魔法狂気 マジキチ☆なのは   作:トロ

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ムックに報復していたので投稿が遅れました。


第十一話【死闘、開始】

 

 ――時間はユーノがフェイトに一時的な同盟を持ち掛けた日に遡る。

 

「……手を組むことには納得した。だけどユーノ、アレを相手にどうするの?」

 

「それに関しても考えている。今回は来なかったけど、次のジュエルシードの暴走で来ないという可能性は少ないからね。……明日、いや、君の消耗を考えて明後日、僕と君達でなのはを止める」

 

 現状、海鳴市で最も危険な存在が誰かと言えば、いつ爆発するか分からないが、爆発の予兆が分かる不発弾とも言えるジュエルシードではなく、その気配を察して絨毯爆撃を仕掛けてくる殺戮兵器と化した高町なのはだ。

 そのため、おのずとどちらを優先すべきかの判断は明確だ。――この判断が外道のソレと分かりながらも、ユーノはその覚悟を決めていた。

 

「だからこそ、これを手に入れられたのは僥倖だった」

 

 そう言って、ユーノが服の内側から取り出した物、ジュエルシードを見てフェイトとアルフの表情が驚愕に彩られた。

 

「これは、どこで?」

 

「君達が居なくなった後、とある人のところに匿われてね。その時、奇跡的に暴走前のジュエルシードを回収できた」

 

 とある人と言うのは、治療を施した月村すずかのことである。あの後、意識を取り戻したすずかにも簡単ながら事情を話したユーノは、一時的な宿としてすずかの家へと匿われたのだ。

 そしてそこで偶然―あるいは必然だったのかもしれないが―ジュエルシードを見つけることが出来た。

 

「……これを明後日、人気のない場所で使う」

 

 幾ら人気が無い場所とはいえ、ジュエルシードを使う危険性をユーノは重々承知している。

 だがなのはを誘いだして戦うための場を整えるためには、この手しかないのだ。非殺傷設定を解除し、展開した結界すら撃ち抜くなのはが相手では未だ眠っている場所が不確かなジュエルシードを餌とするのは不安が残る。

 下手したらそれこそ海鳴市の中心で暴走したジュエルシードを巡って、先日のプール以上の災厄がばら撒かれる危険性すらあった。

 だからこそ、手持ちにあるジュエルシードを使うしか手はない。

 

「……いいの?」

 

「いいんだ。どのみち、僕の手はもう汚れきっている。今更この程度、どうってことないよ」

 

 無理矢理笑ってみせるユーノが強がっていることくらい、知り合って日が浅いフェイトですら感じ取れた。

 だがフェイトはユーノに何も言えない。彼女もまた非合法な手でジェエルシードを求めている。彼女も同じく罪人だった。

 

「その代わり、今度こそなのはを止める。一緒に戦ってくれるかい?」

 

「私にとってもアレはジュエルシード回収のために排除しなければならない敵だから……」

 

 互いに罪人。

 それでも倒さなければならない敵が居る。

 決戦は二日後、互いの目的のために今は手を取り合うのだった。

 

 

 

 

 

 脳裏を走る魔力の気配に顔を起こす。

 すっかり慣れ親しんだこの感覚は新たなジュエルシードの反応だ。

 時刻は既に夜。夕飯を食べてお風呂にも入り、すっかりおねむ気分だった私の思考が一瞬にして冴えわたる。

 

『マスター』

 

「えぇ、行きましょう、レイジングハート」

 

 バリアジャケットを纏い、レイジングハートを片手に窓から外へと飛び出す。夜の帳を引き裂いて飛ぶ私の頬を冷たい風が撫でた。火照った体が僅かに落ち着き、目くるめく戦いを思い描いた脳髄が冷静さを取り戻す。

 だけど堪らなかった。一秒でも時間が惜しい。きっとこの先には彼女が待っていると考えるだけで胸が高鳴った。

 フェイトちゃんにもうすぐ会える。

 フェイトちゃんともうすぐ戦える。

 フェイトちゃんに私の全部を曝け出せる。

 だけど不安でもあった。今の私はどの程度フェイトちゃんと戦えるだろうか。脳内での仮想戦闘は五百に届くまで行ったけど、私がフェイトちゃんに勝てた91回は全部、私がフェイトちゃんを弱く設定した結果。どう考えても私なんかじゃフェイトちゃんに勝てる想像が出来ない。

 魔力刃を胸に突き立てられ、心臓に直接電流を流される私。

 砲撃魔法を受けきれず全身を熱で炙られる私。

 四肢を切断され、命乞いする舌を顎ごと斬られる私。

 神速で迫るシューターが捌けず、顔面に直撃を受ける私。

 あらゆる方法。あらゆる結果で殺し尽くされる自分を思い描き、ゾクゾクと背筋に興奮が走り抜けた。

 あぁでもどうしよう。私はそれでもいい。だけど、高町なのはという天才と出会えたフェイトちゃんが、この程度しか才能を引き出せていない私にがっかりしないだろうか?

