「封印、完了」
深夜、結界によって外界より遮断された世界で、フェイトは暴走体との戦いを危なげなく終えてジュエルシードを手に入れた。
「これで二つ目……!」
二十一個存在するジュエルシードの数を考えれば、先はまだまだ長い。それでも安堵の溜息が漏れたのは、間違いなく高町なのはの乱入が無かったことによるものだった。
「大丈夫かいフェイト」
「うん。怪我もしてないし、魔力の消耗も殆どないよ」
戦いの後、寄り添ってきたアルフの体を優しく撫でながら、安心させるように微笑みを返す。だがフェイトとの契約を介して彼女の不安も伝わってくるアルフは気が気ではなかった。
それほどに高町なのはの存在は危険だった。
確かに前回は辛くも勝利を収めた。彼女が一人である以上、アルフも戦いに加わればかなりの確率でフェイトはなのはを制することが出来るだろう。
――詭弁だ。楽観的な思考であることはアルフですら理解している。
高町なのははフェイトと戦う前からかなり消耗していた。そのうえで、彼女はフェイトとほぼ互角の戦いを繰り広げ、あわや勝利という直前まで迫ったのだ。
「今日は、アイツは居ないみたいだね」
暴走体とフェイトが戦っている間にも気配を探っていたアルフだが、今もなのはの気配は感じ取れない。
嫌な予感がする。あそこまでフェイトに執着を見せ、ジュエルシードとの戦いに喜んでいたなのはが、今回に限って現れない違和感。フェイトとアルフは今回もなのはとの決死の戦いを覚悟していた分、戦いが終わったというのに心穏やかとはいかなかった。
「……待って、誰か来るよ」
周囲の警戒を行っていたアルフがこちらに近づく気配を察して低い唸り声をあげた。フェイトもバルディッシュを構え直して警戒する。
「ま、待ってくれ! 僕だ、ユーノ・スクライアだ!」
だがそんな二人の警戒心は、両手を挙げて暗がりより現れたユーノを見て僅かに無くなった。とはいえ、彼もジュエルシードを奪い合うという点では相容れない敵同士なのは確か、決して隙を見せていい相手ではない。
「何?」
「えっと……話がしたいんだ。幸い、今日はなのはがいないみたいだし、どうだろうか?」
「話すことは無い。私はあなたの敵で、あなたも私の敵のはず」
「言っていることは御尤もだ。だけど、僕らは現状ある一点だけにおいては協力できると思うんだけど、どうだろう?」
ある一点。それが指す言葉を察せない程、フェイトは疎くはない。
高町なのは、あの恐るべき狂人はフェイトとユーノ、共通の敵である。
「……極端な話だけど、僕はジュエルシードによって起こされる災害を未然に阻止出来ればいいんだ。それこそ、君達の目的がジェエルシードによって他世界に危害を加えないものだったなら、管理局が来るまでは黙認だってする」
「その話を信じろと?」
「信じてもらえないのは重々承知だ。だけど、僕には今回の件に対しての責任がある。特に――高町なのは、彼女に魔法を教えた責任が」
「え? ユ、ユーノがアレに魔法を?」
「……そうさ。僕が彼女に魔法を、正確にはインテリジェントデバイス、レイジングハートを与えた。与えてしまった」
結果、今日に至るまでに二桁を超える死傷者と三桁に及ぶ重軽傷者という、近年まれに見る管理外世界での魔法による大規模テロが行われた。
ジュエルシードに関しては、突き詰めればユーノの責任はあるものの、ロストロギアの運搬という重要案件に対して対応を怠った運搬側の責任。そして運搬を阻害して海鳴市にジュエルシードをぶちまけたプレシアに殆どの責任があると言ってもいい。
だが高町なのはに関しては間違いなくユーノに責任があった。彼が安直にも管理局の応援を待たずにジュエルシードを封印しようと海鳴市に赴き、呆気なく返り討ちにあって救助を求めたのが彼女。
ユーノの安直な行動が無ければ、あるいはここまでの事態になることはなかったのだ。
「だから僕は彼女を止めなければならない。でも、既に彼女の力は僕一人では止められない」
故に、共闘。高町なのはの打倒という一点のみでユーノとフェイトは協力し合える。
