ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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秘剣に込めた思い

〈レイ side〉

 

 俺とノーチラスは、森の最深部にたどり着く。そこは、緑に覆われた古い祭壇があった。

 

 

「ここに、例の秘剣が?」

 

「あくまで可能性の話だ。調べてみないと、何とも言えない」

 

 そう言って俺は、祭壇へと歩き出す。その刹那、木々が騒ぎ立てた。まるで、何かを警告するが如く。

 俺はお構いないしにと、また一歩踏み出す。今度は風が騒々しく鳴り響いた。

 さらに一歩、もう一歩と踏み出すと、大気が、大地が震えた。

 

「レ、レイさん……」

 

「ここから先は多分、今までとは比べ物にならない。覚悟はいいか?ノーチラス」

 

 そう聞くと、彼は息をのみ無言でうなずく。

 

「OK、行くぞ」

 

 そう言って、俺は最後の一歩を踏み出す。

 

「………ォォ……」

 

「?何か聞こえた?」

 

「ッ!来るぞ!」

 

 直後、祭壇の後ろから黒い影が空高く飛び出る。それは俺の1,2メートル手前に降り立つ。衝撃で大地が震動し、体が震える。

 

「ギャァァォォォ!!」

 

 そいつの咆哮で大気が悲鳴を上げ、鼓膜が張り裂けそうになる。

 全長15メートルのずんだ体をか細い脚4本で支えている。首は1メートルほどあり、その先についている頭は。竜そのものだ。その頭上にHPバー2本と《インペリアル・ドラゴン》が表示される。

 

「よし、喰らえ!」

 

 俺は片手剣スキル『ホリゾンタル』でインペリアルの右足を攻撃する。攻撃は見事に決まった。俺はHPバーを確認する。しかし、

 

「な!?効いてないのか!」

 

「クォォォ」

 

 インペリアルはたじろぐこともなければ、音をあげることもなかった。その様子は、ただ呼吸ているだけのようにしか見えなかった。あまりにも次元が違いすぎる。

 俺は後ろに控えているノーチラスに注意を促そうと、一瞬振り返る。だがそれが間違いだった。

 

「レイさん前!!」

 

 反射的に正面に向き直った時には、もはや手遅れだった。

 インペリアルは反転し、尻尾を振りぬいてきた。回転の勢いも加わり、音速にも近いであろう攻撃が襲い掛かる。

 とっさに防御姿勢をとるが、若干遅かった。振りぬかれた尻尾は俺の右脇腹から右側頭部を殴る。辛うじて頭は守ったが、凄まじい攻撃は俺を吹き飛す。吹き飛ばされた俺は密林に激突する。その衝撃で近くの木はなぎ倒された。

 

「いってぇ……一瞬でも目を離せば、また即座にあれが飛んできそうだな」

 

 俺は体を起こし、そう呟く。

 

「レイさん!大丈夫か?」

 

 入口あたりでノーチラスがこっちの方を向いている。

 

「バカ!戦闘に集中しろ!」

 

 俺の意図を察したのか、ノーチラスは前に視線を戻す。幸い、インペリアルとの距離はまだ少しある。彼が戦闘態勢に戻ると、進行をやめ天に向け咆哮する。

 

「グォォォォォ!」

 

 より一層緊張感が増す。ノーチラスは剣を右る力を強め、キシリ、と音を鳴らす。

 

「う、うぉぉぉ!」

 

 ノーチラスは叫び声をあげ飛び出し、両手に握る剣を振り上げる。インペリアルも右前足を持ち上げ、3本の爪を立てる。そして、それらはほぼ同時に振り下ろされる。

 ガギィン、と金属音があたりに響き渡る。インペリアルの振り下ろした爪をノーチラスの剣が受け止め、そのまま力勝負が繰り広げられる。人対竜、結果は火を見るよりも明らかだ。勝負が決しようとするその時、俺はインペリアルの左前脚に『ヴォーパル・ストライク』で突撃する。勿論ヤツに効くわけもなく、ひるみさえもしない。

 だが、それが狙いではない。俺は体をひねり、弾丸のようにインペリアルの膝を突き抜ける。それにより、インペリアルは体勢を崩す。胸、首、頭と地べたにつくインペリアル。今がチャンス。俺とノーチラスはソードスキルを叩き込む。高威力のスキルで頭を滅多打ちにして、ようやくHPバーの半分だ。そこでインペリアルは体を起こし、立ち上がる。ここからは、ひたすらその繰り返しだ。