 それだけが怖くて、申し訳ない。

 私は私が天才だと知っているけれど、天才だと自覚している私自身がどうしようもない凡人であることも知っている。

 だからこそ必死で鍛錬を積んだけど、この努力がちゃんと天才の成長に見合っているのか心配だった。

 失望されたくない。

 この素晴らしい肉体を残念だと思われたくない。

 

「怖いなぁ……怖いよぅ……」

 

『大丈夫ですマスター』

 

 私の不安を汲み取って優しい言葉をレイジングハートがかけてくれるけれど、前世の存在を知らないレイジングハートでは根本的に私の葛藤は理解できていない。

 まるで自分だけがこの世界で一人ぼっちのような気持ち。お前は本来必要なかったと言われているように時折感じる。

 あぁ、魔法を知ったことは喜ばしいけど、そのせいで私の精神は魔法を知る前よりも不安定になってしまった。

 この疎外感もいつか消えるのだろうか? 高町なのはを味わい尽くした果て、才覚が行き着く終点に到達した時こそ寂しさは消えるのか?

 分からないことは増え続けている。

 知り得たことと知らないことのつり合いが取れない。

 嬉しいな。―悲しいよ―。

 

『どうしましたかマスター?』

 

「え?」

 

『心理グラフが不安定です。一度止まって落ち着くことを推奨します』

 

「……ううん。大丈夫よ、私は嬉しいだけだもの」

 

 心に差し込む言い知れぬ何か。

 悩みと言えばコレこそがもっぱら一番の悩みかもしれない。

 仮想訓練中にも時折割り込む謎の思考。まるで私じゃない誰かが頭の隅に居るような気持ち悪さ。

 日に日に出てくる回数が増えているソレを、私は出てくるたびに踏みつけ、引きちぎり、脳から吐き捨てていた。

 

『接敵まで十秒』

 

 だが思考はすぐに戦闘へと切り替わる。魔力で強化した視線の先で、まるでこちらが来るのを待っていたかのように暴走を開始したジュエルシードを見て、悩みなんて些末なことは一瞬で消え去った。

 

「やるよレイジングハート……シューター展開!」

 

 周囲の樹木を吸い取って巨大化したジュエルシードの全長はちょっとした高層ビルと同じかそれ以上。単純な質量の怪物へ向けて、様子見に放った五十個のシューターを差し向けた。

 応じて暴走体の枝がバインドのように伸びてシューターを迎撃する。数だけは多量のそれらだけど、私のシューターを止めるには威力も数も耐久力も足りない。

 迎撃などないようにシューターが、枝を砕きながら一直線に暴走体の幹へと着弾した。遅れて無数の発光現象が暴走体を彩る。対象への着弾を確認次第、内包した魔力を爆発させる一撃によって、暴走体の幹に無数の穴が開いた。

 

「つまんない。この程度なの?」

 

 かつてはあれ程苦戦した暴走体だったけど、フェイトちゃんとの訓練を重ねた私にとって、最早片手間で相手する存在でしかない。

 これならディバインバスターを使う必要もないかな? まぁ暴走体を相手に魔力を消耗させちゃったら駄目だもんね。

 だって、私の目的はジュエルシードじゃなくて、この暴走体の反応を辿って現れる――。

 

「来たっ!」

 

 広域展開した私の索敵エリアに引っかかる魔力反応。夜を照らす黄金の閃光はさながら流星。地表より飛び出した光に心が躍った。心臓が白熱した。脳髄が爆発し、愛情が溢れ出た。

 会いたかったよ。一秒でも早く、一秒でも長くあなたと会って戦いたかった。

 

「フェぇぇイトちゃぁぁぁぁぁん! なのはだよぉぉぉぉぉ!」

 

「ッ!」

 

 一直線に向かってくる愛しい貴女を歓迎する。

 今宵、最高の一時を一緒に――素敵な夜を、彩りましょう?

