ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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本物の戦場

2024年11月7日 第75層主街区

 

 

〈レイ side〉

 

 

 情報収集以外で最前線に来るのは久しぶりだ。ここにきた理由は、昨日のことに遡る。

 狩りから戻った夜、俺はヒースにあった。

 

「やあ、レイ君。お疲れ様」

 

「なんだよ、最近見ないと思えばいきなり現れて」

 

 ホームへ足を進めながら、俺はヒースに尋ねる。

 

「なにかあったのか?こんな時間に来るなんて」

 

「そうだった。君に頼みがあるんだよ」

 

 彼は真剣な顔つきで言ってきた。

 

「次のボス戦、君にも参加してもらいたい」

 

「……詳しく説明してくれ」

 

 ヒースは簡潔に状況を話した。

 今攻略している75層のボス部屋に20人の大部隊で偵察に向かった。クォーターポイントのボスはひときわ強いとは聞くが、今回はより一層強力になっているようだ。さらには、ボス部屋に入ればボスを倒すか死ぬまで出れず、結晶アイテムも使用できないらしい。

 

「なるほど。それで、なるべく多くの戦力をそろえたいってことか」

 

「理解が早くて助かるよ」

 

 俺は過去1度もボス戦に参加したことない。にもかかわらず、俺にそういってきたということは、そこまで切羽詰まっているということになる。

 

 

「わかった。出来る限りのことはする」

 

「よし、では明日最前線の主街区にきてほしい。頼むよ」

 

 そうして、今日俺はここに来たのだ。

 初めて攻略に参加するということで、若干の緊張を感じる。まぁ、十分すぎるくらいの準備はしたし、いざという時の()()もある。そう簡単に死にはしないだろう、そう思いつつ皆が集まる場所へ向かう。

 集合時間としてヒースに伝えられた時刻より15分くらい早く着いたが、すでに40数名のプレイヤーたちが集まっていた。今回のボス戦について話しているところもあれば、仲良く談笑しているところもある。

 俺が一歩近づくと、彼らはこちらを振り向く。その後、しばしの沈黙が続く。無理もない、見知らぬプレイヤーが近寄ってきたのだから。俺だって同じ状況にいたら、困惑していただろう。近くにいたフルアーマーの大男が痺れを切らし、俺に問いかける。

 

「今からボスに挑みに行く攻略組に、一体何の用だ?」

 

 少々威圧的な口調ではあったが、そんなのに怯むほど俺もやわじゃない。

 

「参加しに来たんだ。このボス戦に」

 

 俺も負けじと声を張る。大男は疑いの目で俺を見下ろす。対する俺は動じることなく堂々とする。どちらかが折れるまで張り合うだろうと思われた。

 

「あれ?もしかしてレイ君?」

 

 呼ばれた方に視線を向けると、サチや黒猫団のみんながいた。

 

「おぉ、久しぶりだな。無事攻略組に入れたみたいだしよ」

 

「あぁ、君のおかげだよ。ありがとう」

 

「じゃあ、このボス討伐祝勝会、全額ケイタもちで」

 

「ゲッ!マジ……」

 

 その様子に他のメンバーたちは一斉に笑う。和やかな雰囲気に大男が水を差す。

 

「あんたら、こいつ一体誰だよ?」

 

 再び戻った険悪な空気は、ケイタの予想外の言葉で消し飛んだ。

 

「ああ~。彼は『孤高の蒼騎士』だよ」

 

「へ?」

 

「は?」

 

 俺と大男、さらには周りの奴らも一瞬思考が停止した。

 

「こいつが?あの、永遠のソロで姿さえも分からない謎だらけのコミュ障幽霊騎士!?」

 

(ちょっと待てぇ!なんだその豪華てんこ盛りの虚実は!?幽霊伝説の仲間入りしてるとか、俺初めて知ったんだが)

 

 内心取り乱したが、何とか顔には出さなかった。

 

「そうか、その噂が事実ならこちらとしても頼もしい。よろしく頼むよ」

 

「あ、あぁ、こちらこそ……」

 

