魔法狂気 マジキチ☆なのは   作:トロ

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最終話【マジキチ、始まります】

 立ち合いより零秒。まず、高町なのはの予測演算をフェイトは一瞬にして追い抜いた。

 それはつまり、なのはが仮想敵として想定していた三倍速の領域をフェイトが超えたという証明だった。

 加速をせずに初めから最高速、目の前より消えさったフェイトを追う手段は無い。

 想像を超えたフェイトの執念が結実する。この日、遂に狂気を超えた一撃を一つ。フェイトはその事実を誇るでもなく、ただ葬れる事実を粛々と決行する。

 そして背後より振りかぶられる断頭の刃。

 金の死神が必殺を誓って放った首狩りの一振りは――なのはの体より発生した触手の群れによって受け止められた。

 

「ッ!?」

 

 魔力刃を受け止めた触手が刃を這うようにバルディッシュへと延びていく。咄嗟に刃を消滅させて逃れたフェイトを、広域展開された魔法陣が捕捉した。

 

「ひぃ……ひひ、へへひゃぎゃ!」

 

 死んでいたという恐怖を、これを望んでいたという歓喜で染め上げたなのはがフェイトを追撃する。

 業火が空間を焼く。それよりも早く上空へと逃れたフェイトを既に二百を超えた砲門が追い、主の号令を待たずにその砲口から破滅を轟かせた。

 轟々と桜色が世界を彩る。

 しかしか細くも眩い金色の閃光は健在。

 物理法則を改竄したような鋭角な軌道を描いてディバインバスターの雨を掻い潜り、再度フェイトは落雷と化してなのはへと吶喊した。

 次は触手ごとその首を切断する。巨大な魔力刃を圧縮して密度を濃くした斬撃、次は触手では防ぎきれない一撃を、なのはは無意識に展開したプロテクションで迎え撃つ。

 

「なのはぁ!」

 

「フェイトちゃん!」

 

 両者の間で紫電が散った。

 互いを呼び合う声に込められているのは愛も殺意も超越した純粋なる戦意。ここに至って余分な思いはどちらにもなく、自滅よりも早く敵手の命を食らうことしか残っていない。

 直後、想定を超えたフェイトの一撃がなのはのプロテクションを切り裂いた。咄嗟に体を退いたものの、胸より生えた触手もろともバリアジャケットが袈裟に斬られ、真紅の血潮が噴き出す。

 命を賭した切り札でも届かない。

 何をしても勝てないのか。

 この体を超える天才に討たれるのか。

 

「でも、ただじゃ殺されない……!」

 

 しかしなのはの瞳は狂気の炎を絶やさない。むしろ、この窮地にいっそう燃え上がる喜びを覚える。

 だから動く。

 ここで動かなければ、フェイトに対して申し訳ないから。

 非殺傷設定の解除による肉体への痛打。悶え苦しみたくなる痛みを喉元までせり上がった熱血と共に飲み込み、なのははレイジングハートを一振りした。

 

「次は私の番よ!」

 

 瞬間、僅かな拮抗の間にフェイトを取り囲んでいた見えないシューターが爆発する。発生する衝撃を触手で防ぎながら地面へと落ちるなのはは、駄目押しとばかりにディバインバスターを掃射する。

 だが桜の花火を突き抜けてフェイトがなのはを追って飛び出した。

 左腕の表面がグズグズに焼けただれ、バリアジャケットも煤だらけではあるが健在。シューターの直撃を、左手一本を犠牲にして耐え凌ぎ、衰えぬ戦意は揺らぎなくなのはを貫く。

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 こちらに向けられた意志の猛りを受けて、なのはの脊髄を快感の波が駆け抜けた。

 互いに死をぶつけ、死を受け入れる。肉体に秘められた全てを引き出して、さらに一歩。幾度となく限界を超え続け、果てなど見えない天才の激突が堪らない。

 もっと私を魅せてくれ。

 名前すら失ったこの凡愚に、高町なのは(天才)を堪能させてくれ。

 止まらない成長が行き着く場所が知りたい。どこまで強くなれるのか証明したい。

 これ以上無い領域へ、この体が見出す答えを教えてほしいから。

 

「あなたが欲しい! あなたが好きなの!」

 

 この身の踏み台となれ、愛しい少女。

 言葉の裏に隠された自己愛。なのははそのことに気付こうともせず、怒涛と襲い掛かるフェイトの斬撃を掌に集中させたプロテクションで受け止めた。

 

「こいつッ、もうこの速度に!?」

 

