ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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アインクラッド編 リベンジ・アクセル
剣の世界


〈零士 side〉

 

 

 無重力のプログラム内に入ると、『コンバート』だの『クローズβ版』だの、よくわからない単語が出てきた。とりあえず全部OKと答えると、視界が真っ暗になった。俺はゆっくり目を開く。

 まず目に入ったのは、床一面に広がる石畳だ。近代都市とは異なり、古代のイメージが浮かび上がる。視線を上げると、石材で造られた塔が広場の中央にそびえ立っている。その奥の方には通りが見え、両端には露店がちらほら見える。見事なまでに中世の町並みを再現してる。これはもう圧巻だ。

 こうも中世の姿を残した町は、現実にはそうあるまい。いや、もしかしたら現実ではもう見られないかもしれない。

 しかしここは仮想世界、データさえあれば再現・複製・改変することも可能なのだ!と姉貴が言ってたのを思い出した。

 確かに、この再現度は現実と相違ないほどだ。あそこまでべた褒めしていた姉貴の気持ちがわからなくもない。ここは本当に異世界だ。

 そんな世界へ、次々と転生者(プレイヤー)が飛び込んでくる。さすが、世界初のVRMMORPGというわけか。開始早々、広場を人で埋め尽くしている。

 雑談する者、町を散策する者、子供のようにはしゃぎまわる者、それぞれ思うままに楽しんでいる。

 さて、俺はどうしようか。もう少し遊んでいくか?、このまま戻るか?……だがそもそも、俺が被ってるナーヴギアって、姉貴のだ。姉貴は間違いなく、帰ったらすぐここに来るだろう。姉貴がいつ帰るかわからない以上、俺がここに長居するわけにはいかない。急いで戻らないと!

 そう思った矢先、俺は重大な事実に気がついた。

 

「…………これ、どうやったら戻れるんだ?……」

 

 俺は()()()()()()()()()()

 待てよ、確かこういうとき、マニュアルかなんかあるはずだ。まずそれを探せば、きっと方法がわかるはずだ。

 そう考えた俺は、それを持ってないか確認する。だが、身体中どこを探しても見つからない。

 誰かに聞くということも考えた。でも、俺はMMOは初めてだし、リアルでも友達いないし……どう話せばいいのかもわからない。

 

「……後で姉貴に謝っておかなきゃダメだな」

 

 俺はここに留まることを選んだ。とりあえず、ひと通り見て回ることにした。

 まだ10分も経っていないのに、通りには人で溢れかえっている。

 しかし、全てがプレイヤーというわけではないようだ。そう思うのは、話し方が若干偏ってるように感じるからだ。

 多分、話の中のキーワードに対してそれに対応する返答を機械的に行ってるのだろう。つまり、プログラム通りに動くヒューマノイドと言ったところか。

 

「お嬢さん、ゲームは初めてか?」

 

 突然、肩をポンと叩かれ声をかけられた。俺は寒気がして手を払い除け、飛び退く。そして、振り返った先を睨んだ。

 

「わ、わりぃ!驚かせるつもりはなかったんだ」

 

 背後に立っていた男性は慌てて弁解する。

 

「NPCを不思議そうに見てたからよ、もしかしたらと思ったらつい……」

 

 なるほど、一応筋は通っている。しかし、ひとつ気になることがある。

 

「つまり、そんな()を口説きに来たということで?」

 

「あ、いや、そぉじゃなくてな」

 

 怪しい。悪趣味なバンダナを頭に付けていて不審感駄々漏れだが、動揺している様子でさらに倍増する。これを女性にやったとなれば、牢獄行きは免れないだろう。

 

「……ナンパするなら、もうちょっと注意を払うべきじゃないのか?」

 

 俺は半ば怒り気味でナンパ野郎に言う。

 

「へ?」

 

 ナンパ野郎は一瞬何をいってるのか分からない、という顔をした。数秒俺を見つめ、何度も確認するように目を瞬かせる。

 

「な!おま……男か!?マジで!」

 

 昔から姉貴には、『零士は黙ってれば可愛いのに……』と散々言われたが、女と間違われるのは初めてだ。

 ナンパ野郎は慌てて謝ってくる。

 

