ソードアート・オンライン――オルタナティブ――   作:焔威乃火躙

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決闘

〈キリト side〉

 

 激闘の末、俺たちはリーパーを倒すことができた。決着がつくまで、1時間近くかかった。全員、勝利に歓喜をあげる体力もないくらい疲弊していた。床に座り込んだクラインが疲れ切った言葉でつぶやく。

 

「何人、死んだ?」

 

 俺はウィンドウを開き、この部屋のプレイヤーを1人ずつ数える。そして、最初の数から今ここにいる数を除くと……

 

「11人死んだ」

 

「マジかよ……」

 

 4分の1がこの戦いの最中に死んだ。それは、この先の過酷さを物語っていた。

 これから毎回、初見かつ離脱不能の状況において、今回のような人数でないにしても死人は出るだろう。それをあと24回繰り返したとき、一体最終ボスと対峙できるやつは一体何人いるだろうか。

 その時のひとりは、確実にあいつになるだろう。そう思い、ヒースクリフを見つめる。今の戦いが終わってなお、半分を切ることもなく悠然と立ち尽くしている。そして、プレイヤーたちを見下ろす。その姿はまるで、まるで……

 それに気づいた瞬間、俺は手元の剣を握りなおしていた。そして、背中合わせになってるアスナにごめん、と小声で言う。

 

「え?キリト君それどういう?」

 

 その言葉に答えることなく俺は飛び出した。それに気づいたヒースクリフはとっさに盾を構える。俺はそれをすり抜けるように剣を滑らせる。切っ先は盾を抜け、彼に到達する数センチ手前で止まる。俺が意図的に止めたわけではない。ただ見えない障壁に阻まれただけだ。だがそれで十分だった。障壁のすぐ近くにウィンドウが表示された。そこに書かれていたのは、

 

「『システム的不死』って、どういうことですか?団長」

 

「………」

 

 黙り込む奴の代わりに俺が答える。

 

「こいつはシステムに保護されているんだ。しかし、あんたも趣味が悪いな、俺たちのそばで見ててどうだったよ?茅場晶彦」

 

 次々と出てくる衝撃発言に、プレイヤー全員が目を見開く。冗談だと思っている者もいたが、それを打ち砕くように、奴が口を開く。

 

「何故私だと気づいたのか聞きたいところだが………改めて自己紹介しよう。私は茅場晶彦だ。ついでに言うならば、君たちの最終ボスとして現れる予定だった」

 

 それには全プレイヤーが驚愕するカミングアウトだった。

 

「そんなラスボス様が、なんで俺たちの手助けしてんだよ」

 

「なに、最後の戦いを盛り上げるためだよ。それまでに君たちには強くなってもらう必要があった。そのために私が力を貸したまでさ。もっとも、95層以降は君たちに任せ、私は姿を消すつもりだったんだがね。この事態はさすがに想定外だよ。ま、これもMMORPGならではだがね」

 

「なんだそれ?お前の身勝手な目的のために我々を裏切ったというのか!貴様ぁ!!」

 

 余裕を見せるヒースクリフに、彼らの思いを踏みにじった茅場に怒る血盟騎士団のメンバーのひとりが、彼に斬りかかる。しかしそれよりも早く、奴は手元のウィンドウを操作する。

 その瞬間、襲い掛かるプレイヤーが麻痺状態になり、その場に倒れこむ。もしかせずとも、ヒースクリフの奴がステータス操作したのだろう。その範囲は徐々に拡大していき、ついには俺と奴を除くプレイヤーすべてが動けなくなっていた。

 俺は動けなくなったアスナを抱き抱えながらヒースクリフを睨む。

 

「どうする?このまま全員殺して隠蔽するか?」

 

「そんなことはしないさ。少し早いが、私は最上層の紅玉宮にて、君たちの訪れを待つとしよう。心配せずとも君たちの力なら、この先乗り越えていけるさ。でもその前に」

 

 奴は俺の方に体を向ける。

 

「キリト君、君にチャンスをあげよう。今ここで私と戦い、見事打ち勝てばこの世界に囚われているプレイヤー全員を解放しよう。無論、不死属性は解除しよう」

 

「ダメよ、キリト君。今は、引いて」

 