 

 

 

 

 

 ――ゲラゲラと不愉快な音が鼓膜を揺らす。欲情で蕩け切った視線が小さな体を上から下まで舐め回し、口より唾液を滴らせて興奮を露わにしていた。

 人生でこれ以上ない不快感に逃げ出したくなる。だが弱気になる体をグッと抑えて、全ては母さんのためにという決意を漲らせてフェイトはなのはへと突撃した。

 

「やぁぁぁ!!」

 

 閃光と化したフェイトの一撃は鋭く速い。獣の反射神経ですら捉えられない一撃は必殺の域。

 しかし、相手は恐るべき狂人。たった一日、否、半日もあれば劇的に成長する狂気の産物。

 

「あはっ」

 

 真正面からと知っていても受けきれないソレを、なのはは軽く身を引いて皮一枚のところで回避した。

 呆気なく空ぶった一撃を見てフェイトが驚愕に目を剥く。初手、なのはの対処は幾つも想定していたつもりだった。プロテクション、バインド、シューター、あるいは砲撃魔法。

 だがフェイトは皮一枚で攻撃を見切られるとは思ってもいなかった。それだけ彼女は自分の速度に自信があり、事実、以前の戦いでなのはは殆ど反応出来ていなかった。

 しかし彼女は知らない。今のフェイトが出せる全力の速度の三倍域でなのはが仮想訓練を行っていることなど。

 ましてや、ここに来る直前で三倍の速度すら対処し始めていたことなど。

 知るはずもない。

 知っていたら、戦おうとすら思わなかっただろう。

 

「うふふ、じらすのが上手ねフェイトちゃん」

 

 そしてなのはもフェイトが想定よりも弱すぎる(・・・・・・・・・)ことを知らない。故にこの一合を様子見の一撃だと勝手に解釈していた。

 

「そんなところも大好きよ?」

 

「ッ……うわぁぁぁぁ!!」

 

 奈落の如き漆黒の眼。底すら見えないなのはの眼球に対する恐怖を払うように、フェイトがバルディッシュを怒涛の勢いでなのはへと振るい始めた。

 だがなのははプロテクションはおろか飛行魔法以外の魔法を使わず、速度で勝るフェイトの魔力刃を肌に触れないギリギリを見切って躱し続ける。最小、最適の回避に速さは要らない。

 バリアジャケットを掠め、頬を撫で、髪の数本が斬られるものの、決して直撃はしなかった。あの日、通用していたはずのフェイトの速度が全く通用しなかった。

 刃がさらに加速していく。当たらない。真正面からではなく周囲を飛び回り、刃を振るう。当たらない。シューターを使って攪乱する。当たらない。バインドすら使った。当たらない。砲撃魔法を隠れ蓑にした。当たらない。

 悉く空を裂く。

 当たらない。

 悉く夜を裂く。

 当たらない。

 夜空を金色が走る。

 当たらない。

 線を描き、千を彩る。

 だが、どんなに刃を振るっても、高町なのはを裂くことは出来ない。

 飛行魔法しか使っていないなのはを捉えることが出来ない。

 

「な、んで……」

 

「んー? どうしたのフェイトちゃん? あっ、もしかして以前の私が弱っちかったからこの程度でいいと思ったのかな? ……そっか。でも、仕方ないよね」

 

 超至近距離でおよそ一分。一撃も与えることが出来ずに息を荒げるフェイトに、なのはは申し訳なさそうに顔を伏せた。

 ――何を言っているの?

 フェイトはなのはが言っている意味が分からなかった。全身全霊、油断も慢心も無く全てを叩き込んだ連撃だった。

 その全てを上回って、無傷のなのはが立っている。本当に目の前に立つコレはあの日と同じ人間なのか。姿形が似ているだけで、実は双子の別人ではないのか。

 こみ上げる疑問は、背中に圧し掛かる絶望を誤魔化す言い訳だった。

 だがどんなに否定を重ねても、フェイトの前に立つなのはが消えるわけではない。

 

「私ね、ちょっとだけ成長したんだ」

 

 なのはが照れくさそうに頬を染めて呟く。

 

「次フェイトちゃんに会ったら、いっぱいいっぱい楽しんでもらえるようにって、頭の中でずっとあなたと戦ってたの。ふふふ、寝ても覚めてもあなただけ。大好きよ、本当に。嘘じゃないわ」

