無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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あと二、三話と言ったな。あれは嘘だ。分割するの面倒臭くて最終回です。


終わって始まる

安定装置のあったフロアから、聖なる神の術を用いて行くは自宅のベランダの喫煙所だ。元の持ち主たる八代に怒られる心配はない。結局昼間にいくつの本の知識の山に意識が押し潰されてそのままだ。

まぁ今ばかりは彼女が起きていなくて良かったと思う。こんなにイライラしたのは久し振りだったからだ。いつもより雑に体内からタバコを取り出して、いつもより雑に火をつけて吸う。

必要のない肺を作り出して吸って吐けば、紫煙が偽りの星空に溶けていく。

 

「(なんで、俺じゃない)」

 

数馬の力を見てから──いや、元を正せば、宮里紀子が鈴木数馬を評価したその時から、心のどこかで溜まっていた想いを思い返す。

 

「(この世で唯一の、世界から愛されたと言えるような力を与えられるのが……なんで俺じゃないんだ……)」

 

確かに、自分はナンバーワンでオンリーワンなのかもしれない。神術を手に入れた者を片っ端から食らって回り、もっと単純なことを言うなら、旧世界の人間全てを食らい尽くした。だからナンバーワンにしてオンリーワン。

けどそうじゃない。そういう単純な話じゃなくて、神ですら手が出せない唯一無二の特別な存在。そういうものに、なりたかった。

 

「(……なんで……いや、当然か)」

 

適当に、理由をつけて納得させる。もう、そうするしか無かった。

人を殺したからとか、社会の規範からズレたからとか、なんかもう自分でも納得できないような理由をこじつけて納得させる。「そんなモノ関係ない、こんなに辛い目に遭ってきてなんで報われない?」という心の奥底の本心は黙らせる。

 

「……そうだ、もう少しだ。あともう少しなんだ……」

 

葛葉十花は、死んだだろう。自分が植えつけた魔力をどこにも感じない。ならば救われたはずだ。死が、彼女を救ってくれたはずだ。そして、七尾真衣が葛葉十花を救ってあげてと言っていた。ならこれで良いはずだ。

 

「なら、後は……」

 

こちら側から出向くだけ。まだ仮説でしかないが、試してみたい方法もある。

であれば、さっさと愛菜に協力を仰ぎ──というか、さっさと愛菜を食らってしまえば「深淵」を手に入れ、いくつもの方法を今すぐにでも試すことが出来る。

 

「ふぅー」

 

ただ、どうにもその気だけが起きなくて、紫煙を吐き出す。やけに長く吐いてしまうのは、今さらこの段階に来て、愛菜を食らう事に躊躇している自分を嗤っているからだ。

なんだかんで自分には大切な物ができてしまって──それを振り払う。あまり考えてはいけないと念を押す。情に流されて、本当に求めている物を見失ってはいけない。

思考を切り替えるためにもと亮は仕事用の携帯電話を取り出し、ナナシへとかける。ツーコールほどで繋がった。

 

「終わった」

『そうか。ご苦労。処理班を向かわせ何かあればこちらからかけ直す』

「ン」

 

業務の通話なんてそれだけだ。いつもと同じ様に早い。いつもなら、このまま亮が一方的に切って終わるか、ナナシが口を開くところだ。今回は違った。

 

「なぁ」

『なんだ?』

「……安定装置は、俺が消えたら止まるのか?」

 

かつて、この仕事を始めた時にナナシが言っていた事を思い出して、尋ねる。

 

『安定装置はその守護を担う者と揃って初めて正常に稼働する。全ては、物事を上から見るためだ』

 

これも、前に聞いた話だった。だが改めて聞くことにする。

 

『人の上に立つ、絶対的な力がなければアレは自己保存に走る。そうしないと安定装置としての使命が果たせないからだ。お前が来る前は、それで安定装置は動かなかった』

 