 こいつの変わり身には心底あきれた。大男はそう言って、元居た話の輪に戻った。

 俺も、久しく会う面子との話に戻る。いろいろ聞きたいこともあるし。

 

「なぁケイタ、いつから俺が噂の人物だと知った?」

 

「アルゴさんだよ。君の名前を出したら……」

 

 あのネズミ~、あとでネコの餌にしてやる。くだらないことを考えつつ、俺の噂話を聞く。

 

「レイさん自身はどうだったんだ?」

 

 

 しっかり聞いていなかったため、唐突に話が切り替わったことに驚く。

 

「あれから変わったのって、レベルとスキルぐらいだな」

 

 それに俺たちは笑い合う。

 

「おぉ!レイじゃねぇか。2年ぶりだな!」

 

 突如声を掛けられる。その声はあまりにも懐かしいものだった。

 

「クラインか?お前も生きてたのか」

 

「な~に。この天下のクライン様が、そうやすやす殺されてたまるかよって」

 

 この世界で最初にできた戦友の1人との再会に俺は胸が熱くなった。

 そこにサチが尋ねてきた。

 

「ねぇ、もしかしてその人が」

 

「あぁ、始まりの街でともに戦った戦友だ」

 

「あんときはキリの字と心行くままに楽しんでたよな」

 

 思い出話に花咲こうとしたとき、これまた懐かしの顔が出てきた。

 

「あの時、おまえイノシシ相手にボコられてたよな」

 

 クラインの後ろから声がした。これまた聞き覚えのある声だった。

 

「見ないうちに随分と有名になったな、キリト」

 

「お互い様だろ。まあ、君の場合噂程度だったけどな」

 

 黒一色装備の剣士(ソードマン)、キリトと白赤のギルド服を纏った細剣使い(フェンサー)の女性が歩み寄ってくる。

 

「キリト君、その人が噂の蒼騎士(ブルーナイト)さん?」

 

「あぁ。レイにも紹介するよ、こっちはアスナ。血盟騎士団の副団長で、『閃光』の異名の持ち主だ」

 

「こんにちは」

 

 俺も彼女に挨拶する。彼女が『閃光』のアスナということは。俺はキリトを手招く。近寄ってきた彼の耳元で俺は囁く。

 

「結婚、おめでとさん」

 

「ンな!?」

 

 その様子を見て俺はクスっと笑みを浮かべる。

 

「キリト君どうかしたの?顔少し赤いよ」

 

「あ、いや、何でもありません……」

 

 可愛いなこいつ、そう思ったことは内緒だ。

 そんなことしていると、カシャンカシャン、と音を立てて近づく集団が現れた。その者たちの先頭には、赤の甲冑と警察のライオットシールド並みの大きさの盾を持ったヒースがいる。その後ろには血盟騎士団のメンバーが続いている。その中には、ノーチラスもいる。

 ヒースは着いて早々演説し始める。

 

「うむ、皆よく揃ってくれたな。ここから先の戦いは厳しいものとなるだろう。しかし、我々は立ち向かわねばならない。そのために、思う存分に力を奮ってほしい。解放の日のために!」

 

 この言葉にプレイヤーたちの士気力は格段に上がった。流石の一言しかない。

 彼は紫色の結晶アイテムを取り出して天に掲げる。

 

「コリード、オープン」

 

 刹那、掲げられた結晶は砕け散り、彼の前の空間が波打つ。回廊結晶、結晶に記録した場所へ転移させる門を開くことができる代物だ。実際に目にするのは初めてだ。それほどまでに、この先の敵は強大であることを身をもって感じる。

 そう考えている間にも、続々と門をくぐっていき、あとは俺だけとなる。俺も境界に足を踏み出す。

 その先の景色は、暗くよどんだ空気が立ち込める陰気な場所だった。俺が完全に通り抜けると、回廊は閉じた。もう後戻りはできない。ざわめく心臓を沈め、呼吸を整え、愛剣を確認し、大丈夫だ、と何度も言い聞かせる。

