ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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*ここから先、原作と話が大幅に異なりますので、ご了承の上ご覧下さい。


フェアリーダンス編 トゥルースバンド
終わらない旅


2025年1月4日 『玲奈,零士宅』

 

 

〈零士 side〉

 

 

 正月明けた朝、俺は家でひとり、ぐうたらしているのだった。この時期何かあるわけでもないので、毎年ゴロゴロしているだけなのだ。まぁ、いつもこの時期になると姉貴の食欲が膨れ上がるため、飯当番の俺は食事を作るのに忙しかったが。

 だが今年に限っては違った。姉貴が返ってこないのだ。

 2ヶ月前、SAOクリアにより現実世界に戻ってきた俺は、病院のベッドで目を覚ました。完全に痩せ細り、リハビリを含め1ヶ月間入院していた。そして、1ヶ月の入院生活を終えて家に帰ると、そこはもぬけの殻だった。

 見舞いにも来なかったから、大学の友人と長期出かけているのかと最初は思った。しかし、日めくりカレンダーは一昨年7月半ばで止まっていた。流石に1年半も講義に出ないということはないだろうから、大学の友人のとこに居座ってるのか?いや、だとしたらなおさら見舞いに来なかった理由にならない。あのお人好しが、弟のことが心配にならないはずがない。

 なら、たまたま大学側で何かしらのことがあり、俺が目を覚ました時期とちょうど重なったとか。あり得る話だ。俺は大学で何があるのか知らないし、そんなことがもしかしたらあるのかもしれない。だったら、大学側に聞けば何かわかるのか?気にはなるし、一応今日の昼頃に行ってみることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『東都工業大学』

 

 

 30分程で到着した俺は、早速訪ねようとしたが……

 

「どう聞けばいいんだ?」

 

 ここに来るのは初めてだし、姉貴がどこに所属しているのかもちゃんと聞いてなかったからどこを探せばいいかわからないし、そもそもその部署みたいなとこがあるのかも知らないし、誰かに聞くとしてもこんな見知らぬ輩に他人の個人情報を教えるような人はいないだろうし……

 

「君、そこで何をしているのだ?」

 

「おわっ!」

 

 不意に声を掛けられ間抜けな声が出た。振り返ると、口周りにひげを生やしたメガネの男性が俺を不審そうに見ていた。

 

「ここに何か用か?」

 

「え、っと……」

 

 落ち着け、ここでは怪しまれるだけ、冷静になれ。俺は自分に暗示をかけるように唱えた。

 

羽矢波(はやなみ)玲奈(れいな)を探しているのですが、彼女を見ていませんかね?」

 

「羽矢波君を?」

 

 彼の表情が変わった。俺はここに来た経緯を簡潔に話す。

 

「そうか。君、名前は?」

 

「零士です」

 

重村(しげむら)だ。とりあえず、私の研究室にきたまえ」

 

 そう言って、重村と名乗る男は大学の敷地内に入る。俺もその後を追う。

 彼に連れられた場所は、重村ゼミというとこだった。どうやら彼は、このゼミの教授らしい。

 

「適当に座ってくれ、今日は誰も来ないだろうし」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

 俺は近くの椅子に腰を下ろす。

 

「改めて、私は重村徹大(てつだい)、東都工業大学電気電子工学科で教授を務めている。そしてみての通り、ここが私たちの研究室だ」

 

「ここでは一体何の研究を?」

 

 俺がそう尋ねると、彼はよくぞ聞いてくれた、と言わんばかりの笑みを浮かべ答える。

 

「『ブレインマシンインターフェース』、我々が研究しているのは脳科学だよ」

 

 彼は頭を指さし、そう言う。

 

「ってことは、VR機器といったところか?」

 

「確かにそれも研究対象だ。しかし他にもある。それが」

 

 重村と書かれた机の上から小さな機械を持ち上げ、言葉を続ける。

 

「AR機器だ」

 

「AR?」

 

 初めて聞く言葉に復唱する。すると、重村教授はホワイトボードの方へ歩きながら説明する。

 

「VRがゼロから世界を作り出すなら、ARは現実に付与するのだ」

 

「つまりどういうこと?」

 

「簡単に言えば」

 

 そう言って、ホワイトボードに絵を描き始める。中心には「現実」を囲う円が書かれた。そしてその周りに円をくっ付けていく。

 

「ここに、新たに情報を付け加えるというものだよ。情報を装備させると言えば、わかるかな」

 

「まぁ、何となく」

 

