この話は、ただの偶然というか。
奇跡のようなもので。
でも決して。
鮮やかな冒険の旅ではなく。
英雄になる物語でもなく。
ただ、救われた事を感謝する。
俺にとっては、それだけの話なんだ。
『時の空を見る空の友』
突然だが、ちょっとした自己紹介をしよう思う。
名前……の前に。俺は『ときのそら』と呼ばれるバーチャルYoutuberのファンのようなものだという事を念頭に置いて欲しい。
その上で、俺の名前は空野 朋樹という。
名字はそんなに見ないかもしれないが、朋樹という名は––––漢字こそ違う人は多いけど––––割といる名前ではあるだろう。
……。
さらに言うと、ときのそらのファンは総じて、『そらとも』と呼ばれていて、だな。
……。
つまり、だ。そのー、……。
これはちょっとした運命なのではないか、なんて。こんな些細な事で喜ぶような高校生だとでも思ってくれ。
高校生二年。バスケ部所属。
まともに試合にも出られないタイプの補欠で、スポーツにおいての青春のようなイベント物は、見るだけで終わるような第三者になる。
学力は中の中。赤点は取らないが、誰かに教えられるほど頭が良くもない。
趣味。Youtuberの生放送や動画を見ること。
と言っても、たった一人しか見ていない。いわゆる、にわかと呼ばれてしまう程度のものだろう。古参勢と比べるまでもない。
一年の後輩に技術的に追い抜かれ、先輩としてのプライドは既にない。
俺の友達の友達が、前のテストで学年一位を取ったと聞いた。
SNSで彼女をフォローする人は、俺よりもすごいセンスで推しを応援しているだろう。
正に平凡。他人と比較しては、隣の芝生の青さに辟易する。
それでも。
楽しい事さえあれば。
生きていけるもんだ。
「よう空野。一緒に食おうぜ」
「どうした。また秀才の友達自慢か?飽きねぇなお前も」
「やめろや。あれは流石に悪かったって」
「だな。何度もミスター平均点に話すことじゃねぇもんな」
「根に持ってんのか?」
「そんなわけねぇだろ。早く座れ」
いつもの昼休み。今日も俺は友人と共に飯を食う。
コイツとは腐れ縁だが、これが日課になってしまった以上、自然とやめる気にはならない。そうする方がバカらしく思えるしな。
「ところでよ、空野。お前、変なグループの代表なんだろ?怪しい集団じゃねぇのかって、お前の妹がソワソワしてたぞ」
「ちげーよ。怪しいグループじゃない」
「お前を見てたらそう思うに決まってるだろ。ちょっと前に追い詰められたような顔してると思ったら、その次の日には妙に晴れやかになってやがるしよ。犯罪にでも手を染めてるんじゃないかって噂が流れてるぞ」
「だーかーらぁ!言ったろ!?俺が代表になったのはアイドルみたいなものの応援団だ!そういう意味での好きな人を見つけただけなんだよ!グループのメンバーは全員が同じ趣味で集まった仲間だ!」
「まぁ、実際には推しを見つけただけだから、深刻に考えてる先生達から見れば拍子抜けだわな。……チキンだからお前に犯罪とかは出来ねーだろーし」
「おい、どこ見て言ってんだ。訂正しろ」
「お、お前は……!犯罪者なのか……?」
「そっちじゃねぇわバカ」
それから他愛ない雑談をしばらくして。チャイムが昼の終わりを告げた。
自分の机に戻る友人がふと振り返り、「あ、そうだ。今日遊ばね?」と言った。
俺は、今日は用事あるからムリだ、と突き放した。
高校のいつも通り……いや、いつもよりつまらない授業を終えて帰路に着く。今日の部活は顧問の出張で休みになっているため、家に帰るだけだ。
用事なんてない。嘘だ。一人になりたいだけだ。
少し疲れてるからリフレッシュしたい。
……そういえば、近くのゲーセン入ったことはなかったな。
今日ぐらいは寄り道してもいいだろう。
なんて思いながら進路を変更する。
ゲームセンターに寄って散財して崩れ落ちた後、速やかに帰宅した。
泣いてなんかいねぇよ。ばーか。
「UFOキャッチャーって、あんな難しかったか?昔はもう少し上手くやれたと思ったんだけどなぁ……」
ベッドに転がり、うなだれながら枕に顔をうずめる。
うへぇ、と呻き声をあげると隣の部屋の妹に「うっさい!」と怒鳴られた。
「得られたのがクマのぬいぐるみだけとはなぁ。可愛すぎて、俺には似合わねー……」
絵に描いたようなやや大きめのクマの人形だ。店頭の目につく場所に景品として置いてあったので、いくらか消費して偶然にも手に入れたものだ。
そのあとに調子に乗った結果が今の倦怠感の原因なのだが。
「……こうして見ると……あれだな。そらちゃんのあん肝に見えてきたな」
あん肝。ときのそらの隣に居たり居なかったり、ついでに埋まってたりするマスコットキャラクターだ。
人知れず動画を出してたりもしている。ホラーとかは苦手っぽい。
……そういや、なんで動けてるんだあのクマは?
