魔法狂気 マジキチ☆なのは   作:トロ

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名前を変えたので連日投稿です。


第十二話【狂気の片鱗】

 リンカーコアが限界を超えて魔力を捻出している。体内で爆竹が破裂し続けているような激痛が絶え間なく体を苛むが、フェイトはその程度の痛みなど意に介さず、楽しそうに笑い続けるなのはを追い続けていた。

 

「嬉しいよフェイトちゃん! ようやく私を敵として認めてくれたのね!?」

 

「うぁぁぁぁぁ!!」

 

 全身から紫電を放出して、雷そのものと化したフェイトの速度は既に先程と比べて二倍にまで跳ね上がっていた。

 この土壇場で常の倍となる力の解放はやはりなのはが認める天才に相応しいものだ。そしてこれは、なのはの中に潜む凡夫の限界を証明するものでもあった。

 高町なのはの成長は凄まじい。だがそれはあくまで24時間の鍛錬(・・・・・・・)という気が狂った時間の密度によるもので、実際の成長速度を考慮すると、実はそこまで成長しているわけではなかった。

 むしろ、肉体を操る魂が凡夫であるため、費やした時間に対してほとんど成長していない(・・・・・・・・・・・)

 本来、天才の成長とはフェイトのようなことを言う。

 極限の精神状態と絶望的な戦力差を前に、常ではありえない一歩を踏み出す者。

 こみ上げる激情に応じることが出来る才覚。論理的に説明できない飛躍を見せる異能。

 フェイト・テスタロッサは天才だ。だがそれすら――レイジングハートの予想を超えていなかった。

 

 ――せめて、あなたがマスターの行った鍛錬の半分でもしていれば結果は違っていたでしょうに。

 

 火花散らす両者の死闘を見守る。防御を限界まで無視して、魔力刃と速度にリソースを注いだフェイトの力は、最高で三倍速に対応し始めたとはいえ、あくまで仮想訓練しかしていないなのはも苦戦を強いられている。

 だがこの実戦と訓練の違いももう暫く戦えば対応出来る。現に、徐々にだがなのはのシューターはフェイトを捉え始め、その白い肌にはシューターの殴打による青痣が幾つも浮かび上がっていた。

 もって一分か二分か。

 

「ッ……ぁぁあ!」

 

 構わず、フェイトは苦し気な表情で、尚も尽きない殺意を原動力に空を駆けていた。

 だが彼女の殺意は哄笑する悪魔に触れることすら出来ない。

 限界の向こう側。一時的なブーストを行っても届かない。それでもフェイトは必死に距離を詰めようと足掻いた。そんな彼女を嘲笑うように、行く手を無数のシューターとバインドが阻む。

 しかし止まらなかった。止まればそこで二度と立ち直れないから止まるわけにはいかなかった。

 雷光が僅かな隙を縫って桜の花を従えた魔人に肉薄せんとする。

 百花繚乱咲き誇る夜の華、その網を駆け抜ける稲光を迎え入れるなのはの心は喜びに満ちていた。

 既にフェイトの動きは人類の反射神経では影を追うことしか出来ない。走ったという認識の直後にはもう遥か先へと動いた後、フェイトの神速は次元世界広しといえ、一握りしかいないと言える領域に手をかけていた。

 故になのははフェイトを見ない。空に描かれた魔力の残滓、線を敷く光の軌跡、僅かに見える動きの癖、それらをマルチタスクによって分割演算。算出した軌道予測に沿ってシューターを展開。さらに想定外の動きを止めるためにバインドとシューターを配置。

 

「さぁ、どうするのフェイトちゃん!」

 

「押し切る……!」

 

 マルチタスクで予測演算するなのはに対して、フェイトは魔法によって思考速度を加速させることで対処していた。

 一秒を十秒へ引き伸ばす。十秒に伸びた世界を一分にすり潰す。世界の遅延、自身の加速、合わさる刹那を認知して、停止空間で魔法陣が描かれる。

 

「撃ち抜け轟雷……サンダースマッシャ―!」

 

 なのはへの最短距離を金色の極光が照らし出す。

 配置されたシューターとバインドを根こそぎ焼き尽くした光だったが、以前と違ってなのはのプロテクションを超えて雷を波及させるまではいかない。

 それでも行くべき道は切り開かれた。フェイトは迷いなくなのはとの距離を詰めようと飛び出し――咄嗟に横へと飛びずさった。

 遅れて突如桜色の光がフェイトの視界を焼く。迷彩を施されたシューター、サンダーススマッシャーの後、空いた空間を埋めるように再配置し直したのだ。

 

