ジュエルシード戦
なのは「そうよ!あなたは九歳の子どもにコテンのパーにやられちゃったのよ!」
お邪魔虫ユーノ君へ
なのは「お前は電子レンジに入れられたダイナマイトだ! シューターの閉鎖空間の中で分解されるがいい!」
大好きフェイトちゃん戦
なのは「月光蝶である!(触手)」
ラストで唐突に御大将が憑依したので投稿が遅れました。
誕生の喜びに蠢く桜色の触手。主の体を餌としたそれらの一つを一撫でしたなのはは、悍ましき異形と成り果てたこちらを見て恐怖に震えるフェイトを見据えた。
『カウントスタート』
レイジングハートの真紅の宝石の表面に71という数字が浮かぶ。徐々に減っていく数字は、なのはがこの状態を維持できる残りの時間だ。
だからこれまでと違ってなのはは言葉を告げることなく行動へと移る。
我が渾身。己が身を賭して謳う愛の証明を愛しき少女へと。
これよりは、一の言葉に勝る千の魔法を奏でよう。
「魔力、解放」
なのはより生まれた触手が主の命を受けて空を仰いだ。その先端がゆっくりと開くと、そこから漏れ出た光が空を彩り、大量の魔法陣を夜空に描く。
一つ二つではない。フェイトが茫然としている間に五十を超えた魔法陣のどれもが、高町なのはが得意とする魔法の砲口。
一撃だけでも脅威となる破滅が、瞬く間に百を超える砲火となって顕現した。
『Divine Buster』
「一斉射撃」
瞬間、フェイトの視界を光が埋め尽くした。
百の魔砲が火を放つ。夜が一瞬にして消えて、桜に満たされた美しい光の乱気流は、一秒の時も無く等しき災禍を撒き散らした。
そして、世界の全てが豪雨の如く放たれた神罰によって焼き尽くされる。
「ひ……ぃ」
咄嗟に砲撃の隙間に逃れて直撃を避けたフェイトは、直後に広がった惨劇に引きつった悲鳴を漏らした。
突き抜けた砲撃が遠くの山を貫いた。森の木々を破砕し、炎が無数と森に撒かれた。野生動物が悲鳴をあげ、逃げ遅れたものから光と炎に焼かれて息絶える。
着弾では止まらず地面をなぞった幾つもの光が地表を割った。
空気が泣いた。
大地が震えた。
世界そのものが狂人の狂気に恐怖した。
「いや……いやぁ……!」
この世の地獄をあの日のプールでフェイトは見たはずだった。
だが、あの程度はただの児戯。真の地獄がここに生まれていた。
「次弾、放射」
しかしこの程度では終わらない。地獄の宴は未だ序章。体感にして一時間を超えるとも思われた地獄はその実、未だ十秒にも満たない時間の出来事だった。
そして再度、なのはの号令の下、ディバインバスターの斉射が行われた。
光に溶ける。
消えないと思われた感情が悉く溶ける。
フェイトは己の死に恐怖した。
「ッ……ぁぁああああ!!??」
気付けば、一撃を受ければ死が訪れる破滅の中を、フェイトは絶叫をあげながら逃げていた。
何だこれは。
何が起きたというのだこれは。
戦うどころではない。一秒後の生存すら保障されない地獄で、フェイトに残されたのは涙を流して逃げることだった。
「嫌だ……! 嫌だ嫌だ嫌だ!」
誰か助けて。
誰でもいいからこの地獄から助けてほしい。
「ユーノ! アルフ! 母さん!」
しかし、少女の助けに応じる声は無い。ここには誰も居ない。手に持ったバルディッシュも助けてはくれない。
たった一人の戦場でフェイトはようやく己の死と向かい合った。
一つは母親のために。一つは罪悪感からの義憤のために。そして呆気なく死んだ二人のために。
フェイトを突き動かしていた戦う理由はもう彼女を奮い立たせるには足りなかった。それほどの狂気、災禍。束ねられた悪夢は心を砕き、年相応の少女を剥き出しにした。
その身を焦がしていた怒りと殺意すら消え去る程の悪夢。
そして、狂人は笑う。
たった一人の人間に放つには過剰すぎる爆撃をばら撒きながら、なのはは逃げ惑うフェイトを見て喜びに打ち震えていた。
「あははははっ! 私は私の全部を見せたわ! だからあなたも見せてちょうだい! あなたの力、あなたの全て! 良いところも悪いところも、まとめてたっぷり愛してあげる!」