 ここに来て、まだ実力を隠していたのか。

 見えてすらいなかったはずの刃をピンポイントに受けるという荒業に、流石のフェイトも驚きを隠せない。

 だがそうではない。

 実力の底を既になのはは見せていた。だがそれは、数秒前までの高町なのはの話。

 届かないなら強くなる。

 強くなれるなら止まらない。

 そもそもなのはは己を知らない。

 この身の底は、凡人では計り知れない奈落の器。

 その底知れなさを信奉していたからこそ――成長する。

 

「見えたぁぁ!」

 

 この土壇場で、なのはは遂にリンカーコアのリミッターだけではなく、肉体のリミッターすら外してフェイトの速度へ対応していた。

 だがこれはマルチタスクを覚えたために一時的に使えなくなっただけで、魔法を覚える前からなのはに備わっていた力。

 無味乾燥な人生に、僅かな彩りをくれた大事な思い出。

 フェイトは知らない。高町なのはがかつて、彼女の家族が修めていた武術の秘奥を手にしていたことなど。

 

 永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術。

 御神流と呼ばれるこの古武術における奥義、神速。反射神経、身体能力、肉体の全能力を脳のリミッターを外すことで限界まで引き出す技が存在する。

 

 なのはの身体能力が常人程度であったため完全な習得は出来なかったが、なのはは知覚力強化、つまりは脳のリミッターを外すことだけは修めていたのだ。

 その奥義をここで行う。極限の集中状態に入った視界はモノクロに染まり、己の動きも含めた全てが遅くなる。

 それでもフェイトは速かった。神速の知覚域ですら実体を何とか捉えられる程度の速度域。まさしく神速の名に相応しきフェイトの速度に驚嘆しながら、なのはは再び予測演算を行って、フェイトの動きを捕捉したのだ。

 持てる全てを引き出した正真正銘の限界駆動。残り30程度のカウントが尽きるよりも早く、ただでさえマルチタスクと予測演算で限界近くまで使われていた脳髄が負荷に耐えきれずに意識が失われるのは明白。

 なのはは己の冷静な部分が、厳しすぎる事実を算出する。

 残された時間はおそらく――二十秒。

 この二十秒でフェイトを凌駕出来なかった場合、なのはの敗北は決定する。

 

「押し切る!!」

 

 だが、一撃を受けられた事実に怯まず刃を振るい続けるフェイトは止まらない。どんなに知覚が鋭くなったとしても、フェイトの速度が遅くなったわけではないのだ。

 無数の刃を両手に展開したプロテクションと体捌き、触手で速度を軽減させて逃れつつ、なのはは浮かべている笑みとは裏腹に、必死にフェイトの隙を見つけようと足掻く。

 一方、フェイトも自身が追い詰められている自覚があった。

 次元震すら起こせるジュエルシードの力。際限なく全身を満たす魔力は、余剰魔力として体の外に吐き出し続けたうえで魔法を行使しているのに、有り余る魔力でフェイトを瓦解させていた。

 刃を繰る腕が血を噴き出し続けている。肉体能力を100%近くまで引きずり出したうえで強化された骨格と筋肉は想定される限界値の遥か上。瞬間的に底上げされた力が保てる時間は残り何秒あるか。

 

 ――構うな。

 ――躊躇うな。

 

 歯に罅が入る程に食いしばった口の奥で、獣の唸り声を漏らして追撃を続ける。

 死を前提とした激突。

 空を彩る二つの光は、絶えない輝きで炎上する世界を照らす。

 苛烈な攻防は続いた。

 左右同時に放たれたように見える光速の斬撃を見切り両手で受ける。止められなかった衝撃でなのはの両腕の骨に罅が走り、続く上段からの一撃を受けた両手の骨が完全に砕けた。

 即座に体内に埋め込ませた触手で骨の代替を行う。その一瞬をカバーするようにフェイトを飲み干すシューターの光が瞬いた。

 全身を炙られながらフェイトは距離を離そうとするなのはを追い続ける。

 零秒後の接敵。交差した防壁と斬撃が散らす火花が消え、砲撃魔法を縫う黄金が駆け抜ける。

 幾度と続く魔法の応酬。打倒には至らぬ必殺は、凡人の届かぬ神域の攻防。

 刹那で交わされた砲火と一閃はこの時、遂に拮抗していた。

 一秒後の斬撃豪雨、砲撃惨禍。

 たったの一秒。されど、両者にとってこの一秒は十分にも及ぶ。

 

「なのはぁぁ!」

 

「フェイトちゃん!」

 

