ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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仮面の騎士

「だから、あたしが世界樹まで連れて行ってあげる」

 

「それはありがたいな。でもいいのか?リーファの種族、シルフだったか、そっちの方に行かなくて大丈夫なのか?」

 

「一応領主の人に伝えておこうかな。私一度、シルフ領首都のスイルベーンに戻るから二人ともここで待って……」

 

「俺もついて行ってもいいか?」

 

 俺の言葉にリーファは仰天した。

 

「キリトくん、それどういうことこわかってる?」

 

「シルフ領の首都に行くんだろ?ちょっと興味あるんだよな。それに首都っていうくらいなら、ここより武器は豊富にありそうだしな」

 

「そういえば、私たちまだ初期装備だもんね。ちゃんと整えてから行くべきよね」

 

 アスナも行く気満々のようだ。そこに、リーファが口を出す。

 

「ふたりとも、シルフ領ではシルフに攻撃できないの。そして、シルフからの攻撃は受けるの。つまり、あなたたちがシルフ領に入るってことはシルフから一方的にやられることがあるってことなのよ」

 

 なるほど、と内心納得する。その話を踏まえた上で、アスナはリーファに確認する。

 

「でも、リーファちゃんと一緒なら、そんな襲われるってことはないよね?」

 

「う、うん。保証はできないけど……」

 

「まぁ、いざとなれば反撃するだけだろ。何せ向こうはダメージは受けないんだから、手加減しなくても大丈夫だろうし」

 

 気休めとして言った言葉に、アスナとリーファは呆れた視線を俺に向ける。

 

「はぁ……キリトくんって、たまに無茶なこというわよね」

 

「そうか?でも、以前にアスナも同じ事をやってたよな?」

 

「あれは別よ!あの時とは違うでしょ」

 

 SAO時代に彼女は、1層の細い路地裏で問題事に遭遇したとき、実力行使で解決したことがある。圏内だったため、プレイヤーのHPは減らなかったが、攻撃による衝撃で相手を撃退したのだ。

 しかし今回は、それとは違う。そのときは相手に非があったが、今回はそうとは言えないからだ。

 それでも、正当防衛くらいは許されるだろう、そう考えた。

 

「わかった……でも、なるべく問題は避けるようにして」

 

 とうとうリーファが折れて、同行を認めた。

 

「ありがとな、極力面倒事は控えるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈レイ side〉

 

 

 戦い方を教えはじめてから1時間が経つ頃。火妖精(サラマンダー)の剣士、名前をティグルという彼は俺の持てる戦闘術をこの短時間で飲み込んだ。

 

「すごいな。結構な量だったはずなのに、この1時間でマスターするなんてな」

 

「そんなことないよ。戦況に応じて的確に判断しなきゃいけないなら、もっといろいろ教えてもらわないとダメな気がするし。それ以前に、レイさんが状況を単調にして俺に判断しやすいようにしてくれたから、ここまで上達できたんですよ」

 

 謙遜しているが、彼の技能は目を見張るものだ。彼に教えた技術は、俺が激闘の中、長い月日の末に習得したものだ。そして、これが完全に体に馴染むまで、俺は1週間ダンジョンに通い詰めていた。

 それをこの男は、ものの一時間であっという間に会得したのだ。これほどの才を持つ者が、俺に戦い方を乞うには何か理由があるのか。

 

「なぁ、君の実力なら、俺に頼らずとも強くなれたんじゃないのか?にもかかわらず、敵対してた俺から戦い方を学ぼうとした。何か理由でもあるのか?」

 

 俺の思っていたことを率直に伝える。

 

「理由か。大したことじゃないんだけど、俺って……」

 

 ティグルが言葉をいい終える直前に、異様な気配が全身を刺激する。俺はその方角に顔を向ける。ティグルもそれに気づき、同じ方を見る。

 そこには、なんの変哲もない人の姿があるだけだった。それと同時に、何とも言えない恐怖が身体中を駆け巡る。まるで、本能が危険を察知しているような、そんな感覚が脳を支配する。