力がなければ、誰かを害すれば破壊されてしまうと計算する。そうなってしまえば、安定装置は「新世界を平和にする」事より「力ある者に媚びを売り自分に害が無いようにしつつ新世界を平和にする」という、それこそ頭がいいだけのただの人間にまで落ちぶれてしまう。

 

『お前以外に、この世界で絶対に死なず敗北しない者は存在しない。だから安定装置は止まる』

「……そうか」

『どうしたお前は、消えるのか』

「まぁな」

『そうか』

 

いつもと変わらない、平坦な声でナナシが返すと、ちゃんそこに沈黙が流れた。どちらもどういう言葉を選べばいいか、図りかねている。そんな空気。

 

『……前深淵、笹塚未菜は、いや、未菜は死ぬ前に言っていた。お前はどうしようもなく、独りよがりな存在だと。自分で自分を許せない。誰も居なかったから自分の殻に篭もることしかできない、寂しい存在だと。なぁ、お前は孤独か?もし違うなら、孤独に戻るのは、孤独になってからでいいんじゃないか?』

 

ナナシの言っている意味は分かる。愛菜が死んでから行けばいいと言っている。ナナシは異世界だのなんだのは知らないが、知らないなりに、最善策を示してくれている。何も急ぐ必要はないと。けれど。

 

「ダメだな。俺は、これ以上救われちゃいけない」

『……この独りよがりめ』

 

そうだ、独りよがりだ。この世には自分にしか価値がなく、そして自分の価値は彼女を取り戻すことだけだ。それだけは履き違えてはいけない。彼女が居ないこの世界には、なんの価値もない。

 

「今まで世話になった」

『こちらこそ。さらばだ魔人亮。多分貴様の事は暫く忘れない』

「ン」

 

言って、亮はナナシとの最後の通話を終える。あまりにもあっさりと終わった。ビジネスライクな関係だったこともあるが、それ以上に、どこまでいっても、どこまで言葉を尽くしても分かり合えることは無いと、互いに理解しているから。世界をよくしようとする者と、自分が良ければそれでいい者が分かり合えるはずもない。

一つ、この世界との繋がりは切れた気がする。あともう一つが問題で──

 

「んぁ、おかえり」

 

なんて声と共に、あともう一つの繋がりが、愛菜が部屋から出てきた。

 

「ン、ただいま」

 

おかえりと言われたらただいまと返す。この家のルールに則り、亮も挨拶を返した。

 

「居なかったけど何してたの?」

「由紀から聞いてないか?」

「うん」

 

てっきり数馬の事が心配で愛菜と相談して、最悪乱入してくるかもしれないと思っていた亮は、「そうか」と簡潔に終わらせ、話を深堀される前に別の話題を持ち出すことにした。

 

「そういや由紀はどうした?さっき着替えてたが」

「えっ、復讐。聞いてないの?」

「聞いてないな。つーかそんなコンビニ感覚で言うな」

 

あんな時間に寝間着から着替えているのはおかしいと思っていたが、由紀の母親を殺害した者達の最後の一人に復讐しに行ったと考えれば納得の理由だ。どこの誰にその最後の一人の居場所を聞いたのかは知らないが、黙って行くなよと思いつつ──

 

──ピリリリリリ

と、プライベート用の携帯電話が鳴った。さっさと懐から取り出して、通話相手を確認する。「宮里由紀」の表記があった。何ともタイムリーな事だが、そう楽観視できるような自体かどうかは怪しいところだ。

 

「……だれ?」

「由紀。ちょっと黙ってろ」

 

一応愛菜に念を押してから通話ボタンを押す。もし彼女が切羽詰っていた場合、愛菜の声が邪魔になる可能性がある。

 

「もしもし」

『良かった出てくれた……あ、あの悪いんだけど、ちょっと……助けて』

「……どうした?」

 

黙って出ていった分際で助けてと頼む事がどれだけ間抜けか分かった上で言っているのだろう。それくらいヤバい状況にある事を察して、かと言って急ぐ様でも無さそうなので冷静に聞き返す。

 

『な、なんて説明すればいいのか私にもよく分からなくて……』

 