 何度となく互いの名を呼んだのだろう。

 これが長年の宿敵であったならば、交わすべき言葉もあったかもしれない。だがこの二人はここまで互いを削る程の力で戦いながら、他人と殆ど変わらない認識しかなかった。

 どちらも互いを全く知らない。

 なのにこうして自分の命を削ってでも相手を殺そうと足掻いている。

 理由はあった。

 フェイトは初め義憤から、そして二人を殺されたことへの殺意を経て、純粋な狂気にいたっている。

 なのはは初め憧憬から、そして空想への錯覚と妄執を経て、純粋な狂気にいたっている。

 理由は無いに等しかった。

 どちらももう最初の思いも、途中で抱いた思いも、全てを忘我していた。それでも最後まで懐いた感情だけを意識を保つ命綱にして戦っていた。

 血潮が狂う。

 意識が狂う。

 臓腑が捻転し、肉体は発狂している。

 だが刃は奔る。光弾も飛ぶ。

 溶けて伸びた一秒で存分にぶつけ合う互いの力は、この戦いに果てなどないことを告げているようだった。

 

 

 ――あぁ。

 

 フェイトは下衆な笑いを浮かべるなのはを改めて見直した。

 許せない。残りの人生を全て注ぎ込んで殺したい。理由は忘れたがそうしなければならないと魂が訴えている。

 それでも、フェイトはふと思った。思ってしまった。

 

 ――きれい。

 

 笑いながら必死の形相でこちらの渾身を捌き続けるなのはが美しいと思ってしまった。たった数十秒、しかし無限にも等しい打ち合いを経て、フェイトはなのはが魔法というものにどれだけ己を注ぎ込んだのかを知る。

 彼女は純粋だ。自分にとことん正直で、自分だけが大好きなのだ。だから平然と周りを犠牲にすることを躊躇わないが、それは真っ直ぐすぎる思いの結果でしかない。

 狂っているのだ。真っ直ぐに捻じれ狂った狂気なのだ。その歪さが恐怖を振りまき、そしてその歪さこそが人の本質。

 常識という枠を捨て去った人間は、知識欲の権化と化す。

 これは剥き出しにされた人間性が行き着く一つの結果だ。どうしてそうなったのかは分からないが、フェイトはなのはに対する子どもという認識を改めた。改めることが出来たことが、嬉しかった。

 

「でも、殺す」

 

 そして、なのはを分かるということは、フェイトもまたその狂気に至ったということ。その事実に気付かぬまま、どうしてそうなれたのか(・・・・・・・・・・・)も知らないまま、フェイトの口も知らず笑みを象っていた。

 

 ――素敵、素敵よフェイトちゃん。

 

 その笑みを見て、ようやくなのははフェイト・テスタロッサを人間と認めた(・・・・・・)

 これまで自分以外の全てをどうでもいいと思っていた少女が、空想と現実のイメージが合致したことにより、他者の存在を初めて認めたのだ。

 もう彼女は自分の体だけに腐心する自己愛の権化ではない。他人を意識し、他人を愛する。この世に二人といないたった一人の自分の理解者。

 

 ――心から、愛してるわ。

 

 初めて会った時から感じていたシンパシー。

 自分に勝利したから?

 違う。倒されたことも、互角に渡り合ったことも後付けの理由にすぎない。

 

 ――あなたも私と同じなのね?

 

 唐突に、何の脈絡もなくなのははその答えに行き着いた。

 同類というのは、前世を宿すという意味での同類。あり得ないと一笑に付すはずのその答えが、なのはにはこれ以上ない答えに思えた

 

「でも、壊す」

 

 瞬きの攻防の果て、死を与えることだけは変わらない。

 互いが互いを滅ぼすことでしか通じ合えない愚者の交わい。戦いを経て繋がった両者は、戦いをもって互いの全てを消し潰す。

 それでも願うことがある。

 体感時間は無限を訴えかけていた。

 互いしか見えない二人は同様の思いを抱いていた。

 

 ――永遠に続けばいい。

 

