無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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今回は短いので早いです


救われる方法①

終業のチャイムとともに鈴木数馬は駆け出した。途中、クラスメイトや二ーノから呼び止められたが、一言「ごめん」と添えるだけで立ち止まる事はしなかった。

実際、ここまで急ぐ必要はない。これから会う予定の者との仲介役である根本愛菜だってまだ教室に居た。彼女とは別の場所で一度落ち合う事になっているので、本当に急ぐ意味はないのだ。理性では分かっていても、急ぐ気持ちは消えてくれない。

 

「(もし、そいつが、黒鎌帝の行方を知ってるなら……)」

 

あの事件の後から、どこを探して帝は見つからなかった。こうなったら警察に届けを出そうと提案した数馬に対し、「もう分かっているのです……」と俯いていた宝姫咲輝の顔が頭に浮かぶ。

どんな結末だったとしても、せめて咲輝には真実を伝えないとと鼓舞する。

 

「(もし、そいつが、俺の両親を殺した奴なんだとしたら……)」

 

あの日の帝の言葉が事実だとしたら──どうすればいい?

 

「……」

 

だが、そちらに対してだけは何の言葉も浮かばなかった。自然と数馬の歩速は緩やかなものになっていく。

今回、もちろん彼女からの伝言を伝えることが目的ではあるが、数馬としては帝との件の方が優先度は高い。自分の関わった事件の中でも、ソレは余りにも中途半端に終わりすぎてしまっている。

 

確かに咲輝を助けることには成功した。咲輝は人の身としての心臓を手に入れ、ロンギヌスの槍だとかいう意味不明な兵器に使われることはなくなった。

 

だが、それだけだった。帝の意志は、この新世界の真実は──それらは中途半端なままだ。

 

「行くっきゃねえか!」

 

何にせよ会わないと始まらない。そう思えば、再び数馬の歩速は速くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胃が痛い。もうそれ以外に言葉が出てこなかった。いつもはウキウキルンルンで帰路に着いているホームルーム終了後がこんなにもしんどいのは初めてだった。

 

「はぁ……」

 

溜息を吐いて教室を出る。数馬の方は飛び出して行ったが、それを追う気にはなれない。

流れとしては一旦学校を出て学校の生徒がいなさそうな所で再び合流し、それから亮との待ち合わせ場所に向かう。もしかしたらこれで死ぬかもしれないのでゆっくり行こうと思った。そう思えば退屈なハズの学校も少しは輝いて──見えることは無かった。

 

「あっ……」

 

そんな時。たまたま自分の教室から出てきた由紀と鉢会う。

 

「……」

 

家ではそこそこ仲良くなった二人だが、学校で二人の仲がいいと知られる面倒臭さから極力関わらないようにしようと決めていた。愛菜から持ち出した話だったが。

 

「宮里さん」

 

誰もが可愛らしいと心打たれるような作り笑いを顔面に貼り付けた。

 

「は、はいっ!!」

 

愛菜の本当の姿を知っている由紀からすれば、これは恐怖の対象でしか無かった。八代との喧嘩に巻き込まれて視界が全く効かない闇の世界に連れて行かれ、どこからどう見ても触れたらヤバい紫色に輝くビームの嵐のトラウマはまだ根付いたばかりだから。

 

「一緒に帰りましょう!」

「仰せのままに!…………へ?」

 

道連れを連れて、愛菜は数馬との合流場所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここを訪れたのは何度目か。まだ廃墟になる前と含めれば四回目。

 

愛菜と二人で遊びに来た時に。

鈴木数馬を尾行した時に。

黒鎌帝殺害時に。

そして、今、鈴木数馬と会うために。

 

ここは、ホワイト地区の廃墟の遊園地。内緒話するならここが最適だ。二人が知っている場所で、かつ他人に聞かれる心配もない。

 

「…………ふぅー……」

 

と、わざわざ肺を作り出してタバコを吸う。三本目だ。ついさっき到着してからずっと吸っている。こうでもしないと、落ち着かなかった。

 

愛菜から電話を受けた瞬間から不安と期待に心が包まれている。

 

いつもは数十万人と数千万体の魔物の心達が騒いでいるが、「七尾真衣からの言葉」という求めて止まなかった物がそれら全てを黙らせる。彼らの想いよりも、亮の真衣に対する想いが上回る。