が、なんだか危機的状況な訳では無さそうだ。戸惑う由紀の声には余裕がある。しかし説明不足はまどろっこしいことこの上ないので。

 

「……取り敢えず向かう。切るぞ」

『えっ、けど場所』

 

言葉を言い切る前に通話を切断する。

 

「愛菜、俺は……って居ねえし」

 

一声掛けてから聖移で由紀の元に行こうとしたのだが、隣にいたはずの愛菜が居ない。仕方ないので事後報告でいいかと思った矢先。

 

「準備おっけい!!」

 

なんてハイテンションなまま、寝間着から普段着に着替えた愛菜が夜の闇から顔だけ出てきた。あの短い通話時間で深淵を用いて着替えて出てきたらしい。何ともまぁ極術の無駄遣いである。

 

「お前も来んのか」

「うん!」

 

なんて声と共に、闇の中にこじ開けた空間から愛菜の体が顕になっていき、最後には亮の隣へと降り立った。

 

「いやほら、神術ってやつで行くんでしょ?私まだ体感したことないからさ」

「……まぁそうか」

 

今までは時間を巻き戻す神術を行使するのに、膨大な神聖が必要だと思い込んでいた。だから極力使用を控えていた。だがそんな物が必要ないと分かった今、わざわざ便利な力を使わない理由はない。

 

「じゃ行くぞ」

「ばっちこい!」

 

返事を聞いて、使う。聖なる神の意志に、この世の位置関係が服従する。宮里由紀の元へ。酷く曖昧な表現だが、神の意志を世界の理が汲み取るのでそれで問題ない。

 

まるで最初からそこに居たかのように、亮と愛菜は由紀の目の前に現れた。

 

「うえっ!?」

 

間髪開けずに、由紀の素っ頓狂な声が響いた。

 

「うわっなにこれ気持ちわるっ。浮遊感も無かったんだけど……」

 

愛菜は愛菜で初めて体感した聖移の感想を述べていた。

そんな二人を差し置いて、亮は辺りを見渡して状況把握に務める。風景はどこかの工場の様だ。しかもただの工場ではない。機材を見てみればホコリがある。掃除がされていないどころじゃなく、放棄された工場の様だ。自分達以外に人の影はない事から異常や問題は見受けられない。

 

由紀の右肩から四本ほど真っ黒な触手が生えていることを除いては。

 

「由紀ちゃんなにそれグロいってかキモいよ」

「わ、分かってるわよ!!だから助けてって言ったんじゃない!」

 

元から床にどっさり腰を下ろし、何かの装置に背中を預けていた由紀が抗議する。まぁ確かに、元々自分の腕があった場所に四本の真っ黒な触手がダラっとぶら下がっていたら錯乱もするだろう。

 

「……あぁ、そういうことか」

 

一通り思考を巡らせていたら、亮は結論に行き着いた。

 

「ど、どうすればいいの?」

 

縋るように由紀は亮に質問した。確かに女の子として──というか人間としてこんなものを四六時中ぶら下げている訳にはいかなかった。

 

「簡単だ。消えろと念じろ」

「……それだけ?」

 

だが亮から返ってきた言葉はあまりにも単純すぎる言葉で首を傾げる。

 

「愛菜から聞いたぞ、復讐に来たって。何があったか知らないが、突然ソレが生えてきてしかも勝手にそれが動いただろ?」

「え、えぇ」

 

由紀は戸惑い気味に小さく頷く。

 

「殺意に反応して現れ、落ち着いて消えろと思えばソレは消えるもんだ。お前、ビビって俺に電話したんだろうが、多分一度もソレに消えろと思ったことねえだろ」

「……」

 

言われて、由紀は俯く。由紀は先程の戦いでピンチに陥り、コレが助けてくれた事を思い返す。さっきの戦いはコレが無ければやられていたかもしれない。

そして、この新世界の闇を知って感じた恐怖から、コレが必要だと思っていた。消えろと、邪魔だと念じてしまえば、自分を守ってくれるコレが失われるような気がしていたから。