 この永劫刹那が生涯の価値ならば、無限と続けと願うことに何のいわれがあるだろうか。

 互いに死ねと思っていながら、互いに永遠を望み合う。矛盾した思考は共感という祈りを通すことで矛盾なく成立していた。

 だが終わりは一刻と近づいている。

 最早、どちらも満身創痍。

 この戦いを勝利したところで再起不能は明白。

 残りの人生を圧縮した一分が二人に残された最期の一時。この刹那の先、勝利を収めたところで二度と動けなくなる。

 しかし、それはあくまで凡人の想像でしかないのかもしれない。

 自壊していたフェイトの肉体の損壊速度が遅くなっている。

 触手に飲み込まれかけたなのはの肉体が暴れるだけだった触手を制御し始めている。

 改めて、ここに記そう。

 この二人は天才だ。人の可能性の終わりに届く、珠玉の天才だ。

 だが奇しくもこの二人、真っ当な人間であるかと言われればそうではない。

 フェイトは知らない。彼女がプロジェクト・Fという計画で人工的に作られた人間であることを。

 なのはは知っている。自分が前世の知識という異常すぎる前提で成長した天才であることを。

 性質を同じとしながら、二人は真逆だった。

 天才を知らぬ者と、天才を知る者。

 唯一一致するのは、二人ともまともな人間ではないということ。

 偽りの記憶と、定かではない知識。互いに備わるはずがない記憶を持つという共通点。

 人に非ざる、純粋な人。

 故に二人はこうして人の限界に至ろうとしている。

 向上し続ける自壊、成長するための失墜。

 それでも、可能性に終わりがあるように、この戦いにも終わりがある。

 

 残り、十秒。

 

 永劫と思われた二人に残された僅かな時間。たった一つの深呼吸すら許されない一滴の時を駆ける。走る。激突する。

 そして互いの力に押されて反発した二人の距離が大きく開いた。

 確殺の時。

 確壊の間。

 両者共に感じた確定した自我を貫く時。劣化し続けながら成長を止めない肉体の猛りの全てを最後に注ぐ。

 

「ッ……今ぁ!」

 

「ッ……ここが!」

 

 開いた距離は最後の溜め。残された全ての時間を必殺の一撃へ注ぎ込むべく二人が動きを止めた。

 

「私のぜぜぜぜんぶぶぶで! ぎぃぃぃぁぁぁぁ! かき集めた力をぉぉぉぉぉ! レェェェェイジングハァァァァァァトォォォォォォ!!!!」

 

 フェイトへと突き出したレイジングハートを握る両手から伸びた触手が、杖ごとなのはの両腕を飲み込む。蠢く肉塊の砲口がそこに生まれた。その砲火をより強靭にさせるべく、虚空に浮かんでいた五百に届く魔法陣が突き出した肉塊の先端に集まり、束ねられ、一つの極地へと到達する。

 さらにここまでで大気中に散った魔力が、桜の花びらのように舞い、展開された魔法陣へと吸い込まれていく。

 狂気の渦の中へ注ぎ込まれる星の輝き。破滅を彩る極光の火。

 本来想定されていた空間に散った魔力を一つに束ねる魔法。高速戦闘では射出不可能だと却下された名を。

 

『Sssstarrrrlighttt Breeeeakkkker』

 

 星光の破滅。神罰を超えた全てを貫く光の結晶。

 放たれれば一撃で街を灰燼とする究極の一が、暴食者の手により顕現する。

 そのあらゆる防御を根こそぎ貫くことのみに専心した光の束を向けられたフェイトもまた、己の持てる全てを賭す。

 

「これが私の願いを叶えるなら!」

 

 腹のジュエルシードの輝きが徐々に小さくなっていく。

 力を失った?

 否、その力の全てをフェイト・テスタロッサに吸い取られているのだ。

 奪い尽くされた力がフェイトを通して千を超えた雷の塊となる。たったひと振りの極み。敵が落ちてくる流星ならば、その一切を斬り捨てる刃を練り上げる。

 

「ぐぅぅぅぅぅぁぁぁぁあああああ!!!! 私に! アレを討つ力をぉぉぉ! バルディィィィィィッシュ!!!!」

 

 フェイトの体から迸った雷がバルディッシュごとフェイトの腕を飲み干す。発生する磁場で空気が焼け、空を覆っていた雲が消え去った。

 黄金の刃が天空高く掲げられる。剣身合一の極み。バルディッシュはおろかフェイトの両腕を丸ごと飲み干した刃は、ただそこにあるだけで周囲の全てを焼き斬る威容を放っていた。

 これもまた一つの究極。高町なのはが世界の全てを隷属させるならば、フェイトは人知を超えたロストロギアの全てを隷属させる。

 天を斬り裂く雷の牙。星すら断ち斬る無双の一閃の名を。

 

『Pppplazzzma Zzzzzaaaamberrr』

 

 世界を断つ一振り。雷神の一撃を以て、星を貫く光すらも斬り裂かん。

 そして互いの全霊を込められた魔法が発動を前に空と大地を震撼させた。二人の周囲はおろか、海鳴市全域の魔力をかき集めて練り上げた魔法は、人が行使することを許されない戦略規模の兵器と互角。

