スクールランブル 〜みかづき、はじめてのがっこう〜 作:ぐぎゅる2
毎回、小説を書く度に、これでいいのかなー、と悩んじゃいます。
見る方に不快感を出来るだけ与えたくないのです。ホント、小説って難しい。長く手掛けている方には敬服するばかりです。
感想、ありがとうございます。
まぁ、三日月だと勘違いは起きないでしょう。三日月は違うなら違うとばっさりいきますからね。
夢で見せるのは確かにありですね。まぁ、敢えて伝えない道もあります。三日月の性格からして余計な事は言わなさそうですし……。
そういえば、衛宮さん家の今日のご飯……面白いですよね! ね!
唐突だが。
塚本八雲は人の心の声が視える。
心の声が視えると言っても、誰も彼もの心の声が視える訳では無い。八雲に好意を持つ異性の心の声のみが視えるのだ。
能力の強弱は月齢周期で変化する為、時期によっては視えなかったり、かなり深いところまで視えてしまう事もある。
小学六年生というまだ心が育ちきっていない頃から視え始めた為、八雲が男子に苦手意識を持つ一因となっている。
しかもタチの悪いことに自分で視えないようにする事が出来ず、また能力の捨て方も不明。まさに八雲に絡みつく呪縛と化している。
故に、八雲はこの事を他人に話せず一人抱え込んでいた。
◇
八雲は、よく学校内にあるベンチで居眠りをしている。
時折、昼休みからそのまま授業をすっぽかす事も稀にだがやらかしている。そんな八雲を起こすのは三日月の仕事だ。
つまり、三日月が来ないと大体寝過ごすのだ。
そして、八雲が眠っていると決まって額に×字傷のある黒猫がやって来る。この黒猫は八雲が寝ていると決まって八雲の膝上で同じ様に眠る。この一人と一匹の寝姿は生徒の間でも広まっており、深窓の姫君と呼ぶ生徒もいる。
因みに、八雲はこの黒猫に伊織と名付けた。
八雲は美人故、男子に声を掛けられる。
勿論、男子は優しく声を掛けるのだがその内にある心の声が視えてしまう為、出来るだけ男子と接する事は控えている。
この日も、カラオケに誘われたが断った。
——また、視え始めてる。
体育館の扉の前の階段に座り込む。
しばらく視えていなかったものが視え始め、陰鬱な気分になる。また、一人で我慢しなければ。そのまま膝を抱えてうずくまる。
しかも、今回は状況が変わっている。
三日月・オーガス。二月に塚本家に住み始めた異世界からやってきた男の子。心の声が視えていなかったので八雲もこれまで普通に接してこれたのだ。
三日月は基本的に感情を強く表に出さない。
そんな三日月の心の声が視えたら——そう考えるだけで八雲の心は押し潰されそうになる。そうなればもう今まで通りに接する事は出来ない。
何より、三日月の醜悪な部分を八雲は見たくないのだ。
人を好きになる事は嫌な部分も受け入れる事だ。しかし男に苦手意識を持ってしまった八雲にとってそれはあまりにも酷な事だった。
しばらくうずくまっていると、離れたところから声が聞こえてきた。
「おい、見ろよあれ」
「あの黒猫大丈夫か?」
「相手の野犬マジでキレてるぞ」
黒猫という単語にふと、いつも見かける伊織を思い浮かべる。
——まさか、ね。
そんな事を思いながら再び顔を伏せるが。
「あの黒猫あれだろ、最近見かける女子が名前付けてた——」
その言葉を聞いて、八雲はすぐに立ち上がり駆け出した。他にも黒猫に名前を付けた女子がいたり、別の黒猫かもしれなかったがそれでも行かなければならないと八雲は感じたのだ。
まばらだが人だかりが出来つつあった。八雲は一番前で見ていた二人の男子の間から飛び出し、名前を呼んだ。
「伊織!」
八雲の声に気付いた伊織が八雲に飛びつき、八雲は伊織を抱き寄せる。だが、ほとんど衝動的だったので、その後野良犬をどうするかを考えていなかった。
加えて八雲は犬が苦手とあり、キレた野良犬を前にして身を竦ませていた。
「誰か——」
助けて。そう振り向いた先で八雲は自分の目を疑った。
——おぉ、さすが塚本さん。カッコイイぜ。
——きっと犬なんか軽くやっつけちゃうんだろうな。
——何でも出来ちゃうんだろうなー。
——頑張れー。
——良い女だぜ……惚れた。
こんな時に限って心の声が視えてしまう。しかも、助けにすら入らずに心の中で醜悪な事をのたまうばかり。
——こんなのって、ないよ……。
伊織を抱き抱えうずくまる。再び野良犬が吠え、もう駄目だと思った時だった。
「わんっ!」
と、可愛らしい女の子の声が聞こえた。