 

『あるじぃ〜』

『ンだよ』

 

着いてきたいと言った八代は体内に取り込んでから来た。

 

『妾の意識が飲み込まれそうだから抑えて欲しいんじゃが』

『……』

 

なんだか水を差されたが、まぁ八代がそう思っているということは、亮自身も心のどこかでその懸念をしていたのだ。飲み込まれていたらきっと、心の中で八代もピョンピョンはね回ったりしているハズ。

 

『まっ、気持ちは分からんくもないんじゃがの』

 

不意打ちなんかじゃない、真衣からの言葉。たとえそれが伝言だったとしても、やっと真衣が与えてくれる言葉。

 

全てを失った時にも、理性を失い世界中の人々を殺し食らい歩いた時にも、理性を取り戻し自分の意志で人々を食らい歩いた時にも、水神の前に膝を折りそうになった時も、全てを食らい尽くしても何も得られなくて絶望した時も──どんな時でも欲しかった彼女からの言葉。

 

想いを積み重ねた時間は、あまりにも長かった。

 

『……じゃが、懸念は白いのからの「もうすぐ会える」ゆう言葉を覆されたことかの』

 

遊園地で優衣と遊んだ時──正確には数馬の尾行だったが──に掛けてもらった言葉は反故にされたという事だろうか。それだけが気掛かりだった。

と、そこまで思い出して、ふと思いつく。

 

『…………なあ、八代』

『…………何が言いたいのかは分かったのじゃ。じゃが見解に相違がないか、いっせーので思うとするかの』

 

多分、この確認はいらない。だが、確認せずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

『『優衣って誰だ?(じゃ?)』』

 

一致した。七尾優衣は七尾真衣──つまりは神が作り出した存在。神の使いでも妹でもなんでもいい、そういう存在。

記憶だってある。一緒に生活した。遊園地の件だって変わらない。あの時抱いた感情もある。今朝だって寝坊ギリギリの時間に優衣を起こして学校に向かわせた。

 

だが同時に。七尾優衣が居なかった記憶も持っている。

 

七尾優衣が存在しない世界の記憶がある。なんなら自分達が今まで生きてきた世界の中に優衣は存在しない。

というより、優衣の居ない世界の記憶が正しく、居る世界の記憶が間違っていると断言できる。

なぜか?そんなことは分からない。

 

だが間違いなく、七尾優衣は存在しないと断言できる。

なぜか?そんなことは分からない。

 

そしてこれは、間違いなく神の介入があったという確信があった。

 

『なんか、嫌な予感するな』

 

亮の心にあった期待と不安の比率は、後者に傾いていた。神である彼女がこれだけのボロを出しているのだから。

そして、そのタイミングで。

 

「おーい!」

 

と、愛菜の声がした。もちろん愛菜が近づいていたのは知っていた。ついでに由紀もだ。流れる魔力が大体教えてくれている。二人に並ぶ吹けば消えてしまいそうな魔力も、亮はきちんと認識していた。

 

三人がゆっくりとした歩みで亮の方へ近づいてくる。やがて、一定の距離で止めた。

 

「……ン、初めましてでいいか。それとも、久し振りとでも言った方がいいか?」

「こんにちは、だろ」

 

中ボスと主人公が、ここで初めてまともな会話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数馬は相対してやっと確信を得た。コイツがそうで、コイツはダメだと。

 

いくつかの修羅場を潜り抜けてきた身だから分かる。かつて数馬が対峙した存在から振り切れている。あの手も足も出なかった黒鎌帝からもだ。

佇ずまいが違う。鋭く冷たい目であるにもかかわらず、本当に物を映しているのか怪しい瞳。青のジーパンに黒のTシャツに革ジャンなんてラフであるにも関わらずしっかりと伸ばされた背。にも関わらず、どこか脱力し宙ぶらりんにも見える腕。

 

歪で、曖昧な存在。それが数馬が受けた亮への第一印象。

 

だからこそダメなのだ。この歪さが、どこか神をも思わせる。

 

戦いとか、勝つとか負けるとか、そういう物理法則が通じそうにない。戦いになれば為す術もない事だけが確実。戦いにすらならない。言葉を選び間違えただけで存在を消されると思った。それを踏まえた上で。

 

「てめえ、黒鎌帝はどうした?」

 

