ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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森の妖精と火の妖精

〈和人 side〉

 

 

仮想世界へダイブした俺は、アカウント登録するためのブラックボックスの中にいた。何処ともなく、女性の電子ボイスが聞こえてくる。俺はその音声の指示に従い、キャラクターを作成する。キャラクター名を〈kirito〉と迷いなく打ち込む。

 次に、アバター設定に移る。といっても、ここで決めることは9つある種族の中から好きなものを選ぶだけだ。それぞれ特徴があるようだが、俺はそれには目もくれず『スプリガン』を選択する。理由は、初期装備が黒くて俺好みだったからだ。

 そんなんで、あらゆる初期設定を終えた。最後に、幸運を祈ります、とひと言添えられて送り出される。

 この後は、各種族のホームタウンからスタートすると言っていた。となると、スプリガンを選んだ俺は、スプリガン領に送られることになる。このとき、俺は明日奈と離れてしまうかもしれないと気づいた。

 

「種族のこと話し合っておけばよかったなぁ」

 

 まぁ、向こうに戻ればすぐに会えるし、偶然同じ種族を選んでいるということもあるかもしれない、と考えていたその時。俺を取り囲む黒い空間が、砂嵐のような音を響かせ揺らいだ。

 

「な、なんだ!?」

 

 取り乱す時間を与える暇もなく、足場が崩れ去る。そして、俺の体は重力に従って落ちていく。

 

「うそだろぉぉぉ!」

 

 俺の叫び声は、虚しく空に消えていく。

 

 

 

 わけもわからず投げ出された俺は、何もできないまま無様に頭から落ちた。

 

「あがっ!………っててて、いきなり落とすのはひどいなぁ」

 

 俺は上体を起こし、頭を摩る。結構の高さから落ちたため、それなりに痛かった。

 痛みが引くと、俺は立ち上がって周りの様子を窺う。どうやらここは、森の中のようだ。近くに気配は感じないので、とりあえず一息つく。フィールド内とは言えど、気を張りっぱなしでいるのは疲れる。だからこういう時こそ、気を休めるのだ。

そして、深く息を吸い込む。2ヶ月ぶりのVR空間の空気は、俺の心を落ち着かせてくれる。

 などと思っていた時、空から何か聞こえてくる。それはどんどん近づいてくる。その音が真上から近付いているのに、そして誰かが落ちてくることに、俺は気づくのが遅れた。

 

「いやぁぁぁあああ!」

 

「おわあぁぁ!」

 

 空から降ってきたその人は、俺を下敷きにした。再び地面に叩きつけられた俺は、立ち上がろうと手を動かす。

プニ

 掌に、柔らかな感触が伝わる。何かはわからないが、何となく懐かしい感じがした。

 

「いっ、やぁぁぁ!!」

 

 突如、稲妻のような悲鳴と衝撃が俺の頭を貫いた。地面に打ち付けられた衝撃に脳をグラつかせながら、俺は頭を上げる。そこには、水色の長髪に、同じ色の装備をした女性がいた。さらにしっかり見てみると、馴染みのある顔立ちがあった。

 

「アスナ?」

 

「キリト君?」

 

 俺と彼女は互いに確認し合う。

 

「やっぱりキリト君だ。よかった、最初は離れ離れになるのかなと思って、ちょっと寂しかったよ」

 

「俺もさ。こうして一緒にプレイできるのは願ったり叶ったりだな。妙なバグに感謝しないとな」

 

 あれがなければ、俺たちは別々の場所からスタートすることになっていた。どうあれ、これからアスナとともに旅ができる。

 

「そういえばなんだったんだろうね。いきなり森に放り出されるんだもん。ビックリしちゃった」

 

「確かにな、おかげで入って早々から地面に頭を3回も打ち付けられたよ。今でも少しクラっとするよ」

 

「ごめんね、大丈夫だった?」

 

「いや気にするな、アスナが無事ならいいさ」

 