八雲が顔を上げると、八雲をかばうように立ち右手をブレザーで包み突き出す女子がいた。後ろ姿だけだったが、金髪だったので外国人だと八雲は判断した。
しかし、助けに入ったはいいが野良犬は未だ戦意を失ってはいない。外国の女子と野良犬の睨み合いがしばらく続いた、その時だった。
伊織が身をくるませ八雲の腕に潜り込んだ。そして、それと同時に野良犬もピクリと何かに反応する。
「お前、誰に向かって吠えてんの」
野良犬が振り向いた先、八雲の視線の先にいたのは三日月だった。だが、いつも八雲が見ていた大人しい三日月はいなかった。
「今すぐ消えるなら見逃す。消えないなら——」
八雲が初めて見る、八雲が知らない三日月。
「殺す」
殺気を隠そうとしない三日月の言葉。野良犬は本能から伝わる危険信号に従い、三日月の前からまさに脱兎の如く姿を消した。
野良犬がいなくなった事で殺気を消した三日月だったが、その視線が野次馬に向く。特に怒りを含んではいなかったが、その視線だけで野次馬はすぐにいなくなった。
そんな野次馬の心の声が八雲に視えていた。
——気持ち悪い奴。怖い奴。近寄りたくない。
助けもしなかった癖に、自分勝手な事ばかりだった。
「大丈夫?」
差し出される三日月の手。八雲は手を取ろうとするが、躊躇う。八雲は三日月の心の声が視えてしまうのでは、とつい拒否反応を起こしてしまったのだ。
当然、三日月は首を傾げる。このまま変な空気になる事を避ける為、八雲は思い切って手を取った。
——無事で良かった。
三日月の心の声に、八雲は驚いた。
今までは打算や下心丸出しの心の声ばかりだった。たが、三日月はちゃんと心配してくれていたのだ。
心の声が視えて初めて嬉しいと八雲が感じた瞬間だった。
「……どうしたの?」
「ううん、何でもない。ありがとう、三日月」
「うん」
「やー、猫ちゃん無事で良かったね」
「あ、ありがとうございました。あの、あなたは……」
「私の名前はサラ・アディエマス。イギリスから留学してるの」
そして、三日月と八雲がサラと出会い、友達となったのだ。
◇
「あの時の三日月君凄かったよね」
「まぁ、本気だったから」
「それだけ八雲が心配だったんだ?」
「うん」
「良かったね八雲。やっぱり付き合っちゃえば?」
「サラっ!」
ちょっびりだけ、友達になった事を後悔する八雲だった。
◇
「どうぞ、茶道部特製ミルクティーとフランボワーズのパイよ」
ある日の放課後。三日月と八雲は旧校舎の一角にある茶道部を訪れていた。
目的は、茶道部の見学。といっても茶道部に入るかどうかなのは八雲で、三日月はただの付き添いだ。
この日までに花井が八雲に投げ飛ばされたり、八雲が伊織の心の声を視ようとしたり、播磨が天満にあの時の変態さんとバレそうになったりと色々あったが、ここは割愛する。
八雲と三日月の前に出されるミルクティーの入ったカップ。学生で使うものとあり、ティーセットも高い物ではないだろうが、花柄の入った可愛らしいものだ。
二人がカップのミルクティーを一口飲む。
「……美味しい」
「うん。嫌な甘さじゃないね」
「そう、良かったー。八雲も三日月君も甘過ぎるの駄目かなーって思ってミルクティーにシナモン混ぜておいたんだ」
三日月と八雲のクラスメイトのサラは茶道部に所属している。
茶道部と銘打ってはいるが、ただ単に集まってお茶する部だ。顧問の教師も黙認している。まぁ、ミルクティーにフランボワーズパイとちゃんとした作法があれば立派な茶道になるかもしれないが。
八雲が茶道部に顔を出したのは、サラに茶道部に入らないかとお誘いを受けたからだ。三日月はついでに付いて来ただけだ。
「どうする八雲、このまま茶道部に入部しちゃう? 私は勿論みんな歓迎するよ。ね、先生」
みんな、といっても現在の部員は部長である晶とサラだけなのだが。
「私は全然構わないよ。まぁ、元々大した活動をしている訳でもないし」
茶道部の顧問を務めるのは、刑部絃子。
物理担当の教師で、1-Dの担任。その顔立ちとスタイルの良さから男女問わず羨望の眼差しを向けられる存在である。
「しかしだ……そこで土下座をしている男は一体何だ?」
そんな絃子が冷たい視線を向けるのは、絃子に向かい土下座をする一人の男。このタイミングで現れる男など一人しかいない。
「師匠! 是非に、是非に某めをこの茶道部に入部させて下さい!」
花井春樹。どこから聞きつけたのか、八雲と三日月が茶道部にお邪魔してすぐに現れ、こうしてずっと土下座をしていたのだ。