「事例を挙げるなら、ナビシステムがいい例だ。視界に順路を映し出し、常に情報を更新し続ける。これにより、道に迷うことなく目的地にたどり着けるし、何より歩きスマホと違って、脳に直接信号を送るため周りもしっかり見渡せるのだ」

 

 それはすごい発明だ。この技術はいづれ人々を熱狂の渦に巻き込むだろう。

 

「それを実現したのが、この『オーグマー』だ」

 

 そう言って、先ほど机から取った機会を俺に見せる。

 

「へぇ~、『ナーヴギア』と比べたら随分と小さいんですね」

 

「確かにあれよりも小さくて軽いが、性能は負けずとも劣らずだよ。軽量化したのは、家庭用ではなく携帯用として制作してからでもあるんだ」

 

 言われてみれば、あんなヘッドギアをつけて出歩いただけで首がもげそうだ。そうなると、これが理想的な形なのか。

 

「ただ、時代はまだVRのようだがね」

 

「と、いいますと?」

 

「君は『ナーヴギア』の恐ろしさは知っているだろう」

 

 その言葉に俺は答える余裕もなく、唇をかみしめた。あの大量殺人兵器を一時的にかぶっていたと思うと、今でもゾッとする。

 

「その半年くらい後に、『アミュスフィア』というあの機械の後継版が出てきたんだよ」

 

 俺は驚きと怒りのあまり声を荒げる。

 

「なんで?そんなもの、誰が欲しがるというんですか!?」

 

「少し落ち着きなさい」

 

 重村教授の言葉に目が覚める。

 

「……すみません、取り乱してしまいました」

 

「無理もない。君もあの惨劇を目の当たりにしたのだ」

 

 俺は、あの世界でいろんなものを見てきた。つらいもの、苦しいもの、中には怒りに満ち溢れそうになるものも。それでも、ソードアート・オンライン(あの城)での出来事はかけがえのないものだと思っている。だからこそ、逃げるわけにはいかない。

 

「もう大丈夫です。続けてください」

 

「わかった。まずは『アミュスフィア』について話そう」

 

 そして、重村教授はその機械について話してくれた。

 SAOを生みだしたアーガスに社は俺たちが囚われた後、莫大な借金を抱え解散。そのあと、SAOサーバーはレクト社に託されたようだ。その半年後に絶対安全を謳う『アミュスフィア』が発売された。発売当初は売れ行きは悪かったらしいが、さらに半年後に発売されたVRMMOが今の状態まで押し上げたそうだ。

 

「そのゲームが、『ALfheim(アルヴヘイム) |Online(オンライン)』だ」

 

「アルヴヘイム・オンライン。確かアルヴヘイムは、北欧神話で出てきた妖精の国でしたよね」

 

「そう。アルヴヘイム・オンライン、ALOと呼ばれるこのゲームは、北欧神話をモチーフにした世界観から成り立つゲームだ。おまけにプレイヤースキル依存、レベルはなくスキル反復で上げる他ないうえにPK推奨という、相当ハードな物らしい」

 

 PKありということは、SAO(ソードアート・オンライン)でタブーとされたプレイヤー同士の殺し合いが、そのゲームの中では容認されているということになる。

 

「よくあの状況の中、世間に受け入れられましたね。ただでさえ危険と思われていたとこに加えて殺し合いOKなんて聞いたら、誰も手を付けようなんて思わないだろうに」

 

「ALOがあそこまで支持されているのは、別の理由があってね」

 

「別の理由?」

 

 俺は首を傾げる。

 

「ALOは妖精をモチーフとしているのは、多分気づいていると思う」

 

「えぇまぁ……」

 

 重村教授は少し躊躇い、そして衝撃の単語を口にする。

 

「ALOでは、飛べるんだよ」

 

「は?」

 

「ALOでは空を飛ぶことができるんだよ」

 

「それはさっき聞きました」

 

 つい、教授にツッコミを入れてしまった。我に返った俺は慌てて話題を戻す。

 

「そ、それはそうと、空を飛ぶってどういうことですか?」

 

「言葉の通りだよ。フライト・エンジンの搭載による飛行システムでプレイヤーは自身の翅を使って自由自在に空を飛べるようになった。制限はあるらしいがね」

 

 専門的な用語と思われる単語に少々戸惑いはしたが、何となく理解した。

 

「そのシステムのおかげでALO、そしてVRゲームが普及してきたわけか」

 

「そういうことだ。現に、SAOのような事件は発生していないようだ」

 

「だとしても、あの時期にVRゲームを出す理由がわからない。批判が殺到するのは明らかだったはずだ」

 

「それは……」

 

 重村教授は壁にかかった写真に目を向けて言った。

 

