ソードアート・オンライン――オルタナティブ―― 作:焔威乃火躙
〈レイ side〉
あれから数時間、『ソードスキル』の練習も兼ねて3人でフィールド中を駆け回った。ひたすらモンスターを狩り、レベルとスキル精度を上げた。大方狩りつくすと、俺たちは一休みするためにフィールドの端の丘に立ち寄った。丘に到着すると、クラインは大きなため息をつき座り込んだ。
「ふぃ~、結構疲れたな」
「まっ、精神的にな」
キリトはすまし顔で答える。俺は戦闘の最中、気になっていたことを尋ねる。
「そういえば、この世界では肉体的疲労は無いんだな」
「ああ。動かしているのは、仮の肉体だからな。だから、いくらこの世界で大剣を振り回そうと、筋肉痛になることはないんだぜ」
「へぇ、どうりで体が軽い感じがしたわけだ」
俺は右手に握った剣を上下に振り言う。
「……」
「どうした?しっくりこないって顔してよぉ」
様子がおかしいと感じたクラインが声をかけてきた。
「いや大したことじゃないんだけどさ……」
「んだよ水くせぇな!別に気にゃしねぇよ。で、何なんだよ?」
「え~と……これ、左じゃダメなのかな?」
そう言い、俺は右手の剣を持ち上げる。
「お前、左利きか!?左でもいいんじゃねぇのか?」
「それが、スキルのほうはダメだったんだ」
「設定を操作してないからさ」
話を聞いていたキリトがそう言う。
「設定?」
「メニューを開いたら、『アバター』の中に『ステータスメニュー』があるからそこへいって、そしたら『利き手変更』ってのが入ってるから、それで左を選択すればOKだ」
「『アバター』の、『ステータスメニュー』から……あった」
キリトの言葉を繰り返し呟きながら、何重にも重なるウィンドウをたたく。最後に承認ボタンを押す。
それを確認すると、ウィンドウを全て閉じる。そして、左手に剣を構える。
「……せぁっ!」
薄青い軌道を空に描く、片手剣基本スキル『スラント』。しかし今までとは違い、右上から左下へと斬り下ろす逆袈裟だった。
「やったなレイ!成功したぞ」
「あぁ!ありがとな、キリト」
「いや、大したことはしてないさ。それよりどうだ?この世界は」
キリトは赤色の空を見つめ尋ねる。
「マジ最高だぜ。ホント、この時代に生まれてよかったわ」
「ま、悪くないな」
クラインと俺も沈みゆく太陽を見つめる。この世界は、現実と時間間隔が同じらしい。つまり、今現実は夕方であるということになる。クラインは一息つくと
「悪りぃな、俺はここらで落ちるわ。5時にアツアツのピザとジンジャーエールを注文してっから、それ食ってくるわ。ふたりはどうするよ?」
「俺はもう少し残るよ。レイは?」
「そろそろ飯を作らなきゃいけないし、戻ろうかな」
「じゃあ、俺様がログアウトの仕方教えてやるよ」
それは助かるが……なんか偉そうにしてるあたり、ありがたみが薄れる。
そんなことはつゆ知らず、クラインはキリトに別れを告げる。
「マジありがとな。この借りはいつか必ず……精神的にな」
「俺もいろいろ世話になったな。ありがとな」
「あぁ、またな」
キリトに礼を言うと、俺はこの世界から離脱しようとする。。クラインがウィンドウを操作するのを見て、同じように操作する。見様見真似で操作していると、突如クラインの指の動きが止まった。これでログアウトできるのかと思ったが、彼の様子からするとそうではなさそうだ。
「どうかしたんか?」
不思議に思い、聞いてみた。
「いや…………あれ?」
「ん?どうしたんだよクライン?」
キリトも気になったようで、立ち寄ってきた。
「ログアウトボタンがねぇんだよ」
「なに言ってんだ?ログアウトボタンなら……」
にわかに疑うキリトはログアウトボタンのある所まで操作するが、
「……ない」
「だろ?」
どうやら本当にないらしい。
「ほかに方法は?」
「ログアウトボタンでログアウトする以外に、この世界から出ることはできないよ」
キリトは少し困惑した様子で答える。そんな場を和ませようとしたのか、クラインが冗談交じりで話す。
「きっと今頃、運営は半泣きしてるだろうな」
「お前もな」
「へ?」
なんのことやら?といった顔をするクラインにキリトは一言付け加える。
「今5時過ぎだぜ」
それを聞いたクラインは涙目になり叫んだ。
「俺のピザがぁぁ!」
悲痛の叫びをあげ崩れ落ちるクラインを見ながら、キリトは浮かない顔をしている。
「どうした?」
「ログアウトボタンがなくなるって、今後の運営にもかかわる。なのに、強制ログアウトどころか、アナウンスもないのはおかしい」
その時、鐘楼の音が響き渡る。キリトの言うアナウンスかと思った矢先、突如体が光に包まれた。
『始まりの街』
眩しい光にほんの数秒目をつぶった。そして目を開くと、いつの間にか街にいた。