「あはは! やっぱりネタが割れると避けられちゃうね!」

 

 もしもユーノがこのシューターにやられていなければ、今頃フェイトはシューターの爆発に全身を炙られていたことだろう。

 過程はどうであれ、フェイトの窮地を救ってくれたユーノの行動が、彼の死という現実と共にフェイトの心を軋ませる。

 

「全く、ユーノ君ってば死んでも邪魔をするんだね。フェイトちゃんをびっくりさせたかったのにさ」

 

 そんなフェイトの怒りを再燃させるなのはの一言。

 ユーノが居なければフェイトを驚かせることが出来たというその悪辣極まる言葉に、食いしばった歯の間から醜い唸り声が漏れ出した。

 力が足りなかった。

 覚悟が足りなかった。

 死した彼に足りなかったものは幾らでもある。だがそれでも、覚悟を決めていた少年を踏み躙ることだけは許さない。

 

「なのはぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 注ぎ込まれた憤怒の熱を魔力へと変えてフェイトが飛んだ。さらなる加速と進化、限界を数段階超えた先の刃は、道を遮るシューターとバインドを一秒も経たずに根こそぎ斬り捨てた。

 

「ッ……あはっ、そうよ、素敵よ!」

 

 刃の圏内になのはを捉えた瞬間、非殺傷設定を解除したフェイトの一撃がプロテクションと激突した。

 互いの魔力が光となって両者の間を照らし出す。交わした視線は表裏、憤怒と歓喜が交差して入り混じる間。必然として弾かれた両者が同時に動き出した。

 これまで不動だったなのはがシューターを引き連れてフェイトとの距離を離すべく後方へと下がる。

 その影を追って疾駆するフェイトの行く手をシューターが阻むが、一刀の下に斬り伏せた。限界を超えた負荷をかけられた筋線維が引きちぎれる。魔力で強引に補強しているが、痛みと疲労は着実にフェイトの心身を擦り減らしていた。

 

「ハァ……ッ……」

 

 眩む視界。激痛を訴える身体。絶えず劣化を続ける全身を奮い立たせて、それでも尚、フェイトの一撃はなのはを捉えられない。

 単純な実力が違う。異常とも言える鍛錬で培った経験値による地金がフェイトとなのはの差として現れていた。

 だがフェイトは引くつもりはなかった。この一瞬だけ、プレシアから託された命令すら忘我する程、フェイトの心は怒りで染まっていた。

 許してたまるものか。必ずや渾身の一刀にて彼の狂気を斬り捨てる。願うのはたった一つの殺意の成就だ。

 死を以て、死を贖わせる。

 断頭こそを望む死神の執念に、なのはも嬉々として応じてみせる。

 上空に飛びながら構えたレイジングハートの前に描かれる魔法陣。際限なく加速する雷光の動きをシューターで制御しながら、これ以上ないタイミングで神罰の光を振り下ろす。

 

『Divine Buster』

 

「シュート!」

 

「ッ!?」

 

 空より降り注いだ神の鉄槌がフェイトを飲み込み地面を焼く。轟音を響かせて周囲に飛び散った破壊の余波で、寝静まった野生動物が一斉に悲鳴をあげて逃げ出した。

 ミサイルが着弾したようなクレーターの跡地を見れば、直撃が意味する事実は一つしかない。

 だがなのははディバインバスターの輝きが消えるよりも早く、真上より飛来した小さな光を捉えていた。

 

「流石フェイトちゃん!」

 

「ちぃ……!」

 

 多少マントの端が焼けこげながらもディバインバスターから逃れたフェイトの刃とプロテクションが再び激突。先日の焼き直しは、なのはを貫くには至らない。

 だが舌打ちをしながらもフェイトに動揺はなかった。この僅かな間に生み出したシューターを、なのはの背後から襲い掛からせる。

 

「はっ! これくらいならさぁ!?」

 

 だがフェイトのシューターはなのはのシューターと激突して四散する。まだ届かない。後一歩の距離が彼岸よりも遠い。

 しかし殺す。

 故に殺す。

 

「殺す……!」

 

「いいわぁ。もっと私だけを見て。私だけを愛してほしいの!」

 

「誰がおまえを愛してやるかぁ!」

 

 バルディッシュから片手を離して掌に魔法陣が浮かび上がる。これまで考えられなかった動きに初めてなのはに動揺の色が浮かんだ。

 咄嗟にバインドで拘束しようとするが、もう遅い。

 