 あれから2,3度インペリアルをボコり、とうとう残りHPはわずわとなった。流石のインペリアルも、レッドゾーンまで減らされ怒号をまき散らす。かと言うこちらも体力は半分もない。長期戦になれば、こちらの不利は明確。この局面で向こうの攻撃パターンが変化するとなると、スキを見て一気に畳みかけるしかない。

 

「あいつの動きに注意しつつ、スキを探るぞ!」

 

「了解!」

 

 ノーチラスと俺は旋回する。死角に駆け込む俺らを追うように首を回すインペリアル。ヤツの左を駆ける俺に踏み付け、逆サイのノーチラスには尻尾で攻撃してくる。俺はそれを左ステップで、ノーチラスはジャンプでかわす。しかし、それで終わりではなかった。

 インペリアルの口元から、直径1メートルの炎の球が生成されていた。それを避けた俺に向けて放つ。完全にかわし切ることはできなさそうだ。そう思った俺は、ソードスキルで迎え撃つ。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 片手剣二連撃スキル『クロス・スラッシュ』、ただ十字に切り裂くシンプルかつ初歩スキルだが、汎用性が高くこうして何度も世話になっているスキルだ。火炎玉を見事に四分割にしたが、それによって俺のもの前で爆発した。大したダメージではないためそ慌てることはないが、爆炎であたりが見えなくなった。

 

「あ、やべぇ」

 

 だが時すでに遅し、爆炎で身動きが取れなくなった俺に、またも踏み付け攻撃が襲い掛かる。

 

「うぐっ」

 

 辛うじて急所は外れたが、爪の先が背中を引っ掻いた。今の俺のHPじゃ、次の攻撃をまともに喰った時点でゲームオーバーだ。それよりも先にヤツを叩き潰さなくてはならない。

 しかし、ヤツにはスキと呼べるスキはなく、こっちが防戦一方という状況。このままでは確実に、負ける。打開策を思案するも思いつかない。いつ出てくるかもわからないスキに賭けるのも無謀であることは明白。どうする?と自問し続けながらも、ヤツの攻撃を避け続ける。もうそろそろ限界だ。何かないかと頭を回転させる。そして、ひとつの答えにたどり着く。

 

(そうだ!スキがないなら、作ればいいんだ)

 

 そして、俺はサイドポケットからピックを取り出す。インペリアルはちょうど火炎玉を発射するところだ。

 

「いけ!」

 

 俺は火炎玉に向かって投げ打つ。ピックはヤツの口元の火炎玉に突き刺さった。その瞬間、火炎玉は爆発し、インペリアルの顔を覆った。

 

「今だ!」

 

 俺は足元に飛び込み、『スラント』で右後足を斬る。当然ダメージは少ないが、あともう1本脚を切り裂き、ヤツを地にたたきつければ勝てる。そう思い、俺は右前足に狙いを定める。が、そう簡単にはやらせてくれない。

 インペリアルは横を走る俺に尻尾を振り下ろす。しかも、軌道を見ると、左上から右下に弧を書いて振り下ろしてくる。それもものすごい速さで。かわすことはできるが、そうすればせっかくのスキを無駄にすることになる。ノーチラスは火炎玉の標的にされ下手に動けない。ヤツも焦っている今がチャンスなのに、あともう少しなのに。せめて、尻尾の動きを見極め連撃を叩き込めれば、削り切れるかもしれない。

 

(少しでいい。あいつよりも……)

 

 そう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈ノーチラス side〉

 

 俺が攻撃に身構えた刹那、反対側で煌めくものがあった。その時、尻尾が振り下ろされレイさんを襲う瞬間だった。しかし、攻撃はかわされていた。それだけであれば、俺もそっちに目を奪われることはなかった。

 

「ギャァァォォォ……」

 

 インペリアルは断末魔を轟かせ、消滅した。何が起きたか、理解できなかった。気づけば倒していて、レイさんが硬直したままになっていて、この状況に困惑していた。そして何より、自分の目の前で、信じられない光景が映っていたことに困惑していた。

 

「レ、レイさん。今のは?」

 

「?どうした、そんな目を見開いて?」

 

「いや、だって、レイさん、今使ったスキル……」

 

「ん?『シャープ・ネイル』がどうかしたのか?」

 