 

 顔を上げたなのはが顔を蒼白く染めたフェイトを見つめている。

 そこでフェイトもようやく察した。確かになのはの視線はフェイトを捉えて離さない。

 だが、見ていない(・・・・・)

 この狂人は自分への愛を囁きながらその実、フェイト・テスタロッサそのものを一切見ていなかった。

 

「愛しているの、フェイトちゃん(天才)を」

 

「ひっ……」

 

 喉が引き攣る。体が無意識に後ろに下がる。一秒だって対峙したくなかった。たった一分の間で、フェイトの心は折れかけていた。

 

「だから、ね? フェイトちゃんがもうちょっと力を見せてくれるように……私の成長、見てほしいな」

 

 直後、なのはの頭上に桜色の華が無数に咲いた。

 なのはを中心に半径十メートル規模で円形に展開されたシューター。一瞬、見惚れる程の幻想的な光景に照らされたフェイトは、数秒後に訪れる己の死を幻視する。

 桜は、根の下に埋まった人間の死体を養分として美しい花を咲かせるとは誰が言った言葉だろうか。

 これこそまさしくその様。これまで積み重ねた死骸を養分として美しく咲き乱れる桜色幻想。

 咲く花々の祝福を以て、運命の少女に恋慕を込めた花束を。

 

「受け取って、フェイトちゃん」

 

 回避も迎撃も不可能。フェイト・テスタロッサの最高速度の三倍を前提とした魔法群が、なのはの号令を皮切りに殺到しようとして――それよりも早く、なのはの直下の大地より伸びた無数のバインドが彼女の四肢を拘束した。

 

「フェイト!」

 

 地表でここまで隠れていたユーノが吼える。その声で我に返ったフェイトが慌てて距離を取るが、危惧していた追撃は一切なかった。

 

「……何コレ?」

 

 なのはは距離を開いたフェイトではなく、体を拘束するバインドを見ていた。

 肉を食み、地表へと引きずりおろそうとする鎖がなのはの動きを阻害している。何が起きたのか。一瞬の疑問と、地表に居るユーノ。それらが合わさり導き出された解答に気付いたなのはの顔が、これまで見せたことのない色に染まっていく。

 

「ねぇ、どういうことかなユーノ君?」

 

 バインドが千切れていく。展開していたシューターの幾つかがなのはの体を飛び回り、一瞬の抵抗すらさせずバインドを砕いていた。

 その間にもなのはの表情が変わっていく。

 それは、怒り。

 愛しい少女との一時を台無しにされた怒りがなのはの表情を歪めていく。

 

「どうして邪魔をするのかな?」

 

 淡々と語る口調が恐ろしい。

 そうしている間にユーノが事前に設置していた渾身のバインドがなのはを止めていた時間は数秒しかなかった。本来であればフェイトとなのはの戦いの最中、隙を突く形で使うはずだった一手。逆転の一手となるはずだったユーノの魔法が、まるで飴細工のように砕けて消える。

 

「ッ……フェイト! アルフ! こうなったら総力戦だ!」

 

「あぁ! フェイト、アタシもやるよ!」

 

「ッ……分かった。二人とも、頑張ろう」

 

 戦いを察して人間体に変身したアルフがユーノの声を聞いてフェイトの隣に飛び出す。彼女も本来なら奇襲の一手を狙って身を隠していたが、想定を遥かに上回ったなのはの戦闘力を見て無駄を悟っていた。

 奇襲を狙って待つ間に各個撃破される。それならば三人揃ってなのはに当たったほうがまだマシだと考えてのことだった。

 だがそれでも彼女達はまだ高町なのはを侮っていた。いや、その恐ろしい進化を想像しきれていなかった。

 

「許せない……」

 

 戦いを妨害したユーノも、フェイトの隣に立つ邪魔な女も、どちらも気にいらなかった。

 こんな気持ちは初めてだった。魔法を知ってからこれまで、痛みに苦しみ悶えることはあっても、なのはは憤怒を覚えたことはなかった。

 だがこうして蜜月を砕かれ、こみ上げてくるのは憤怒しかなかった。

 

 ――邪魔だ。

 ――どいつもこいつも、私とフェイトちゃんの邪魔だ。

 

 沸き立つ憤怒―一怒りすら楽しむ自分もいた―が心を染める。

 殺せと囁く自分が居た。

 この二匹を跡形もなく消し飛ばさなければ怒りで発狂しそうだった。

 

