ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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ルグルー回廊

〈リーファ side〉

 

 

 エレベーターを昇っている間、私は悶々としていた。勢いで言ったとはいえ、領地を出ると言ったことの重さを痛感している。

 

「リー……」

 

「まって、キリト君。今は、そっとしておきましょう。リーファちゃんにも考える時間は必要だと思うわ」

 

 後ろの方でキリト君とアスナさんの声がしたけど、さっきのことで頭に入ってこない。

 今まで、自分を縛り付けていた他人の評価について考えないようにしていた。でももう、それを見て見ぬふりはできない。覚悟を決めよう。私は、私の信じることを貫く。

 そう決意したときには、もう最上階についていた。

 

「着いたみたいね。さあ、行こう行こう」

 

 いそいそとエレベーターを出ると、目の前に大空が広がっている。何度も見た光景だけど、今私の中で何かが吹っ切れた気がした。

 

「ふふ。なんだか、バカみたい」

 

「リーファ?」

 

「どうしたのリーファちゃん?」

 

 キリト君とアスナさんが心配そうに見つめる。

 

「この空を見ると、なんかちっぽけなものに思えちゃって。さっきのことも、他人の目を気にしてた私も……この空では、みんな自由に羽ばたけるはずなのにね」

 

 そう、初めてこの空の暖かさを知ったあの感覚を忘れてた。今の今まで同じ空を飛んでいたはずなのに。そう思うと、今までの私が哀れに思えた。

 そんな私を、アスナさんが後ろから優しく抱きしめてくれた。

 

「リーファちゃんの気持ち、私にもわかるよ。みんな、見えないなにかに苦しめられて生きてる。私もそうだから……だから、ちっぽけなことなんかじゃないよ」

 

「アスナさん……」

 

 横から出てきたキリト君も、優しく語りかけてくれた。

 

「リーファは、さっきの言葉に後悔はあるか?」

 

 その質問に私は一瞬迷ったけど、首を横に振って答えた。

 

「そうか。じゃあ胸を張ろうぜ。ああ言い切るのは、簡単じゃない。それだけのことを覚悟できたなら、それはすごいことだぜ」

 

 キリト君の言葉を聞いて、心の中にかかっていた霧が晴れていくのを感じた。

 

「そっか……ありがとうね、キリト君、アスナさん。お陰で気分が大分よくなったよ」

 

「リーファちゃん……」

 

「そりゃよかった。おれ、なんか無責任なこと言っちまったかなぁ、って思ってたから」

 

 アスナさんは優しい瞳で私を見守ってくれて、キリト君は恥ずかしそうに頬を掻いていた。

 

「ううん。キリト君の言葉で、決心がついたよ。私、もっとこの世界を見てみたいと思ってたの。でも、勇気がでなくてね……こうしてその一歩を踏み出せたのはいいきっかけになったよ」

 

「そう言われると悪い気はしないな。まあ、喧嘩みたいなかたちで別れるようなことになったのは心残りだけど……」

 

 確かにキリト君の言うとおりだった。もう少し穏便にすませることが出来たのではないのか、そう思うところはある。

 でも、こうでもしないと、シグルドはきっと納得してくれなかっただろう。そう考えると、この選択も間違いではないはず。

 そう言い聞かせると、私はもう一度空を仰いだ。すると、私の心が満たされていくのを感じた。今はもう、私を縛るものはなにもない。この空のように、自由に羽ばたけるんだ。そう思うと、自然と体が軽くなった。

 深く息を吸い込んで、心を綺麗さっぱり空っぽにする。

 

「さあ、早く世界樹の根本まで飛んでいこう!」

 

「お、気合い十分みたいだな」

 

「案内よろしくね、リーファちゃん」

 

 私は腕を振り上げて、意気揚々と答える。

 

「任せてください!ふたりとも、準備はいい?」

 

 羽に力をいれて、小刻みに振るわせながら問いかける。それに答えるように、ふたりは羽を広げて頷く。

 

「待ってよリーファちゃ〜ん」

 

 飛び立とうとしたそのとき、薄緑色のおかっぱ少年が駆け寄ってきた。

 

「れ、レコン!?」

 

 彼は現実で同級生のレコン。向こうでも友達としての付き合いもある。

 

「ひどいよぉ、出るんだったら一声かけてくれればいいのに」

 

「あはは……ごめん、忘れてたわ」

 

「そんなぁ〜」

 

