ソードアート・オンライン――オルタナティブ―― 作:焔威乃火躙
あと、次回はおそらく番外編になります。そちらも、ぜひ読んでください。
〈キリト side〉
突如現れた金髪少女の言葉に俺たちは驚きを隠せなかった。
「ちょっと、2人して無視しないでくれる。君たちがここに来た目的はいったい何?」
「……すまない、もう1度言ってくれないか?」
「だから、ここに来た目的……」
「そこじゃない、もう少し前!」
そう言われた彼女は少し困惑した様子で言う。
「えっと、『ここはシルフ領』よ?」
「やっぱり……ここはスプリガン領でも、ウンディーネ領でもないのか」
半分くらい予想していたが、俺たち2人とも何らかのバグでここに落とされたようだ。しかし、何故そうなったのかはまったくもってわからない。何かが俺たちをここに引き付けたのか。あるいは……
俺がそう考えている間に、アスナが彼女に事情を話していた。
「えぇ!?君たち、今このゲームを始めたばかりなの?」
「あぁ、アバターを作成し終えたら……何故かここに落とされた」
ことの顛末を聞いた彼女は少し唸った後、彼女の見解を話す。
「う~ん。今まで、そんな話は聞いたことがないしなぁ。何かの不具合としか考えられないけど、どうしたらいいかは、私にはわからないわ」
「そうよね。ごめんなさい、変なことに巻き込んで」
「いっ、いえいえ。私の方こそ、力になれなくてごめんね。そうだ!もしよければ、中立の村まで送るよ。そこに行くまではちょっと遠いし、初期装備のまま他のプレイヤーに見つかったらどうしようもないだろうし」
その提案を出した彼女に、アスナは尋ねる。
「いいの?」
「もちろん!私はリーファ、よろしく」
「俺はキリトだ」
「私はアスナ、この子はユイちゃん」
「よろしくお願いします、リーファさん」
「こちらこそよろしく。じゃあ、そろそろ行きましょう」
リーファの背中から薄っすらと翅が浮かび上がってきた。そのすぐあと、リーファは思い出したように俺たちに問いかけた。
「あ、飛び方わかる?」
「マニュアルは見たけど、ちょっと不安かな」
「さっぱり」
俺の言葉に少女たちは苦笑した。リーファはため息をつき、俺たちにレクチャーする。
「じゃあまず、補助コントローラを呼び出すよ。左手を軽く握る形を作って。そしたら、その中にコントローラが出てくるから、それを握ってスタンバイ完了よ」
説明を終えたリーファが実際にやって見せてくれた。それを見て、俺たちもやってみる。言われたとおりにすると、薄緑色のグリップコントローラがポンと現れる。
「へえ、これを使えば自由に飛べるのか」
「そう。手前に引くと上昇、倒すと下降、左右は旋回ね。ボタンは押して加速、放して減速よ」
「なんか、ヘリの操縦機みたいね」
アスナはコントローラを軽く手前に引く。すると、ふわっと彼女の体が浮きあがった。
「そうそう、そんな感じ」
俺もアスナと同じように、こんばんは引く。そして、体が10センチほど浮いた。
「なるほど、こんな感じか」
「キリト君も大丈夫そうね。それじゃあ、ここで詳しい話を聞くのもあれだから、北にある中立域まで飛ぶよ」
リーファはそう言って、翅を出し浮遊する。彼女を見て、俺は少し気になったことを聞いてみる。
「リーファ、ちょっといいか」
「なに?」
「コントローラを使わなくても飛べるのか?」
「まあね。随意飛行っていうんだけど、これにはちょっとコツがいるんだよね」
それを聞いた俺は、興味が湧いてきた。
「俺にも教えてくれるか?」
リーファはびっくりし、アスナはあきれた表情を浮かべた。
「いいけど、結構難しいよ」
「物は試し、ってよく言うだろ。なんとかなるさ」
俺の言葉に彼女は声を唸らせ、暫し悩みこむ。そして、彼女の中で答えはまとまったようだ。
「まぁ、結局後々習得した方がいいだろうし、今やってみるのも悪くないかもね。わかった、教えてあげる」
そう言って、彼女は着地する。俺とアスナも降りて、彼女のレクチャー第二幕が始まる。
「今翅を出してるでしょ。この状態のまま、コントローラを放してみて」
言われた通り、今の状態を保ったままコントローラから手を放す。するとコントローラは光の粉になって消えた。
「じゃあ次ね。ちょっと失礼」