その狙いは茶道部に入部して八雲とお茶をしたいだけなのだが、八雲には心の声でバレバレだし、あまつさえ声にも出しているので絃子やサラ、部長の晶、三日月にもバレている。
正直、と言えば聞こえはいいのだが下心がアリアリなので弁解の余地は無い。八雲でなければ、とうに嫌われている。
おまけに現在花井は合気道部のたった一人の部員である。この合気道部も八雲の袴姿が見たいが為に花井が立ち上げたのだが。しかし、そんな花井の計画も頓挫し、今回の土下座に至っているのだ。
因みに、八雲は色んな部から勧誘されている。その美貌と高い運動神経、更には学年トップクラスの頭脳の持ち主なので、多くの文化系、運動系両方の部が狙っている。
しかし、八雲が見学に行くと必ず花井が現れ部活動をめちゃくちゃにするので八雲も少し困っている。
「……どうしようもない男だな」
一連の経緯をサラから聞いた絃子がそう呟くのも無理はない。
「ま、ウチならそんな心配は要らないと思うけど……ここは生徒の自主性を尊重するという事で、彼については部長の裁量に任せる事にしよう。あ、そうそう……三日月君」
「何?」
「君にこれをあげよう」
おもむろに席を立ち、何やらティーセットがしまわれている棚の下の収納スペースから取り出した物をテーブルに——三日月の目の前に置く。
ゴトリと置かれたのはデザートイーグル Mark XIX .50AE。ようは、拳銃であった。
因みに、レプリカのガスガンである。
「花井君が塚本君に粗相を働きそうになったら容赦無く弾をぶち込んでやってくれ。弾はBB弾だから、死にはしない。まぁ、当たれば痛いけどね」
「わかった」
「じゃ、後はよろしく。部長」
「はい」
部長の晶に後を任せ絃子は部室を後にする。それを見送った晶は手に持っていた湯呑みをテーブルに置き。
「ダメ」
と、短く拒否した。
「そんなあっさり!? 納得いかーん!」
いや、側から見れば当然の判断だと思うが。
「花井君、お茶好きなの?」
「全く」
「何て正直な……」
正直であればいいというものではない。
花井はお茶=デートと理解している。つまり、お茶をする茶道部に入部する動機としては何ら問題は無いと声高に宣言していた。
これには茶道の事を知らない三日月ですら、あり得ないと思っていたのだが。
「なるほど」
と、何故か部長の晶が納得してしまったのだ。
「ぶ、部長!?」
「まぁまぁ。大丈夫よ、サラ。花井君、あなたにはテストを受けて貰うわ」
そういって、用意されたのは二つの色違いの陶器。中には抹茶が入っている。ここで晶がテストするのは、どちらのお茶が八雲が淹れたものかを当てる事。
普通に考えれば無理だ。事実、花井も判るわけがないと言ったのだが。
「茶の道は心の道。彼女の心を知る事が出来れば簡単な筈」
男して引くに引けない理由をそれっぽく付けられては花井もどうしようもない。そんな訳ないだろ、と思いながらも花井はこのテストを受ける事にした。
この時点で花井は晶の手のひらで踊らされているのだが。
青い陶器を手に取り、お茶を一口飲む花井。すると、途端に顔が赤くなり次第に汗も少しずつ吹き出していた。花井が八雲を見るが、八雲はどうしたのかと首を傾げるだけ。
さすがのサラも様子が変だと感じ、晶に小声で問い掛ける。
「部長、お茶に何か仕込みました?」
「青唐辛子を少々」
やっぱり、とサラは苦笑い。
まぁ、花井本人が恋の味と認識しているのだ。サラとしては、まぁいっか、と特に何かする事は無かった。
さて、花井が青い陶器のお茶を八雲が淹れたお茶と答えたのだが。
「本当に?」
と晶に返された。
確証が無い分、そう言われると赤い陶器のお茶も気になるのが人間。間違えたら入部は不可。決して間違えられないのだ。
で、念の為赤い陶器のお茶も一口飲む。花井は更に顔を赤くさせ、顔からは汗が滴り落ちる。花井は赤い陶器のお茶も八雲が淹れたお茶だと判断した。
しかし、八雲が淹れたお茶は二つに一つ。
と、まぁ……大体のオチは読めているだろうが、実はどちらも八雲は淹れてないし、どちらも青唐辛子が入っているのだ。
しまいには花井が飲む先から同じ急須で交互の陶器にお茶を注ぐのだ。
いっそ、花井が哀れである。
で、結局青唐辛子入りのお茶を飲み過ぎて花井はダウン。茶道部的に失格となった。さすがにサラも容赦無いと思ったのだが。
「本気には本気で」
と晶が言えば納得せざるを得なかった。
その後、八雲は晶に茶道部に入部する旨を伝え、この日は三日月と帰宅の途についた。後日、八雲が入部届けを出し、正式に茶道部部員となった。