敵意を隠さず言った。別に、相手が超常現象だとか、そんなことは関係なかった。

 

「さっそくそれかよ」

 

ただそれだけでどうこうする亮ではない。相手の態度に何かを思うほど豊かな感受性はない。

 

「それが聞けなきゃ、俺は何も言わない」

「……まぁ、お前は脅しなんか通用しなさそうなタイプだ」

 

吐くまで殺して生き返らせてもいいし、直接頭を覗いてもいいが、手間をかけるよりも大人しくこっちが話した方が早いし、何がきっかけで神からの伝言を忘れるか分からない以上、下手な手は打てない。

 

相手の記憶を覗くことがトリガーになるのかという疑問はあるが、わざわざ数馬と合流せざるを得ない状況になっているのだから、会話をする事が神の目的に含まれているに違いない。それをカットするのは気が引けた。チートを駆使した結果、フラグを回収し忘れてしまい進行不能に陥る。そんな気がしたからだ。

 

「答えよう、俺が殺した」

「やっぱりあの後に…………っ」

 

数馬の脳に自分が帝にやられた後の薄れゆく景色が浮かんだ。

 

「なんでだ?」

「聞いただろ?俺は安定装置の守護を任されている。護衛先が破壊されそうになったから破壊しようとした奴を殺した」

「そんな話をしてんじゃねえ!黒鎌帝には黒鎌帝の、咲輝や国を想った──」

「想いがある様に、安定装置にもある。それが対立したってだけの話だ」

「くっ……」

 

だからって殺すことは無いだろとか、そういう言葉が頭に浮かんでは来て、整理してぶつけようとした。

 

「数馬」

「……由紀?」

 

が。数馬が言葉を紡ぐ前に、由紀に止められる。

 

「気持ちは分かるけれど、お願い。先に神様からの伝言とやらを、伝えてあげて」

「……」

 

宙ぶらりんの右袖と、長い彼女の髪が人工的に吹かされた風に靡いている。

右腕の経緯と、彼女の今の立ち位置については、実はここに来ている途中に聞いてた。亮が由紀を助け、今彼女は亮の元に身を置いている事まで。

話を聞いた時には、自分がその場に居ることが出来なかった無力さと、由紀が自分の居場所を見つけたと心から笑った事に対する安堵を覚えた。

だが、今は少々違う。由紀の居場所は、人一人の生死によって生まれた「想い」すら踏み躙る場所なんじゃないか。そんな不安が生まれた。

 

「わかった……」

 

だが従わざるを得ない。痛ましい体で、優しく微笑んだ由紀の願いを踏み躙る事はできなかった。

 

「俺から話すことは三つだ」

 

と、一呼吸置いてから本題に入る。

 

「まず、彼女の立ち位置……「視点」を理解してくれ。七尾さんは、自分にとって、この世界はパソコンの中のロールプレイングゲームだって言った」

 

話を聞くもの達の頭に、一台のパソコンとそれにインストールされたゲームが思い浮かぶ。

 

「この世界っていうゲームの中の俺達は、自分でコマンドを選んで生活したり、戦ったりする。様に見えるけど、実際は運命っていうテキストファイルの通りに動いている」

「……世界の全てを記したファイルがあるってこと?」

 

愛菜が問いかけた。

 

「そんな感じらしい。そんで、基本的にそれらは自分の意志で好きに変えられるとも言ってた」

 

自作のゲームのシナリオを好き勝手に弄くり回す様な、クリエイターとしての力があるわけだ。

 

「人の記憶とか、物理法則とか、必然とか偶然とかいう世界の都合に囚われない完全な操作が売りらしい」

「文字通り世界の全てが自分の思うままってところね」

「……じゃ、なんで亮の所には来れないんだろ?」

 

由紀の補足に対して愛菜が疑問を問いかけた。世界の全てが思うままなら、それくらいできたって……と思ったところで。

 

「ンなの立ち位置考えりゃ分かんだろ。世界の全てを見通す立場にいるっつーことは、たとえ世界に入って来れたとしても常に誰も彼もが自分の思うままになる。それに、ゲームプレイヤーがゲームの中に入れるわけないだろ」

「……そっか。お世辞にも人生なんて謳歌できそうにないよね」

 

それだけだと理由としては弱い気もするが、納得できる理由ではある。少しでも自分の気に食わないことが起きることすらない。何もかも完璧で自分の都合のいい未来しかない人生が如何に面白くないかという話だ。