 落ち着きを取り戻したころ、重々しい音が耳にこだまする。ガゴン、と大きな音とともにヒースの合図が響き渡る。

 

「戦闘開始!」

 

 いよいよ決戦が始まる。なだれ込むようにボス部屋へと入り込む。全員が部屋の中央に到達すると、扉は締まり影もきれいさっぱり消え去った。警戒を続ける俺たち。だが一向に敵の姿が現れない。刻々と過ぎる時間に焦燥感を覚える。とその時。

 

「上よ!!」

 

 反射的に上を見上げる。そこには天井に張り付くムカデらしきモンスターがいた。しかしその姿は気持ち悪いものではなく、凶悪そうな骸骨面でおぞましいものだった。スカルリーパーと表示された名に俺は震えた。

 だがそんな余裕も与えてはくれない。リーパーは天井から落下し始めた。固まりかけた体をヒースの声が叩く。

 

「固まるな、距離をとれ!」

 

 正気に戻った俺は端の方へと駆けた。安全と思えるとこに着くと、すぐさま戦闘態勢を整える。リーパーの落下地点に視線をやると、まだ数名動けていなかった。反対側にいるキリトは彼らを大声で呼ぶ。やっとのことで動き出した彼らを後ろから鋭い大鎌が襲う。リーパーによるものだ。彼らはまともに回避することもできず、体を真っ二つに切り裂かれる。満タンだったHPは一瞬で消え去り、彼らの体はなきものとなった。

 ほんの一瞬の出来事に俺の頭は追いつけなかった。キリトも、クラインも、黒猫団も、ノーチラスも、アスナやその他大勢のプレイヤーが恐怖に唖然とした。

 しかしこんな程度で終わるはずもない。リーパーは次の標的目掛け、疾走する。あまりの光景に、全員逃げることしかできなかった。たった1人を除いて。

 狙いを定められたプレイヤーに鎌が振り下ろされる。だがそれを、ヒースの大盾が見事に受け止める。やはり、彼は別格なのだと思い知らされた。しかし、敵はもう1本の鎌で標的を刈り取る。無論、彼の命ごと。

 太刀打ちできないのか、誰しもがそう思った。 容赦なく振り下ろされる鎌の先に恐怖の顔を浮かべたプレイヤーがいる。そこへキリトが駆け込む。

 

「下がれ!」

 

 二刀の剣をクロスさせ攻撃を食い止める。だが奴の重量を受け止めきれず、徐々に押し込まれていく。リーパーは追撃を仕掛ける。彼の左肋に近づく鎌は素早く割って入ったヒースが防ぐ。そして、キリトの肩まで降りかけた鎌はアスナによって弾かれた。それにより、リーパーは後ろへ撥ね退けた。

 ヒースとアスナは一気に間合いを積め、キリトは残りのプレイヤーたちに指示する。

 

「鎌は俺たちが食い止める。そのスキにサイドから攻撃してくれ!」

 

 そう言って、アスナの元へ飛んでいく。

 ようやく恐怖という硬直から抜け出し、交戦が開始する。




~~SAO談話室~~
レイ…レ ヒース…ヒ
レ「ボス戦って、あそこまでハードなものなのか?フィールドボスの比じゃないんだが」

ヒ「フロアボスは他のボスとは郡を抜いて強いが、奴らはまた別格だ。クォーターポイントと言うだけあって、強さも一段と高くなっているんだよ」

レ「マジかよ……よく死ななかったな」

ヒ「普段のフロアボスには参加しないんだよ。私が出るときは、並外れて強いボスが出てくるか、救援要請があったときさ」

レ「珍しいな。アインクラッド最強の騎士が戦場に出ることがないなんて」

ヒ「まぁ、私の出る幕でもないということだ。攻略組には逸材揃いでね。彼らなら、この私に頼らずとも勝ち残れる力があるからね」

レ「随分買ってるんだな」

ヒ「フッ、君もその1人さ」

レ「お世辞はやめろ、恥ずかしいだろ……」

ヒ「君は意外と可愛いな」

レ「か、からかうなよ!」

ヒ「ハハハ。次回『決闘』」
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