インフィニットストラトス 皇族の懐剣(投稿休止 再開日未定)   作:のんびり日和

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8話

天城家に束が現れたのは突然の出来事だった。

時は数時間前まで遡る。

 

~数時間前~

 

颯馬は智哉達を見送った後部屋へと戻り仕事をしていた。

 

「颯馬様、先日調査しました組織の報告書を持って参りました」

 

「うむ、ご苦労。其処に置いておいて…何者かね?」

 

颯馬は部下の方に向かってそう問うと、部下は慌てて振り返った。だが其処には庭園しか広がっておらず人の姿は一切見受けられなかった。だが部下は注意深く辺りを見渡す。

 

「其処の松の影に隠れている者。もうバレておるぞ」

 

部屋から出てきた颯馬がそう言うと、庭園には生えている松の木の影からおとぎの話のような恰好をした女性が現れた。

 

「……何時気付いたのさ?」

 

「部下が襖を開けた際、部屋に入って来た風にほのかに香水の匂いが混じっていた。我が天城家は普段から香水は香りの少ないモノしかつけないよう言いつけておるからな」

 

颯馬がそう告げると、女性はふぅ~ん。と零した。

 

「何者だ貴様!」

 

部下はそう声を荒げ、懐から拳銃を取り出す。部下の声に続くように家から数人の部下達が現れ颯馬を守る様に前に立ち、そして拳銃を抜いて構えた。

 

「よさんか、お前達」

 

「し、しかし…」

 

「いいから銃を下ろせ」

 

颯馬に咎められ、部下達は渋々銃を懐に仕舞う。部下達が銃を仕舞ったのを確認した颯馬は次に女性の方に顔を向けた。

 

「取り合えず家に上がりたまえ。話は中で聞こう」

 

そう言って家に招くと、暫し颯馬を見つめ女性は家に上がった。

颯馬の部屋に案内された女性は互いに対面になるように座っていた。

 

「―――さて、名を名乗っておこうか。此処天城家の当主、天城颯馬だ。それで、君は?」

 

「……篠ノ之束」

 

彼女、束がそう名乗ると颯馬の目が若干鋭くなった。

 

(篠ノ之束? 確かISと言うパワードスーツを開発した博士だったか。何故彼女がこの家に…)

「そうか。して、一体何用でこの家に来た?」

 

「この家に最近引き取った養子が居るだろ? そのことで此処に来た」

 

颯馬の視線をものともせず、束も鋭い視線を颯馬へと向けていた。

 

「智哉達の事だと?」(確か、彼女は織斑千冬と仲が良いと言う情報があったな。だが、なぜ彼女が此処に来る。まさか、あやつに取り返してほしいと頼まれたのか?)

 

颯馬はそんな考えを浮かべながら、鋭い視線を絶えず送り続けた。

 

「此処に居る子、天城智哉と天城穂香。旧姓織斑一夏と織斑真登香。二人が何でこの家に来て、そしてなんでいっくんの記憶が無くなったのか、それを詳しく教えて」

 

「……わざわざ聞かなくても、君なら知っているんじゃないのか?」

 

「それ、本気で聞いてるの?」

 

束は颯馬の問いに苛立ちを隠さず睨み返す。颯馬は暫し沈黙を貫いていたが、智哉達がこの家に来た時の事を話した。

颯馬の話を束は質問など一切せず静かに聞いていた。

 

「――これが智哉達がこの家に来た経緯だ」

 

「そうなんだ。……いい気味だ

 

颯馬の話を聞いた束はそう小さく呟く。颯馬は束が小さく呟いた言葉に首を傾げた。

 

「何故いい気味だと言う? 君と織斑千冬は仲が良かったでは無かったのか?」

 

「仲が良い? そんなの周りがそう勝手に判断してるだけだ。私はアイツとは友人でも何でもない」

 

颯馬からの問いに束は殺気を込めた目で睨む。送られてくる視線に颯馬は千冬だけではない。他にも多くの憎悪が含まれていると感じ取った。

 

「……織斑千冬だけではない、他の者達に対してもそうとう恨んでいるようだな」

 

「なんでそう思うんだよ?」

 

「私はこれまで多くの者の目を見てきた。君の目は他者をあまり信用していない目だ」

 

そう言われ束は一瞬疑いの目を向けるも、直ぐに重い息を吐く。

 

「……そうだよ、私は信用なんかしていない。あの子達の事を考えないあの女の事も。そしてアイツの姉弟、姉妹だと言う理由でいっくん達に変な期待を送る周りの大人達全員信用なんかできるか!」

 

怒りの感情をむき出す束。颯馬は今までの会話で疑問に思った事を口にした。

 

「君があの子達の事をどれほど大切かは分かった。だが何故其処まであの子達の事を気に掛ける?」

 

「……」

 

しばしの沈黙が両者の間に流れた。そして

 

「……くれるからだよ」

 

「ん?」

 

「あの子達だけが、私を普通の年上のお姉さんとして見てくれるからだよ」

 

束は悲痛に満ちた顔でぽつりぽつりと語る。

 