桜の雨が世界を焼く中、たった一人の狂人だけが笑い続ける。
この世の悪夢が具現化していた。不幸中の幸いと言えるのは、この悪夢が海鳴市の街中に顕現しなかったことだろうか。
数十秒もあれば街を更地に出来る圧倒的火力。戦略兵器に匹敵する個が、己が欲望のためだけに破壊を振りまく姿は、見る者全てに等しき終わりを予期させるに足る。
この力の猛り、研鑽した技術の結晶、高町なのははこんなにも素晴らしい。
「私がぁ! 私だけの全てでぇ!」
砲火は広がる。地獄も広がる。なのはの体を貫く触手も数を増し、初めに触手が生まれた背中の部分は殆ど触手の群れで見えなくなり。
ぐちゃりと、遂にその柔らかな頬を突き破って触手が生まれた。
遠目で見たそれが、美しさに咲く汚物が、フェイトの心にトドメを刺した。
あんなものが、人間なのか、と。
フェイトはその事実に怯え竦んだ。
「私を見てよぉ! フェイトちゃぁぁぁぁん!!」
「ひぃ! いやぁぁぁぁ!!??」
勝ち目など存在しない。あの狂気に立ち向かえる勇気はない。思考を介さず、ただ生存本能に突き動かされてフェイトはなのはに背を向けて逃げ出した。
一歩でも遠く。
一秒でも早く。
あの狂気から逃げなければならない。
あんな様を晒した人間と相対したくない。
しかし、そんなフェイトの願いを砕くように、彼女の進路上を大量のシューターが埋め尽くしていた。
逃がすつもりはない。
今、この場で、高町なのはの全てを賭してフェイト・テスタロッサを愛し尽くす。
「私だぁ! これが私! ひひゃははは! 最高の高町なのはがぁ!」
最早、言葉として意味をなしていない。体内で暴れる魔力の脳髄すら汚染されたのか、狂ったように整合性の無い言葉を叫び散らし、三度目の砲撃魔法の斉射を行おうとしていた。
「……ぁ、ぁ」
一射目が百、二射目が百五十、そして三射目の今、総数二百弱の砲門。
逃れる術はない。フェイトはもう限界を遥かに超えた力を使い続け、死を前にした生存本能によって絞り出した底力すらも使い果たした。
逃走に失敗した時点でフェイトに抗う術は残されていなかった。リンカーコアは限界を超えた行使に傷つき、蓄積された魔力は少なく、魔力を集めることすらおぼつかない。
あらゆる全てを出し尽くしても届かないことは存在する。
もっと緻密な作戦を立てればよかった。もっと鍛錬を積めばよかった。そもそもあの日、高町なのはを殺してさえいればこんなことにはならなかった。
だが過去は変えられない。どんなにもしもを考えても、突きつけられた現実に対してはあまりに無力。
逃げられないと悟ったフェイトの全身から力が抜けた。辛うじて手にバルディッシュが引っかかっているだけ。戦う意志などそこにはない。
「残り一分! 私とあなた! 夢のように楽しみましょう!」
高町なのははこの時点でなお、フェイトを見ているようで見ていなかった。誰が見てももうフェイトには戦う意志も力も残っていないのは明白だ。
だがなのはは己が口にした通り、夢の中で戦っていた。自分が妄想した何処にもいない誰かを相手に踊っている哀れな道化。
高町なのはには他者への愛など存在しない。徹頭徹尾、あらゆる全ては自分のために、天才を楽しむことだけしか考えていない自己愛の化身。
世界にはただ己一人。
そのことに気付きもせずに、フェイトへの愛を高らかに歌い上げて、号令を下す。
幕引きの一撃にて、空想ごと震える少女を焼きつくせ。
「レイジングハァァァトォォォォ!!」
『Divine Buster』
残り、五十五秒。渾身の斉射から逃れることは出来ず。
高町なのはの全力からたった十秒、フェイトの結末はここで――終わらなかった。
「なのはぁぁぁぁぁ!!!!」
ディバインバスターが放たれる寸前、今だ燃え広がる森の中から緑色の閃光が飛び出した。戦場を埋め尽くす桜と比べてあまりに矮小なその光――ボロボロの姿のユーノが一瞬の不意を突いてなのはへと肉薄する。
「ッ!?」
「うぉぉぉぉ!!」