状況を飲み込めずにいた俺のとなりに青く光る柱が立ち、光が消えるとキリトが現れた。気づけば、反対側にクラインもいた。
「キリト、これはいったい?」
「どうやら、俺たちは強制転移させられたようだな」
キリトもこの状況に困惑しているようだ。それはクラインも同じだった。
冷静に周りを見渡すと、この世界に来たとき初めにいた場所であることと、俺たちと同じく強制転移させられたプレイヤーが多くいることが分かった。
ある程度強制転移が落ち着くと、次はオレンジ色の空を覆いつくす赤いメッセージが現れた。この時点で多くのプレイヤーが追い付かなくなっていた。そこへ追い打ちをかけるが如く、赤いローブを羽織った巨大なアバターが出現した。
そのアバターは、全身をローブで覆い、唯一中身が見える顔の部分は黒く染まっていてどんな奴か判別できない。そんな中、キリトは目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。なぜそんな顔をしているのかと聞こうとすると、それよりも先に巨大アバターがしゃべりだした。
『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私は茅場晶彦、この世界をコントロールできる唯一の人間だ』
「茅場……だって!?」
プレイヤーたちはその名に反応した。茅場と言えば、『ナーヴギア』の基礎設計者で、この世界の生みの親だ。これでやっと戻れると、皆安堵する。
『諸君はすでにログアウトボタンが消失していることに気付いているだろう。しかし、これはバグではない。これが、
しかし、茅場の告げる言葉はその期待を裏切るものだった。全プレイヤーが言葉を失った。そして、奴はさらに過酷な宣言を下す。
『君たちがこの世界から脱するためには、この城全100層を突破し、最終ボスを倒さなければならない。そして、この世界での死、つまりHPが0になると、君たちの脳はこのナーヴギアによって破壊される』
その一言はここにいる全ての、いや、この世界全ての人間を震撼させるものだった。突然の死の宣告を受け、しかも脱出方法はこの塔の完全制覇のみ。これをすぐに飲み込めるものはそうそういないだろう。
『ちなみに、外部から救助しようと試みた場合、その瞬間にナーヴギアのマイクロ波で君たちの脳を破壊する』
おまけに、外からの介入も絶たれた。ここにいるプレイヤーたちは、完全に孤立させられたのだ。
『それでは最後に、私からの些細なプレゼントを贈ろう』
その言葉に続いて、ひとつのアイテムが贈られた。開いてみると、『手鏡』が入っていた。オブジェクト化してみるが、たいして普通の手鏡だった。ふざけてるのか!と怒鳴りたくなった。だが、手鏡が輝きだした。何が起こるかと思うと、また体が光りだした。光がおさまると、またどこかに飛ばされていないか確認する。さっきと変わらない景色が目に映る。他のプレイヤーも、どこか変な場所に飛ばされたというはなさそうだ。しかし、様子が変だと感じた。
「ふたりとも大丈夫か?」
キリトの声がした。俺はその方を見たが、彼の姿は見当たらなかった。次いでクラインの声が聞こえる。
「あぁ……って、誰だあんた?」
「いや、お前こそ……」
その時、俺はあることに気付いた。俺は隣にいる見知らぬ男性たちに尋ねる。
「まさか、キリトにクラインか?」
「「あぁ、レイか。そうだが……」」
ふたりは顔を見合わせると、そろって声を上げた。
「「お前が《クライン/キリト》か!?」」
何とふたりの姿が変わっていたのだ。キリトとクラインは手鏡で自分の顔を見ると、現実のものになってるという。
「しかし、レイは元とあんまり変わんないな」
「それには俺も驚いたよ……」
そんな悠長なこと言ってると、茅場が最後の言葉を残す。
『これでソードアート・オンラインの正式チュートリアルを終了する。君たちの健闘を祈る』
そう言い残すと、赤い空とともに姿を消した。
~~SAO談話室~~
レイ「いきなりデスゲーム宣言を受けることになるとは思わなかったな」
クライン「確かに……100層クリアだの、HPなくなったら死ぬだの、一気に情報が入りすぎて頭が破裂しそうだぜ」
レイ「おまけに元の姿に戻すなんてしやがって」
クライン「そういや、おめぇのアバターはリアルそっくりだったな」
レイ「ホントに……姉貴のやつ、なんだってあの姿にしてたんだ?」
クライン「おめぇ、姉がいんのか?」
レイ「あぁ、元はこれ姉貴のなんだよ」
クライン「な、なあ。今度俺に紹介してくれよ」
レイ「えぇぇ……」
クライン「いや、そこまで引かなくてもいいだろ~」
レイ「あー、次回『孤高の蒼騎士』。でわまたー」
クライン「頼むから無視しないでくれ~!」