 互いの魔法の間の空気がプラズマ化して弾ける。魔法の準備段階で生み出された落雷と魔力爆撃で周辺の被害がさらに加速した。

 もうこの戦いには誰も干渉出来ない。誰もが神々の激突に等しい両者を前にすれば、ただ膝を折って祈ることしか許されない。

 そして死の一歩手前まで魔力の充填を終えた二人の視線が互いを貫いた。

 残された時間は引き金を引く力と刃を振るう力のみ。

 これをもってして、自身の死亡を確信しながら――二人は同時に、崖からその身を投げ出した。

 

「全力、全開ぃ……!」

 

「雷、光……一閃……!」

 

 二つの眩い光芒が夜を昼に変えた。恐れ戦く全てを他所に、二人の天才が同時に行き着いた頂が最後の時を刻む。

 

「スターライトォォォ!!」

 

 全てを貫く光か。

 

「プラズマザンバァァァ!!」

 

 全てを斬り裂く光か。

 

 最強の矛と最強の矛。どちらの意志が上回るか。睨み合う両者はこの先の全てすら注ぎ込んだ一撃を振り上げ(引き絞り)

 

「「ブレイカァァァァァ!!!!」」

 

 交わり合う金と桜。

 互いに消滅を確約された光は混じり、眩い白光が互いの体を飲み込んで――世界が割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎上する森の中、静寂に包まれた夜空を見上げる少年が居た。

 戦いの終わった戦場。どこかへと消えた二つの災禍がどこに消えたのかは分からない。

 その中で、傷だらけの真紅の狼の頭を労わるように撫でて、少年は悲しそうに眉を顰めた。

 しかし、決して悲しみばかりに沈んではいない。

 血だらけの金の髪を揺らし自身も傷だらけながら、少年の瞳に宿るのは小さな灯。だが、この絶望を前にしても決して揺らぐことのない不屈の炎。

 

「……分かってる。今の私じゃ届かないことくらい」

 

 そっと穴だらけの胸に手を当てて少年が悔し気に呟く。

 だが言葉とは裏腹に、少年に諦めの色は一切なかった。

 

「でも頑張るよ。あなたの気持ちを引き継いだから」

 

 胸より離した掌より溢れだすのは、緑色と桜色の重なり合った不思議な魔力光。

 胸元に埋め込まれた青き宝石――ジュエルシードをコアとして動く、奇跡の屍。

 

「だから見ててね……ユーノ君」

 

 奇跡を束ねてここに立ちながら、奇跡で届かぬ狂気を見据え。

 あぁそれでも、その不屈の心は決して折れず。

 

高町なのは()のことは、(高町なのは)が止めてみせる」

 

 新たな魂を胸に宿した少年は、決意を新たに紅蓮の森を踏みしめた。

 

 

 

 

 

 

 そして一つの戦いが終わる。

 

 だが忘れるな。これはまだ、始まりにすぎない。

 災禍は途切れず。

 絶望は繰り返し。

 狂気の歯車を増やし続け。

 

 

 ――次の悲劇を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 




次回より、A's編スタート。


後書きというか間書き。結構長いので興味ない人は読み飛ばし推奨。

これにて一先ず導入部分のマジキおもちゃ箱は終了となります。
本作品ですが、なるべく自分の書きたいところだけを優先して書き、読者の皆様には不親切なのは承知で、色々と書くべき部分をかなり削っています。そのため、読みづらいところが多々あったかもしれませんが、これに関してはただただ謝罪するしかありません。
というのも私、かれこれ二年か三年以上小説書くことを止めていたため、自分でもびっくりしたことに文章の書き方をすっかり忘れていました。この作品もプロットだけ組んで導入部分を書いて、当初はそのままお蔵入りも検討していたりしていた次第だったりします。

とはいえ、ここ数年書いてはお蔵入りの繰り返しだったためいつまでもこれでは駄目だと、本作品を投稿するにいたりました。

正直、読み直しても全体的に描写不足場面不足が多いので、機会があれば書き足したいとは考えています。ですが今はまず全体を書ききることを目標にやっていきたいところ。

などなど、私個人的なアレコレはさておき、以前、最強オリ主系を書いていたので、本作は最強オリ主になるまでを描く作品となっています。その間にフェイトと本物のなのはを織り交ぜて、どんだけ酷いキチガイが出来るかがこの作品のオチとなりますので、次回からのA's編ものんびりお待ちしていただけたら幸いです。

では、また次の章で。

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