男らしい叫び声をあげて、あり得ぬ奇襲に目を剥くなのはの体に抱き付く。
そしてユーノは己の体ごとバインドでなのはを拘束した。さらに、直接触れた箇所から際限なくバインドを放ち続けて密度を濃くしていく。
「なんで生きて……!?」
「僕も驚いているよ! だけど君のおかげで僕はこうして生きている!」
全身がシューターの爆発に炙られたせいで傷ついているが、それでもユーノが生きていたのは、あの日のプールでアリサ達を守った小さなシューターと同じ物だった。
大量のシューターの中、たった一つの小さな光は無数の爆発の衝撃を限界まで軽減し、ユーノが起きるまでずっとプロテクションを張り続けた。
それでもディバインバスターの掃射の中で生きていたのは殆ど奇跡と言ってもよかった。さらに、偶然にもなのはの真下だったことも奇跡と呼べた。
重なった奇跡。必然足りえる偶然とも呼べるものを掴み取って、ユーノはこうしてなのはを捕縛出来ていた。
「何を訳の分からないことを……! ッ、離せぇ!」
ユーノが離れた場所にいたならばディバインバスターの掃射で消し炭に出来たが、密着している以上、過剰な力はなのはすら巻き込みかねない。
故にシューターと体の触手でバインドごとユーノを外そうと暴れるが、ユーノは決して離れない。なのはの体から伸びた触手がバインドを砕く度に新たなバインドを生成し、触手そのもので体を貫かれながらも、ユーノは血を吐いても離れなかった。
「ぐぅ……! 離さない! 迷わない! 決めたんだ、ここで君を止めてみせるって決めたんだ! だから!」
「ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃうるさいなぁ……!」
しかし、奇跡はもう起きない。ユーノが生成するバインドの数を、殺到するシューターと触手が凌駕した。そしてバインドが砕けた瞬間、なのははユーノの顔を掴んで強引に引きはがす。
「さっきから何度も私とフェイトちゃんの邪魔をしてさ」
「君を、僕は……!」
「鬱陶しいのよ、お邪魔虫」
そして、殺到した無数の触手がユーノの全身を貫いた。
ユーノの腹を貫き背中から突き出た触手が、全身に浴びた鮮血を払うようにうねうねと蠢く。そのいずれもが、今度こそユーノの決定的な終わりの証拠。
もう先程のような奇跡は介在しない。
致命傷を受けたユーノの体から力が抜ける。その体を、なのははゴミのように投げ捨てた。
「ユーノ……ユーノぉ!」
なけなしの力で飛んだフェイトが落下するユーノを受け止める。
その姿はもう見るに堪えないものだった。全身の火傷と裂傷、貫かれた穴から止まることのない鮮血がフェイトの両手を真紅に染める。
「なんで? なんでこんなことしたの?」
助かったのなら逃げればよかったのだ。
現にフェイトは全てを投げ出して逃げ出そうとした。アルフとユーノの仇を取ることも忘れ、醜態を晒して、情けない悲鳴もあげた。
ユーノもそうすればよかった。降り注ぐ神罰の雨から身を守り、厄災が消えるまで息を潜めていてもよかったのだ。
だって、勝てるわけがない。
そもそもアレを相手に戦いと呼べるものを演じられる訳もない。
「だって、僕、は……決めた、か、ら」
何度も間違えて、何度も失敗した。だからこの誓いだけはもう裏切らないと決めたのだ。
この手で生み出した狂気を止める。たとえここで死んだとしても成し遂げてみせると。
「なのはを、止める、って……」
「ユーノ……!」
フェイトはユーノの覚悟に言葉が出なかった。
そこまでの覚悟なんてなかった。フェイトはただ穏やかだった日々を取り戻せればそれでよくて。
そのための障害程度にしか高町なのはのことを考えてなかった。
だが、この戦いに赴いた者達は違う。
ユーノは覚悟をして戦いに赴いた。
アルフもフェイトを何としても守る覚悟をしていた。
それこそ、なのはも自己愛のために全てを捨てる覚悟を決めてさえいる。
この場で唯一、覚悟という点で一番劣っていたのはフェイトだった。
「でも、も、う……」
「あ……駄目、逝っちゃいやだ!」