 アスナの言うとおり、これは罠だ。それは俺でもわかっている。

 だがそれ以上に、俺の感情が押さえきれなかった。今すぐにでも斬り殺したいという衝動が溢れかえってるのがわかる。それをアスナも感じ取ったのだろう。彼女はやや呆れた様子で俺を見る。

 

「わかった。でも、ちゃんと、帰ってきて」

 

「あぁ」

 

 ホント、アスナには迷惑をかけてばっかりだな。俺はアスナを静かに寝かせ、ヒースクリフと対峙する。背後でクラインやエギルが騒ぎ立てる。俺は彼らに親指をたて大丈夫だと伝える。

 

「さあ、とっとと始めようぜ」

 

 俺は2本の剣を構える。

 

「よかろう、かかってくるがよい」

 

 不死属性を解除したヒースクリフも盾に刺した剣を引き抜く。俺は全神経を集中させる。絶対に死なない。そして、奴を………殺す!

 ダッシュで飛び出し右手の剣で斬りかかる。奴はそれを盾で受ける。俺は勢いを殺さずに左から薙ぎ払う。しかし首をはねる寸前に奴は屈み、左手の青白い剣は頭上を通り抜けるだけだ。

 今度はヒースクリフの反撃。左下からの切り上げに対し、俺は奴の上を飛び越える。

 凄まじい剣戟を繰り広げるが、互いにソードスキルは使っていない。いや、正確にはスキルを使わないが正しいのか。

 俺のスキルがいくら強力であるといっても、あいつはその軌道、タイミング、受けるべきポイントを知っている。超防御型なうえ見切れるのなら、相殺できるだろう。全て防がれれば意味がない。逆にあいつからしたら、スキルを使って攻撃した後の決定的なスキができるというデメリットが大きすぎる。そこまでしてスキルを使うことはないだろう。

 そう考えていると、ヒースクリフの斬撃が飛んできた。とっさに剣で受けるが、若干ダメージを受ける。少しずつ減っていく体力に焦りだす俺。二刀の剣で連撃を叩き込む。どれも盾に弾かれるばかりで決定打にならない。徐々にスピードを上げていく。だが、焦りすぎた俺は奴の攻撃に反応が遅れた。辛うじて躱すも、剣先が俺の頬を引っ掻いた。

 その瞬間、俺は致命的なミスを犯す。早く倒さないとと焦燥に狩られ、二刀流最上位スキル『ジ・イクリプス』を発動させてしまった。それを見たヒースクリフは笑みを浮かべる。スキル発動をキャンセルするには、俺が攻撃を受けるなどしてモーションを中断させなければいけない。だが、奴がそんなことするわけがない。つまり、

 

(負けるのか?俺……)

 

 どうしようもない。死を覚悟する。

 途端、背中に痛みが走る。何事かと思ったその時、体が力なく地に落ちた。理解が追い付かなかった。冷静に戻って、麻痺したことに気が付くのに時間がかかった。

 

「な、なぜ……だ?」

 

 ヒースクリフがそう零す。なにが起きたのか確認しようと、視線を持ち上げる。そこには、ヒースクリフの右肩に深い青が突き刺さり、その周りには貫通を示すダメージエフェクトがあった。そこから青い線をたどった先には、盾の上に乗ったレイがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈レイ side〉

 

 正直、うまくいくかは賭けだった。だが、見事なまでに計画通りに動き、ヤツに一泡吹かせるのに成功した。

 ヒースは剣を振るい、俺を払い除ける。ダメージは与えたが、それでもまだイエローだ。

 

「ちぇ、今のでレッドまで追い込めると思ったのにな。アンタ固すぎだろ」

 

「……一体どういうことだね?君は確かに麻痺させたはずだが?」

 

 ヒースは怪訝そうに聞く。

 

「あぁそれか。解毒ポーション飲んだら回復した。ボス対策で手元に入れてたのをここで使うことになるとはね」

 

 そう言って、ポケットからポーションを取り出す。

 

「ならなぜ全員の麻痺を解かなかった?君はキリト君も麻痺させた。君の狙いが見えないよ」

 

「茶番はそのくらいにしとけよ。アンタもわかってるだろ?俺がこの状況を作り出した理由」

 

