ソードアート・オンライン――オルタナティブ―― 作:焔威乃火躙
2023年6月 『玲奈,零士宅』
〈玲奈 side〉
デスゲームが始まってからもう半年経つ。その間に、
私の弟の零士を含んだ1万ものプレイヤーがゲームに閉じ込められてしまった。そしてその元凶が、私の恩師である茅場晶彦であるということ。信じたくないという思いはあるが、これは事実なのだ。
囚われた人たちを近くの病院へ運び込んだり、姿を消した茅場先生を探すために大規模な捜索が行われたりと、デスゲーム開始当初は相当バタバタしていた。半年経つ今でもその波紋は続いている。そして私も、その渦の中にいる。
茅場晶彦と関わりのある人物には必ず警察が張り付いている。私もその重要人物の1人なのだ。さすがに家の中にまで来ることはないが、周りには常に警官が2人以上ついている。
「……はぁあ。なんか堅苦しいな」
警察にずっと見張られてるからか、あんまり居心地もよくない。精神的にも疲労が積もっていく。
そんなとき、外で見張りをしている警官が騒がしくしているのに気づいた。
「なんだろう?」
窓の方へ近づき、耳を澄ます。
「……どうだ?神代凛子の所在は見当ついたか?」
「いや、まだつかめていないらしい」
「マジかよ、担当のヤツは何やってんだよ……」
ふたりの警官の話に出てきた神代凛子は、茅場先生と同じ研究室に配属しており、一番茅場先生と関わりが深かった人物である。私も何度か話したことはある。彼女は人柄もよく頼れるお姉さんのような人で、私も彼女に憧れている。その時に、茅場先生と恋人——茅場先生はそう思っていないかもしれないが——であるということを聞いた。
そのため、警察に目をつけられていたが、
「まさか、あれをかいくぐるなんて……」
彼女の方は、私の倍くらいの監視があったはず。それを掻い潜るのは至難の業。
そうまでして彼女が行こうとする場所は、たった1つしか思い当たらない。それは……
「茅場先生のところしかないよね」
小さく呟いたとき、ふと外の様子が目に入る。私に張り付いている2人の警官に別の警官が近づいてきた。彼らに何かを伝えに来た感じだった。私はそっと聞き耳を立てる。
「上からの指示だ、総動員で神代凛子を探せ!だと」
「じゃあ彼女の見張りは?」
「そんなの放っておけ!行くぞ」
そう言って、3人とも離れていく。
「……私も早く、凛ちゃんを探し出さなきゃ」
今の私にできることは、それくらいしかない。
(私が、絶対に茅場先生を止めて見せる。それまで頑張って、みんな、零士…………)
弟の無事を願い、家を飛び出す。
第29層迷宮区
〈レイ side〉
半年の間、攻略に参加することもなくレベル上げをする日々を繰り返していた。そのおかげか、だいぶ余裕が出てきた。最近では、迷宮区に5時間潜りっぱなしでも死なない程度までステータスが上昇した。
「これで、100体目!」
ゴーレムの胴体を横薙ぎに切り裂き、ゴーレムは光の粒に変化する。
「しばらくは静かになるか」
ずっと狩り続けると、リポップするのに時間がかかる。確か情報屋の彼女はそう言っていたよな、と思い返しながら口の中にポーションを放り込む。
「ぅげぇ……やっぱ不味いな、コレ」
文句を言いながらもヒドイ味の液体を無理やり流し込む。それにつれて、HPもイエローからグリーンまで戻る。
すでに8時間オーバーで、ポーションもあと1,2周回分しか残っていない。
「そろそろ戻るか?」
返事は返ってこない。それもそのはず、なにせ
「……戻るか」
第29層 『タンバル』
現在、攻略組が駐留する街だ。ここでは、最新の情報が飛び交う。情報収集にはもってこいの場所だ。
俺はここである人と落ち合う約束をしている。あたりを見渡す限り、その人物は見当たらない。
「……そろそろ移動しないか。長居はしたくないんだ」
「……チェー、面白みに欠けるナー。せっかくハイディングかけたの二」
俺の背後からフードを被った女の子が現れた。フードの下には三本ヒゲが少女の頬に描かれた。俺の待ち合わせの人だ。
「そんなことやってないでさっさと行くぞ、アルゴ」
「わかったヨ」
俺たちは近場のNPCレストランに移動した。着くなり、本題に入る。
「奴らのしっぽはつかめそうか?」
「イヤ、さすがのオレっちでも難しいヨ」
「そうか……何かわかったらすぐ連絡してくれ」
「ま、それがレー坊の依頼だもんナ」
俺が知る限り、アルゴはプレイヤー1の情報屋だ。その彼女がダメだったとなれば、奴らの影は当分現れないだろう。