「……もちろんタダでとは言わない。今後、ジュエルシードは君達が持って行っていい。封印にも協力する」
「それは、管理局が来るまでということ?」
「あぁ、その時は僕も管理局に洗いざらい全てを伝え、改めて君達とも戦うことになる……そして、全てが終ったら罪を償うつもりだ」
人が死んだ以上、償いきれない罪だ。しかも一時的にとはいえフェイトに協力することで、さらに罪は積み重なる。
だからといって償おうともしないのは現実から目を逸らしているだけだ。
全てが終ったその時は、残りの一生を賭けて罪の償いに身を投じる。十歳程度の年齢でユーノはその覚悟を決めた。
あの日、こんな自分にありがとうと言ってくれた彼女のためにも、全てから逃げない。
その覚悟が決まった目を、フェイトは信じてみることにした。
「……分かった。応じる」
「フェイト!? こんな奴を信じるのかい? 駄目だ、こいつの言うことが本当なら、あの狂人を解き放った張本人なんだよ!?」
アルフの疑問は当然だ。
それでもフェイトはユーノを信じたいと思った。その身を挺してアリサとすずかを庇った彼の姿を知っているから信じようと。
「アルフ。私達にはアレと戦いながらユーノを気に掛ける余裕はないよ。それなら、一時だけでも一緒に戦えるならそっちのほうがいい」
「でも……」
「お願い、アルフ」
「……うぅぅ。わ、分かったよ……」
渋々納得したアルフに、ごめんねと内心で一言。
「ユーノの話が本当なら、全面的には信じられない」
「うん。君の言う通りだ」
「でもユーノと一緒に戦ったあの時、私はあなたを信じた……それだけ」
「……ありがとう。本当に、ありがとう」
「だけど勘違いしないで。私はあくまでユーノの敵、それ以上でも以下でもない」
「うん。でも、嬉しい」
屈託ない笑顔を向けてくるユーノに、フェイトはどうしていいのか分からず思わず視線を切った。
「と、ともかく、私達はアレを倒すか、もしくは管理局が来るまでの共闘でいい?」
「うん。それと早速で悪いんだけど、作戦会議をしないかい?」
「作戦会議?」
あぁそうさ。フェイトの疑問にユーノは顔を引き締めて頷きを一つ。
「次会ったときは必ず……
どうせ地獄に落ちるのだ。
ならば、あらゆる非道に手を染めてでも災禍を止める覚悟すら、ユーノはもう決めていた。
決めて、しまったのだ。
―
神速の黄金が私の思考を超えていく。単純な反応速度では追いつかない。当たり前のように見ることすら叶わない。
単純な性能が違う。突き詰められた速度はそれだけで脅威。死角より襲い掛かる一撃にはプロテクションで食らいつく以外になく、反撃の糸口すらつかめない。
「ッ、しまっ!?」
そして集中力が途切れた瞬間――脳内の仮想空間で再現したフェイトちゃんの幻影の一撃が私の首を真一文字に引き裂いた。
これでかれこれ384回目の仮想空間におけるフェイトちゃんとの戦いで、302回目の敗北である。
「駄目だ……駄目よ、駄目駄目! ふふふ! まぁったく見えないわ!」
『楽しそうですね、マスター』
「当然じゃないレイジングハート! どんどん成長しているのに、全く追いつける気がしないなんて堪らないわ。蕩けてしまいそうよ!」
目を開けて現実世界に戻ってきた私は、際限なくこみ上げる気持ちを遠慮なくぶちまける。そうやって熱を逐一吐き出さなければ、今すぐにでも飛び出してしまいそうになる体を抑えられそうになかったからだ。
『やはり、訓練メニューの変更を推奨いたします。相手の戦闘態勢が整う前に、超長距離からの狙撃を想定した――』
「駄目よ。そんなつまらないこと」
確かにジュエルシードという恰好の餌がある以上、その反応を察して遠くから狙撃を行えば、勝利するのは容易だ。
レイジングハートに格納されたジュエルシードを餌にすれば勝率はほぼ100%になる。
だけどさっき言ったようにそれではつまらない。
私は戦うのが好きではないし、自分勝手な人間だ。だからこそ、互いの手札を使い切っての戦いを所望していた。その末で負けたのならあらゆる手を使っても逃げるつもりだが、折角の好敵手を一方的に蹂躙するのは違う。