「……猿芝居が君に通じるわけがないか。下手に復讐心を煽るとあと後が怖いしね」

 

 本音を言えば、憎悪にまみれた復讐心はある。だがそれ以上に、俺の中に眠る感情がある。

 

「アンタは姉貴の思いを裏切ったんだ。ここで落とし前をつけさせてもらう」

 

「君にできるか?」

 

 完全に警戒されたこの状況を打破することは、ほぼ不可能だ。誰しもがそう思っただろう。

 

「後悔するなよ」

 

 俺はヒースのもとに踏み出す。刹那、数メートルあった間合いが一瞬で消えた。消したのは俺自身だけど。それにはあのヒースも驚きを隠せない。

 俺の振る剣を盾で受け止める。俺はさらに右下へ掻い潜り、斬り上げる。それに対しヒースはこれまたガード。畳みかける俺、ガードし続けるヒース。その剣戟はさっきの10倍速い。

 互いに間合いを取ると、ヒースは荒くなった息を整え言う。

 

「やはりそうか。うすうす感づいてはいたが、君がそれを手にしたのか。その『加速剣』を」

 

「あぁ、こいつを手に入れた時ぐらいにな」

 

 俺はそういい、左に持つ剣を上げる。

 

「設定では、その剣を持ったものにそのスキルを与えるようにしたからな。それを持っているのを見たときは、私も驚いたよ。『加速剣』はあらゆるものを振り切る速度をもたらすスキルだ。その分疲労しやすいというところがあるが、それを差し引いても十分すぎるアドを有していてね。ただ、その速さに当人がついていけるか、が難点だったが……」

 

 俺のようなやつでよかった、なんて表情でこっちを見る。

 

「ま、結構特訓したしな。それともうひとつ」

 

 俺はヒースに言う。

 

「こいつの名は「影月(かげつき)」。俺の、相棒の名だ!」

 

 この「影月」という名は、あの巫女のところで現れた特殊イベで知った。

 特訓をするもなかなかうまくかみ合わず、巫女に相談しに行ったら突然イベント発生という、何とも珍しいものに出会ったのだ。

 その報酬が、その時まで名前がわからなかった秘剣の正体だった。それも、教えてくれたのは(コイツ)自身という、どこかの漫画で出てきそうな出来事ことだった。

 そのおかげか、この力もだいぶ使いこなせるようになっていった。今では、『神聖剣』や『二刀流』にも負けない自信がある。

 

「さあ、そろそろ終わりにしようか」

 

「いいだろう。受けて立つ」

 

 俺はとっておきの力であいつに勝つ、そう誓い踏み出す。

 

「はぁぁぁ!!」

 

「ふぬぁぁ!!」

 

 互いの剣が交差する。火花が散り、力強さを物語る。だがこれで終わらない。俺は右から大きく薙ぎ払う。ヒースはそれに合わせるように盾を構える。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……見事だよ、レイ君」

 

 そう言って、彼は倒れた。互いにHPは残っているが、今ので中身の体力が尽きた。そして、この勝負は俺の勝ちに終わった。

 倒れたままでヒースは呟く。

 

「まさか、あんなものがあるとは思わなかったよ」

 

 最後の攻撃、俺は右薙ぎを放った。それをヒースは盾で防ごうとした。だが、あの時、俺の斬撃は上下左右の攻撃だったのだ。それも刹那のうちでの4連撃だ。この『加速剣』は人の限界速度を超え、刹那での行動を可能とする。流石にスキルの補助なしでの連撃はこのぐらいが限度のようだが、これで十分だった。

 あの時、ヒースは右の攻撃を防ごうとしていたが、途中で盾をずらし右、下、左からの攻撃を防いだ。だが、終いには盾を弾かれ、最後の垂直斬り下ろしが右肩をバッサリと斬り裂いた。

 これは、俺がひそかに特訓していた技だ。スキルアシストなしで超高速連撃を完成できたのはつい最近のことだ。コイツに勝つために編み出したのだ。その名は、

 

「リベンジ・アクセル……」

 

 負けたヒースが俺の方を向き言う。

 

「私の負けだ。とどめを刺すがいい」

 

