インフィニットストラトス 皇族の懐剣(投稿休止 再開日未定) 作:のんびり日和
二人が天城家の子供となって幾日が過ぎ、季節は春から夏へと移り変わり、庭先に生えている木にはセミが引っ付いてミーンミーンと一定のリズムで鳴いていた。
「あなた、あの子達の転入用の書類準備出来ましたよ」
雪子は仕事部屋で仕事をしていた颯馬にそう告げながら持ってきた書類を手渡す。
「おぉ、ありがとう。さて、あの子達の転入準備はこれでいいな」
雪子から受け取った書類をそれぞれ確認し、記入漏れなどが無い事を確認しファイルの中へと仕舞う。颯馬達が用意していた物は智哉達の新しい学校の転入届けだった。学校の名は浄苑小学校と呼ばれる場所で、地元にある学校の中では上級にある学校であった。しかし仕来りだとかそう言った堅苦しいものはなく、地元の人との交流会やお祭りなどに参加するなど地域と密着してのびのび学問を学ぶと言った校風の学校である。
「どうぞ、冷たい緑茶と水羊羹です」
そう言い雪子は書類と一緒に持ってきたお盆に乗せた緑茶と金魚が泳いでいる水羊羹を差し出す。
「ほぉ、これは見事な水羊羹だな」
「宝城堂の新作らしいですよ」
二人は冷たい水羊羹を舌鼓していると、雪子はふとある事に気付きそっと持っていた水羊羹の乗ったお皿を置く。
「そう言えばあの子達に前の学校にいるお友達にお別れの挨拶をさせてないわ」
「……確かにそうだな。しかし記憶を無くした智哉と再会させたら、智哉の友たちに悲しい思いをさせてしまうかもしれん」
「確かにそう…ですね」
智哉、そして記憶を無くす前の友人達に悲しい思いをさせる。颯馬の言葉に雪子は暗い雰囲気となった。
「――僕、行きたい」
突然背後からそう声が聞こえ、2人は驚いた表情を浮かべ顔を向けると其処には智哉と穂香が立っていた。
「聴いていたのか?」
「…うん。お父さん、僕会いたいんだ。記憶を無くす前の僕がどんな人物だったのか、その友達とかに会って直接聞きたい。それと、ちゃんと自分の今の事を言っておきたい」
「……本気なの? もしかしたら辛い思いをするかもしれないのよ?」
「そうだとしても、僕行きたい」
智哉の確固たる意志に二人は困惑の表情を浮かべる。するとずっと黙っていた穂香が口を開く。
「えっと、お兄ちゃんの友達に悪く言う人はいないと思う。一番傍に居た私がそれをよく知ってるから、その私もお願い」
「穂香まで…。あなた」
「本当に後悔とかしないんだな? お前に記憶が無くても相手にはお前と遊んできた記憶とかがある。つまり相手に辛い思いをさせるかもしれない。それでもいいんだな?」
「うん」
颯馬は、智哉の変わらない意思を尊重し、分かった。と返した。
それから数日後、とある学校の門前にその地域じゃ中々見られない2台の黒い車が停まっていた。車から降りてきたのは智哉と穂香そして雪子だった。後方の車両からは圭司と彩が降りすぐさま智哉達の警護に着く。
「それじゃあ智哉、穂香。お友達にちゃんとお別れの挨拶をする事。それと、悔いの無い様にね」
「うん」
「分かった」
二人の返答を聞いた雪子は不安な心を抱きつつも2人を職員室へと連れて行く。
職員室に着いた5人はまず二人のクラスの担任、そして校長先生と面談を行う事に。校長と二人の担任は何ヵ月も登校してこなかった2人が無事だったことに涙を零しながら安堵していた。
そして今日2人を連れて来た目的と転校の件を雪子が伝えると、教師と校長は突然の事で驚きの表情を浮かべるも了承の言葉を口にした。
「―――では、必要な書類を準備してまいりますので少々お待ちいただいても宜しいでしょうか?」
「はい。その間この子達をクラスの方に向かわせても?」
「勿論構いません。二人は今日は放課後までいる考えで居るのかい?」
「はい、最後の授業は受けてから帰りたいです」
「私もお兄ちゃんと一緒です」
そう言われ校長はそうか。と少し寂しそうな顔を浮かべ、教師の方に顔を向ける。
「では、松下先生。二人を教室に」
「分かりました。それじゃあ教室に行きましょうか」
「「はい」」
「彩、一緒に行ってあげて」
「畏まりました」
担任と智哉と穂香、そして彩は校長室を後にし残った圭司と雪子、そして校長は転校するのに必要な書類などの処理を行い始めた。
その頃、智哉達は自身のクラス『4年2組』と表札がぶら下がったクラスに到着し先に松下が中へと入って行った。
「皆さん、おはようございます!」
《おはようございます!》
「実は、今日は大事なお話があります。暫く学校を休んでいた真登香ちゃんと一夏君が今日久しぶりに学校に戻ってきました!」