「わりぃ!可愛い子がいるなぁ、と思ってつい声をかけたら、まさか男だとは思わなくて……」

 

 あー、こいつ完全に危険人物だわー。

 その後も、女性プレイヤーから聞けばアウトな発言を次々吐露していった。後半はもう耳にすら入らなかった。終わった頃には、バンダナの下からタラタラと冷や汗を流れていた。

 

「ホンット悪かった。あ~でもよ、お前さん初めてなんだろ?ならいろいろ教えるぜ、戦闘以外なら」

 

 なんと本来ならば、ふざけたこと言うな!と罵声を飛ばす場面だが、今こいつの口から出てきた言葉は聞き捨てならない。彼からここの脱出方法を聞き出せば今すぐ戻ることができるのだ。

 

「じゃあ、ここから……」

 

 話の途中、俺たちの横を掛けていく男性が見えた。バンダナ男は『ちょっとわりぃ』とひと言言うと、彼を追いかけた。

 俺もそのあとを追うと、人気のない裏路地でバンダナ男が丁度さっきの男性を引き留めているところだった。

 

「何?」

 

 引き留められた男性はちょっと迷惑そうな顔をしてた。

 

「あんた、元『βテスター』じゃねぇか?」

 

「そうだが」

 

「悪いが、レクチャーしてくれねぇか?こいつも一緒に頼む!」

 

 バンダナ男はそう言って俺の後ろに手を回す。

 

「……わかった」

 

「サンキューな!俺はクライン、よろしくな」

 

「俺はキリト、そっちの君は?」

 

 半分くらいついていけてない状況で、俺は困惑した。すると、バンダナ男改めクラインが背中をパンと叩いて俺に言った。

 

「ほら、お前さんの名前だよ」

 

 あ、名前か。

 

()()() ()()

 

「「ストーーープ!!」」

 

 クラインとキリトがものすごい慌てて俺の口を塞ぐ。勢い余って、3人とも地面に倒れた。

 先にキリトが起き上がった。

 

「いってぇ。悪い、立てるか?」

 

「あ、あぁ。ありがと」

 

 キリトの差し出す手に掴まり、起き上がる。横でクラインが頭を擦りながら頭を起こす。

 

「すまねぇ、こういうゲーム初めてだったな」

 

「そうなのか?」

 

 キリトが驚いた様子で訪ねてきた。

 

「あぁ……」

 

「そうだったのか、ここではリアルネームはタブーなんだ。リアル割れする可能性があるからな。現実の情報はなるべく控えるようにした方がいい」

 

「そうか。わかった、気を付ける」

 

「あぁ。じゃあ、プレイヤーネームを教えてくれないか?多分、この辺にあるはずだから」

 

 キリトにそう言って、俺の視界の左上を差した。そこへ顔を向けるが、何もない。

 

「あぁ。顔を動かすと一緒に動くんだよ。目線を動かして見てくれ」

 

 言われるままに、俺は目を動かす。

 

「……れ……い。レイか、うん悪くないな」

 

「何言ってんだよ、名前なんてここに来るときに設定すしただろ?」

 

「それ関連のことは一切聞かれなかったが……」

 

 それを聞いたクラインはマジで?と疑問の音を漏らす。その隣でキリトが唸る。

 

「う~ん。もしかしたら、『コンバート』したのかもしれないな。そしたら、PN(プレイヤーネーム)もキャラ設定もないからな」

 

「こ、『コンバート』?なんじゃそれ?」

 

「他のVRゲームのキャラをこっちの世界に移すことだよ。今回はないけど、そのキャラのステータスとかをそのまんま持ってこれるから、初めから高ステータスでスタートできるってシステムなんだ」

 

 キリトの説明にクラインは納得したようだが、俺にはよく分からない。

 

「ようするに、前のゲームのキャラをこっちのゲームに引っ越しさせるってことだ」

 

「なるほどな、じゃあこのキャラは前のゲームの引継ぎか」

 

「そういうこと」

 

 今のキリトの説明でやっと理解できた。

 

「うっし!じゃあ、フィールドに出ようぜ。レイにこういうゲームのこと教えるにもちょうどいいしよ!」

 