バーチャルだからか?バーチャルってつければなんでも通りそうだな。
「どうせなら改造するか!……まぁ、名札貼っつけるだけだが」
そうと決まれば早速、紙切れを取り出す。上等な紙でもない普通のものだが、問題ない。
そして、『あん肝』と書いた名札をつけようとして手が止まる。
「あれ……どうやってくっつけてんだ?」
調べるためにスマホからネットに入り、『あん肝』を検索する。あん肝が出てきた。
わー、美味しそう。……いや違う、そうじゃない。
検索ワードに『ときのそら』を追加して再検索すると、ようやく出てきた。
穴が空きそうなぐらい、あん肝(の名札がくっついているところ)を見続ける。時々、画面のあん肝と目と目が合う。
……やめろ、こっちを見るな(ブーメラン)。
……しかし、よく分からん。どうしような。代わりのもので今日は代用しよう。
安全ピン?……これは痛そうだな。
のり、か?……流石にべちゃべちゃしたものはダメだろう。
セロハンテープ?……物議を醸しそうだが、とりあえずコレにしよう。
クマのぬいぐるみの左胸にぺたりと付ける。
おっ、大分いいな。もうこの景品の名前は『あん肝』でいいんじゃないかな。名札付けて。そうすればそらとものみんなはゲーセンにダッシュするぞ。
実際には、ややこしいことがあるからめんどくさそうだが。
「ともー!ご飯よぉ!」
「あーい!今行きまーす!」
しばらく眺めていた後、母親からの夕飯のラブコールに応え自分の部屋を後にした。
「ん?……んぁ……」
目が醒める。
寒い。ここはどこだ。布団はどこだ。二度寝するから、返してくれ。
薄眼で辺りをもぞもぞと手を動かす。しかし、布団は見つからない。
仕方なく、上半身を持ち上げる。
そこには、雄大な大地が広がっていた。
……。
…………。
「は?」
妙に甲高い声が広い空間に響いて消えた。
俺は物分かりのいい主人公じゃない。しばらく固まって混乱していたとしても、それを咎める人はいないだろう。
夜の空には雲ひとつなく、吸い込まれて誰もいない世界に連れてかれそうに思える。
状況をまとめよう。
夕飯後、俺は親に言われるままに風呂を洗い、湯が張るまでテレビを見てだらけて、風呂に入った後そのまま寝たはずだ。
そう、寝たのだ。
あっ……(一転攻勢)。コレ夢だ。
夢だと分かれば怖くはない。ホラゲーみたいな「死んだら現実でも死んじゃうよ★」みたいなシステムでなければな。
今のところ安全だと判断した俺は、周りを探索する事にした。
歩く。
歩く。
特に何も考えずに歩く。
全然何も見つからねぇ……。
夜にもかかわらず、周りはある程度は見える。
しかし、歩いても歩いてもあるのは背の低い草が生えた丘が続いているだけだった。
時々、木が一本生えているぐらいだ。
空間がループしてるなんて奇妙な事になっているのかと思い、印をつける意味で表面を軽く蹴って禿げさせたが、次に見た木には同じ印はなかった。
手がかりは依然無し。
歩くにも体力はいる。足がちょっとずつ棒のように動かなくなっていく。
流石に、どこかで休もうか。
もう少しだけ。
あの木まで着いたら、休もう。
もう少し歩こう。まだ行ける。
後から考えると、まるで引き寄せられたかのように自然と動いていたと思う。
そして、見慣れないが先ほどまで見ていた。小さな生き物のようなものが視界に入る。
ちょこちょこ、と動いて。きょろきょろ、と見回しているそれは。
あん肝……!?