 

「大丈夫だ。お前の右肩の断面を覆ってる物を取らない限り、またお前が想えば出てくる」

「……そう」

 

亮の言葉を信じ、一呼吸してから由紀は念じる。もう役目は終わった。今は失せろと。

 

その想いが伝わった様に、四本の触手は一瞬強ばると由紀の右袖の中に引っ込んでいった。

 

「……うわぁどうしよう。同居人が触手キャラになっちゃった……」

 

その光景を見て愛菜はドン引きである。

 

「うっさいわね!べ、別に私だってもうちょっと可愛いのが良かったわよ!」

「魔人の力に可愛いもクソもあるかよ」

 

と、亮のツッコミに愛菜と由紀の表情が強ばる。

 

「魔人の力?」

「憶測だが、片腕無いことを受け入れて生活していたから魔力が同調したんだろ」

「……同調って……あの……」

 

先程の戦いの中で由紀は声を聞いた。誰の声かは知らないが、ただただ怨み事を言うだけの声。永遠とリピートし続ける恨みつらみに、確かに由紀は共感した。思えば、それが切っ掛けでソレが生えてきたのだった。

 

「だからそれが嫌なら新世界の技術で正しく治療しろ。今はそうでもないみたいだが、もしかしたら同化が進んで全身から──」

「わあああああわかった!わかったわ!」

 

自分で想像してしまう前に亮の言葉を遮る。間違ってもそうなるのは自分でも嫌だ。

 

「ンでどうする?取っ払ってやっても良いが」

「……いいわ、このままで。使える力は持っておく」

「ン」

 

ただそれでも手放す選択肢はない。どうせ一部だろうが、魔人の力なら持っておくに越したことはない。力があるに越したことはないなんて、ここ最近で実感したから。

 

「ていうか由紀ちゃん、結局その復讐相手とやらは?」

「あぁ、そこよ」

 

愛菜の問に対して由紀が指し示したのは巨大なプレス機だった。

 

「……あぁ、なるほど」

 

何があったのか、愛菜は察する。目を凝らして見てみればプレス機と鉄板の間に何かの液体が流れ出ている。その液体が予想は間違いないと裏付けていた。

 

「ねぇ、私より亮さんの方は?」

「別に特になんとも。鈴木数馬には家に帰ってもらった」

「…………そう」

 

絶対それだけじゃ済んでいないだろうが、こうやって濁されては聞き出そうとしても喋ってはくれないだろうと踏んで、由紀は口を噤む。

 

何はともあれ、これで一段落したということだ。

由紀は無事に復讐を終え、亮も安定装置の危機を退け、落ち着いた。さしあたった問題は数馬がこの後どう動くかだが、あの力のない数馬には直接乗り込んで安定装置の破壊なんて真似はできない。

 

ならば、もう後残すことは一つだけだった。

 

「……帰るか」

 

という亮の提案に、二人は頷く。

 

その直後、また聖なる神の意志に従ってこの世の位置関係が服従した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜は深け終わった時間。後はこれから陽が登っていくだけ。そんな時間になる。あの後戻ってきてから、別れの挨拶なんてものはしていない。なんて切り出せばいいか分からなかったから、由紀は入浴後に寝たし、愛菜は帰って早々に自室へと戻っていった。二人とも、亮の今後については言って来ない。切り出すには、自分から行かなければならない。

ならばとさっさと行動に移すのがいいのだが、イマイチその気に慣れなくて。

自分ではない他の誰かの記憶によれば、「また会える」とか「俺が居なくても元気でな」とか、そういう気の利いた言葉を投げ掛けるのが良いらしいが、どうにもしっくり来ない。

 

結局、これも自分がここと離れたくない言い訳なのかもしれない。

 

そこまで自覚したら、やっとその気になった。本当に心の底から自分の為したいことをなす。そのためにその他全ては切り捨てていい。

覚悟を決めてから、亮は愛菜の部屋への扉を開いた。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

愛菜は何とも気持ち良さそうな顔で寝ていた。昔と、彼女を拾った時と変わらない、安心し切った寝顔だ。

 

