かつての神は「光あれ」と言って世界を創造したらしい。その実は、この世界に物質を生み出したただ一つの衝撃。本当のところは私でもよく分からないけど、やろうと思えばできるから多分それなんだろう。
それにしても、人っていうのは本当に傲慢だ。「光あれ」って、それ目が見えない人、光を享受できない人には何の意味もない言葉じゃないか。神聖と言えば光みたいな風潮が未だに続いてるけど、別に光はただの量子であって、逆に闇はそれが存在しないだけの空間。
全てを創造して、全てを破壊できる立場に立って初めてわかることだけど、この世の全てのものにはその実は大したことないくせに沢山の想いが詰まっている。愛着だったり、願望だったり、思い出だったり、夢だったりする。時には苦痛であったりもするけど、一つ一つ摘み取ってみれば結構面白い。光もそうなのだろう。目が見える人にとって、光というものは常に身近にあるもので、目を瞑って闇に浸らなければいつもそこにある。だから光に救われたいという想いを詰め込む。
そんな都合のいい解釈はとっても滑稽だけど、私は大切にしてみようと思う。運命、未来は全部見えてるし、この先世界がどう辿ってどう滅ぶか。何億分の一の軌跡すら分かってしまうけども、それでもいつまでも期待して見ようと思う。
そんな我儘な想いが、いつか神の奇跡を超越すると信じて。私と彼がもう一度笑い合える世界になると信じてる。
信じてはいても、どうやら世界は永遠に亮と私を越えられないらしい。
どれだけテコ入れしても、人は亮を越えられない。全てに置いて亮を上回るスペックの者を作っても、永遠と戦い続けるだけで亮は殺せなかった。決着が着くより先に銀河とかそういう物が終わってしまう。ただ虚しいだけの世界になって、それだけだ。私を越えられない。
ならば亮の方をどうにかしようとした。
愛菜ちゃんが復讐者のトップに殺されるのを阻止して、亮が絶望で銀河を魔力で飲み干すほとんど固定されたその未来を変えてもダメだった。
八代ちゃんと、社ではなく、海で戦わせてロケットペンダントを無くす未来を作ってもダメだった。
優衣を作り、自決要員として亮の傍においてもダメだった。
それだって仕方ない。私は亮に愛されているから神として存在する。この世に私を想う者は亮だけ。亮が居なくなれば、誰にも想われない神なんて存在しない。かつて亮が水神を食らうために、水神を信じる者達を皆殺しにするしか無かったように、私がこの立ち位置から降りるにはそれしか方法がない。
何度世界を書き換え続けたか。人間の定めた数の概念を超える程度には色々試した後、異常があった。
一人。たった一人、私が弄れない存在がある。
それが「鈴木数馬」。本来、存在しない人間。
異世界から来た人とかは三人くらい居たが、彼らもこちらの世界に来た際には私が好きにできるようにはなっていた。
だが鈴木数馬は違う。彼に対する干渉は、わざわざ時間の概念を合わせて彼に利のある形にしなければ成立しない。
運命も、彼に関わるもの全てがズレる。こうなると決まっているのに、彼が関わると結果が変わる。
宮里由紀とニーノ・ヴァルバットがいい例だ。
宮里由紀は亮に心酔し依存するだけの心の壊れた存在だったはずなのに、自分の意志をきちんと持った人になっている。安定装置に使い捨てられる未来から、一人の女の子を守って死ぬ未来になっている。
ニーノ・ヴァルバットはもっと簡単。ニーナ・ヴァルバットと共に亮に殺される運命から大きく外れて老衰死する。
私の手から少しずつズレていく運命。主人公によって狂わされていく世界。
どうにかしてくれる人を望んではいた。けれど、腹立たしい。
あんなに彼が努力をして、抗ってもがいて、心なんて壊れてしまって。それでも終われなくて。自分自身を永遠に責めて、それでもと生きたのに、彼は自分の力じゃ永遠に目的を達成できない。彼の心の痛みなんて、私がよく分かっていた。
だから、彼がどうしようもない時には、二人で語らった。
光しかない空間で長々と話をした。彼が何を想って、何を言うのかなんて全部わかってる。
語らい終えればその運命は一度消して、再び新しい運命を築く。だから彼と二人での語らいは全くもって意味の無い行為。
ただ、それでも意味の無い時間を紡ぎ続けた意味はあった。鈴木数馬が存在する今の運命は、あらゆる異常が起きている。
亮が神のシステムに詳しいのもそれだ。炎神や水神の記憶に含まれていない神の性質の認知も、私が教えたもの。
消したはずの運命の記憶が継ぎ接ぎだらけだけど、残っている。優衣も私が介入させたわけじゃないのに誕生した。
それこそ優衣なんて最初は私の生き写しだったのに、気が付けば私の妹を自称する存在になっている。王様の家に現出させたつもりだってない。
とうとう、致命的なレベルでズレた。
愛菜ちゃんが亡くなり、自分の甘さを知った亮が世界を巻き込み自害しようとして、けれど自分だけが生き残る運命が、崩れた。
つまり、神たる私が認知しない世界が出来上がった。
そしてそこまで来て、やっと気付いた。鈴木数馬という存在の意味を。
「想いは力になる」
炎神が亮に対して掛けた言葉。亮が信じ続けるその言葉、その物だ。
私を救いたいという想いが奇跡を起こした様に、私が亮と「生きたい」という想いが起こした奇跡が形作った物。だから私の手をすり抜けていく。
ならばこの後の私の運命なんて決まっている。なので、向こう側の世界に私の魂を送り込むことにする。こちらの世界では邪魔なので輪廻転生の概念は追っ払った。アレがあると余分な問題が発生するからだ。
それに、私ももうこの世界じゃ生きていたくもない。科学と魔術の世界より、剣と魔法のファンタジーな世界の方が好きだ。
なんて、思ったところで。
呼び出される。
まぁ、最後くらい格好を付けさせてもらおう。
「やっ、待ってたよ」
彼に向かってそう言い放った。互いに顔はない。ここにあるのは意思だけだ。
「後はがんばって──」
もう、幸せだったあの頃に、完全な形で戻ることは叶わないけれど。
私と亮が二人で永遠に居られる世界に行けるなら。
「──」
今は消える。神の座は、もう要らない。
なんかだいぶ前に優衣がいる理由はという感想を頂きました。回答です。
亮の自決要員でした。
いくつか辿った運命の話を、ほんっとーうの初期にはくい込ませていく予定でしたが、継ぎ接ぎだらけの書き溜めが70話を超えたあたりで冷静になりました。