「ころしてやる」

 

 生き恥を、醜態を、最期に醜い死骸を晒せ。

 展開したシューターがなのはの心で荒れ狂う激情を表すように乱舞する。

 ユーノ達は息を呑んだ。戦おうと思う心が既に折れそうになる。

 

「だけど……!」

 

 それでもとユーノは歯を食いしばって震える足を叩き力を込める。

 この力が無秩序に解放されれば、今度こそ海鳴市は無人の更地となるのは想像に容易い。だからここで全てに決着をつける。つけなくてはならない。

 

「だけど、ここで!」

 

 そしてユーノは切り札を切った。二人が戦い始めてから沈黙していたジュエルシード暴走体――否、ユーノの願いを受けて起動したジュエルシードをぶつける。

 ユーノのバインド。アルフのバリアブレイク。これらの奇襲が通じなかった場合も想定して、ユーノは正規の手段でジュエルシードを起動させ、それを暴走体と錯覚させるという一手も打っていたのだ。

 もしも戦う前に封印処理されてしまえば終わりとも言えた諸刃の一手。だが今このときだけは、暴走体すらもユーノ達の味方だった。

 そしてなのはに気付かれないようにこっそりとその背後まで伸ばした枝がなのはへと奇襲を仕掛ける。

 完全に虚を突いた一手に、なのはは微塵も反応を示さない。

 

 ――取った!

 

 ユーノが勝利を確信した刹那。なのはを束縛するはずだった樹木が見えない何かに弾かれて消滅した。

 

「え?」

 

「……あぁ、まだ居たの?」

 

 困惑するユーノを他所に、暴走体もどきの攻撃に気付いたなのはがレイジングハートを一振りする。

 刹那、何の前触れもなく暴走体もどきの全身が、無数の桜色の光に飲まれて消滅した。

 

「な、にが……?」

 

「あなたには分からないよユーノ君」

 

 当惑するユーノに対してなのはが無表情に告げて再度レイジングハートを振る。

 直後、ユーノの周囲を取り囲むようにディバインシューターが現れた。

 

「……フェイトちゃん対策に、シューターに幻影を張り付けたの。魔力反応をしっかりしていれば簡単に分かる代物だけど、ユーノ君如きじゃ気付かないよねぇ?」

 

 薄らと笑いながらユーノを蔑む。一方、ユーノはなのはの言葉を聞いている余裕などなかった。

 目の前で一瞬のうちに消滅した暴走体もどき。その閃光を彩ったシューターが自分の周りにある恐怖。何とか踏み止まって掻き集めた勇気が一瞬にして霧散し、己の死を察した顔には絶望の色が濃く現れる。

 

「げひゃ」

 

 その顔が堪らなかった。

 

「げひっ、いひひ!」

 

 胸がすく心地だった。大事な一時を無駄にした邪魔者に相応しい絶望の表情に笑いが止まらない。

 

「あははっ! あひひひひひ!! どぅしたのかなぁユゥゥゥノ君! 死んじゃうよぉ? 早く何とかしないと死んじゃうからさぁぁ!!??」

 

「あ……ぁ……」

 

「ほらほら早く早くぅ! 何もしないのかな? じゃあ爆発させちゃおうかな? どれがいい? 直ぐに死にたい? ひひひひ! でも残念! 私の邪魔をしたんだから楽に死ねるわけがないよねぇ!?」

 

 生かすも殺すも、いや、すぐに殺すもじっくり殺すもなのは次第。

 プロテクションを全方位に張ったとしても、耐えられるかは分からなかった。最早、ユーノに残された手は一切無い。

 ここで死ぬのだという現実がそこにはあった。

 

「やらせるかぁぁぁぁ!!」

 

 だがそれを簡単に許すフェイトではなかった。ユーノになのはの意識が向いた僅かな隙。その間隙を縫う形でフェイトが再びなのはとの距離を詰めて薙ぎ払いを行う。

 

「あはっ、だけどこの程度じゃ――」

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 だが当然のように刃を躱したなのはをアルフが追撃した。フェイトの陰に隠れてなのはの頭上を取ったアルフの拳が雷の如くその脳天へと落ちる。しかし、その姿を一切見ていないというのに、なのははフェイトを見たままシューターの一つをアルフの脇腹へと直撃させていた。

 

「がふっ……!?」

 