彼女はそう言って、俺の背中に触れる。
「えぇ!?あ、ちょっ……」
アスナが変な声を出している中、リーファは話を続ける。
「今触っているあたりから、仮想の骨と筋肉が出ていると思って。それを動かすイメージよ」
「こう、か?」
俺はリーファが触っている肩甲骨あたりに力を入れる。
「そうそう、ちゃんと動いてるよ。あとは思いっきり力を込めて」
今度は背中全体で力を込める。そしたら、後ろで甲高い音が出始めた。
「うんうん、いい感じ!その調子でもっと力強く動かして」
俺は全身を震わせて、背中に集中させる。さっきより、音が激しさを増していた。翅の方に力が溜まっていくのを感じた。
突如、背中をドンっと押された。声を出す間もなく、溜まりに溜まったエネルギーがジェット噴射のように俺を押し上げた。
「おわぁぁぁぁ!」
俺は勢いよく空に放り出された。
「キリト君!?」
「あ、ヤバ!」
下でアスナとリーファが俺を見て声を漏らす。
ぐんぐん上昇していく俺は、それを止めることはできなかった。このままどこまで行けば止まるのか。そう思った矢先、紫色の障壁に阻まれた。
勢いよく激突した俺は、推進力を失い重力に引っ張られ落下し始める。俺は慌ててホバリングしようとするが、翅は言うことを聞かず、俺はただ悲鳴を上げることしかできなかった。
「あぁぁぁぁぁ!!」
上空数十メートルから叩き落された俺は無様に地面に突き刺さった。
「「……プフッ」」
「ぱ、パパ……大丈夫ですか」
アスナたちが吹きかけた中、ユイは俺を心配してくれた。この時、パパとしては、大丈夫だ心配ないよ、とでもいうべきなんだろうが、そんな余裕は今の俺にはなかった。
「た、たすけて……」
アスナとリーファに助けられた俺は、ぐったりと寝転がる。
「なんか障壁にぶつかったようだけど、あれはなんだったんだ……」
「それはきっと、《限界高度》だよ」
「《限界高度》?この空の広さには限りがあるってこと?」
アスナがリーファに尋ねると、彼女は少し寂しそうな表情をして答える。
「そうなの。でもまずは安全区域まで行きましょ。詳しいことはそこで」
そう言って、俺たちは飛び立った。
中立の村にたどり着いたあと、酒場に入った。そこで俺たちは話し合いを始める。
「まず、2人はこのALOに来た目的とかあるの?」
「う~ん。知り合いに面白いからやってみろよ、って誘われたから始めたけど……特に何をするのかは全然」
俺の返答に、リーファは目を丸くした。すぐに驚きの表情は消えたが、まだ困惑しているようだ。
「……ってことは
「私は、基本的な設定は頭に入ってるよ。キリト君は?」
「そうだなぁ……ここに来る前に見た記事と知り合いから聞いた程度しか知らないな」
「じゃあ、一から説明するね」
リーファは一泊置いて、ALOについて話し始める。
「まずALOは、北欧神話をモチーフとした妖精の世界という設定なの。ここには9つの種族が存在するの。プレイヤーはその9つの種族に分かれて遊ぶんだ。ここでは、レベルっていうのがなくて、熟練度によってステータスが左右されるわ。あとPK推奨だから、違う種族とはよくバトルになるよ」
「へぇ、聞いてた通りハードなようだ」
「あとは、さっき言った《中立域》とかの説明を……」
「あぁ、その辺は何となくわかるよ。前にも似たものを体験してきたし」
思わず口走った言葉にリーファは不可思議そうに見る。
「え?キリト君、こういったゲームやったことあるの?」
「あ!いや、これは……」
うっかり口走った言葉にリーファは不思議そうに見つめる。俺がSAOサバイバーであるということは、極力知られたくはない。俺はどうにかしてごまかそうとする。
「ほ、ほら、オンラインRPGゲームやってたからだよ。あっちでもPKはあったからさ、そっちですでに体験してきたんだよ」
「へぇ~、キリト君も色んなゲームやってたんだ。うちのお兄ちゃんもそういったの結構やってるから、気が合いそうだね」
「そ、そうだな……」
何とかごまかせたようで、俺は内心でほっとした。
「じゃあもしかして、アスナさんもある程度知ってるのかな?」
「えぇ、まぁ」
「そっか、じゃあこの話はいいわね」
それから、ALOのことをリーファからいろいろ教わった。