 

「レイさん、あれは、なんなんですか?」

 

 今にも震えそうな声でティグルが尋ねる。

 

「わからん……でもこれだけは分かる。一瞬たりとも気を抜くなよ」

 

 ティグルは無言で頷く。

 人の形は認識できるが、それ以外の情報はまるでわからない。太陽の光で詳しい装備、翅の形や色、敵の顔、すべてが黒塗りになって見えない。こういうときは、

 

「敵を誘き寄せる他無し」

 

 俺は全力で後ろへ飛び退く。距離をとって体勢を整える。しかし、敵が構えている状態でこの行為は隙になる。

 案の定、向こうはロケットのようにこちらに飛んできた。普通なら、剣を構えて吹っ飛ばされることを覚悟で防御する。が、ここは妖精の国。戦闘場所は何も地上だけではない。

 俺は翅を出すと、垂直に飛び上がる。敵は勢い余って俺が飛び上がった位置から数メートル過ぎたとこで止まる。その隙に俺は剣を構え、斬りかかる。しかし、むざむざ切らせてくれるわけもなく、敵側も剣を盾に防いだ。近づいたお陰で、ようやくしっかりとした姿を拝めた。日本の名刀にありそうな見事な刀に、ウンディーネ特有の水色の翅。そして、顔には髑髏のような奇妙な仮面が素顔を隠していた。

 俺と仮面の剣士は互いに距離をとる。

 

「まったく、今日はどうしてこうも斬りかかってくる輩に出会うんだか。そんなに血に餓えてるのか?」

 

 その言葉に、仮面の剣士は答えることなく斬りかかる。俺は剣を両手で構え、右へと受け流す。流されてもなお、仮面の剣士は狂ったように襲いかかる。

 

「やれやれ、こりゃたち悪ぃ戦闘狂(バーサーカー)だ」

 

 攻撃のひとつひとつは強力だが、捻りがない分避けやすい。

 俺は全力で振り下ろす剣を数ミリ単位でかわすと、その剣を思いっきり地面に叩き込んだ。仮面の剣は地面にめり込み、それを引き抜こうと仮面の剣士は剣を動かすがびくともしない。

 俺は容赦なしに剣を振り上げる。それに気づき顔をあげた剣士は、避ける暇もなく真っ二つに斬られる。勿論、アバターは分断されることはなく、切り傷が真っ直ぐ体をなぞるだけだ。

 だが、仮面は2つに分かれ、カタンと音をたてて落ちる。そして、砕け散る音と共に仮面のしたの顔が目に入る。

 

「!?」

 

 その顔に、俺は自分の目を疑った。

 

「レイさん、大丈夫ですか?無事だとは思いますが、やっぱり心配で……どうしたんですか?」

 

 駆け寄ったティグルは不思議そうな顔で見る。

 

「なんでだ……なんで、あんたがここにいるんだよ?」

 

 その顔は、俺が必死に探していた人の顔とそっくり、いや、瓜二つだった。

 

「答えろよ姉貴!」

 

「姉……この人、レイさんのお姉さんなんですか!?」

 

 このことにティグルも衝撃を受けた。それでも、彼女は黙りとしていた。

 数ヶ月間、姿を消していたはずの人の顔が目の前にあるのだ。正気でいられるはずがない。俺は、彼女の胸ぐらを掴み上げ怒鳴り散らす。

 

「なんで何も答えない!なんか言えよ!姉貴!!」

 

「レイさん、落ち着いて!人違いかもしれませんし、もしかしたら、なんか理由があったっていうことだって……」

 

「放せ!今ここで問いただしてやるんだ!」

 

 俺とティグルが揉めている間に、彼女は表情ひとつ変えずに飛び去っていった。

 

「待てよ!まだ話しは終わってないだろ!」

 

 その声は、虚しく空に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、あのあとも見苦しく怒号を撒き散らしていた。正気に戻ったのは、その数分後だった。

 ひとしきり叫んだ俺は、仰向けになって転がっていた。

 