 レコンはガックシと肩を落とす。そんな彼をじっと見つめて、キリト君が私に尋ねる。

 

「あの〜、こちらの方は?」

 

「ああ、彼はレコン。私のパーティメンバーよ。……まあ、さっきの一件で、今は元パーティメンバーになるけど」

 

 自分で言っておいてあれな気はするけど、なんだか変な言い回しだなって思った。

 私の言葉に反応するように、レコンが真面目な顔をあげる。

 

「そういえば、聞いたよ。リーファちゃん、パーティ抜けたんだってね」

 

「うん。半ば勢いだった感じはあるけどね」

 

 そのときは情にまかせて出た言葉だけど、よくよく考えると彼にも迷惑をかけてしまったことに気づいた。

 

「それについては、俺たちからも謝らないとな」

 

「そうね。私たちが関わったせいで、仲がこじれちゃったものね」

 

 キリト君とアスナさんが申し訳なさそうにすると、レコンが両手を振って答えた。

 

「いえいえ!そんなことはないですよ!最近、シグルドの圧力がすごく強くなってきてて、あんまりいい雰囲気はしなかったし、リーファちゃんも息苦しそうな感じがしてたから、結果としてリーファちゃんの為になってる気がしますし……」

 

「あんたは私のなんだっていうのよ!」

 

 余計なことを口走る彼の頭部に拳を放ち、黙らせる。

 

「まあ確かに、ちょっと変な空気になってたのは認めるけどね。そういえば、レコンはどうするの?」

 

 頭を抱えて痛がる彼に質問する。

 

「僕?もちろんリーファちゃんに付いていくよ。この剣はリーファちゃんに捧げると誓ったから」

 

「えー別にいらなーい」

 

 素っ気ない言葉にまたもガックシとする彼。しかし、今度の立ち直りはわりと早かった。

 

「ま、まあそういうことだから、一緒に行くよ。といいたいとこだけど、ちょっと調べたいことがあって……それが終わったら、僕も合流するよ」

 

「調べたいこと?」

 

 レコンが珍しく真剣な目で断る。

 

「そう、わかった。じゃあそのときにはよろしく」

 

「ちなみに、どこへ向かうの?」

 

「世界樹」

 

「ま、まさかリーファちゃん、グランド・クエストに挑むの!?」

 

 彼は驚きと心配の混ざった表情で私の顔を見つめる。

 

「違う違う。私じゃなくてキリト君たちが挑戦してみたいって」

 

「そうなんだよ。彼女には、世界樹までの案内を頼んだんだ。俺たちまだ始めたばかりでここがどこかもわからないんだ」

 

 そうして、キリト君がこれまでの経緯をレコンに説明する。

 

「そんなことがあったんだ。なんか、災難ですね」

 

「あはは、厄介ごとには大分なれたもんだよ……」

 

 苦笑いぎみに乾いた声を出すキリト君の目線は、明後日の空をみていた。

 

「じゃあ、こっちも早いこと済ませて、すぐに追いかけるよ」

 

「わかった。レコン、気を付けてよ」

 

「リーファちゃんこそ、よくトラブルに首を突っ込むんだから注意してよ」

 

「余計なお世話よ!」

 

 後ろで2人がクスクス笑っているのがわかる。なんだか恥ずかしくなってきた。余計なことを言われる前にさっさと出発してしまおう。

 

「何かあったらメールして」

 

「わかったよ。3人とも、気を付けてねぇ!」

 

 その言葉を背中に受け、私は長らく過ごしてきたこの街を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ルグルー回廊』

 

 

〈レイ side〉

 

 

 俺は今、ティグルに連れられて、洞窟の中を進んでいる。目的地である世界樹は山脈に囲まれており、限界高度より高いためこの洞窟を突き抜けていく必要があるらしい。

 

「しっかし、なかなか深いな。まるで迷宮だ」

 

「ここはモンスターも出ますから、迷ったら最後に待つのは死ですよ」

 

「ほんとに、君が一緒に来てくれて助かるよ」

 

 まだこのゲームになれていないこの状況で、世界樹に辿り着くのは至難の技だろう。ティグルがいなければ、未だに姉貴の手がかりを見つけられずにいたかもしれない。

 

「なあ、頼んだ俺が言うのもあれだけど、わざわざ部隊を抜けてまで初めて会ったばかりの俺に付き合ってくれるのは何故だ?」

 

「ん〜そうですねぇ」

 

 ティグルは少し顎を持ち上げて、数秒悩みこむ。そして、彼の出した答えは、

 