 そう言うと、アスナは安堵し息をつく。すると次の瞬間、アスナは満面の笑みを浮かべた顔を上げ、ゆっくりと重みのある口調で言う。

 

「ところでキリト君。私が落ちてきたとき、何か触ったよね?」

 

 突然のことに、俺は腑抜けた声が出た。

 

「あ、あぁ。なんかこう、柔らかいものを……」

 

 このとき、俺の脳内である一件がフラッシュバックした。3ヶ月ほど前、75層転移門で今と同じようなことがあった。その時は、問答無用で引っ叩かれた記憶がある。

 そして今回、またしても同じことをしてしまったことに気付いた俺は、頭の中でパニックを起こした。

 

「いや、違う!これは……別に悪意はなかったし、その……ふ、不可抗力とかいうやつだよ!だからアスナさん、落ち着いて!」

 

「問答無用!!」

 

「あああぁぁぁ!!」

 

 こうして、俺の頭は4度目の衝撃を受けた。

 

「それにしても、ここはどこなのかしら?」

 

 俺を打ったアスナは森を見渡し、そう言う。俺は起き上がり、アスナに提案する。

 

「マップでも確認するか」

 

「どうやって?」

 

「……どうするんだろう?」

 

 俺とアスナは目を見合わせる。

 

「ウィンドウ開いたらマップ出てこないかなぁ」

 

 俺はそう言って、右手を振り下ろす。しかし、何も起こらない。

 

「キリト君、ここでは左手で呼ぶんだよ」

 

 アスナは左手の人差し指と中指をあわせて、振る。すると、鈴の音を響かせ、ウィンドウが出てきた。俺も同じようにウィンドウを開く。

 まず目に入ったのが、自身のステータス画面だった。そこには、見慣れたスキルと数値があった。

 

「このステータス、SAOの時のステータスと全く一緒だ」

 

「キリト君も?私もそうなんだけど」

 

 どうやらアスナも同じようだ。もしかしたら、SAOのデータがこっちに引き継がれているのかもしれない。

 そう思ったとき、俺はあるものを思い出した。俺は画面を操作して、アイテム画面まできた。

 

「うわぁ……アイテム全部文字化けしてるよ」

 

 この様子だと、愛剣のエリシュデータとダークリパルサーもダメかな。でもあれだけは、そう思ってアイテム画面をスクロールしていると、ひとつだけ、読めるものがあった。それは、俺の探していたものだった。

 

「あった。アスナ、これ」

 

「なに?」

 

 俺は画面をアスナにも見えるようにした。それを見たアスナは、口を押え目を見開いた。

 

「キリト君、これって……」

 

「あぁ、俺たちの大事な家族だ」

 

 そこに書かれたいたのは、『MHCP001』。俺はそれをオブジェクト化する。オブジェクト化されたのは、小さなクリスタルだった。その中で、白い光が呼吸するように光っている。俺はそれを軽くたたいた。すると、クリスタルはみるみる輝きを増していき、あたりがホワイトアウトする。

 目を開けば、そこには黒い髪を腰くらいまで伸ばした白いワンピースの少女の姿が、愛しき娘の姿があった。

 

「ユイ、俺だ、わかるか?」

 

「ユイちゃん、私よ、わかる?」

 

「……はい、パパ、ママ。また、会えました」

 

 彼女は涙を浮かべ、俺たちの下に飛び込んだ。

 ユイ、SAOで出会ったAIだ。彼女は他とは違って、疑似的な感情をインプットされている。そのため、人間と同等の感情を持ち、自我もある。そして、彼女は俺とアスナの子だ。血のつながりはなくとも、俺たちは固い絆でつながっている。

 感動の再会の後、ユイは核心的なことを尋ねる。

 

「あのぉ、ここはどこなんでしょうか?何故か、いつもと違う感じがするのです。それに、パパたちの姿も少し違うような……」

 

「あ~……えっとなユイ、ここはSAOじゃなく、別の世界なんだ。でも、今の俺とアスナのデータはSAOのデータなんだ。まぁ、そのおかげでユイとも会えたんだが、、俺たちもよくわからないんだ」