「(ホント変わんねえな)」

 

昔は食事への欲求だけがやたら強かった。言葉が分からないからか表情で色々伝える事が多かった。亮やナナシ以外の人間が怖いのか、外の人にはビクビクしていた。それが今じゃ別人のようなで……けれど寝顔だけは変わらなくて──

 

「……あれ、亮?」

 

愛菜が目を覚ましてしまった。

 

「……」

「……あれ、もしかして夜這いってやつ?」

「寝ぼけたこと言ってんな。起こして悪いな。実は──」

 

と、先程決めた覚悟の元、告げる。

 

「──あの闇の中に連れてってくれ。試したい事がある」

 

ハズが、この土壇場で日和った。

それを認めたくないので、頭をフル回転させ「結局やることの内容は変わらないから、無用な殺生を避けただけだ」と自分に言い訳する。

 

「えぇ……そんな思いつきで私の睡眠邪魔したの……まぁいいけどさ」

 

よっこいしょと言いながらベッドから這い出て、極術、深淵を発動させる。

光のないこの部屋の床に、亮と愛菜は沈んで行く。新世界の闇の奥深くに住む二人が、そのまた奥の闇へと落ちていく。

 

「……とーちゃくっと」

 

やがて完全なる闇の世界に辿り着いた。どこまでも果てしなく続く闇だけの空間。深淵を扱うものだけが行き来できる、この世とは違う世界。世界の下地か世界と世界の狭間か。

推測でしかないが、もし新世界の者達が考えた後者であるとすれば、この仮説が上手くいくかもしれないと踏んだ。

 

「何するの?」

「真衣のいる世界に行けるかもしれないから試す」

「……とーとつすぎないかなまったく」

 

文句ありげな表情で愛菜が亮を睨む。

 

「悪いな。けど一つだけ……しかも移動できる保証はないし、むしろできない可能性の方が高い」

「……どゆこと?」

 

そんな曖昧なものの為に起こすなと言いたかったが、そこは堪える。

 

「一つ、恐らく異世界の物だと思われる単語を聞いた。それを目標にして聖移を使えば行けるかもしれないと踏んだ。が、無理だった。けれどここからならどうかと思ってな」

「ここからなら行ける理屈は分かんないけど……なるほど」

「かなり安直な考えだからな。ただ試す価値はあるってだけだ」

 

世界の移動がそう簡単にできるわけがない。いくら「聖移」を持ってしても、ある情報は「異世界」と「オールヴェール」という何かだけだ。 それに何より、真衣がわざわざこちら側から向こうに言ったことを言伝で伝え、優衣を消さなければならない事態。神たる真衣の力が及ばない世界に、たかが盗んだ神術で行けるとも思えなかった。

 

「わざわざこんな事のために起こして悪いな」

「まぁいいけど……たださ……」

 

愛菜が吃る。どうにもその後の言葉が紡げない。

 

「……試すなら!試すならほら、私も混ぜてよ?」

「……連れてけってか?」

「うんっ!別にそれくらいいいでしょ?もし成功しちゃっても、同じ理屈でその、異世界とやらからこっちにまで戻って来れるかもしれないし」

「理に叶ってるな……ン、いいだろう」

 

と、亮が頷いてみせる。確かにそれは、愛菜を失わない完璧な方法だ。

 

「なら、行くぞ」

「おけい!あ、パジャマだからもし移動しちゃったら服お願いね」

「ン」

 

闇の中で二人が構える。どうせこのやり方では失敗するだろうが、やるからには真剣に取り組む。

 

「(オールヴェールの元へ)」

 

人名か、地名か、はたまた術名なのか全く分からないが、取り敢えずそう思って神術「聖移」を使う。

 

ちなみに、行くのは自分だけだ。愛菜を連れて行きはしない。

 

その結果。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……失敗?何にも起こらないね?」

 

と、愛菜が亮に問い掛ける。

 