「アルフ!?」

 

 爆発はしなかったものの、鉄球がそのまま腹に突き刺さったような衝撃でアルフの肋骨が折れて臓腑を傷つけ、その口から逆流した血が吐き出される。

 たった一撃で致命傷まで追いやられたアルフを助けようとしたフェイトだったが、「ねぇ、私を見てよ」というなのはの声と死への予感から咄嗟にプロテクションを展開した。

 

「ぐぅ!?」

 

 無数のシューターがフェイトのプロテクションに殺到する。一撃一撃は何とか受け止められるが、数が多すぎる。そのまま気圧される形で後ろに吹き飛んだフェイトが追撃を警戒するものの、なのははニヤニヤと笑ってこちらを見るだけだった。

 

 ――一どうして?

 

 フェイトの疑問になのはは笑う。笑い続ける。

 これでようやく、舞台が整ったのだと嗤っていた。

 

「じゃあ、これで邪魔者はさよならだ」

 

 そして三度、レイジングハートが振るわれる。その号令に従って、フェイトの視界の隅で二つの光が輝いた。

 あまりにも呆気ない結末だった。

 

「あっ……」

 

 何が起きたのか見たくなかった。空と大地で起きた二つの輝き。脳裏を過る暴走体が削られる光景。考えたくなかった。あの光の中に誰かがいるなんて――。

 

「やっと二人っきりだね、フェイトちゃん!」

 

 後ろ手を組み、愛らしく小首を傾げてなのはが微笑んだ。そこだけを切り取れば、恋人との一時を待ちに待った少女の愛らしい姿でしかない。

 だが状況が最悪だった。道端の石ころを蹴り飛ばすようにして―アルフとユーノを消し飛ばした―考えたくない。これ以上考えられない。

 

「う、ぁ……」

 

 だが認めざるをえなかった。

 呆気なく、何のドラマも意味も、最期の言葉すら残せずに二人は消えたのだと。

 

「もう、邪魔は入らないよ?」

 

 ――だって、あの二人(ゴミ)は私が掃除したから。

 

 平然と言って退ける狂人の言葉を信じたくない。

 だけどもう、あぁ、残酷なことにもう、認めよう。

 

 アルフとユーノは、死んだのだ。

 

「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!」

 

 こみ上げる涙を拭うことすら忘れてフェイトが吼えた。怒りと悲しみの入り混じった絶望の怨嗟を吐き出した。

 分かっていたつもりだった。

 高町なのはを打倒するために犠牲が出ることも、それが辛く苦しいことだとも。

 だけど。

 それでもこれは許せるものか。

 命を賭して戦った二人を、ゴミとのたまったこの狂人を。

 

「殺す! 殺してやる! 絶対に! 殺してやる!」

 

「いいよぉ! もっともっと! 私だけを見てよフェイトちゃぁん!」

 

 その怨嗟すら己への愛と錯覚した狂人が、これより始まる素晴らしき一瞬を思い描いて笑い、限界を超えた速度で突撃してきたフェイトを迎え撃つ。

 そして、激突する殺意と歓喜が光を生み、弾ける火花が夜を彩った。

 相対するは二つの輝き。

 一つは、悲しみと怒りを植え付けられて狂わされた狂人。

 一つは、己の歓喜と自己愛のみで構成された狂人。

 今や狂いし二つの星よ。

 

「高町ぃ! なのはぁぁぁぁ!」

 

「あはは! おいで、フェイトちゃぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 ――この冷たき修羅場の果てに、お前たちが行き着く末路がある。

 

 




次回、不屈の心は砕けない。


例のアレ
高町なのは無力化作戦(仮)
ユーノ発案。ジュエルシードを起動させることでなのはを呼び、まずは暴走体との戦いである程度疲弊させる。そこで暴走体が倒される前にフェイトが飛び出して戦闘続行。さらに疲弊したところでユーノがバインドで捕縛してフェイトがトドメ。それが駄目ならなのはの知らない魔法であるアルフのバリアブレイクで直接なのはをぶっ叩く。これもダメなら暴走体と見せかけて実はユーノがある程度掌握していたジュエルシード活動体とでも言うべき代物をぶつけ、動揺しているところを三人で畳み掛けて倒すという作戦。
フェイトと初めて会った時のオリ主憑きなのちゃんであったならアルフのバリアブレイクで普通にやられていたが、現実は非情である。

主な敗因は殺意不足。
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