驚きと喜びが入り混じり、夢中で駆け出す。
まだ遠い。
構うもんか。
全力で走る。
近づくにつれ、向こうも気付いた。
気配に驚いて一瞬逃げ出すそぶりを見せ、こちらを見て更に驚いた。
「あ……!?はぁ……はぁ……」
あん肝だ!そう叫ぼうとして、肺から声が出ない。完全に息が上がっていた。
おかしい。これでも運動部員現役だぞ。これだけの走りで疲れが酷い。最近はサボってないと自分で思っていたんだが……!
あん肝は俺と後ろを繰り返し向いて、困惑していた。
なんだ……?まるで何かと見比べているような……?
違和感を感じながら、ある事に気付く。
あん肝が走り出したのはそれと同時だった。
おい……!?待て!
追いかけるように駆け出す。
気付いた事。それは名札だ。
もし、だが。俺の夢なら、俺がした事って夢にも反映されると思う。干渉のような感じで。
例えば、あん肝の名札を
ペラペラでヒラヒラだった俺特製の名札が、ピタリとくっ付いてテープの跡も無いなんておかしい。
なら、あのあん肝は誰の夢から生まれたものか。この疑問が出た時点である確信が生まれる。
–––––––ここに、誰かがいるんだ!!
逸れないように、必死で追いかける。何度も躓いてしまうが、何度も立て直す。
もしかしたら、いないかもしれない。さっきの俺は間違いだったのかも知れない。
それでも、不思議とそんな気にはならなかった。
きっと、いる。そう思った。
あん肝が止まったのを見て俺も走るのをやめ、ゆっくりと近づく。
いた。
確かに木にもたれて、体操座りで佇むんでいた。
後ろ姿しか見えないが、女性のようだ。
あん肝が女性の隣まで走っていく。それに気付いた女性はあん肝に声をかける。
「あん肝?周りを見に行ってくれたの?ありがとう〜!」
撫でられて嬉しそうにしながら、俺の方に指を指そうとするあん肝。
この時、俺は動けなかった。
この人は、誰だ。
でも確かに知っている。
この声は。
確かに、面影は残っていた。後に俺はそう語ろう。
だが事前の情報も無しに、この人に会うなんて。
「ん?誰かいたの?……え?」
彼女が振り向く。
俺が目を見開く。
そこにいたのは。
ときのそら。その新モデルに身を纏った、おそらく本人だった。
驚いたのはそれだけじゃなくて。
彼女の発した言葉にも度肝を抜かれた。
「え?……私!?」
「…………は?」
ときのそららしくもない声が出た。
自分から。
恐る恐る自分を見回す。
下に見える印象的な空色のスカート。細いとも言える腕。そして女のいつも生放送や動画で聞く声色。
新モデルのときのそらの前に旧モデルのときのそら、に扮した俺が立っていた。
「え?」
人生で二回の素っ頓狂な声を出した。その一つ目がこれなのだが、こうなる俺はきっと悪くない。
〜じかいよこく〜
ようやく自分ときのそらだと気づいたそらともこと空野朋樹は、フリーズしてショートする!(ポンコツ)
自分が目の前にいるとワクワクするときのそら(新)!
ただただ困惑しているときのそら(偽)!
二人は何を思う!?
そして、意外な繋がりが明らかに!?
次回をお楽しみに!
なお、このそらともはオリジナルキャラです。「テメェ羨ましいんじゃあ!!」と言われても「作者が一番そう思っとるわぁぁあ!!」としか返せないので悪しからず。