「そうだな。とりあえず、戦闘のレクチャーからだな。行こうぜ、レイ!」

 

「おう!」

 

 俺はすぐに戻らなければいけないと思っていた。だが、彼らがあまりにも楽しそうにしているのを見てて、この世界への興味が止めどなく湧いてきた。俺は好奇心を抑えることが出来ず、キリトたちについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夕陽の草原』

 

 

〈キリト side〉

 

 

「うぉりゃぁぁ!あいでっ」

 

 クラインは威勢のいい声をあげて青イノシシに向かっていく。しかし刃は掠りもせず、イノシシの突進で後ろに吹き飛ばされた。

 

「ははは、モーションをしっかり起こさないとダメだよ」

 

「そ、そうはいってもよぉ……難しくってよくわかんねぇんだよ、『ソードスキル』ってのは」

 

 初めに、モンスターとの基本的な戦闘法を教えていた。それは、簡単だったのもあり、すぐに飲み込んでくれた。次に、『ソードスキル』というこの世界における必殺技の訓練に入った。し俺はスキルの発動についていろいろ説明したが、あまり理解できなかったようだ。そこで、実戦形式にしてみることになり、現在に至る。

 

「何て言うか、イメージしずらいんだよ。な、レイもそうだろ?」

 

 クラインは頭を掻きむしりながらレイに語り掛ける。

 

「ん?なんかあった?」

 

 ちょうどイノシシを斬り倒したレイが振り返る。その一抹を目撃したクラインが半信半疑の目で尋ねる。

 

「……今のって、『ソードスキル』じゃねえか?」

 

「あ~、多分そうだな」

 

 片手剣基本スキル『スラント』、攻撃自体は単純な袈裟斬りだ。しかし、その威力は通常攻撃の比ではない。そして何より、1度スキルを発動させたら、システムアシストによりほぼ必中するのだ。それが、『ソードスキル』である。

 

「しっかし、どうやったんだよ。おめぇもさっきの説明じゃサッパリだったんだろ?」

 

「俺、元々感覚でどうにかするタイプだからだよ。あ、でもコツはつかめた」

 

「なに!?どうやるんだ?」

 

 レイは、グイグイ迫るクラインを押し戻すと、短く唸り答えをまとめる。

 

「言葉にすると、力を目一杯ためて、一気に解き放つ感じかな」

 

「ん~と……こう、か?」

 

 クラインはそう言い、教わったように体勢をとる。腰を低くし、肩に曲刀をのせ、力を集中させる。すると、刀は光をまとい始めた。

 

「うぉりゃあああ!」

 

 力を解放したクラインの体はシステムに身を任せ、青イノシシに向かって直進する。草を漁っていたイノシシは抵抗することもなく切り裂かれた。HPは徐々に減り、0に到達する。その瞬間、イノシシの体は膨張し破裂した。

 俺は初の勝利に喜ぶクラインたちに賞賛を送る。

 

「2人ともおめでとう」

 

「おう!マジで感謝するぜ。レイもな」

 

「あぁ」

 

 たった数分で2人は十分に成長した。この2人は筋がいいかもしれない、そう思った。

 

「よし、もう少し狩りを続けようか。今の感覚を忘れないうちにな」

 

 そう言って、俺たちは次の獲物を探す。




~~SAO談話室~~

レイ「なあキリト、この世界っていったいなんなんだ?」

キリト「フルダイブ機器初のMMORPGゲームだ。ファンタジー系でも珍しい魔法のない世界なんだ」

レイ「そういえば、武器屋に売ってたのって、全部直接攻撃のばっかだったな」

キリト「そう。だからその代わりに、この世界には『ソードスキル』があるんだ」

レイ「へぇ~」

キリト「自分の体で戦うこの爽快感、やっぱVRゲームはこうでなくっちゃ!」

レイ「は、はぁ……」

キリト「今まで出ていたゲームはフルダイブ環境で行うようなものじゃなかったんだ。正直、ひと昔前のものを闇雲に入れてみただけ、っていうものばかりだったからな。このSAOが配信されると決まった時、あの時は嬉しさで夜も寝るれないほどに……」

レイ「えぇと……次回『デスゲーム開始(スタート)』。そ、それではまた……」

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