「須郷君が、茅場君を超えたかったのだろうと、私は思うんだよ」

 

「須郷?」

 

「私の隣に茅場君がいるだろう。その隣にいるのが須郷伸之だ」

 

 前髪を上げ額を出したメガネの男性、彼がそうらしい。俺は彼を1度見たことがあった。

 あれは、姉貴が友人と茅場を家に連れてきたとき、一緒にいた。終始穏やかな表情をしていたのを覚えている。写真に写る彼も同じ表情に見える。だが、あの時とは少し違う感じがした。

 しかし、俺はそこまで深く考えはしなかった。

 

「もしかしなくても、彼が『アミュスフィア』を?」

 

「そうだ。彼はレクトの社員だ。そして、『アミュスフィア』やALOの製作にも携わっている。彼は茅場君の後輩でね、いつも茅場君の後を追っていたよ。っと、これを君に言っても仕方ないか」

 

 実際、須郷という人と1度でも話をしたことがあるわけでもない。そんな人の話をされても反応に困るだろう、そう思ったのか重村教授は話を終える。

 

「そういえば、君はここに姉を探しに来たのだったな」

 

「あ、はい」

 

 唐突に本題へと入った。

 

「残念ながら、私も近頃彼女の姿を見ていないんだよ。申し訳ないね」

 

「いえ、それを聞けただけでも助かります。お忙しいところ、失礼しました」

 

「構わんよ、また来るといい」

 

 俺は一礼して、その部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈み始めた頃、俺は電車に揺られながらALOのパッケージを眺めてた。大学を出た後、近くのゲームショップで買ったものだ。アミュスフィアも買おうか迷ったが、一応ナーヴギアでも動くらしいし、帰りの分も考えやめておいた。

 とはいえ、またあの機械を使うのは勇気がいるなぁ、と内心呟く。

 車窓には俺の姿と真っ赤に染まる夕陽が映っていた。それを見るたびに、脳裏であの世界の最後の景色がちらつく。まるで、まだ終わってはいない、と俺に語り掛けるように。

 実際そうなのかもしれないと俺は思う。俺がALOを手に取ったのは、もしかしたら姉貴がいるかもしれないという淡い期待に賭けてみたこと。そしてもうひとつ、重村教授の話を聞いていた時、胸の底から湧き上がる感情があった。今まで感じたことのない衝動は俺の中でずっと唸り続け、気が付けば俺はALOを手にしていた。

 

「……これをやれば、俺の中の何かを知ることができるのかな」

 

 人気のない車内で俺はそう呟く。

 帰宅するなり、俺は自室においてあるナーヴギアを取り出す。本来なら回収されるはずのものだが、俺はこれを手放すことができなかった。もしかしたら、その時からこうなることを知っていたのかもしれない。

 そんなありもしない考えを振り払い、俺はそそくさとALOをセットする。

 準備が整い、俺はベッドに寝そべる。そして、ナーヴギアを被り、合言葉を叫ぶ。

 

「リンク・スタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 『桐ヶ谷宅』

 

 

《和人 side》

 

 

 学校が休みなこの時期、俺、桐ヶ谷和人は部屋でパソコンをいじっている。画面には、新しく作られたVRMMOのアルヴヘイム・オンラインについての記事が映っている。俺が眠っている間に、他のVRゲームが世に出回っているとは思わなかった。

 2年もの間、ソードアート・オンラインに囚われ、幾多の死線を駆け抜けてきた。そして、今から2ヶ月前、悲願のゲームクリア果たし、おれたち現実に戻ってきた。

 ゲームクリアした2時間後、今回の事件の主犯である茅場晶彦が警察に出頭した。VR界の天才科学者は史上最大の集団殺人者として、世界から消え去った。

 あいつの行動は確かに許されたものではない。だが、俺はあいつを恨んでいるわけではない。あいつの作った世界、そこで、俺はかけがえのないものを得た。あの世界での記憶はどれも大切なものだ。だからこそ、あの事件を体験した後でも、俺はVRワールドに身を投じるのだ。

 それは、俺に限ったことではない。

 

「さて、もう直かな」

 

 俺が呟いた刹那、携帯が鳴る。俺はそれを取り、画面に出ている名前を見る。。そして、応答ボタンをタップする。

 

「もしもし、そろそろ来る頃だと思ったよ。明日奈」

 

『あ、キリト君。今ちょうどついたとこだよ』

 

「了解、すぐ迎えに行く」

 

 そう言って、1階の玄関へ向かうために部屋を出る。

 