教師の口から出た言葉に生徒達にどよめきが走る。
「せ、先生。本当に二人が来たんですか?」
「えぇ、今日久しぶりに来たわ。……けど、皆に報告しないといけないことがあるの」
最初に入って来た笑顔とは違う真剣な表情を浮かべる松下。突如表情を変えた担任に生徒達は若干不安な表情を浮かべる。
「実はね、2人とも今日を以って此処を転校することになったの」
「えぇ~!?」
「久しぶりに来たのに、転校って…」
「なんで?」
「みんな静かに。 2人が転校するのは諸事情で別の家の子供になったの。その為その家から此処までは遠いから新しい学校に移ることになったの」
松下の説明には生徒達はシンと静まり返った。
「先生、諸事情って?」
「御免なさい、そればっかりは先生も言えないの。それじゃあ2人に入って貰うわね。二人共入って来て」
そう言い松下は廊下に居る2人を呼ぶと、智哉と穂香が教室へと入って来た。二人を姿を見た生徒達は喜びを見せる者や、涙を浮かべる生徒達で溢れた。
「えっと、天城智哉です。その前は織斑一夏と言う名前でした」
「新しい名前になった天城穂香です」
そう自己紹介するが、全員一夏の名前を知っているのにまるで知らないから説明するような姿勢に皆首を傾げる。すると、松下がその訳を口にした。
「実は、もう一つ皆に伝えないといけない事があるの「あの、先生。それは僕が言います」……無理しなくてもいいのよ?」
「大丈夫です。自分の事は自分で言わないといけませんから」
そう言い智哉は一歩前に出て口を開く。
「実は僕、病気を患ってその所為で記憶を無くしちゃったんだ」
「「「……」」」
智哉の言葉にクラス中の生徒達は時が止まったような感覚に襲われた。
「記憶が無くなったって、それじゃあ俺達の名前とか全部…?」
「うん。現に僕はみんなそれぞれの顔を見ても名前とか思い出せてないんだ。……本当に、ごめん」
暗い表情を浮かべ、俯く智哉に生徒達はどんよりと暗い雰囲気となった。そんな生徒達の中に一人意を決したような顔を浮かべ
「みんな、そんな辛気臭い顔を浮かべんなよ! せっかくいち…じゃなかった、智哉が学校に来て元気な姿を見せに来てくれたんだぞ! 今日で最後でも笑顔で送ってやろうぜ」
そうバンダナをした少年は立ち上がってクラスの生徒達に言うと、それぞれそうだよね。笑顔で送らないとね。と気持ちを切り替えていく。
「そうだよ。智哉君が私達の事忘れても私達はちゃんと覚えているし、二度と会えないって訳じゃないからまた何処かで会って楽しい思いで作ればいいよね」
「うん、そうだよ。今日一日でいい思い出になる様にしよう!」
皆が暗い雰囲気から少しずつ明るい雰囲気へと変わっていく中、智哉は一人困惑の表情を浮かべていた。
「いいの? 僕もうみんなの事全然憶えてないんだよ?」
「大丈夫! 一夏君、じゃなかった智哉君が記憶を無くしても私達はちゃんと憶えるもん!」
「そうだよ! 記憶が無くなったからって友達じゃなくなるわけないじゃん!」
クラスの生徒達は智哉の中から自分達の記憶が無くなっても友達だ。その言葉に智哉は我慢できず、目に涙を溜めだす。
「グスッ。 あ、ありがとう!」
「おいぃ、何で泣くんだよ智哉!」
「弾、お前が久しぶりに良い事言った所為だぞぉ」
「俺の所為かよぉ!」
バンダナの少年、弾がそうツッコミを入れるとクラス中笑い声が上がり穂香、そして涙を流し出していた智哉も笑みが零れた。
教室の外でその姿を見ていた彩は良かったと少し安心した表情を浮かべながら見守っていると、
「良かった。あの子にはクラスの子達皆から慕われていたのね」
そう声が聞こえ、彩はそちらに体を向けると圭司と雪子がそっと扉の窓からクラスの中を覗いていた。
「雪子様、校長との話し合いは終わられたのですか?」
「えぇ、書類等全てね。それじゃあ私は先に家に戻るわね。帰りの時もう一人警護人を送るからそれまであの子達の事お願いね、彩」
「御意。この命に代えてでもあの御二人をお守りします」
彩の返答を聞いた雪子はお願いね。と言って圭司と共にその場を後にした。
その頃天城家では、颯馬は奥の応接室にて目の前に座っている女性と対峙していた。
「それで、一体何用でこの家に参られた
そう言って目の前にいる人物、束に問いを投げる。
次回予告
突如天城家に現れた束。彼女の目的は、智哉が何故天城家に来たのか。そして何故記憶が無いのかだった。
逆に颯馬は束に何故智哉の事を聞く。束はそっとその訳を口にした。
次回
悲しみのウサギ~いっくんは、私とって大切な子です~