 

「そうでしたか。では、少し待っててください」

 

 ユイはそう言って目を閉じ、見えない何かと会話する。

 

「ここは『アルヴヘイム・オンライン』、そして……」

 

 そこでユイは目を開け、俺たちに告げる。

 

「『ソードアート・オンライン』サーバーをコピーしたもののようです」

 

「コピーって、ユイちゃん本当?」

 

 アスナの問いにユイは首を縦に振る。

 

「パパとママのセーブデータも確認してみました。パパの言う通り、ソードアート・オンラインのキャラクターデータをそのままこっちに上書きされたようです。ただ、アイテムは全て破損しています。このままではエラー検出プログラムに引っかかってしまうので、削除した方がいいです」

 

「むぅ、そうか……」

 

 名残惜しいところはあるが、俺とアスナはアイテム全てを捨てた。

 

「そうだ。ユイちゃんって、ここではどういう存在になるの?」

 

「ふふふ、それはですね」

 

 ユイはふわっと浮かび上がると、体が光り出した。その中からさっきのクリスタルくらい小さいピンクの妖精が出てきた。

 

「この、《ナビゲーション・ピクシー》というものに属してるものとなっています」

 

「じゃあ、前みたいな管理者権限とかあるのか?」

 

 俺がそう聞くと、ユイは少ししょんぼりしながら答える。

 

「いえ……私ができるのはリファレンスと広域マップデータへのアクセスぐらいです」

 

「あ、じゃあマップの確認はできるんだね。今どのあたりなの?」

 

「はい。えぇと、ここは……」

 

「ここはシルフ領よ。それで、スプリガンとウンディーネがここに何の用かしら?」

 

 森の中から、金色のポニーテールをした女性が警戒した様子で現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 『インプ領首都近郊の高山』

 

 

〈レイ side〉

 

 

 種族「インプ」を選んだ俺が最初に来たのは、インプ領のホームタウンだった。俺はまず、装備を整えた。初期金額で上げれるところまでステータスを底上げした。

 次に、マップでこの世界の全体図を確認した。中央にそびえる大樹「イグドラシル」、その木の根の場所には、『アルン』という中立都市、さらにその周りを背の高い山脈が囲う形になっている。山脈の外には、各種族領土が並ぶ。

 それを確認した後、俺はフィールドに出てモンスター狩りを始めた。そして、現在に至る。

 

「……参ったな、ここまでやってレベルアップする様子が微塵もないとは」

 

 かれこれ10分ほど続けたが、一向に強くなる気配はない。もしかすると、ここではレベルが存在しないのか。そう言えば、重村教授がそんなことそんなこといってい言っていたかな。

 これ以上無鉄砲に狩り続けていてもキリがない、と思い始めた。

 

「ある程度倒したし、街に戻って換金するか」

 

 帰路をたどろうとしたその時、後方より高速で近づいてくる音がした。振り返ったらそこに、何者かが大剣を振りかぶっり襲い掛かろうとしていた。咄嗟に剣で受けようとしたが、あまりの大きさに押し返されると判断し後ろへ飛び退く。間一髪で避けた俺は、両足と右腕に力を込め地面を掻き、3メートル後ろで制止する。さっきまで俺が立っていたところは見事なまでに玉砕されていた。もしあれを受けていたら、今の俺の剣は真っ二つにされていただろう。

 

「へぇ、初心者(ニュービー)のクセに、俺の攻撃をかわすか」

 

 真っ赤な装甲を纏ったプレイヤーは、振り下ろした剣を右肩まで持ち上げる。そいつの顔は、兜をかぶっているため見えない。しかし、声色から察するに男だ。

 

「いきなり不意打ちとはな。この世界も、大分危なっかしいな」

 

「仕方ないさ、ここじゃPK推奨なんだから、な!」

 

