スクールランブル 〜みかづき、はじめてのがっこう〜 作:ぐぎゅる2
暇つぶしに読んでくださいな。
三日月・オーガス。
火星の民間警備会社、クリュセ・ガード・セキュリティの参番隊所属の少年兵。後にオルガ・イツカの立ち上げた鉄華団の一員としてガンダム・バルバトスを駆り戦場を駆け抜けた。
三日月の最後はアリアンロッド艦隊所属のジュリエッタ・ジュリスの駆るジュリアと戦いで討ち取られた。
三日月・オーガスは死んだ。それは疑いようも無い事実だ。
しかし現実は三日月をそう簡単に死なせてはくれなかった。
◇
「……あれ?」
そんな間抜けな声を出して、三日月は目を覚ました。ガンダム・バルバトスのコックピットで意識を失くし、そのまま死んだはずの三日月は何故か布団の中で横たわっていた。
「ここ……どこ?」
三日月ぎいるのは三日月が全く知らない場所だった。
あの後鉄華団のみんなはどうなったのか、アトラやクーデリアは無事だろうか、思う事は数え切れないくらいあったが、取り敢えず思考を中断させた。
「あ、起きてるよ姉さん」
「ホント? おー、オハヨー!」
声の主は、二人の女の子だった。
二人とも黒髪で、姉さんと呼ばれた方がロングヘアで妹だと思われる方がセミロングだ。
「……誰?」
「私、塚本天満。で、この子が妹の八雲」
「あの……家の前で倒れてたので……放っておくのも、アレだったので……」
「そう……ありがとう。で、ここどこ?」
「ここは、私たちの家だよー」
ぽややん、という擬音がぴったりな顔で答える天満。三日月は聞きたい事が違う事を伝える。今、自分がいる場所は、国はどこだと。
その問いに答えたのは八雲だった。
「ここは日本の東京、です」
日本、東京という単語に聞き覚えの無い三日月は首を傾げるばかり。
三日月のいた地球では日本はオセアニア連邦に属している。勿論、三日月はその事を知らないし、元からオセアニア連邦など知識に無い。
三日月は知っている単語を二人にぶつけてみた。鉄華団やモビルスーツ、阿頼耶識システム等等。しかし、二人はずっと首を傾げるばかり。
——俺の知ってる地球じゃない……?
三日月は馬鹿では無い。彼がいた世界では戦わなければ生きていけない場所であった。その中で三日月は阿頼耶識システムの手術を三度受け、戦う術を、戦闘に関する知識を、モビルスーツを操縦する知識のみを詰め込んできた。
ただ、火星で死ぬ前にはクーデリアより文字の読み書きを学んでいた。馬鹿でない理由は、文字の読み書きをすぐに習得したところだ。
最初は英語、次は日本語。次は何処の言葉を覚えようか、といった時に火星での戦いが始まり、三日月は死んだ。
しかし、三日月はふと思った。何で日本語を覚えたのだろうか、と。しばらく考えたが一向に分からないので取り敢えずこの疑問は棚上げする事にした。
「でさー、えーっと……」
「三日月。三日月・オーガス。三日月で良いよ」
「変わった名前だねえ。で、三日月君は何であそこで倒れてたの?」
「知らない。死んでからの記憶無いし」
「…………え?」
取り敢えず、三日月は自分に起きた事を説明した。
「火星……戦争……」
「ほえー……」
「だから、何であそこにいたかは知らない」
ただ、二人にとってこの話は中々に刺激が強かったらしい。
「……大丈夫?」
「あ、はい……少し、刺激が強かったですけど……」
「いやー、大変だったね三日月君」
大変だった、と簡単に言える様な人生では無かったのだが、そんな怒りを天満や八雲にぶつけても何も変わらない。
オルガもアトラもクーデリアも、鉄華団の仲間たちもいない世界に落とされた三日月。それを考えれば今の方が余程大変かもしれないが。
「でも、そうなると三日月君行く宛なんか無いよね?」
「うん」
「じゃあさ、しばらくここにいたら良いよ」
天満の言葉に三日月は無表情で呆れていた。普通ならこんな怪しい男を家に泊めようなどとは思わないと、三日月ですら思うのだ。
しかし、天満の言葉もまた事実。三日月はこの世界で行く宛なんて無いのだ。そこで、三日月は少し考え。