力の抜けていくユーノへ必死に呼びかけるが、もうどうしようもない。治癒魔法を使ってもユーノの傷を癒すまで間に合わない。
明確な形で訪れる死の足音。
徐々に薄れていく意識と狭まる視界の中、ユーノは涙を流して自分を見つめるフェイトをぼんやりと眺めた。
「ごめ、ん、ね」
「嫌だよ……! 一人にしないで……こんなところに一人ぼっちなんて……!」
「だい、じょうぶ」
ユーノは最後の力を振り絞って、フェイトへと思いを託す。それが、どれだけの苦難を彼女に強いるのか知りながら。ここで勝手に楽になる自身の愚かさと弱さを嘆きながら。
「君、なら、出来る」
自分の中で零れ落ちる命を感じながら、ユーノが思うのはフェイトへの慙愧の念だった。
ごめんね。
だけど、僕はもうここまでだから。
君に全てを任せていなくなってしまうことを、許してほしい。
「だから、なの、はを……止め、て」
――その言葉を最期に、ユーノは今度こそその短い生涯に幕を降ろした。
やはり、呆気ない。命の終わりに感動は無く、伝えたい言葉の一割すら伝えられず消え去るのみ。
「……私には無理だよ、ユーノ」
開かれたユーノの手を握ったフェイトの瞳からとめどなく涙が溢れた。
なのはへの怒りは無く、胸を満たすのは冷たいだけの悲しみ。このまま全てを投げ出してしまいたくなる虚無感。
今度こそ、疑い様なく死んだ少年が託した願いを叶える力はフェイトには残っていない。
「無理だよ、ユーノ、アルフ」
地面に降り立ったフェイトはそっとユーノの遺体を横たえると、握っていたユーノの手を離した。
力を失った手が地面に落ちる。もう二度と動くことは無い。二度と、彼が言葉を発することは無い。
死は何も残さない。
死者は黙して語らない。
「……ねぇ、早くやろうよフェイトちゃん」
フェイトは朦朧と空を見上げた。
頭上では、発動していた自壊魔法を停止させて、穴だらけのバリアジャケットを着たままのなのはがつまらなそうに眉を顰めている。
折角の時間を台無しにされた。
彼女にとってユーノの死などその程度のことでしかなかった。フェイトが何故かユーノを受け止めたため、これでは戦えないと一旦動きを止めただけ。二人が話していることにも興味を示さず、さっさとそのゴミを捨てろとすら考えていたほどだ。
高町なのはをある意味では救済したとも言える恩人に対してゴミとしか思わない傲慢、非情。
「そんな奴は放っておいて、ね?」
「どうして?」
フェイトはなのはの考えが分からない。
「なんでそんなに簡単に人を殺せるの? 私は殆ど事情を知らない。だけど、ユーノがあなたの知り合いだってことは知っている。なのに……どうして殺せるの?」
「だって、邪魔じゃない?」
たったそれだけのことで、なのははユーノを殺した。
そこに罪悪感は一切なかった。
「私だって殺したくはなかったの。だけどユーノ君は何度も私に意地悪したわ」
なのはの語る言葉に悪意は微塵も感じられなかった。
「いっぱいいっぱい頑張ったのよ? 暴走体と戦えるように努力して、ちゃんとジュエルシードだって封印したわ。それなのに私から魔法を取り上げようとして、あまつさえ今日はフェイトちゃんとの戦いも邪魔したの」
邪魔だから殺し、好きだから一生懸命没頭し、愛しているから必死に自分を見せびらかす。
「私がフェイトちゃんのことを大好きだって言ったのを聞いてたはずなのに。私が魔法を学ぶのを楽しんでることも知ってたはずなのに……」
「だから、殺したの?」
「えぇ、私だって心が痛いの。酷いことをしたわ、悲しいことだって思う。でも……仕方ないよね?」
それを邪悪と知っている。それが外道だと理解している。
それらを悪であることを知りながら、本心から仕方ないと言う。
悪と思いながら、悪いと思っていない。――子どもの如く、その解答は矛盾していた。
「……そう、そうか」
フェイトはようやく、高町なのはのことが少しだけわかったような気がした。
どうしてここまで悍ましく、恐ろしく、今も本能のまま逃げ出したいと思える相手なのに、フェイトも含めた誰もがなのはを化け物と