「私は全力のフェイトちゃんと愛し合いたいの。大好きなの、外から見るんじゃなくて、抱きしめたいの」
『……ですがマスター、昨日の夜、ジュエルシードが封印処理されてしまいました』
レイジングハートの焦りの理由はそこか。
まぁ私も実戦での練習相手がとられちゃうのは残念だけど、でももうジュエルシード単体の暴走体の力は見切っちゃったからなぁ……。
「まぁフェイトちゃんとユーノ君にジュエルシードは任せちゃっていいよ。それよりも今は真正面からフェイトちゃんの速さに反応できるようにならなくちゃ。今の私じゃフェイトちゃんに飽きられちゃうだけよ」
一方的な愛では駄目なのだ。フェイトちゃんに相応しい立派な女の子にならなきゃ失礼でしかない。
そのために必要なのはより高度な先読み能力だ。
魔力の流れだけではない。マルチタスクによる予測演算でフェイトちゃんの動きを、動く前から予想。反応ではなく、事前の対応によって真っ向から打ち勝ってみせる。
だから再び仮想空間に入ってフェイトちゃんとの模擬戦を行う。
脳内で展開される障害物の存在しない広大なエリア。いつも通りにレイジングハートを構えて浮遊する私の十メートル程前にフェイトちゃんが現れる。
「あはっ」
同量の金よりも美しい金色の髪。意志の強い瞳。黒いバリアジャケットより覗く白い四肢は頬ずりしたくなる程に綺麗で、刃を構える姿は雄々しく気高い。
何度見たって飽きない。
何度だって感嘆してしまう。
頬を染めてブルリと体を震わす。フェイトちゃんを見る度に絶頂してしまう癖がついてしまったみたいだけど構うものか。私と同等以上の素敵な子を見て、達しないほうがどうかしている。
頭の中で気になるあの子とくんずほぐれつ。まるで自慰行為のようではしたないと思いつつ、どのシチュエーションも止められない。
「素敵。大好き」
「わたしもすき」
「えへへっ、嬉しいなフェイトちゃん」
『余計な機能は不要かと』
空想のフェイトちゃんとの睦言に浸る私を、レイジングハートの一言が現実に戻す。
うるさいなぁ。ちょっとしたモチベーション向上のためのアクセントじゃないか。私の頭の中なんだし、私の好きに喋らせたってバチは当たらないでしょう?
「なのは、すき」
刹那、耳元でささやかれた言葉に浸る暇もなく私は体を屈めた。
さっきまで私の首があった箇所を黄金の軌跡が走っていく。一瞬の思考の遅れが命取り。危うく一秒で終わりかけたことにごめんなさい。
でも何度も同じ手を食らうつもりはないわ。たっぷりと味わって、私の気持ちも。
「バインド!」
振り返らずに放ったバインドが悉く空を裂く。しかし焦らない。フェイトちゃんの速度を考慮すればこの程度は予想の範囲内だ。
遠慮なしに私を追い込むその姿勢が大好き。本物のあなたじゃないのに、何度だって惚れ直しちゃう。
って惚けるよりも今は集中しないと。
「シューター展開……!」
度重なる戦闘を経て、五十に届くシューターを今の私は制御できるようになっていた。一発の威力は低いけど、速度に重きを置いたフェイトちゃんにならば一撃当てるだけで充分の脅威になる威力。
放たれたシューターは演算されたフェイトちゃんの予測軌道ルートに沿って飛ぶ。だけどシューターを余裕で追い抜くフェイトちゃんには悉くが避けられ、置いていかれ、突破される。
だけどシューターによって複数存在した予測ルートが制限され、さらに私の思う通りの軌道に彼女の体が重なった。
「ディバインバスター!」
『Divine Buster』
同時、極大のディバインバスターをぶっ放す。どんなに速くても、シューターによって誘導されたフェイトちゃんでは逃れる術はない。今度こそ確実に直撃したと確信するタイミング。全霊の一撃に感じる手ごたえに笑みが深くなった。
「ッ……違う!」
だけどそんな喜びも光の軌跡が消えた後に残ったマントの残骸を見て苦いものに変わる。あの時の焼き増しの如くマントだけを残して消えたフェイトちゃんは……後ろ!