「大体こんなとこかな。わかった?」
「うん。ありがとう、リーファさん」
「さん付けしなくていいよ、リーファでいいよ」
「じゃあよろしくね、リーファちゃん」
アスナとリーファが話しているところに、俺はこの世界で最も気になることをリーファに聞く。
「なぁ、リーファ。俺たちがここに飛んでくる時から見えてた、ひときわでかい大樹ってなんなんだ?」
「あれは『世界樹』。ALOの象徴で、私たちプレイヤーが目指す最終クエスト、『グランド・クエスト』のある場所よ」
「グランド・クエスト?」
俺とアスナは首を傾げる。
「グランド・クエストっていうのは、私たち妖精にとって最後の試練みたいなものなの。そのクエストを一番最初にクリアし、妖精王オベイロンに謁見した種族はアルフに転生し、《限界高度》と《滞空制限》の縛りから解放されるの」
「そういえば、クライン……知人からそんな話聞いたような気がするな」
俺はおぼろげに思い出した。グランド・クエストのことを聞いて、アスナがリーファに尋ねる。
「でもそれって、最初にクリアした種族だけでしょ。そうしたら、他の種族はどうなるの?」
「う~ん、多分転生できないままだと思うよ。運営からは何も言われていないし」
「それで運営にクレームとか入らなかったのかな?」
確かに、限られた種族だけが飛行制限から解放されると言われれば、妬み深いネットゲーマーからすれば憤慨しそうだが……そう考えていると、リーファが答える。
「最初のうちはね。でもこのゲーム、種族間の競争をコンセプトにしてるからっていう理由である程度納得したみたいだよ。それに、そのクエストって尋常じゃない程に難易度が高いんだよね」
「そうなのか?」
「この前サラマンダーの大軍隊で挑んだって聞いたけど、全滅したみたいよ」
これはもしかしたら、SAOのフロアボスより遥かに強いのではないか、そう思った。
「いったいどんな奴なんだ?」
俺はリーファに聞いてみた。
「敵は《ガーディアン》なんだけど、そこまで強くはないんだよね。でも、数が多すぎるの。数十体っていうレベルじゃなく、何百、もしかしたら何千と……」
「なるほど……」
典型的な物量展開というわけだ。
「そんなんで、いまだにクリアされてないの」
「そいつは、面白そうだ」
「え?」
リーファはきょとんとし、アスナはため息をついた。
「こうなるんじゃないかなって思ってた……どうせまた一人で突っ込もうとでも思ったでしょ」
「はは、アスナにはお見通しか」
「だから私も行くわ。もう離れさせないよ」
向こうの世界で、俺はアスナを置いていろいろと無茶をした。アスナを守りたくて、命を危険にさらしたこともあった。
しかし、今はもう違う。ここは普通のゲームの中だ。命の心配はない。何より、頼りになるパートナーが一緒にいるんだ。
「わかった、頼んだぜアスナ!」
「もちろん!」
「ストーーーップ!」
いきなりリーファが俺とアスナの間に割って入ってきた。
「どうかしたか?」
「『どうかしたか?』、じゃないでしょ!今の話聞いてた?大軍隊で挑んで敗北したんだよ。それにアンタたち2人で行くの?この世界に来たばかりだっていうのに。それに、世界樹までの行き方わかるの?」
俺とアスナは顔を見合わせる。もちろん、来たばかりで行き方も知らない。それを悟ったリーファは頭を押さえた。
「ほんと、アンタたちぶっ飛んでるわね……しょうがないし、案内してあげるわよ」
「いいのか?」
「正直、一緒にいて楽しそうだし、少し興味あるのよね。だから、あたしが世界樹まで連れて行ってあげる」
リーファ「このゲームにおけるシンボル、《世界樹》。アルヴヘイム全土から見ることができる大樹の上には空中都市が存在するとされ、そこには妖精王オベイロンがいるの。妖精王オベイロンに謁見した最初の妖精族は《アルフ》となって、空を自由に飛べるようになる。そのためには、世界樹の根元より世界樹内部を上がっていかなくては行けなくて、それを守護するNPCガーディアンの軍勢が待ち構えているの。これが、このゲーム最大のクエスト、《グランド・クエスト》と呼ばれるの。何ともロマンがあるわよねぇ。次回『仮面の騎士』、それじゃあ今回はここまで。バイバ~イ」