「あれ、お兄ちゃん?どうしたの、ご飯の時間はまだだよね?」

 

 俺の出た部屋の隣から、黒髪ショートヘアの女の子が顔を出す。

 

「あぁ、スグ。今から人を迎えに行くんだ。といっても、その人は玄関先にいるんだけどな」

 

「ふ~ん、そっか……」

 

「何か、あったのか?」

 

「へ?い、いや、何でもない……」

 

 何か物申した気な顔をしていたが、スグは何も言わずに部屋へと戻っていった。

 彼女は桐ヶ谷直葉、現在卒業間近の女子中生で、俺の妹でもある。だが、俺たちは本当の兄妹ではない。

 幼くして、俺は両親を亡くし、桐ヶ谷家の養子になった。つまり、スグとは血が繋がっていないのだ。

 それを知ったのは俺が10歳の時だった。それからは、家族の中で距離を置くようになり、その頃からネット世界に陶酔していった。その頃の俺は、心が落ち着く場所を探し求めていた。その末にたどり着いた場所が、仮想世界だ。

 そして、あのSAO事件で過ごした2年間、そこで俺は他人との関わりと現実で生きる力を得た。おかげで、現実に戻ってからは徐々にスグたちとの距離を縮めるようになった。今では、本当の家族のように接することが出来るようになった。

 しかし、スグは俺との関係をまだ知らない。俺は、この先どう付き合っていけばいいのか悩んでいる。このまま知らずにいることが、スグにとっていいのか。最近はそう考えることが多い。

 スグの部屋の前であれこれ考えこんでいると、ピンポ~ンとチャイムが鳴る。俺は急いで玄関へと向かう。

 玄関の扉を開けると、そこには栗色のロングヘアの美形女子が立っていた。

 

「おまたせ、明日奈」

 

「こんにちは、キリト君」

 

「おいおい、こっちでは『和人』だろ」

 

「あっ!そうだった、ごめんね。2年間ずっと『キリト君』って呼んでたんだから、なれるのに時間がかかるんだよ~」

 

 彼女は胸の前で手を合わせて言う。

 

「とりあえず、上がってくれ」

 

 そう言って俺は、明日奈を家に上げる。

 彼女、結城明日奈は、俺と同じSAOのプレイヤー、世間でいう『SAOサバイバー』である。彼女もあの世界で戦い続け、生き残り、そして現実世界へと帰還した勇敢なる剣士だ。さらに付け加えると、彼女は俺の恋人でもある。SAO(むこう)の世界で夫婦となった俺たちは、現実でもよく会っている。

 

「明日奈、アミュスフィアはちゃんと持ってきてるよな?」

 

「もちろん!」

 

 そう言って、明日奈は鞄からアミュスフィアを取り出す。今日彼女がここに来た理由は、ずばり『ALO』だ。彼女の家では、VRゲームをやることに許可が下りないらしい。まぁ、あんな事件の後じゃ、容認する方が難しいのかもしれないが。

 そんなわけで、彼女はこっそり俺の家で遊ぼうということになったのだ。そう、これはただ彼女と一緒にゲームをするだけである。別に他意はない。

 そうこう考えているうちに、俺の部屋にたどり着く。

 

「さっ、入ってくれ」

 

「失礼しま~す」

 

 明日奈に続いて、俺も部屋に入る。

 

「じゃあ、準備するから少し待っててくれ」

 

 そう言い、明日奈のアミュスフィアを預かりセットする。ものの数分で準備が終わり、俺と明日奈はダイブするために寝転がる。

 

「明日奈、そこのベッドを使っていいよ。俺はそこら辺に寝るからさ」

 

「いいの?キリト君もこっちに寝てもいいんだよ」

 

「さすがにここじゃ、マズいだろ」

 

 俺はそう言って、床に寝そべる。

 

「じゃあ、向こうでな」

 

「わかった」

 

 明日奈もアミュスフィアを取り付け、横になる。そして、2人揃ってまたあの世界へ旅立つ。

 

「「リンク・スタート!」」




~~ALO談話室~~

和人「やあ、今日はALOについて説明するよ。ALOは、北欧神話をモチーフとした妖精たちの物語だ。この世界では、SAOとは違って空を飛べたり、魔法を使えたりするんだ。フィールドは、森や湖、洞窟や山まで様々な大自然で出来ている。広大な世界を楽しむことができるんだぜ。んで、プレイヤーはまず、9種族の妖精から好きな種族を選んでプレイする。それぞれ特徴があるんだが……そ、それはまた次回だな。今日はここまでだ。次回『森の妖精と火の妖精』。それじゃ、またな」

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