「じゃ、金貯めて自分で部屋借りるまで世話になるよ」
「うん、ヨロシクー!」
「よろしくお願いします」
部屋を見つけるまで塚本家に厄介になる事にした。
◇
三日月が塚本家にやってきたのは西暦199X年2月。天満の話によれば、この時期は高校受験がある。八雲も中学三年生で受験生なのだ。
話の続きで、ちゃんとした仕事でお金を稼ぐには高校を卒業した方が有利だと三日月は天満に諭された。
成程、と納得した三日月は高校受験を受ける事を決めた。しかし。
「あの……高校受験は、中学校を卒業しないと……」
八雲の言葉で水泡に帰すーーかと思われたが。
「明日、愛理ちゃんに頼んでくるから!」
と言い、翌日の夕方。
「これに三日月君のプロフィール書いて!」
と言ってきたので、名前、年齢(八雲と同じにした)、生年月日を書いて渡した。生年月日については、八雲と同じ年に生まれた事にして、生まれた日にちは三日月が塚本家に拾われた2月1日にした。
そして、更に翌日の夕方。
「やったわ! 高校受験の資格貰ってきたよ!」
これにはさすがの三日月も驚いた。
つまり、天満の友人には人一人の受験資格をどうにかするだけの政治的な力がある、という事になる。
さて、経緯はどうあれ受験資格を手に入れた三日月。差し当たりやるべきは願書の提出、そして勉強だ。
願書については八雲が受ける矢神学園高等学校に出す事にした。色々と必要な書類は初めて見るちょび髭の執事が持ってきた。
三日月はその友人のおかげで立派な日本国民に仕立て上げられていたのだ。
と言っても何か害があるわけでも無し、三日月は必要書類を受け取り願書締め切りギリギリで提出した。
で、夕方から始まったのは八雲による三日月の勉強会だ。
八雲が勉強を始めるのは、色々と家事を済ませた夜九時以降になる。普通なら自分の勉強で手一杯の筈なのだが、それでも勉強を教えてくれる八雲に三日月は深く感謝していた。
「ありがとう。教えてくれて」
「うん……人に教えるのもまた勉強になるし」
実の所、八雲に負担はあまり掛かっていない。
先述の通り、三日月は馬鹿では無い。むしろ頭の回転が早く理解力もある。一を知れば十……とはいかないが、五くらいは知る事が出来たのだ。
それでも、解らない所は教えて貰い八雲の出す小テストの点数を着実に上げていった。そして、試験前日の模擬テストでは平均90点をマークするまでに至った。
結果、三日月と八雲は見事に矢神高校に合格した。
◇
「来年からは三人一緒に同じ学校だね!」
「うん。ありがとう、八雲」
「……気にしてないから」
「ちょっと、私はー?」
「天満にはあんまりしてもらってないし」
「えー!?」
合格発表の夜、三人で三日月と八雲の合格祝いのご馳走を食べながら談笑していた。因みに、ご馳走を作ったのは八雲だ。
天満は料理が壊滅的に下手なので、下手な事をされる前に八雲が作ったのだ。
「にしても、お箸もうちゃんと使えてるんだ」
「うん。天満に教わった通りに使ってるよ」
右手で上手く箸を動かす様を天満に見せる三日月。
火星での決戦時には阿頼耶識システム無しでは右半身不随、右目も見えていなかった三日月だが、現在は身体的な障害は無く健康体である。
おまけに、阿頼耶識システムと接続する為の背中の突起も無くなっていた。
この世界にはモビルスーツは疎かモビルワーカーすら無い。細かな紛争はあるが、世界を巻き込むような争いは無いので、三日月自身は気にしない事にしている。
とはいえ、鍛えた体はそのままだ。二人に危害を加えようとする奴がいれば、容赦無く叩き潰そうと三日月は密かに考えていたりする。
「ほらほら! 三日月君も歌うよー!」
「歌わないし。……天満、引っ張らないでよ」
「姉さん、やめなよ……」
——今ぐらいは、考えるのをやめよう。
物騒な思考を放棄し、三日月は天満に引っ張られ、知らない歌を歌う。これはこれで楽しいものだ。
こうして、三人の夜は更けていく。
兎にも角にも、入学式まで、後一月少しの夜だった。