「サンダースマッシャ―!」

 

 プロテクションに叩きつけた掌を通じて、前半の詠唱を破棄した雷光が奔流となってなのはを飲み込んだ。

 

「うぅぅぅぅぅ!?」

 

 ゼロ距離射撃。しかしデバイスを通してない一撃では威力は半分以下。それでも魔力刃を受けて減衰したプロテクションを揺らがせ、なのはを後退させるには充分。

 

「バルディッシュ!」

 

『了解、いつでもどうぞ』

 

 そして遂に到来した機会を逃す訳にはいかない。直接プロテクションに触れてグズグズに火傷した掌でバルディッシュを握り直すと地面に落下していくなのはをフェイトも追った。

 

「レイジングハートぉ!」

 

『Divine Buster』

 

緊急時のために溜めていた魔力を注ぎ込み即席のディバインバスターで牽制するが、その程度ではフェイトの影すら穿つことも叶わない。

 だが回避に動きを割いたことで一呼吸分の余裕が生まれる。その間に体勢を整えたなのはだったが、即座に背後へと回り込んだフェイトの斬撃は落ち着く余裕すら与えない。

 首を狩りに来た刃を大きく屈んで回避して、レイジングハートを振り向きざまに薙ぎ払う。もうフェイトはそこには居ない。だが予測した軌道に沿ってなのはが動き、刃を避ける。応じてシューター、魔力刃に受け流されフェイトが消える。次いで演算、新たな予測、零秒後に回避、反撃、さらなる加速。

 

 ――足りない!

 

 なのはの牙城を崩せない。崩したと思ったところで放った刃が、決定的な一撃を与えられない。

 理由は既に分かっていた。ここまでの一連の流れ、驚きを見せたりしているものの、フェイトは未だになのはの気持ち悪い笑顔を崩すことが出来ていない。

 つまりこちらが限界を突破して食らいついているにも関わらず相手には余裕があった。

 それでもフェイトは軋む体と全身を蝕む激痛を堪えて刃を振るい続けるしかない。

 

 ――もっと、もっと私に力を!

 

 高町なのはを貫く一撃をこの手に。そのためなら、この身がどうなっても構わない。

 死へ向かって落下を続けることで、限界を超えた力を行使する。残された時間は後一分か、それとも二分か。

 だが戦えていた。勝てないと思えていたなのはを相手取って、ぎりぎりで踏み止まっていた。

 ならばもっと力を集める。既にリミッターなど砕け散ったフェイトにとって躊躇は無かった。

 ここで越えて、ここで死んでもいい。

 その狂気こそが原動力。憤怒と殺意で塗り固められた意志を支えにフェイトはさらに己を削り、力を振り絞った。

 

「はぁぁぁ!」

 

「やぁぁぁ!」

 

 中空で二人が激突した。そして弾かれた両者の距離が開く。

 想像通り、フェイトは徐々にその力を見せてくれた。そのことがなのはには嬉しかった。

 

「でも足りない」

 

 互いにまだ余力が残っているここまでの戦いは、フェイトにとっての死闘であっても、なのはにとってはただの前座。

 この先なのだ。ここから先、全てを曝け出した先に、本当の死闘が待っている。

 

「やるよ、レイジングハート」

 

『……了解しました』

 

 なのはの覚悟を聞いて、レイジングハートも観念した。

 そして、これより始まる一方的な蹂躙劇を考えて、戦えていると勘違いしているフェイトのことを憐れにすら思っていた。

 最早、これより先、フェイト一人での勝率は5%どころか完全なる0%。戦いに夢中となっているなのはの代わりに、冷静に状況を分析していたレイジングハートの結論は残酷な事実だ。

 そんな相棒の考えなど知らず、肩で息をしながらも闘志は衰えず立つフェイトをなのはは愛おしそうに見つめていた。

 

「あったまってきたねフェイトちゃん」

 

「ッ……!」

 

「少しずつ、すこーしずつ。あなたの強さを魅せられるたびに、私の成長を感じ取れるわ……私はやっと、あなたの領域に手をかけられたんだって」

 

「戯言は、聞きたくない……!」

 

「ふふ、ツンツンなフェイトちゃんも大好きよ。焦らし上手なところもキュンキュンしちゃうわ……でも、まだだよね?」

 

