ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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ふたりのカリスマ

2024年5月24日 第60層主街区『ハーテンベル』

 

 

〈レイ side〉

 

 

 狩りから戻った俺は、裏路地のNPCショップに向かっているところだ。そこは、掘り出し物が安く手に入り、そこらのショップより高値でアイテムを買い取る超お得な穴場だ。これは、極少数のプレイヤーのみぞ知る情報で、そこに立ち寄るものも少ない。対人を苦手とするソロにはうってつけの場所だ。

 民家の合間をすり抜け、目的地へと急ぎ足で向かう。

 

「次の角を曲がれば、到着だっ!」

 

 若干浮かれ気味に、曲がり角を流れるように通り抜ける。

 

「何やら、今日はご機嫌のようだね」

 

 驚いた俺は、急停止した。

 

「おわっ!っと。……急に出てくんなよ、ヒース」

 

「ハハハ。これはこれは、また随分な挨拶だね」

 

 俺は目の前で佇むその男を睨みつける。

 彼はヒースクリフ、銀色の長髪を束ね赤ローブをまとったその姿は魔術師を連想させる。しかし実際は、前衛で敵の攻撃を跳ね除けている。そして攻略の最前線に立つ最強ギルド、血盟騎士団の団長。

 彼が最前線に立ち始めてからというもの、攻略スピード、プレイヤーの士気、さらには連携が格段に跳ね上がったと聞く。それは彼のカリスマ性があってこそなのだろう。

 そんな彼は、普段ギルド本部かレベリング場にいて、街中に顔を出すことは滅多にない。はずなんだが……

 

「君も、この先のショップに用かい?」

 

「まぁな……」

 

「そうか、ちょうど私も立ち寄ってきたところでな。ここは目新しいものが揃ってて面白いな」

 

「アインクラッド最強ギルドKoBの団長さんがこんなところでのんびりお買い物とは、明日は嵐でも来るのか?」

 

 冗談で言った言葉に、彼は笑いながら、どうかな?と返す。

 

「で、俺に何の用だよ?」

 

「やはり鋭いな、君は。()()について聞こうと思ってね」

 

 さっきまでの空気が一転した。

 

「……残念ながら、俺から話せることは何もありませんねぇ。ご期待に沿えず申し訳ないね」

 

「……そうかい、君がそういうのなら仕方ないな。また出直すとしようか」

 

 そう言い残し、彼は立ち去った。

 

「……なんでいつも、俺に絡んでくるんだか」

 

 ため息をつき愚痴ると、さっさと忘れようとNPCショップに逃げ込む。

 

「ちわぁっす。マスターいる?」

 

「いらっしゃい、何か探しもんか?」

 

 薄暗い店内の奥のカウンターに肘をつき真っ昼間から酒キメてるマスターがNPCらしい言葉を投げかける。

 

「いや、アイテム売却に来た。ついでになんか見てくよ……これ頼むわ」

 

「あいよ、ちぃと待ってな」

 

 そう言って、アイテムの鑑定に集中し始める。その間は、店の中を見て回る。ポーションや回復アイテムは買いだめしておいたし、防具も今のでも十分戦える。あとは武器をもう1段ステータス値高めのものが欲しいところだ。そんなんで、武器を置いてる棚を見る。

 

「どれもイマイチだな……」

 

 ステータスを比較して時には手に持ってみるものの、なかなかピンポイントではまるものがない。

 

「マスター。ここにあるので全部か?」

 

 マスターは全く酔いを見せず、懇切丁寧に教える。

 

「そうだな。しかもそこの赤柄のやつがここ一番の上物だ。多分それ以上はここじゃ厳しいだろうな」

 

「そうか。ならドロップ狙いか、レア素材から作るしかなさそうだ。ありがとな」

 

「何のこれしき。ほれ、今回の分だ」

 

 ウィンドウに換金したコルが表示された。

 

「こっちもありがとな、また来るわ」

 

 そう言って、俺は店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 第57層「祭壇の森」

 

 

 主街区の南西あたりに位置するここは、フロア攻略と何ら接点もないうえ、馬鹿みたいに強いモンスターがうじゃうじゃ出てくる地で、ここに来る奴はほとんどいない。それは俺も同じことだ。

 ならここに来た理由は?と言われると、答えはひとつ。ここの奥に眠るという秘剣の探索だ。その話が沸き上がってきたのはここ最近の話だ。

 

 

『秘剣探索?』

 

『そうそう、今話題沸騰中の目玉情報ダ。レー坊も気にはなるだロ?』

 

『ドンピシャだぜ。その情報はいくらで売ってくれんだ?』

 