「すまん。みっともない姿を晒しちまったよな」

 

 俺は隣に腰下ろしているティグルに謝る。

 

「別に気にしてないさ。良ければ、姉さんのこと、教えてくれないか?」

 

「……ちょっとリアルのことになるけど、いいか?」

 

「わかった」

 

 それから俺は、ここ数ヶ月のことを話した。それを聞いた上で、彼は俺に尋ねた。

 

「あの人が、レイさんの姉さんっていうのは、間違いないのか?」

 

「わからない。あのときは感情が先走って、何も見えてなかったんだ」

 

 今思い返してみれば、アバターの顔はランダムで生成される。偶然、姉貴の顔とそっくりだった誰かということだってあり得るはすだ。

 

「それにしても、その人、何にも言わなかったな。違うなら違うっていうはずだし……それに、少し変だったんだよな」

 

「変?」

 

 彼の言葉に、俺は気を引かれた。

 

「彼女、ウンディーネだったんなら、魔法攻撃とかで攻めるのがセオリーなんですよ。そりゃ、集団戦だとまた別ですけど、個人となると近接特化型に近距離戦は持ち込まないはずなんです」

 

 そういえば、ウンディーネは回復とか支援に長けているんだったな。そう考えたとき、俺にも奇妙に思えた。

 

「あの仮面、何かしらのアタック補正でもあつたのか?」

 

「仮面?なんのことで?」

 

「そっか、実物を見る前に消滅しちまってたな。髑髏の絵柄の仮面だよ。なんかあれ、気味が悪かったな」

 

 それを聞くや、ティグルが慌ててウィンドウを開いて何かを探し出す。それを見つけると、俺に

 

「レイさん、さっきの仮面ってこれ?」

 

 そういって、彼はある画像を見せる。そこにはさっきの仮面と同じものを着けた人が写っていた。

 

「そうだ、これだよ。これってなんなんだ?」

 

「運営がグランド・クエストで新しく配置するっていう()()()()()。その試験段階として、稀にフィールドに出てくることもあると言ってたんだが……」

 

 その瞬間、俺の脳裏にさっきの感情が甦る。

 

「間違いない、さっきの奴、姉貴に関係してる」

 

「え?どうしてそれが?」

 

 答えは単純だった。不確定でありながらも、絶対的に信用できる答え。

 

「俺の本能が、そう言ってるんだ」

 

 その答えに、彼は一瞬キョトンとした。しかし、すぐにそれを信じてくれた。

 

「なるほど、わかった。で、これからどうするんだ?」

 

「とりあえず、そのグランド・クエストに挑戦することになるな

 

「でも、あれはひとりで突破できるもんじゃないぞ。前にサラマンダーの大軍隊で挑んだけど、やっとのことで半分到達できたくらいだ。単独で行くのは無茶だぞ」

 

 ティグルは心配そうな顔で俺を見つめる。が、俺の心は決まっていた。

 

「そうだとしても、行くしかないんだ。でも今の俺だけじゃどうしようもないのも事実だろう……だから頼む、力を貸してほしい」

 

 俺はティグルに頭を下げた。無茶なのは承知だが、何もせずにいられなかった。それを察してくれたのか、ティグルはその思いに答えてくれた。

 

「恩師の頼みだ。協力するぜ」

 

「ありがとう」

 

 こうして、俺とティグルの旅は幕を開けた。




ティグル「《グランド・クエスト》は今のALO最高難易度のクエストだぜ。数多のガーディアンが行く手を阻み、物量展開で挑戦者を撃退するんだ。個々のステータスはそんなに高くないが、何せ敵の数が多すぎるからな。この前、サラマンダーの大部隊で俺も挑戦したんだけど、半分昇るのが限界だった。それで運営が、ガーディアンを減らす代わりに配置すると発表したのが、《仮面の騎士》。その力量はまだ未知だ。この先、どうなっていくんだろうな。次回『リーファの覚悟』。なんかワクワクしてきたぜ!」
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