「……そんなことのために、アンタに挑みに来たんじゃねぇよ」

 

 ヒースは不思議そうな顔して尋ねる。

 

「では、何が目的かな?」

 

「アンタは姉貴を裏切ったんだ。気にしてないって言っても、しっかり謝れよ。逃げるなんて狡い真似しかがったら、今度こそぶった斬るからな」

 

 一瞬あっけにとられたヒースは、すぐにいつもの表情に戻すとコクリとうなずく。

 

「では、私に勝ったのだこの世界から全プレイヤーを解放しよう」

 

 そう言ってヒースはウィンドウを開き、操作する。そして、彼は最後のボタンを押す前に全プレイヤーに対して一言いう。

 

「プレイヤー諸君、長きにわたるアインクラッド攻略、お疲れ様。そして今ここに、ゲームクリアを宣言しよう。諸君、ゲームクリアおめでとう」

 

 そう言うと、彼は指を動かし画面に触れる。その瞬間、俺は意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここは?」

 

 それは見たことない景色だった。美しい夕焼け空の中に俺は立っていた。不思議な空間ではあるが、不思議と心地よく感じた。それは、俺の視界に長年過ごした場所が映っていたからかもしれない。

 

「あれが、浮遊城アインクラッド。こう全体をしっかり見るのは、初めてだな」

 

「なかなかいい場所だろう」

 

 俺は隣で声がした方を向く。そこには、懐かしの顔があった。

 

「久々にアンタの素顔を見たな、茅場」

 

「それもそうだろう。私はこのゲーム、素顔でプレイしていなかったな」

 

 このゲームを始めたとき、あるアイテムでプレイヤーたちはリアルの姿に戻されたわけだが、ヒースこと茅場晶彦はそれを使わなかった。ゆえに茅場であることは他の誰も知らなかったのだ。

 

「アンタにはいろいろ言いたいことがあるけど、それは向こうでするか」

 

「君には、ずいぶん迷惑をかけたね。すまなかった」

 

「いいよ、アンタへの報復で頭がいっぱいだったけど、思い返せば結構楽しんでたし。まぁ、姉貴にきっちり謝ってくれれば、俺は許すよ。なんだかんだ言って、助けられたしな」

 

 何故か和やかに会話しているが、それも終わりに近づいていた。

 

「そろそろこの空間も消滅するだろう。ここらでしばしの別れだ」

 

「約束、忘れんなよ」

 

「フッ、もちろん」

 

 白い光があたりを包み始める。もうここともお別れかと思うと、名残惜しいものがある。だが、帰らねばならぬ場所がある。俺は未練を振り払わなければいけない。

 

(あばよ、アインクラッド……)

 

 そして、目の前が真っ白になった。




~~SAO談話室~~
レイ…レ ヒース…ヒ
ヒ「レイ君、改めてSAOクリアおめでとう」

レ「しかし、アンタもこの世界にいたのはビックリだったよ。てっきり、外から見てるもんだと」

ヒ「こういったRPGゲームは、傍から見るよりも自分自身でやるからこそ面白いのだよ」

レ「つまり、面白半分でアンタもここに潜り込んだのか」

ヒ「まぁ、そういうことだな。その言い方だと、君も興味本位で来たようだね」

レ「姉貴が絶賛してたからな。まさか、命を懸ける羽目になるとは思わなかったけど。そういえば、アンタ、最終ボスとして出てたけど、何でアンタ自身がラスボスになったんだ?」

ヒ「私のナーヴギアには、ある実験を施していたんだよ。人の脳を焼き切るほどの高出力スキャナーで、私の精神を仮想世界にコピーするというものだ。このゲームで私のHPが0になれば作動するようにしていたのだよ。それで最後にラスボスとなり、華々しく散ろうと思ったのさ」

レ「だからといって、ラスボスになって倒されようなんて発想にはならないと思うんだが、これ如何に?」

ヒ「ノリだよ」

レ「そんな軽い考えでラスボスになられると、妙に腹が立つんだが……」

ヒ「次回『終わらない旅』。アインクラッド編、最後まで読んでくれたこと、心より感謝する」

レ「みんな、ありがとな!今後もよろしく」


fin.
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