『確証のない情報だからなぁ、オレっちとしてはこれはまだ売れないんだが……今回は特別ダ。ま、そんなとこだから代金は……このくらいかナ』

 

『割と高いなぁ。ま、十分払えるくらいだけどな』

 

『一応、信憑性は高いからナ。毎度!』

 

 

 昨日の夜、鼠から聞いた情報によると、ある攻略組のプレイヤーがNPCの巫女に話かけたところ、秘剣について話してくれたという。俺はまず、その巫女を尋ね話を聞きに行った。『神に祀られし秘剣、然るべき場所にて眠る』、彼女から聞けたのはそのひと言だった。彼女自身、そのことについてあまり話そうとしなかった。

 仕方なく、俺はそれを頼りに探し始めた。そして、ここにたどり着いたのだ。

 

「しかし、ここは基本的にレベルの高いモンスターばっかだ。油断したら、()()かもな」

 

 そう零し、俺は森の中に足を踏み入れる。

 木々が密集してるように見えたが、森の中は案外で明るい。。木漏れ日が進路を照らし、その道に沿って進む。

 道中モンスターに出くわすことはあったが、そこまで厄介でない奴が単体で来てくれたおかげで未だ無事だ。これが複数になった時には、さすがにきつい。

 そうこう考えてるうちに、どんどん奥に進んでいく。かれこれ10分は歩いたか、そう思っていた時だった。

 

「……?気を張りすぎか?」

 

 奇妙な違和感が全身に伝わった気がした。気のせいなら、いいんだが……

 

「これでも使うか」

 

 俺はロング丈パーカーのサイドポケットから、投擲用ピック3本を抜き取り、左斜め後ろの木の幹に放つ。ピックは縦一直線に刺さる。3本とも綺麗に幹の中央をとらえていた。投げてから沈黙が続いたが、何も出てくる気配はなかった。

 

「……やっぱ気のせいか」

 

 俺は向き直りまた歩き出す。

 

「…………ホッ」

 

「シュッ!」

 

 俺はまたピックを投げた。今度は1本、しかも左端ギリギリに刺さっている。だが外したわけではない。むしろこれでいいのだ。

 

「かくれんぼはもう終わりだぜ、さっさと出て来いよ」

 

「Oh、うまいこと隠れたと思ったんだけどな」

 

「なら、その似合わない安堵をしないよう努力すれば?なぁ、PoH」

 

 串刺しになった木から出てきたのは、全身黒ポンチョで覆った包丁使い(チョッパー)だ。

 

「つれないなぁ。暫く会わないうちに、変わっちまったな」

 

「お前と初めて会ったときから全く変わってねぇよ。てか、10日前に1回あってるだろ」

 

「Wow!覚えててくれてたなんて、嬉しいね」

 

「状況わかってんのか?」

 

 PoHは冗談交じりに言っているのは理解してるが、妙に腹が立つ。

 

「俺をつけてきたのか?」

 

 そう聞くと、PoHはフードの下に笑みを浮かべながら答える。

 

「もしそうだと言ったら?」

 

「張っ倒す」

 

「Ah……冗談だって」

 

 何がしたいのかまるで分らない。こいつがただ単にからかって楽しんでるだけとは到底思えないし。ここ数週間、目にすることが多くなったと思えば、いつもこんな調子。正直、不気味でならない。

 

「で、ホントは?」

 

「なに、暇つぶしに狩ってるだけさ。ま、満足には至らないがな」

 

 彼は両腕を上げ、そう言った。この瞬間、彼の思ったことを察したが、俺はあえて()()は言わない。

 

「この奥の奴らなら、少しはマシになるんじゃない」

 

「オイオイ、その返しじゃないだろ。ここは『人相手じゃなきゃダメか?』とかいうとこだぜ。せっかくその返しも考えがあったのによ、『じゃあ殺るか。今ここで』ってよ」

 

「だろうと思ったからだよ」

 

 こうして遊んでるように見えてるが、互いに警戒し殺気が渦巻いている。そんな時、

 

「あ、いたいた。ヘッド!あれ?誰かと思えば、お前か」

 

「また、か。相変わらず、染まらない、奴だ。ボスも、こいつ、いつまでも、生かすと、危険。殺るなら、今、始末する」

 

「おいおい、待てよザザ。それなら俺も混ぜろよぉ」

 

「とか言って、遊ぶなよ、ジョニー。こいつは、油断できない」

 

「……」

 