 直後、フェイトは己の眼を疑った。

 なのはの体に周辺に散らばった魔力が集まっていく。それはこの戦いで戦場全体にばら撒かれた魔力の残滓。四散し、爆散し、無色の力に還元された力が再びなのはの下へと集い、束ねられ、一つの塊となっていく。

 

「……バルディッシュ」

 

『今すぐ撤退を』

 

 頼りとする相棒はたった一言で絶望を突きつけた。そしてフェイトも、これから起きる絶望を予知して顔面を青ざめさせる。

 そうしている間にも収束する魔力がなのはの全身を満たしていく。通常なら考えられない膨大な力は、リンカーコア一つでは抑えきれない力。さながら、体内で爆弾を生成しているような危険な行為。

 

「だからねフェイトちゃん。私が先に、積み重ねた全部を見せてあげる」

 

 抑えきれない魔力が体から漏れ出て、桜色のベールを纏っているようだった。

 フェイトが限界を超えて手にした力。だがこれは最早、限界を超えたという領域の話ではなかった。

 

「何、これ……」

 

 術式を介して常よりも異常な魔力を集める凶行。堪え切れなかった体の所々で毛細血管が千切れ、なのはの全身に内出血の青痣が幾つも生まれ鼻と眼から血が流れだした。

 大気が悲鳴をあげる。空気すら蒸発する濃厚な密度の魔力。魔力だけで発狂して悶死しそうな状態で、なのはは笑う。

 尚も笑える、狂気の骸。

 

「これが……レイジングハートと一緒に考えた……今できる最強の、戦術形態……! 戦場にばら撒かれた魔力を私自身に貯蔵してぇ……再、利用する……!」

 

 過剰魔力によるブースト。この瞬間のみ、器の総量を上回る力を行使する禁呪。

 散らばった魔力を束ね、その魔力を呼び水としてさらなる魔力を際限なく集め続けるという暴挙。

 これぞ高町なのはが対フェイト・テスタロッサ戦に向けて生み出した自壊魔法(・・・・)

 

「全力全開」

 

 星屑を貪り食らう、狂気の産物の名を――。

 

『Divine Madness』

 

神の狂気を謳う災厄が、漆黒の空に禍々しき光を放ちながら顕現した。

 レイジングハートがその名を告げるのと同時、暴走しかけていた魔力が高町なのはの下にひれ伏した。そして余剰魔力がうねうねと動く無数の触手となって、背部のバリアジャケットを突き破って現れる。しかも背中からだけではない。腕からも腹からも、孵化した寄生生物のように皮膚を突き破って出てきた桜色の触手は、生理的な嫌悪感を覚える気持ち悪さを相対するフェイトへと覚えさせた。

 

「あ……あぁ……」

 

 だがそれ以上の恐怖に、フェイトは全身を震わせた。

 最早、高町なのはは人の形を保っているとは言えなかった。全身の至る所を突き破った触手を愛おし気に撫でる姿は常軌を逸していた。

 確かにフェイトもユーノとアルフを殺されたという憤怒と殺意で狂気に陥ってはいた。だがそれはあくまでメッキのように脆いもの。純正そのものの狂気を前にしてメッキは剥がれ、ただのフェイトが姿を現した。

 だから怖かった。人の身で、人を踏み外す狂気が見ていられなかった。

 しかしこれもまた人間なのだ。ただ愚直に己のみを見て、己のみに腐心した人間の根幹。そしてこれは片鱗なのだ。

 狂気は肥大する。

 天才は成長する。

 際限なく、上限無く、果てを求め、果てを欲し、その果てに手にする力こそ。

 

「なんて、様」

 

 無意識に口より零れた言葉は――いずれ至る人の終わりを予期したものに違いない。

 

 




次回、蹂躙。

例のアレ
『Divine Madness』
神の狂気を冠するオリ主憑きなのちゃんがフェイト用に編み出した切り札。一言で説明すると、スターライトブレイカーに使う魔力を体にぶち込み、その魔力を呼び水としてさらに魔力をかき集めるという魔法、分類上は自壊魔法というおバカな分類に入る。
その名の通り己の体が崩壊する代わり、戦略規模の魔法を行使できるようになるうえ、放った魔法によって四散した魔力を用いて再び魔法を放つといった擬似的な永久機関となる。ただし弱点として発動できる時間は一分弱と短いうえ、寿命がザクザクと削れる。
見た目は全身からぶっといミミズが皮膚を突き破ったような感じ。ガチでグロい。

当然だが、今のフェイトに使う必要は無い。
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