 話の途中に彼は、また大剣を振り下ろす。今度は完璧に見切って、最小限の動作でかわす。そして、流れるように敵の右肩に切り込む。命中はしたが、固い鎧によって、ダメージの大半は遮断された。

 が、彼は度肝を抜かれ、驚きの声が漏れた。そして、振り下ろした剣を力任せに振り回す。

 

「おっと」

 

 反射的に避けた俺は、再び距離をとる。

 

「くそ、調子に乗るんじゃねぇ!」

 

 冷静さを欠いた彼は、まっすぐ突進してきた。大振りの斬撃は単純な軌道で俺を切り裂こうとする。しかし、見え透いた攻撃を受けるわけがない。俺は彼の攻撃をかわし、隙だらけになった彼の首元目掛け、横薙ぎを放つ。見事装甲の薄い部分に入り、それなりにダメージも入った。

 

「ヤバい」

 

 彼はバックステップで距離をとる。

 

「逃がすか!」

 

 俺は薙ぎ払った剣を水平に構え、飛び出した。剣は弧を描き、彼を真っ二つに斬る。

 『ソニックリープ』、かつて鋼鉄の城で汎用された技だ。しかし、元の技と違い、ライトエフェクトやシステムアシストはなく、自力で再現する形になる。そのため、威力は低くなっている。

 だが、今の攻撃で彼の兜は2つに割れ、素顔が顕わになった。

 

「くっ、やられた」

 

「あまりなめてかかると、足元すくわれるぜ」

 

初心者(ニュービー)のわりには、やけに戦闘慣れしてるな。お前、以前何かやってたのか?」

 

 俺は一瞬躊躇った。しかし、隠すこともないので、本当のことを話す。

 

「俺は元SAOサバイバーだ。戦いのすべては、そこで得た」

 

「お前が、あのSAOサバイバーだと……!?」

 

 SAOサバイバーとは、茅場の引き起こしたSAO事件で、生きてゲームの世界から戻ってきたプレイヤーたちのことである。世間では、SAO事件に巻き込まれた者たちを被害者として処理しているが、裏では一危険人物として危険視している面もある。

 実際、ソードアート・オンラインの中でプレイヤー間での、殺し合いがあったことを政府は知っている。しかし、誰がいつ、どこで誰を殺したということを証明するものが存在しないため、法で裁くことができない。それに、直接的に人を殺しているわけでもないし、そもそも正当防衛という可能性がある時点で、正確に判断を下すことができないのだ。そのため、主犯である茅場にすべての罪を押し付け、生き残ったプレイヤーたちは政府の監視下に置かれるようになった。監視下にあるといっても、そこまで厳しいものではないのであまり気にはしていないが。それが、噂となって世間に出回っているということを耳にしたことがある。それでSAO帰還者を差別する者もいるとか、いないとか……

 だからこそ、これに関しては口外することは控えられるようにするという暗黙の了解がある。まぁ、俺は周りの眼を気にするタイプではないので、さほど問題はない。

 彼は俺がSAOサバイバーであることを知ると、敵意を消し去るとともに興味に似た感情を表した。

 

「なら、すっごく強いんだよな?頼む、俺に戦いを教えてほしい」

 

 唐突の掌返しに少し困惑した俺は、ものすごい勢いで頭を下げた彼に話しかける。

 

「わかった、わかったよ。とりあえずいろいろ話を聞きたいし、どこか落ち着ける場所に移動しよう」

 

「ありがとう!よろしくお願いします!!」

 

 調子狂うなぁ、と思った俺だった。




~~ALO談話室~~

レイ「ALOにおいて、種族選択は重要となる。まず、この世界では、種族間では基本敵対関係にある。中には交友関係のある種族や、逆に相当仲の悪い種族もいるぜ。そして種族を選ぶとき重要となるのが、それぞれの能力だ。特技や性質、弱点といったもの、さらにこの世界になくてはならない魔法も、種族によって大きく異なる。自分に合った種族、自分のスタイルに適した種族を選ぶことも大切だ。次回『世界樹』、次回もお楽しみに!」
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