が、返事はない。

 

「…………」

 

この場に、自分しか居ない事は、自分が一番よくわかっていた。

 

「………………ん……そっか……」

 

という愛菜の言葉が、闇に溶けた。

 

 

 

 

根本亮は、こうしてこっちの世界から姿を消した。こちら側の世界を、新世界の家族である愛菜と由紀を捨て、ただ自分が一番会いたい者の元へ一人で向かった。

 

 

それはつまり、根本愛菜の幸せな時間の終わりを意味している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

根本愛菜は、ふと彼の言葉を思い出した。どういう成り行きだったかは思い出せないが、彼と生活する様になって割と直ぐの話だったと記憶している。彼の言葉もかなり断片的にしか思い出せないが、それでもゆっくりと思い出し、心の中で相槌を打っていく。

 

「──そうして帰る場所がなくなって、ようやく孤独を実感して、世界が歪んで見えた」

 

今、私もそう見える。

 

「俺達を認めなかった世界に価値はない。あいつの居ない世界に、価値はない」

 

ない、そうだ。あなたの居ない世界に価値はない。

 

「……もし、もし誰か一人でもそばに居てくれたら、俺はこうはならなかったのかもな」

 

その誰かに、私はなれなかった。

 

「どうしようもない、世界の規律のために全てを奪われたから。あらゆる規律を否定し続けた。人の矜恃を、法律を、信念を、愛を、人の信じる神を、片っ端から壊した。そうしないと、俺はきっと、自分で自分のした事が正しかったと認められなかったからだ」

 

だからこれは、私が受けるべき罰なのだろうか。いつまでも、彼の弱さを見ようとしなかった私は、こうなるしか無かったのか。

 

「だからまぁ……なんだ、結局、お前は、俺みたいになんなよ」

 

あなたみたいになってしまったから、こんなにも──

 

「(まぁいい。考えも仕方ない)」

 

と、心の中で吐き捨てて、愛菜は立ち上がった。

 

『時間だ』

 

と同時に片耳に装着した通信機からナナシの声を聞く。

 

『目標はその施設の最深部にいる』

 

今一度ナナシから目標について話されるが。

 

「別にもういいわよ。さっさと終わらせて帰りましょ」

 

由紀が止める。さっさと済ませて明日の学校のために寝たいのか、もう既に右腕の四本の触手が一本に集まり、巨大な刃物に変化していた。半月の様に形どった刃物が、投影された月明かりに照らされて不気味に輝いている。

 

『そうか。しくじるなよ』

「「ん」」

 

と、二人揃って声を出して、夜の闇の中で狩りを始める。新世界の平和のため。

 

そしてなにより、深淵の世界を研究し、異世界へ向かうためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金属がぶつかり合う音や「魔法(まほう)」の生み出す暴風や灼熱やらの音が、玉座の間に響き渡っていた。数少ない光源だったキャンドルの火は半分以下にまで数を減らし、敷かれていた赤い絨毯はボロボロになっている。

 

魔王と勇者のパーティによる戦いは中盤戦に差し掛かっていた。

 

「みんな、もう少しだ!!」

 

右目に四角形。左目に横線を宿した勇者が、その目に対応した魔法を発動させ、パーティのステータスアップを図る。予め準備しておいた力を上げるスクロールは使い果たしたので、魔力の残量は気になるが仲間の指揮を上げる意味でも必要な措置だった。

 

「小賢しい。その程度の力で我を越えられると思うたか!!」

 

紫色の肌を持った人型の生物。魔物達の頂点に君臨する魔王が、左手の杖を掲げた。これから発せられる魔法は先程見たばかりなので──

 

「させません!!」

 

と、大きなハットを被った少女が杖を掲げた。それとほぼ同じタイミングで両方の瞳に宿した魔法陣が変化する。二重の円の間に入っていた文字列が変化したのだ。

これにより発生する魔法は「障壁」の魔法を最大限に強化した物だ。それが戦闘パーティメンバー達に付与される。

 