 レイさんは不思議そうに俺を見ている。今さっきのことに気付いていないのか、あるいは俺の勘違いか。俺は怖気づいて、言えなくなってしまった。

 

「あ、いえ、やっぱり何でもないです……」

 

「そうか?ならいいが」

 

 そういうと、レイさんは回復ポーションを飲み始めた。

 

(気のせいなのかな。レイさんが一瞬……)

 

 そこまで考えたが、それを振り払うように頭を振る。

 

「そ、それより、ここ等辺探索しないんですか!?」

 

「え?あ、あぁ、そうだな」

 

 何かあったのか、という顔をするレイさん。しかし、すぐにいつもの淡々とした表情に戻り、一番怪しい祭壇を調べに行く。

 祭壇に上がると、中心に十字柄の剣が突き刺さっていた。

 

「あれですかねぇ?」

 

「さぁな、調べてみりゃすぐにわかるだろうけど」

 

 俺たちはその剣に近寄る。

 その剣は、全体黄ばんだ白で、何故か金属っぽい感じには見えない。柄はともかく、刃が金属でないのは珍しい、というより初めて見た。

 レイさんはそれを手に取ると、すかさずステータス確認する。

 

「これ、名前もステータスも見えないな」

 

「え?」

 

 彼の言うことを一瞬疑った。レイさんはウィンドウを可視化し、俺に見せる。確かめてみたが、彼の言う通り、?で埋め尽くされている。

 

「鑑定しないと、わからないシステムなのかな?」

 

「可能性はあるが、多分違うな」

 

 何故かと聞こうとするが、その前にレイさんが言う。

 

「まだクエストは終わってないんだろうな」

 

「クエスト?これ、クエストだったんですか?」

 

「いや、正式なクエストとは多分違う。クエスト指示とか無かったし。言うなれば、エクストラクエストかな」

 

 エクストラクエスト、レイさんの推測によるとそうらしい。なら、クエストのクリア条件もあるということなのか、と考えた俺はレイさんに聞いてみる。

 

「それなら、クリアの条件が用意されているということも考えられるの?」

 

「まぁ、この仮説が正しいならそうなるな」

 

 だったら、その報酬が秘剣であるに違いない。しかし問題は、クリア条件もわからないことだ。クエスト指示がなければ、地道見探すしかない。そう思っていた俺に、レイさんが希望の一言を口にする。

 

「一つ、思い当たるとこがある」

 

「ホント!?一体どこに?」

 

「この秘剣の在りかを教えてくれた人だ」

 

 そういうと、森を出るぞ、といい密林の中に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第57層 「高城山神社」

 

〈レイ side〉

 

 俺たちは、高城山神社(たかしろやまのじんじゃ)にやってきた。正確に言えば、戻ってきたのだ、秘剣探索の原点に。

 

「巫女さんはいるか?」

 

 俺は鳥居をくぐり尋ねる。

 

「……またですか?何の用でしょう……」

 

 庭の掃き掃除をしていた巫女がため息交じりに言う。

 

「これに見覚えあるか?」

 

 そう言って、祭壇に刺さっていた剣を渡す。巫女は驚いた表情をして受け取る。不思議そうにしていたノーチラスは小声で俺に問いかける。

 

「レイさん、これはいったいどういう状況?」

 

「初めて来たときは、秘剣の隠し場所のヒントを教えてくれただけで特に何もなかったんだが、あの剣がこれを攻略するためのカギだったってことだ」

 

「お話の途中、失礼」

 

 巫女が剣を抱え話しかけてきた。ちょっと不機嫌そうだったけど。

 

「んで、どうだ?」

 

「間違いなく、これは例の聖剣です。まさか、もう1度目にすることが出来ようとは……」

 

「どういうこと?」

 

 ノーチラスが怪訝そうに聞く。聖剣に見入っている巫女の代わりに俺が答える。

 

「これは推測だが、あの剣は人の骨から作られたものだ」

 

「え!?骨剣だったのか!」

 

「剣にしては妙に軽かったし、触った時もろい感じがあったからな。金属や石じゃないのはすぐにわかった。そして、黄ばんだ白色である程度形を保つ硬さがあるとしたら、骨ぐらいしか思い当たらない」

 

「じゃあ、人の骨っていうのはどういうこと?」

 

 彼の質問に答えようとすると、巫女がしゃべる。

 

「神聖なるこの剣の素材となるのは、神に仕えし神職のものの遺骨ということです」

 