「バインド!」
背中から羽を広げるように大量のバインドを放つ。確かな手応え、振り返れば避けきれずに右手をバインドで掴まれたフェイトちゃんがこちらを無機質な瞳で見ていた。
瞬間、昂っていた気持ちが一瞬にして冷めきった。
「だいすき」
「えぇ、私も好きよ……本当のあなたのことはね」
だから、死ね。
再度、全力のディバインバスターをゼロ距離で放つ。バインドで掴まれた以上、今度こそ逃れられずに下半身が消滅したフェイトちゃんの残骸を見て――違う、と思った。
「本物のフェイトちゃんはもっと強かった。こんなの……こんな! こんな簡単に壊れるわけがないじゃないかぁ!」
こんな、私のバインド程度で掴まる程に弱くない。
あぁまただ。また私は自分の想像だからってフェイトちゃんを弱く作ってしまったみたいだ。
これまで重ねた仮想フェイトちゃんとの模擬戦。その戦いでの勝利は全部、私がフェイトちゃんを弱く作ってしまったことによる勝利でしかない。
初めての勝利の時、フェイトちゃんは遅すぎた――だからもっと速くした。
何度目かの勝利の時、フェイトちゃんは脆かった――だからもっと固くした。
今回の勝利、フェイトちゃんの動きは単調だった――次はもっと複雑にする。
本物ならバインドを切り裂いて私のお腹も貫いてくれたはずだ。その勢いであの紫電で全身を焼き尽くしてくれた。
だから違う。
こんなもの、フェイトちゃんじゃない。
「死ね」
「なのは、すき」
「うるさい、偽物が」
「なのは、だいすき」
「うるさいって言ってるでしょ!?」
その汚い口にシューターを突っ込んで中から破裂させる。風船のように破裂したフェイトちゃんの偽物は、完全に機能停止して砂となって消滅した。
……はぁ。ホント私って駄目な子だ。
「またやっちゃった……」
私はなんて愚かなんだろう。
私を倒してくれたフェイトちゃんを倒したいと思うあまり、無意識に弱く設定するなんて最低だ。
なんだかんだ言いながら、結局は勝ちたいだけなんじゃないか?
だからあの程度の出来の偽物しか作れない。私なんかに呆気なくやられる雑魚しか出来上がらない。
恥ずかしい。
浅ましい自分の考えに死にたくなる。
脳裏に焼き付いたフェイトちゃんに、百万回の謝罪を重ねたって足りない愚かさ。
「やり直さなきゃ。強くてカッコイイ
だから修正を重ねる。
次に会った時にがっかりさせないために。完璧なフェイトちゃんを模倣して、しっかりと対策を立てなきゃ。
もっと強いフェイトちゃん。
もっと可愛いフェイトちゃん。
もっと美しいフェイトちゃん。
私の中の才能を体現したフェイトちゃん。
「フェイトちゃん、大好きよフェイトちゃん、愛しているのフェイトちゃん」
修正を。
もっと修正を。
もっともっと修正を。
私の理想の愛する人をこの手で作って――壊すのだ。
―
――なんと、憐れなことだろうか。
「ふふふ、フェイトちゃん。楽しいね、フェイトちゃん」
ニタニタと歪な歓喜を湛えながら再び
再度、設定を直されたフェイトは一方的になのはを蹂躙する。仮想訓練とはいえ非殺傷設定すら解除されているため、魔力刃によって腕が千切れ、足が飛び、眼球が抉れ、腸が零れ落ちていた。
「痛ぃ! あひっ! ぎぃ! ひぃ!? たす、たずげ……! ひひっ! ぎゃ! ぎぃぃあぁああ! 止めて! 死に、死にだぐないよ! ぎぃぃぁぁぁああぁぁあひゃひゃひゃひゃ!!」
想像を絶する痛みに耐えずなのはが絶叫する――絶叫しながら哄笑する。
これが欲しかったのだと。蹂躙され、地べたを這いずり、泣いて命乞いをしながら愛を囁く。興奮に気をやりながら、高町なのはは己の生み出した
――……それ以上は、悲しいだけですよマスター。
その姿をレイジングハートは見ていられなかった。
だが思うだけで口にはしない。なのはが自分の言葉を聞くとは思えないこともあるが、残酷な真実を告げることをレイジングハート自身が躊躇っていた。
レイジングハートの主は比較対象が思いつかない程の才覚を秘めた魔導士だ。ユーノも優秀な魔導士だが、なのはと比べた場合ではやはり見劣りしてしまう。
それこそ、ゆくゆくはあらゆる次元世界で頂点と言われるような存在になることも容易に想像できた。そして素晴らしいことに―大衆にとっては恐ろしいことに―、彼女は自分が天才であることを自覚している天才でもあった。
