、母親が死んでしまった時に自分が取ったやり方だ。失敗してしまった道。

 

「戦うなら……いや、殺し合うならば正義なんて綺麗事は言えない。殺してしまえば、その先には復讐の連鎖が待つ。別の戦いを生んでしまうなら、それはきっと正義ではないだろうな。だが正義でなくとも守りたいものがあり、自分が悪になる事で守りたいものが守れるなら、私は悪になろう」

 

守りたいものを守る。自分の守りたいものを奪い取っていった奴が何を言っているんだろうか。あぁ、でも、どこかしっくりとくる物があるのは何故だろう。

 

「アンタは?」

 

次に、由紀は亮へとその質問を投げ掛けた。

 

「俺は化物で、奪われるのは嫌だ。奪う方が性に合ってる」

 

なんて利己的な回答だろう。クズなんてレベルではなかった。だけど、ナナシの連ねた言葉よりも、もっと自分の芯に響いた。

 

「ふっ……」

 

鼻で笑う。下らないならではない。やっと気が付いてしまったからだ。

 

「…………ずっと、違和感はあった」

 

自分の過去を振り返り、なぞるように言葉を紡ぐ。

 

「昔からみんなに一線引かれて、化物だと言われて、気が付けば独りになって。でも、お母さんには力があるからあなたは皆を守れるような人になりなさいって言われて。きっといつか、あなたを見てくれる人が居るからと」

 

それが数馬だと信じて疑わなかった。だけどそれは幻想だった。

 

「私は極術師、絶対零度。奪う方が性に合う。うん、そうね。守りたいものを奪おうとする連中の命を、一人残らず奪う。そして守りたいものを守る」

 

あぁ、なんだ、そういう事か。彼等は、自分を化物だと言ったヤツらは間違っちゃいなかった。

 

自分は、化物だ。

 

「手を取るのに条件があるわ」

「なんだ?」

 

由紀は顔を上げてナナシを見た。

 

「私の大切なお母さんを奪った奴らの命を奪う。そのために力を貸して。そうしたら、私もこの狂った世界を守ってあげる」

 

復讐の連鎖を生み出す、悪のやり方だ。だけど復讐の連鎖なんて割と断ち切りやすいものだと由紀にも分かる。

 

片側が一人残らず全滅すればいい。

 

そのために由紀はナナシを頼った。

 

「いいだろう」

 

それをわかっていて、ナナシは許可した。

その言葉を聞いて、由紀は左手を伸ばし、強く握られ、立ち上がる。

 

「ようこそこの世界の闇を担う組織へ」

 

歓迎の言葉が、どこか心地よかった。

 

「……」

 

対して亮は嫌そうな表情を浮かべる。ナナシはそれに対しては何も言わず、さてと切り返す。

 

「目下、住むところが必要だろう。魔人、部屋はまだ余ってるな」

「ちょっと待て嘘だろ?」

 

出ないはずの冷や汗が出たような気がした。

 

「真面目に、だ。今彼女がホテルだのパソコン喫茶だのに長期滞在してみろ。紀子の件も伏せたままなのに、右腕を失った彼女が報道陣に目撃されれば我々が身動きできなくなる」

 

報道され、一般人に知られれば世間にこちら側の存在が露呈されるリスクがあるので動けなくなるという事だ。紀子の件だけならまだいいが、現極術師が右腕を失ったという報道がなされれば、表の者達も血眼で走り回って真実を突き止めようとするだろう。

 

「お前の血液一滴寄越せ。今この場で右腕作ってくっ付けて記憶消してやる」

「い、いやよ私だってもう決めたことだもの!」

「チッ……」

 

確かに、由紀の意思が硬いのは伝わったし、ナナシの言葉が合理的なのも確かだ。今無言で二人の頭を弄ればいいかと思ったが、ナナシが情に絆されて由紀を新世界の闇に引きずり込んだとも思えない。

何かあるとして、あまり勝手なことをするとそれこそ面倒な事になりそうなので、ため息をついてから。

 

「……住まわせるのがいいが、あいつにはあんたから説得してくれ」

 

恐らく優衣は大丈夫。八代は二、三言文句は言ってもダメとは言わない確信がある。

ただ、愛菜がどうだかは怪しかった。

 

「……私にできると思うか?」

「やれよ諦めんなよ」

 

仮にも新世界の闇を束ねる身が挑戦もせずに投げ出さないで欲しい。

 

「なんだかんだ、君の決定を彼女は受け入れるだろう。耐えろ」

「……」

 

そんなことは分かっているから面倒だと言いたかったが、言わずに仕方なく受け入れる。

 

「絶対零度、君の滞在したホテルにある荷物はこちらで回収後、彼の家に送る。それでいいな」

「えぇ」

 

由紀が頷いたのを確認し。

 

「ならば解散だ。絶対零度、道中に見つかるなよ」

「……行くぞ」

 

亮について歩き出した。未だに彼と二人きりになるのには抵抗があったが、家には他に誰かいるとの事でそれには少し安心感を覚える。

 

何はともあれ、宮里由紀は最悪なスタートをここで切った。

 

 

 

そう、ここで宮里由紀は鈴木数馬と道を違えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………クソッ!!」

 

──ドンッ!

と、壁を叩いて、ただ人工知能の言われるがままに落とさなくていい者を闇に落としてしまった事を悔やんだナナシを知る者は居ない。




闇落ち理由が薄くねと思った方は次回をお待ちくださいorz

やっと全員揃った……
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