「最初に神剣、って言ってたからな。無思慮なこと聞くが、肉親のものなのか?」

 

 巫女は無言のままうなずく。

 

「何故、そんなことに?」

 

 ノーチラスは彼女に尋ねる。暫く口をつぐむが、覚悟したのか話し出す。

 

「邪悪な魔物を封印するためです。あそこには、邪竜が住み着いており、その凶暴さゆえに封じ込めたのです」

 

「もしかしてそれは」

 

「さっき戦った、インペリアル・ドラゴンだ」

 

 巫女は俺たちが会話している間も話し続ける。

 

「そのため、われら一族は50年に一度、聖剣の力で抑え込む儀式をしてきました。ですが、とうとう一族は滅びていき、今生き残っているのは私だけになりなす。10年ほど前に、私の母も邪竜の贄となりました」

 

 それはつまり、彼女の母はあの剣になってしまったということだ。

 

「悪いな、つらい記憶だったよな」

 

「いえ……こうして、また母の温もりを感じることができたのです。確かに悲しいことではありますが、とても感謝しているのですよ。こうして母と会えたのですから」

 

 ここまで感情の表現を見せられると、彼女がホントにシステムで動いているのか疑ってしまう。

 

「邪竜は俺たちが倒してきた。もうアンタたちが犠牲になることはないだろう。……母さんと一緒にいてやんな」

 

 最後の言葉は、あまりにもぎこちなく柄でもないことをいった。俺は逃げるようにその場を後にする。

 

「待ってください!旅のものよ!」

 

 鳥居を抜けようとした俺を巫女は呼び止めた。いつまでたっても振り向かない俺にノーチラスが優しく尋ねかける。

 

「いいんですか?彼女、あなたに用があるそうですよ」

 

「……ど、どうかされましたか?」

 

 数秒前のことで動揺した所為か、ガチガチに硬くなっていた。しかし、彼女の眼を見た瞬間、緊張は吹き飛び編に入っていた力はゆっくりと抜けていく。いつの日か、俺の憧れた瞳に似たその眼は、俺の心を落ち着かせていく。

 そんなことも知る由もない彼女は、俺に頼んできた。

 

「これを、母の形見を受け取っていただけないでしょうか」

 

 それにはさすがに驚きを隠せなかった。

 

「いいのか?アンタの母さんを手放すような真似なんかして」

 

「私も母のように強くならなくてはなりませんからね。だから、母はあなたに託します」

 

 そういうと、彼女は何か呪文のようなことをしゃべりだす。途端、骨剣は青白い光を纏い、次第にその光が強くなっていく。光の中から出てきたのは、さっきまでのものとは見違えるほど美しい剣だった。

 

「これが、秘剣です。どうぞお持ちください」

 

 俺はそれを手に取る。深い青色の刃は視線を引き込むように澄み切っており、重量感があるはずなのに剣を振った時の軌道は水のように滑らかに流れ、両刃の刀のような形でも威力は並の両手剣に引けを取らない。まさに、秘剣だ。こんな規格外な聖剣は初めてだ。

 

「ありがたくいただくよ。大事にする」

 

 俺は巫女に礼を言う。

 

「ま、まぁ、これで負けたりしたら、承知しないから」

 

「ツンデレ」

 

「ツンデレですね」

 

「うるさい!///」

 

 照れた巫女に俺たちは別れを告げる。

 

「こいつと一緒に、最後まで勝ち残ってやる。あいつに勝つ、その時まで」




~~SAO談話室~~
レイ…レ ノーチラス…ノ


ノ「レイさんって、意外にもあんなこと言うんですね」

レ「ほっとけ……」

ノ「そう言えば、あの時レイさん彼女を見てなんかこう、落ち着きを取り戻した感じでしたが、あの人に惚れたんですか?」プププ

レ「いや、そうじゃないけど」

ノ「あぁぁ……残念。じゃあ何かあったんですか?」

レ「大した理由じゃないが、あの人の眼がふと懐かしく感じてな。久々の感じだったな」

ノ「それって、現実(リアル)の彼女ですか?」

レ「……今日の稽古は()()にするか。腕が鳴るなぁ」ニヤ

ノ「え?ちょ、嘘ですよね?すみません誤りますから、()()はやめて。待って、レイさん!?()()だけは!!」イヤァァァ 

レ「次回『本物の戦場』。さぁ、始めようか」
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