本来、自分に才能があるからと言って愚直になれる人間、ましてや己を天才だと思える人間など存在しない。天才だと自負する人間だって、そうやって自分を鼓舞しているのがほとんどだ。その中で高町なのはは魔法を覚えてすぐに、自分が天才だと確信した稀有な存在である。
自惚れではない。正しく、明確に自分の才能を自覚する。当たり前のように見えて、これがどれほど異常なことかを理解できる人間がどの程度いるだろうか。
しかも、魔法を覚えてすぐに才能を自覚したため、彼女はひたすらに魔法へ没頭した。
マルチタスクを覚えてからは、例えではなく事実として彼女は24時間休み無しで鍛錬を続けている。故になのはの実力は一日毎に段飛ばしのレベルで成長していた。
そんな彼女を――デバイスという身だからこそ、レイジングハートは素晴らしいと思っていた。そして、彼女を誰よりも近い場所で見続けられる今に感謝すら覚えていた。
その才能が進むべき方角を示し、その戦いを共に戦うことを許される。魔導士の杖として作られた存在にとって、これ以上やりがいのあることはない。
インテリジェントデバイス――思考する
――可哀想なマスター。
だからこそ、あの日の敗北がなのはに刻み込んだ衝撃は計り知れないのだとレイジングハートは思う。
天才を凌駕する個人。
新たなる天才の登場。
順当に成長していく先、いずれぶつかることになる個人では超えられない壁を超えるために必要な好敵手。
なのははフェイトをソレだと思ってしまった。孵った雛が初めて見た生物を親だと思うように、信じてしまった。フェイトこそ高町なのはが理想とする好敵手として永遠に立ち塞がってくれるのだと神聖視した。
だから成長途中の自分に負けるフェイトは偽物だと、あの日の戦闘データを元にしたフェイトを
こんなものは私を倒した彼女ではない。
こんな弱い存在が私を倒せるはずがない。
彼女はもっと強かった。
私なんて手も足が出ないほど強かった。
だからもっと。
より強い彼女を。
あの日に出会った素晴らしい彼女を再現してみせるから。
そうして今や、フェイトに勝つたびに違うと修正。繰り返し続けた結果、今、なのはが戦っているフェイトは、あの日と比べて速度が2.6倍、耐久力が1.8倍、火力に至っては3.2倍という恐るべき怪物となっていた。
だからこそレイジングハートは仮想訓練を敗北で終えたなのはに提案する。
これ以上はもう、高町なのはを落胆させるだけだと。
――もう遅いと知りながら、告げるのだ。
『マスター、次のジュエルシードの反応を確認次第、向かいましょう』
「えー。まだ早いと思うんだけどなぁ。もうちょっとフェイトちゃんに楽しんでもらえるように頑張らなきゃ」
『これ以上の仮想訓練はかえって変な癖をつけてしまう可能性があります。いざとなれば私に封じられたジュエルシードを暴走させて撤退できるので、再度当たることを推奨します』
「うーん……でもなぁ」
『新たな戦闘データがあれば、仮想訓練もいっそう現実味が増します。一度ぶつかるほうがよろしいかと』
「……レイジングハートがそこまで言うなら」
渋々納得したなのはの同意を得られて、レイジングハートは内心で安堵した。これで、多少はマシな戦いができるはずだ。
普通の人間はすぐに成長はしない。フェイトは先日の戦いから殆ど成長しないまま、なのはと今一度戦うことになるだろう。
――いくつかの想定される不利な状況を踏まえて……マスターの敗北する確率は5%にも届かないでしょうが。
仮になのはと同等の成長をしていたとしても、勝率はほぼ五分。
いずれにせよ、次の戦いで決着はつくだろうとレイジングハートは考え。
『……我がマスターのために、楽しませてあげてくださいねユーノと使い魔の誰か』
「何か言った、レイジングハート?」
『いえ、お気になさらずに』
不確定要素であるユーノ・スクライアとフェイトの使い魔であるアルフが、せめて少しでもなのはの退屈を癒してくれることを願うばかりであった。
次回、激突。
例のアレ
レイジングハート
良くも悪くもデバイスであるため使い手の在り方に影響を受けやすいので、武器としての側面が強く出ている。ただ、オリ主がマルチタスクを覚えた直後に出たバグの処理にまだ手間取っている模様。