 はっきり言おう、俺の詰みだ。PoHの後ろから、骸骨面の赤目エストック、紙袋面の毒ナイフ使いの『赤眼のザザ』と『ジョニー・ブラック』がやってきた。3人ともアインクラッド最凶集団、殺人(レッド)ギルド『ラフィン・コフィン』、通称ラフコフのメンバーだ。殺しありの対人において攻略組に勝るプレイヤーたちの頂点に立つ奴らを相手に、1人道ずれにするのが現状での限界だ。逃げようにも、向こうにそのスキはない。

 試行錯誤している俺に、PoHは俺に問いかける。

 

「さぁ、レイ!ここで決めてもらおうか、俺たちと一緒に生きるか?ここで終わるか?」

 

「………」

 

 俺は答えるのを渋った。どちらを選ぶにしろ、俺はこの世界での重要な目的を捨てなければならないからだ。そんなこともお構いなしに、PoHは俺を揺さぶる。

 

「レイ、お前の中にあるものは俺たちのと変わらねぇ。お前はこっち側の人間だ。そんなとこでのんびりするのもいいが、結局1人なんだよ。こっちにこいよ。俺たち似た者同士、仲良くやろうぜ」

 

 PoHは、その巧みな話術で多くのプレイヤーを殺人(レッド)に引き込んだ。それはもはや、アインクラッド最強の騎士とはまた違ったカリスマ性と言えよう。こいつにそそのかれて、犯罪者と化すプレイヤーは多数存在する。俺には、そんな奴についていく気など毛頭ない。

 

「冗談じゃない。お前たちの行動を理解できるほど、俺は腐ってねぇよ」

 

「あらら、フラれちまったぜ。惜しかったな、ヘッド」

 

「Ah……ちょっとショックだぜ」

 

「遊んでる場合、じゃない。こいつ、殺す」

 

 ザザはそういうが、彼らは常に俺を警戒してるような雰囲気であった。まあ、ザザほどではないんだろうが。

 

「こんな逸材を自ら斬れとは、酷な話だな」

 

 PoHの言うことが本心かはわからないが、今俺を斬るつもりであることは確かだ。死を覚悟し飛び出そうとしたその時、

 

「おい!こっちにPoHとラフコフの幹部たちがいるぞ!早くきてくれ!」

 

 背後から声が聞こえた。それに気づいたPoHたちは一瞬焦りを見せる。だが、すぐに冷静さを取り戻し、ジョニーとザザは颯爽と立ち去る。PoHは俺に一言言い残す。

 

「チッ、命拾いしたな。また会ったときは、いい返事を聞かせてくれよ」

 

 そう言って、彼も森の中に消えていった。

 

「レイさん、無事でしたか?」

 

 先ほどの声の主が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「ノーチラス。すまん、助けられたわ」

 

「そんな、俺だって助けられたんですから、そんなことは気にしないでくださいよ」

 

 そうはいってるが、彼は嬉しそうな顔をしていた。

 ノーチラス、血盟騎士団に所属するものだ。以前、ある出来事で知り合ってからしばしば会っている。

 

「こんなところにきて、どうした?」

 

「ちょっと素材集めに。そういうレイさんは?」

 

「最近話題になってる秘剣探しだ」

 

 それを聞いた彼は盛大に驚いた。

 

「その、俺もついて行っていいですか?」

 

「別にいいぜ。さっきはうまいことやってくれたが、どうせお前もソロなんだろ?」

 

「あ、バレちゃいましたか。どうしてわかったんです?」

 

「勘」

 

 即答で返ってきた言葉にノーチラスはえ~、と漏らした。勿論、そんなわけないんだが、別に言うほどでもない。

 

「さて、そろそろ行くか。多分、もうすぐそこだろうし」

 

「了解!」

 

 そうして俺たちは、森の奥深くへ入っていく。       




~~SAO談話室~~
レイ…レ ノーチラス…ノ
レ「PoHのヤツ、俺をからかいやがって」

ノ「でも、なんであそこまでレイさんに固執するんでしょうね」

レ「さぁな。あいつは、俺はあいつらと同じだって言ってた。あいつとしては、どうしても俺を引き込みたいようだな」

ノ「そのせいで、あなたはラフコフと繋がってるんじゃないかって噂が立っていますし」

レ「とりあえず、今はまだ黙っててくれ。そういえば、ヒースのヤツってギルドではどうなんだ?」

ノ「大体団長室に籠っているか、幹部の人と話してるよ。あ、あとはラーメンのようなものをひたすら食べてたな」

レ「ラーメン?」

ノ「ずっと、『これじゃない』『これも違う』って言いながらすすってた」

レ「この世界のカリスマは変人しかいないのか……」

ノ「アハハ。あ、そろそろ時間だ」

レ「そっか。次回『秘剣に込めた思い』。またここに遊びにこいよ」

ノ「はい、わかりました!」
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