「それよりもレー坊、また噂になってるゾ。『孤高の蒼騎士、またしてもMob群瞬殺』ってナ。攻略組の連中も目をつけてるって話ダ」
「……どこまで尾ひれをつければ気が済むんだか」
「しかし、あの蒼騎士様がレー坊だと知ったら、どんな反応するんだろうネ?」
いつからか、俺の周りで『孤高の蒼騎士』という名が出回り始めた。確かに、俺の装備は青がベースになっているが、鎧で固めた騎士というよりも着物に身を包んだ侍の方に近い。だから『孤高の蒼騎士』が俺であることを知るプレイヤーは、彼女しかいない。
「頼むから、その情報は売らないでくれよ」
「わかってるヨ。オレっちは約束を破るようなことは絶対にしないかラ」
ホント、情報屋の鏡だわと思った。
「助かるよ、また頼むぜ」
「オウ」
別れを告げると、俺は店を出る。
翌日 第27層迷宮区
今日もまた、無謀ともいえよう狩りをしている。レベル的には問題ないが、油断すれば危うい状況にもなりえる。おまけに、ここに来るプレイヤーはほとんどいない。トラップも多いこの場所にソロで挑むのは、かなり異常なのだ。
「ふぅ~、狩りつくしたか。これでまた静かになるな」
今日ここにきてまだ2時間しか経っていない。ここ数日、ダンジョンにこもることが多くなってきた。やはり、
しかしそれの所為か、最近レベルが普段よりもはるかに上がっていく。今日でなんと50に到達した。
強くなっていくと、俺の中の現実感が徐々に薄れていく。ゲーム開始時は、狩りに行くだけでも死を意識していた。それに対して、全プレイヤーで1番死から遠ざかっていると思っていた。ついこの間までは……
ビー!ビー!!
ビー!ビー!!
「ッ!アラームトラップか!?」
反射的に身構えたが、何も起こる気配がない。
「別の場所か、多分近い」
俺が発動させたわけではないのにここまで警告音が響くのは多分、近くにいる誰かが引っかかったんだ。俺は無我夢中で走った
(トラップを仕掛けるとしたら、広間の中央、通路の行き止まり、それから……隠し部屋!)
通路をかける俺は、異様にたたずむ扉を見つけ急停止する。
「ここか!!」
勢いよく扉を蹴破ると、中央でモンスターに囲まれ身動きが取れなくなっているパーティを発見する。さらにその真ん中には空のトレジャーボックスがおいてある。多分、あれがトリガーだったんだろう。
囲まれているプレイヤーは5人、うち4人がレッド寸前。
「うおぉぉぉ!!」
気づいたら、敵陣の真っただ中に飛び出していた。そのあとは、ひたすら無双し続けた。
モンスターの群れが消え去り、部屋には俺と先客、そして空箱だけが残っていた。
「あ、あの……助けてくれて、ありがとう」
黒髪の少女が未だにおびえた表情でお礼を言う。
「別に……。ここはトラップが多い。注意しないと、次は死ぬぞ」
半ば脅し気味に言った言葉に、彼女たちは身を縮める。その後ろで1人、目を伏せたのに気づく。そのプレイヤーをよく見ると、あの日出会った顔だった。
「お前、キリトか?」
「……」
彼は目を合わせずそっぽ向いた。間違いなくキリトだ。だが、あの態度は謎だった。
俺は少し頭を回転させ、察した。その瞬間、彼になんと声をかければいいのかわからなくなった。
「……悪い、俺先に行くよ」
キリトはパーティメンバーにそう言うと、部屋から立ち去った。
「君たちも早く街に戻りな。この外なら転移結晶も使えるし」
「ここでは転移結晶が使えないの知ってたの?」
おっとりした雰囲気のメイサーが俺に尋ねる。
「いや、今知ったとこだよ。あいつが結晶を使わず横を通って出ていったからな。勘は鋭いんだ、俺」
「君は、キリトの知り合いなのか?」
彼の質問に、俺はうなずいて答える。
「始まりの街でな……もう半年も前の話だ」
「それって、デスゲームが始まった時のことか?」
ニットを被った短剣使いがそう聞く。
「あぁ、その時は俺とキリトともう1人でフィールド中駆け回った。あれはたのしかったなぁ」
「……い、今は?」
黒髪の少女は槍を抱えなおし、俺に問いかけた。
「始まりの街で別れて以来、今日まで……」
彼女たちは返す言葉を失った。
「それはそうと、ここから出よう。話はそのあとだ」
そう言って、俺は彼女たちを連れ暗くなりかけた空気から脱した。
第11層『タフト』
「あ!みんな無事か!?帰ってきたら誰もいないから心配したよ」
転移門に着くと、黒っぽい茶髪の男性が駆け寄ってきた。メイサーの男性がその人に頭を下げ誤る。
「ケイタ、すまない!君を置いて無茶なことをした」
「いいよ、みんな生きて帰ってきたんだ。だから気にするな」