「周りの連中は私が常識では考えれない事を考えたり、発明したりするのを気味悪がった。私自身その位なら平気だった。けど、気付いたら家族にまで気味悪がれていた。孤立していく私に織斑千冬が近付いてきた。当初はアイツも他とは違う為、友達が出来ずにいた。つまり私と同じ境遇だと感じ仲良くできると思った。けどアイツが、いっくん達に自分の我儘を押し付けていたのを偶然見たときに、私の考えが間違っていた。アイツは他の連中より質の悪い奴だ。そう思い距離を置こうと考えた。けど、いっくん達を見捨てることが出来なかった。あの二人は他の奴らとは違って私の事を気味悪がらなかった。それどころか、私を見つけると何時も『束お姉ちゃん、束お姉ちゃん』って、呼んでくれた。私はこの子達だけは守ろう。そう決意したんだ。けど……」

 

「ISか…」

 

「そう。最初は宇宙の事、そしてその先にあるモノが見たい。その為に開発したモノだった。けど、あいつらが、それを歪めた!」

 

「……やはり首謀者を知っていたか」

 

颯馬は束が真実を知っていた事にさほど驚いている様子はなくそう呟く。

 

数年前起きた事件、通称『白騎士事件』

数年前一機のISが日本に向け放たれた数十発の巡航ミサイルを墜とした事件。当初、この事件は篠ノ之束がISの実力を世に知らしめるために引き起こした事件として報道されているが、実際は違ったのだ。

束がISを発表した際、起動できるのが女性だけと知った当時はまだ名が広まっていなかった国際女性権利委員会の一部の過激派が動き、軍のミサイル基地をハッキングして日本に向け発射したのだ。自分の身が危険になれば博士はISを使う。たとえ使わなくても、日本の人口が幾らか減るだけ。自分達の権利獲得の為の致し方のない犠牲だと、自分勝手な思いで事件を引き起こしたのだ。

 

結果は成功だった。彼女達の思惑通りISが現れ巡航ミサイルを全て撃破した。だが、誤算だったのは束の報復だった。束は今回の事件が女権の過激派がやった事だと直ぐに突き止め、事件を引き起こした過激派の女権達全員を始末したのだ。

だが、世界中にISは兵器として最強だと見せつけてしまった為、束は各国にISのコアと簡単なISの設計図だけを渡し姿をくらましていたのだ。

 

「あの事件は君が望んで引きこ起こしたのではないのであろう? 全てはあの子達を守る為に行動した。違うか?」

 

「……そうだよ。ミサイルの着弾地点がいっくん達の家や友達が居る場所だった。私が守らなきゃ、いっくん達を死なせちゃいけない。その思いで私はISを使った」

 

束は智哉こと一夏、そして穂香こと真登香を守る為に夢を叶える為に造ったISでミサイル迎撃に出た。

 

「私はあの子達を守る為だったらなんだってやってやるつもりだ。お前も、他の奴ら同様にいっくん達に酷い目に合わせるようなことがあったら、2人を連れて行くからな」

 

鋭く真剣な目で颯馬に告げる束。その真剣なまなざしに颯馬は本気であの二人を守る為に自身の手を汚す事を厭わないと感じ取った。

颯馬は束の意思を尊重して了承の返事を返そうとした瞬間、襖が開き雪子が突如部屋へと入って来た。

 

「雪子、帰って来ていたのか」

 

「はい」

 

颯馬にそう返事しそのまま束の元に向かいその近くに座る。束は突然現れた雪子に警戒心を曝け出す。

 

「な、なんだよ?」

 

「‥‥」

 

暫し無言のまま見つめてくる雪子と束。そしてそっと雪子は手をあげ束の後ろ頭にまわし、そっと抱きしめた。

突然の雪子の行動に束は驚き体を強張らせる。

 

「もう、無理しなくてもいいのよ」

 

「な、何を根拠に言ってんだよ?」

 

「貴女の顔をよく見ればわかるわよ」

 

「顔?」と束は零すと、雪子がそっとその根拠を説明していく。

 

「化粧か何かで目の下に出来ている隈を隠そうとしたんじゃない? 薄っすらとだけど見えてるわ」

 

そう言われ束は若干肩を跳ね上がる。

 

「眠ることを惜しみながらあの子達を探し、そして此処に居ることを突き止めた。本当にあの子達の事を思っていなかったら出来ない行動よ」

「もう、無理しなくてもいいの。孤独だと感じるなら、私があなたの傍に居てあげる。親の愛を知らないなら私が貴女に教えてあげる」

 

雪子が優しい声で束にそう投げかけると、束は今まで感じた事が無い胸の暖かさを感じ取った。不快ではないそのぬくもりに束は直ぐに何なのか分かった。これが親の愛だと。

束自身何故かは分からないが目から涙が流れていた。そして涙と共にずっと我慢していた思いが濁流の様に流れ出る。

 

「……う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁん! 辛かっだぁ! だ、誰もが私の事を化け物みたいに見てきた! わ、私は只の普通の人間なのにぃ! いっぐんだちが居なくなっで、わだじほんどうに一人ぼっちになるかとおもっだぁ!!」

 

「…そぉう。大丈夫よ、もう貴女を一人ぼっちにはしないから」

 

雪子はそう優しく告げながら、束の背中を優しく摩り続けた。




次回予告
学校で最後の授業を受け、クラスの生徒達と改め友となり最後の別れをすまし智哉達は家へと帰って来た。そして家に帰ると二人を出迎える様に立つ颯馬と雪子。そして新たな家族も其処に居た。
次回
第1章最終回
新しい家族~これから宜しくね、二人共♪~

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