 

「そんで……えーと、なんだっけあれ……そうだ、次が神術」

 

ポンと手を叩いて捻り出した様に数馬が言った。

この場にいる全員が一応神術の存在については知っている。だから、ソレをなんか忘れかけてたとかいう数馬の神経を満場一致で疑った。

 

「魔術はただの物理のバリエーションでしかないけど、神術は、想いが作り上げる神の真似事。それでも神と同じく内部データその物に干渉するものだって」

 

分かりやすく、的を得ている例えだと思ったが、まぁ神がそういったのだからその言い草はないかと心で笑う。的を得ているというか、そのままなんだろう。

 

「神術による浄化はキャラクターデータ右クリックで削除を選ぶようなもので……えぇと、聖移?は、キャラの内部データをドラッグアンドドロップする様なもの」

 

聖移により知識を与えたりするのは、たとえば人の記憶がテキストファイルかなにかだとして、分け与える記憶のテキストだけ移動させる。場所の移動だってマップデータに介入するような物なのだろう。

 

他の神術も説明がつく。炎神や水神の使った聖火も聖水も、敵である自分にしか影響を及ぼさなかった。太陽の様な炎の球体が大地に下ろされても、燃えてるのは自分だけだったし、水神の時には地球の裏側まで一度逃げたのにも関わらず、地中から水の球体が飛んできたりもした。

全ては敵にしか効果を及ばさないと術者が決めた攻撃だからだろう。

 

大体、再認識できた。だから。

 

「その辺はとっくの昔に分かってる。別にいい……それより、話を妨げてしまうが、時間については何か言っていなかったか?」

 

わざわざ分かりきった神術の話を持ち出して来るのだから当然──

 

「……心して聞いてって言ってたから、頼むぜ?」

 

回答は用意されているらしい。数馬は亮が頷くのを待った。

心して。なんて言ったところからもう嫌な予感がしている。だが聞かない訳にはいかなかった。

 

「あの瞬間から前の時間には戻らない。あの瞬間に世界は一度崩壊した。それは神が消えたから。一度世界は滅んで、ただ残ってた世界のデータをコピーして私が弄れる形式にして貼り付けたのが今ある世界だから」

 

何とかその言葉を人間の考えで落とし込む。恐らく、今まで存在していた世界がロックされ、フォーマット化されたんだと考えた。例えばパソコンをパソコンたらしめるOSの様な──動かすための大前提。あの時間より前の世界が、神のベース。神は人の想いが作り上げるものだ。

それより前の出来事を弄れるのなら、矛盾が生じる可能性がある。その理屈が正しいかどうかは亮には分からないが、ただ明確に言えることがある。

 

「(……なるほど、俺のやってきた事は全て無駄で、きっとこれからもそうか)」

 

数万年と築き上げてきた自分の今までの行いは全て無駄。意味がなく、殺した者も食らった者も無駄な犠牲で、たとえこれからどれだけ神聖を求め動いたとしてもあの時間に戻ることは叶わない。

七尾真衣が神となった瞬間から、その後の根本亮の生に意味はなかった。

 

だがまぁ、そんなことはどうでもいい。

 

これまでの生を否定されたとしても、こうして数馬と引き合わせた神の意志があるなら、今までの生なんて些細なことだ。

 

「ンで、それをわざわざ言うってことはなんかあんだろ」

 

と、亮が続きを促す。

 

「分かった、多分、ここから先が大事な事だと思う」

 

むしろそれまでが前座なのかとツッコミたくなる愛菜と由紀だったが、雰囲気を察して声には出さない。

 

「七尾さんは、消える」

 

亮はまず、自分の意識が消えようとした所を抑えた。理解を拒み、あの時と同じように幸せな記憶の中だけで生きようとするのを止めた。そうしないと、このまま地球が滅んでいたからだ。

 

『主!』

 

八代が精一杯の声を上げてくれたことも一因だ。

 

『……大丈夫……大丈夫』

 

心の中で言い聞かせる。表情や体には一切出さない。

 

「……この世界の神はもう消える。そして、私は魂があるもう一つの世界に行く」

 

希望の言葉だった。神が消えるとか魂とかもう一つの世界とか、もう亮ですら理解できていないが、彼女が行くと言ったのだから、そこに居るのだろう。

 