ケイタと呼ばれたその人は、優しい顔でそう言った。すると、黒髪少女が不安そうな顔でケイタに聞く。
「そうだ!キリトは?先に帰ってるはずなんだけど……」
「一緒じゃないのか?後ろに隠れてるのは?」
「……部外者が立ち入るもんじゃないと思って身を潜めたんだけどなぁ。ま、この様子だといずれバレてただろうけど」
俺は彼に見えるよう動いた。
「ケイタ、今のことで話がある。場所を移させてくれないか?」
「テツオ……わかった、いつもの場所に行こうか」
こっちだ、と案内する彼についていく。
数分でたどり着いた場所はNPCレストランだ。俺たちは楕円形のテーブルを囲むように席に着いた。そして、ここに来るまでの経緯を説明した。
「そうだったか。うちのメンバーを助けてくれてありがとう!えぇと……」
「レイだ」
「ケイタだ。『月夜の黒猫団』のギルドリーダーをやっている。よろしく、レイさん」
「レイでいいよ。で……」
他の人の名は?という目をする。それに気づいた彼らも自己紹介する。
「テツオです。前衛でメイサーをしています。先ほどはどうもお世話になりました」
次にニットの少年が立ち上がり言う。
「俺はダッカ—、得意武器は短剣だ。よろしく!ほら、ササマルも」
そう言い、弁髪帽——昔姉貴に聞いた通りなら、チャイナ帽の1つ——に似た被り物を身に着けた男性の腕をつつく。
「わかってるよ。僕はササマル。メインアームは両手槍、ミドルだ」
最後は黒髪の少女。
「私はサチ。一応、中盤で槍をやってるの。あと、助けてくれてありがとう」
「別に、偶然居合わせただけだ」
謙遜のつもりで愛想のないとこを言った。
「そうだ!キリトのヤツ、いったいどこに行ったんだよ」
ケイタが思い出した様に言った。俺は曖昧ながらも答える。
「多分最前線だ」
「最前線って、なんのために?」
ケイタを含め、黒猫団の全員がこっちに注目する。
「なんのためって……あいつ、攻略組のトッププレイヤーだろ?」
それを聞いた彼らは、仰天した。
「知らなかったのか?ここにいる誰も?」
「え?キリトのレベルって俺たちとあんまり変わらないんじゃ?」
メンバーに確認するケイタ。みんなうなずく中、1人だけ首を横に振った。
「私、キリトの本当の強さ、見たことがあるの」
「サチ?」
「キリトは、私たちのレベルの倍くらいはあった。どうしてあんなに強いのを隠してたのかはわからなかったけど、キリトが話してくれるまで待つことにしたの。そしたら、こんなことに……」
今の彼女の眼には、後悔が映っていた。他のみんなも、うつむいてしまった。そんな中、ケイタが決心したことを話す。
「会いに行こう。キリトに」
「でも、今の俺たちじゃ……」
彼のことだ、フレンドはもう解除しているだろう。そうなれば、〈追跡〉は使えない。最前線にいるとしても、巡り合える保証はない。攻略組にでもなれば可能性は出てくるが、今の彼らでは厳しいのは俺でもわかる。
なら、彼らが取れる行動は……
「まずはレベリングと装備の強化だ。効率のいい狩場でやれば、1ヶ月で追いつけるだろう。あとは〈連携〉も会得しておけば、大分マシになるぜ。いい情報屋紹介するから、あとはそいつに聞きな」
「なんでここまでしてくれるんだ?」
「……さあな」
そう言い、オブジェクト化した羊皮紙に『鼠のアルゴ』と書く。それをケイタに渡すと、俺は席を立つ。
「諦めんなよ。絶対にあいつにもう1度会って、
そう言い残し、俺は夜の街に出た。
~~SAO談話室~~
アルゴ「おいおいレー坊、黒猫団のことオレっち丸投げしただロ」
レイ「そんなことないだろ。相談にも乗ったし、アドバイスもしたし、そもそも危ないとこ助けたし」
アルゴ「でも肝心なことはオレっち持ちだゾ。ただでさえ情報屋は大変なんだゾ。レー坊の依頼だってそうダ」
レイ「そういえば、お前はどうやって情報を仕入れるんだ?」
アルゴ「噂話や第三者からの情報提供が元になってるヨ。そのあとオレっちが確認してから、情報を売りに出すんダ」
レイ「へぇ~、裏取りも情報屋の仕事ってことか」
アルゴ「そう、オレっちは確証のない情報は売らない主義なんダ」
レイ「……なあ、正確な情報ならなんでも買うのか?」
アルゴ「勿論ダ。新しいのに限るが、オネーサンが高く買い取るヨ」
レイ「……実は『孤高の蒼騎士』さんは、人付き合いが苦手なんだって」
アルゴ「マジカ!?これは速報ダ!すぐ売りに行かなくてハ」ピューン
レイ「……タダで持っていかれた。えっと、次回『ふたりのカリスマ』。ちょ!待てよアルゴ!!」