「師匠の頼み事だからかな」

 

「師匠、か……そんな柄じゃないけどな」

 

 そうは言っても、俺の中ではにかむような感情が湧き出していた。それを隠すよう、俺はせかせかと先へと進む。

 

「そういえば、さっき聞いたんだけど、サラマンダーの大部隊が近くに来るらしいですよ」

 

「へぇ~。厄介ごと巻き込まれないといいんだけどな」

 

 変なことに巻き込まれて、時間をとられてはたまったもんではない。なるべく早く、姉貴の足取りを追いかけないと。

 内心焦る俺にティグルが声をかけてくれる。

 

「大丈夫ですよ。その部隊は、『蝶の谷』ってところに向かうらしいんだ。そこへ向かう過程でこのルグルー回廊付近を通過するみたいです」

 

「そこに何かあるのか?大所帯で行くほどの何かが」

 

「なんでも、シルフとケットシーの領主たちの会談があるらしいんですって」

 

 シルフとケットシー、ここにくる前にある程度調べた。風妖精(シルフ)は、飛行能力が高く、空中戦闘が得意。さらに、鋭い聴覚を持つのも特徴だ。猫妖精(ケットシー)はその名の通り、猫の姿をした妖精たちのことだ。視覚は他の種族を遥かに上回り、モンスターを従える《テイミング》の達人でもある。

 彼から聞いた話だと、両種族は互いに良好な関係を築いていて、現領主たちで会合することも多々あるとのことだ。本来は、このゲーム最大の試練を他の種族より早くクリアすることが目的だが。一体、どうするつもりなのか?

 まあ、関係のない話だし、どうプレイしていくかはプレイヤーの自由。それをとやかく言う気はない。

 

「ま、俺は先へ進むだけなんだかな」

 

「それもそうですね。レイさんには、あまり興味のない話でしたね。さて、そろそろ見えてくるはずですよ」

 

 そう言って、ティグルが指を指す。暗い洞窟の奥から差し込む光の向こう、そこには美しく青々と輝く湖があった。そして、その真ん中に城塞がたたずんでいる。

 

「すごいでしょ。あれが『鉱山都市ルグルー』です」

 

「しかしどうやってあそこへ行くんだ?陽光が届かないここじゃ飛べないし、泳いでいくってか?」

 

「残念ながら、この湖には高レベルモンスターがうじゃうじゃいるせいで、簡単には水中に潜れないんですよ」

 

 確認してみると、大型水中モンスターがあちこち泳ぎ回っている。水中での戦闘はウンディーネの支援がなければ困難を極める。

 

「あそこに橋があるんで、そこから街に入りましょう」

 

 ティグルの指した方向に石橋と思われる物体が水上に浮かんでいる。

 湖の外周を回って石橋までやってきた。その先には、天井高くそびえる城門がたっている。まるで巨人族が作り上げたかのような大きさだ。

 門をくぐれば、そこは数多の妖精たちの活気で溢れ返っていた。さすがは鉱山都市、武器の素材らしきものや鍛治場での取引が盛んに行われている。

 

「さて、今午後8時か。さすがに同居人がうるさいんでここで落ちますね。明日またここ集合にしましょう」

 

「そうか。案内してもらってる以上、君に従うよ」

 

「急ぐ気持ちもわかりますが、疲労が残っては今後の戦闘に響くでしょう。少しの休息と考えれば、気持ちも楽になりますよ」

 

 確かに、肉体の疲労はないにしても、精神の疲労は溜まる。戦闘では集中力の低下は命取りとなる。そうなれば、世界樹に辿り着くのに時間がかかる恐れもある。ここは素直に疲れをとることを考えた方が良さそうだ。

 

「ありがとな。ここまで付き合ってくれて」

 

「気にしないで。俺はただ、恩師のためになりたいだけなんだから」

 

「俺には、もったいない言葉だ」

 

 そうして、俺たちは安値の宿に泊まるのだった。




ティグル「『ルグルー回廊』は、ALOで数少ない大規模鉱山で、様々な鉱石が発掘出来ることで有名なんだ。そこには、地下を切り開いて都市を作り、中立域として栄えているのが『鉱山都市ルグルー』。ここでは、鍛治妖精族のレプラコーンや音楽妖精族のプーカなど、各地の妖精たちが集まっている。それほどまで、有名な都市なのだ。地下都市って、なんか憧れるよなぁ。次回『最強の火炎戦士』」
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