「さんきゅ!!これなら……行ける!」

 

ステータスアップを発動させた勇者が伝説の聖剣を構えて魔王へと詰め寄った。

 

「くっ……小賢しいと言っおるだろう!!」

 

魔法による攻撃をやめて、魔王は杖を自分だけの固有空間へと仕舞い、代わりに魔剣を取り出した。

 

「うおおおおっ!」

「おおおおおっ!!」

 

二人の雄叫びが響き渡る。これからぶつかり合うは二つの極限同士の衝突。

 

この一撃で押し負けた方が今後の流れを掴み取るはずだ。誰しもがそう息を飲んで見守った──その矢先。

 

 

 

 

「移動できんのかよ」

 

その間に。人の形をした者が現れた。

 

「「っ!?」」

 

突然の来訪者に勇者と魔王は慄くが、止まることはできない。

もう二人の剣は振り下ろされている。それはつまり、その突然現れた者を斬る形になる。

 

──ガンッ!!

と、聖剣と魔剣がぶつかり合った。突然の来訪者を斬る形で。

 

「ン……どういうところに割って入っちまったんだが……」

 

けれど、その間の者は全くと言っていいほど、それを意に介さない。

勇者と魔王はその異常を見てとって離れる。間の者は、斬られたはずなのに、まるでそんな事は無かったと言わんばかりに再生していた。というより、そもそも斬った感触などなかった。

 

「誰だ、貴様は?」

 

堪らず魔王が疑問を投げる。

 

「魔王の下僕ではないのか……なら、誰かは知らないが、ここは危険だ!早く逃げろ!」

 

対する勇者はそう警告する。魔王の味方でない人類なら、それは等しく自分が守るべき存在なのだから。

 

だが。

 

「……この舞台背景といい、ファンタジー世界の魔王と勇者の決戦か」

 

間の者は──魔人亮はニヤリと不気味に口元を歪めた。

 

「いい加減起きろ八代。ちょうどいいチュートリアルだ」

 

と、同時に、彼の背中から一体ずつ、狐の顔の骨が出現していく。

思わぬ現象に、彼らは黙って見ているしかなかった。だから、容易に八体の狐の顔の骨が出現してしまう。

 

『寝て起きたら異世界だった件。妾もしかしてラノベ主人公!?』

 

また要らぬ知識を身につけきた八代への文句は辞めておいて、亮はこの場に居る者達に対して声を上げる。

 

「お前らがどういう流れで戦っているのかはどうでもいいが……」

 

言いながら、右掌を黒く歪ませ、二度と使わないと決めた誓いの刀を取り出す。

 

「お前らの積み重ねてきた譲れない想いを総動員して、奇跡でも起こして、俺を超えて見せろ」

 

こうして、元無敵系中ボスのチュートリアルが始まった。




はい。終わりです。途中で莫大な時間をあけましたが、お付き合い頂いた方々、本当にありがとうございました!
無難な「俺達の戦いはまだまだ続く」エンドですが、まぁこれから後の話は鈴木数馬君のお話なので知りません。

魔人君のお話は次回作「読まなくなった本、魔導書、スクロール、買い取ります!」に続きます。多分今月中に第一話上げると思います。次回作では魔人君は主人公の保護者役、つまりはサブキャラにまで落ちぶれますが、気になる方はぜひお目通し頂ければと思います!
遥か昔にデスノで調子付いたせいで地の文章の大切さを忘れていたせいで、かなり下手な文章になってしまったのが心残りですorz
次回作はなんなら多過ぎるかなくらいな勢いで書かせてもらってます!

ちなみにこちら側でもまだ投稿はする予定ではあります。魔人君の過去話やら愛菜(ロリ)の話しやら、なんだかんだ没にした葛葉十花√やらですね。

何はともあれ、読んでいただいた方、評価していただいた方、感想をくれた方々、本当に、本当にありがとうございました。次回作もマジで、よろしくおなしゃす!

だって次回作で無敵キャラ欲しかったからこのお話書いたんだもん……
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