彼女は子どもなのだ。それもただの子どもではない。生後数年の精神状態から、まともに成長していない幼児。
力をもった幼子。だから恐ろしく感じながら、化け物とは思えない。
フェイトは一部とはいえ高町なのはを理解した。そして、理解したからこそ改めて思う。
――あぁ、コレは……殺さなきゃダメなんだ。
高町なのはは周りの意見には決して見向きもしない。楽しい玩具を手放さず、喚き散らす代わりに破壊を振りまく彼女を導ける者はいないから。
いつの間にか震えが止まっていた。
死への恐怖は、この狂気を世界に残すことへの恐れを上回るほどではなかった。
だからもう、殺す以外になかった。
殺す以外にその純粋な狂気を静める術は存在しないから。
フェイトは思う。自分がここで死んだ後――高町なのはと相対するかもしれない母を思えばこそ、その思考に至った。
―
だがフェイトはやはり高町なのはについて勘違いしている。
何故、彼女を化け物ではなく人間と思えるのか。
フェイトは彼女が子どもだからと考えた。
しかし、違う。
彼女は根底の部分を違えている。
純粋無垢が成長しない理由の意味。
己の肉体にしか成長する意義を見出せない人間の末路。
全てを捨てて行き着く、人間の可能性の完結。
いずれ、■■■■と呼ばれる人の性。
だがその勘違いに気付くための時間は、フェイトに殆ど残されていなかった。
あるいは、人を外れた
故に、この二人はここで終わりだ。
フェイトとなのは。相対する二人の天才は、同等の才を秘めながら、その認識は悉く擦れ違う。
―
そしてフェイトは全てを捨てた。
「……もう、いい」
フェイトは地面に膝をついた。訝し気にこちらを見るなのはを他所に、バルディッシュより取り出した宝石――ジュエルシードを掴む。
もう、彼女を止めようとは思わない。
ユーノの遺志を継いで、戦おうとも思わない。
逃げようとも思わない。
逃げてどうにかなるとも思わない。
だから全てを捨てよう。
「もう、どうなってもいい」
握り締めたジュエルシードが淡く輝く。フェイトに残された魔力をによって火の点いたジュエルシードは際限なく輝きを増していき。
「私がどうなっても、構わない」
暴走直前のジュエルシードを、フェイトは躊躇なく自身の腹部に
「ぐ、ぁ……ぎぃ!?」
激痛に呻き声が漏れ出た。だがフェイトは鬼の形相を浮かべて先程以上の痛みに耐える。
耐えられるなら何を捨ててもいいと思った。
こちらを案ずるアルフを思い出す。―ごめんなさいと磨り潰す―
止めるのだと最期まで足掻いたユーノを思い出す。―無理だよと踏み砕く―
母の優しい笑顔を思い出す。―今は不要と、斬り捨てて―
全てを賭して、願うのは。
「あなたを……! 殺す!」
擦り切れたリンカーコアを補填するように、体内に埋め込まれたジュエルシードが魔力を生み出す。
飽和する力。金色に染まった魔力は、その肉体から漏れ出し周囲一帯を埋め尽くし。
瞬間、世界が震えた。
「あはぁ」
なのはは嗤う。やはり嗤う。
眼下で膨れ上がる魔力量。なのはの思い描いた彼女へと近づいていく。
体内からの放電現象で焼けただれていく肉体を無視して、フェイトはバルディッシュより数倍に膨れ上がった魔力刃を展開した。
「この先は、要らない」
全てを捨ててでも、終わらせる。
増大する力の奔流。届くとは思えない異次元の力の粋。
これこそを高町なのはは望んでいた。
音速すら遅くなる神速の化身。雷神と称するに相応しき天賦の才よ。
「レイジングハート」
『Divine Madness』
停止していた狂気の魔法が再点火する。桜色の触手は、なのはの心を表すようにフェイトの覚醒を歓喜乱舞で祝福していた。
互いに己の死すら厭わぬ狂気。
才覚により編み出した超常の魔法。
才覚により取り込んだ超常の魔力。
この時、この刹那。僅か一分にも満たない決着の時。
「あーそびーましょ」
まるで、友の家に呼びかけるような気楽さで。
高町なのはの言葉を皮切りに、最後の時が始まった。
次回、一分。