因みに、花井はサラにまたお茶をしようと優しくされたのだが、すぐ後に晶によって茶道部への出禁をくらったのだった。
◇
その夜。
三日月は縁側で夜空を見上げながら、考えていた。
八雲は隠し事をしているのではないか、と。
陰で何かしら悪事を働く、といった類の隠し事ではなく何かしら人に言えない秘密を抱えている。三日月には八雲がそう見えた。
三日月は、何度か八雲が男子に遊びに誘われている場面を見ている。その中で何度か男子と話す時にすぐに視線を外す事があった。時には視線すら合わさずに断る場面があった。八雲は基本的に人と話す時はちゃんと目を見て話す。現に、男子からの誘いを断る時もちゃんと目を見ている。
その男子が特別気に入らなかったのか。
入学してまだ二ヶ月だし、八雲は三日月以外の男子とほとんど話をしていない。
夜空に煌々と輝く、満月から少しだけ欠けた月を見ながら思考を巡らせていると、問題の少女が縁側にやって来た。
「三日月、眠れないの?」
八雲が問い掛けると、三日月は八雲の目を見て電光石火の一撃を見舞った。
「八雲、何隠してるの?」
八雲は最初、三日月が何を言い出したのか理解出来なかった。三日月に隠すような事は何も無いと思っていたからだ。
しかし、次の三日月の言葉で彼が何故にこんな事を言い出したのかを理解した。
「八雲、最近男子と話す時すぐに視線外すよね。たまに視線すら合わせない事もある」
心臓が跳ねた。
八雲は自分の能力を誰かに話した事は無い。何せ、姉の天満にすら話していない。こんな事を天満に話せば余計な心配を掛けてしまう。それだけは嫌だった。
なら、どこで気付かれた?
「この前、助けた時に俺の手すぐに取らなかったよね。何か、怖がってる感じがした」
それだけで気付いたのか、八雲は一歩、後ろに後ずさる。
怖い。嫌われたくない。知られたくない。八雲の思考がぐちゃぐちゃになる。耐え切れずその場から逃げようとした八雲だったが、気付かない内に三日月に手首を掴まれていた。
「……離して」
「やだ。ちゃんと話してくれるまで離さないよ」
三日月はこうと決めたら梃子でも動かないし、揺るがない。八雲は二ヶ月の付き合いでその事は理解している。
こうなると、話すまでこのままだ。
八雲は意を決して話す事にした。
◇
「八雲に好意を持つ異性の心の声が視える」
「うん」
八雲の話を聞いた三日月。
普通に考えればあり得ない話だ。けれども八雲が嘘をつく理由が無い。三日月も八雲が嘘をついたりすれば判る。
まぁ、三日月も八雲が嘘をついたところを見た事がないのだが。
八雲の話では純粋な好意もあれば、あまりよろしくない好意もある。要は八雲を性的な視線で見る男もいる。
健全な男子高校生ならばよくある事だし、高校生だからそこまでえげつない事は考えていない。とはいえ思春期真っ盛りの女子からすれば困るものだ。
だが、成人した男となると話は変わる。
考え方も性の知識も成熟している。そんな男たちの劣情の対象にされては八雲の心も擦り減るというものだ。
「よく今まで一人で我慢してたね」
「……言っても信じてもらえないから。姉さんには……心配掛けたくなくて」
「じゃ、何かムカつく事があったら俺が聞くから」
「……何で……そこまで」
「世話になってるから」
それはそうだけど、と八雲は思う。
もし、自分が三日月の立場なら世話になっているからとここまで出来るだろうか?
月は満月に近い。しかし、三日月の心の声は視えない。本音のところはどうなのだろうか。今ほど心の声が見たいと思った事は無いだろう。
「一人で抱え込むより二人の方が多分楽だと思うよ」
確かに、悩みは一人で抱え込むより相談すると解決すると八雲もよくテレビで見ている。八雲の悩みはすぐに解決はしないだろうが、少なくとも負担は減るかもしれない。
三日月に迷惑かけるのは気が引けたが、小さく頭を下げて。
「力を貸して下さい」
と、お願いをし。
「わかった」
三日月は八雲の力になる事を了承した。
そして、そんな二人を見守るようにぴこぴこ髪が何度も跳ねていた。
◇
「ねぇねぇ、三日月君昨日八雲と何話してたのー?」
「世間話。ていうか、覗いてたの?」
「お姉ちゃんとしては、八雲の恋の行方は気になるのだよー」
「え、塚本何の話?」
「遂に三日月君と八雲がくっついたの?」
「ちょっと天満、詳しく話しなさいよ!」
取り敢えず、しばらく2-Cには近付くのは止めようと三日月は心に決めた。