「向こうの世界の私を探して。仕込みはしてあるから。だって……俺にはチンプンカンプンなんだけど……」

 

少し申し訳なさそうに紡ぐ数馬だったが、別に数馬を責めるものはこの場にはいない。もう一つの世界だの魂だのと、そんなものはどう考えても人の思考で結論を導き出せる領域ではない。

 

「もう一つ……か」

 

恐らく。というか、絶対、今のところ亮が確認している世界。

空間をねじ曲げるくらいの力を用いていれば、それの存在には割とすぐ気付けるものだ。ただ「聖移」ですら行けない世界だ。世界と世界の狭間なら行けるが、その向こう側は亮も知らない。

 

「(……愛菜……)」

 

チラリと愛菜を見る。話についていけないからかポカンとしているが、鍵は愛菜だと気付いた。

正確には深淵だ。世界の下地か何か予想のつかないあの世界。その向こう側にもう一つの世界がある。

 

「鍵は根本さんの魔術だって」

 

その予想は数馬が肯定した。嫌にタイミングが良い。

そんな数馬の声を聞いて、愛菜が口を開いた。

 

「……深淵かぁ。まぁ、最悪私が亮に食われればいいか」

「ン、その時は頼む。死んでくれ」

「言い方ね」

 

何とも異常な問答が繰り広げられ、数馬が喉を鳴らした。だが、今はそれにツッコミを入れる場合ではない。あと一つだけ伝える事がある。

 

「ただその前に葛葉 十花(くずは とおか)をあんたなりに助けて。それが終わったら来てくれって……それで七尾さんからの言葉は全部だ」

「……誰だよそれ」

 

全く聞いたことの無い者の名前が突然出された。お前ら知ってるかと数馬の後ろの愛菜と由紀に尋ねても、首を振られるだけだった。どうやらこれまでの生活にほとんど関わりのなかった存在らしい。

他の三人の極術師の誰かが鍵だったりするのかと思ったが、それすら関係ないようだ。

 

「まぁいい、鈴木数馬、助かった」

「……なぁ、話を戻すけど、帝は──」

「宝姫咲輝に伝えろ」

「っ……」

 

数馬の言葉を遮って亮が口を開く。数馬は黙って聞くことしかできない。この場で咲輝の名前を出されては聞くしかないのだ。

 

「帝からの伝言だ。君の笑顔は私には眩しかった。だから、今度はそれを彼に向けてやれ。後悔だけはするなよ」

「……分かった」

 

と、数馬は頷いたが。

 

「「『「(たぶんコイツ分かってねえな)」』」」

 

モンスターハウスの四人が心の中で呟く。

 

「ンじゃ終わりだな。俺は帰る」

「な……まだ俺からは」

「んじゃ私も」

 

数馬の静止など聞かず、亮と愛菜は数馬の後ろの廃園の出口へと向かって歩き始める。由紀は着いてこないが、彼女も彼と話したい事がまだあるんだろう。別に今の亮にはそれを聞く気はなかった。

 

そんなことよりも、葛葉十花という者を見つけることだけが先だ。

 

「……私はもう少し数馬と話してから行くわ」

 

残った由紀を見て、数馬は亮達を追おうとした足を止める。

 

「おいっ!」

 

だが、声を張り上げた。これだけは伝えなきゃいけないと思ったから。

 

「あの人は!七尾さんは!あんたが大好きだって言ってた!!」

 

ホントは、伝えたくなかった。数馬も七尾真衣という少女に惹かれた一人だった。

この廃園で一度、自分の命を救ってくれた彼女に。いつだってどこか遠くを見つめて儚く笑っていた彼女に惹かれていた。

 

これを伝えることは、自分が恋敵に負けたことを認める様で、嫌だった。

 

でも、これで彼が頑張ることで彼女が笑えるなら。仕方ないと思った。

 

「ン」

 

と、一言言って手を振った亮。もうそれだけだった。

 

 

 

中ボスと主人公の初対談はこれで終わる。

数馬としてはまだ言いたいことはあった。文句だってつけてやりたい。両親との件だって話していない。だけど、今は目の前の少女との会話が先だった。それに。

 

後、一度だけ、二人が相見える機会はある。




次回はやっとこさ上から目線です。
恐らくですが、後10話もなく終わると思います。
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