魔法狂気 マジキチ☆なのは   作:トロ

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第四話【成長期の女の子】

 

「……というわけでして、貴女には僕と一緒にジュエルシードの回収をお願いしたいのです」

 

 そう言って、ペコリと頭を下げるフェレットことユーノ君――スクライア君と最初は呼んでいたが、私に変化をくれた彼に、敬愛を込めてそう呼ぶことにした――の愛らしい姿にポカポカ陽気な心地になりながら、改めて私は現状を纏めることにした。

 怪物――正しくはジュエルシードの思念体、面倒だから暴走体でいいだろう――との戦いから一夜。あの日、戦いを終えた私は家の玄関で待っていたお兄ちゃんにこっぴどく叱られたものの、何とか言い訳をして無事にユーノ君を家に持ち帰ることに成功した。

 勿論、私としては一秒でも早く魔法のことをユーノ君から聞きたかったのだが、失った血は未だ戻っておらず、出し惜しみせずに使った魔力の枯渇という問題も相まって部屋に戻ってベッドに倒れ込み、気付けば朝になっていたという始末である。

 それで翌日、つまり今日。私は家を出て学校に着いたのも束の間、体調が悪いと先生に告げてさっさと早退して近場の公園でユーノ君から色々と事情を聴いていたのだった。

 

「ジュエルシードかぁ」

 

 ユーノ君が言うには願いを叶えることが出来る宝石らしい。だが使い方を誤れば昨日のように暴走したり、あるいは次元震という地球も危ない現象すら引き起こすことも出来るのだとか。

 確かに、そんなものが私の地元にばら撒かれたと考えると他人事では済ませられないよね。

 

「あの……どうでしょうか?」

 

「ん? 回収でしょ? それは勿論いいよ」

 

 むしろ私としては願ったり叶ったり、ジュエルシードという対象が相手なら躊躇なく魔法を使えるし。だけど何故かユーノ君は「あ、ありがとうございます……」とちょっと嫌そうな感じだったのだが……いつの間にか敬語だし、私また何かしちゃったのかな?

 

「そんなことよりもユーノ君、私に魔法を教えてちょうだい?」

 

 私は身を乗り出してユーノ君にお願いした。

 正直、ユーノ君の事情とか、それによって海鳴市が危ないということはどうでもいい(・・・・・・)

 そんなことよりも今は、魔法という素晴らしいものについて学ぶこと、これに尽きる。

 

「ジュエルシードの回収だったら私目一杯頑張る。そのためにはまず私自身が強くなることが大事でしょう? だとしたら今は一刻も早く魔法を学んで魔法を覚えて魔法を使ってもっともっと知らなきゃダメだよね?」

 

「あ、う……は、はひ」

 

「うんうん! ユーノ君もやっぱりそう思うんだね! 良かった、それじゃ最初は何をしたらいいのかな? 私、なんでもするよ。なんだってしてみせるから」

 

『そういうことでしたら私にお任せください』

 

 胸元のレイジングハートがちかちかと輝いて主張する。そう言えばすっかり忘れてたけど、確かAIか何かが搭載されているんだっけ?

 

「って、レイジングハートが?」

 

『はい。僭越ながら、私であれば先日のマスターの戦闘データを元に、より最適な訓練プランを構築することが可能です』

 

 どことなく自信ありげだけど大丈夫なのかな? まあでもフェレットに学ぶか機械に学ぶかってなると……。

 

「それがいいですよ! 僕もレイジングハートが教導をしてくれるなら安心ですし、何よりも各地に落ちたジュエルシードの探索に時間を割くことも出来るから、ここは僕なんかよりもレイジングハートに学ぶべきです!」

 

「そうかな?」

 

「そうですよ!」

 

 何故か凄い勢いでユーノ君がレイジングハートを押してくるけど……うーん、そこまで言うなら。

 

「レイジングハート、お願い出来る?」

 

『お任せください』

 

 機械的な声色に込められた自信のほどが伝わってくる。

 よし、そういうことなら早速、魔法の訓練に入るとしよう!

 

「それで、私は一体何から始めればいいのかな?」

 

 一先ず家に帰ったところで――ユーノ君は途中でジュエルシードを探すと言って別れた――お母さんとお父さんには体調が悪いから寝ると言って部屋に引きこもり、机の上にレイジングハートを置く。

 私自身、色々と想像の羽根を広げて魔法というものがどういうものなのかを今日一日考えてみた。だけど、そもそも魔法を知ったのが昨日が初めてであるため、どうすればより私自身を磨けるか分からなかったけど。

 

『マスターの魔力量そのものは、通常の魔導師と比べても尋常ではない量を保有しています。なのでまずはその魔力をコントロールするところから始めましょう』

 

「コントロールかぁ。具体的には?」

 

『私を握って、眼を閉じて意識を集中させてください』

 

 言われた通りにレイジングハートを両手で掴み、祈るように胸の前に掲げて目を閉じる。

 集中の方法は昨日と同じ。私の中へと沈み込むようにして感覚を研ぎ澄ませていく。

 その途中、体の内側から昨日と同じ魔力が溢れる感覚を感じて心が躍った。こんな些細なことが嬉しくて仕方ない。私は魔法を使えるのだと涙してしまいそう。

 レイジングハートが私の魔力を汲み取った。その流れをしっかりと把握してレイジングハートが何をしようとしているのか全霊を以て記憶する。

 例え一瞬たりとも逃すつもりはない。全てはより素晴らしい私のために、あらゆる全てを糧にするから。

 

『完了です……眼を開けてください、マスター』

 

「……わぁ。凄い」

 

 眼を開けると、私の周囲を桜色に輝く小さな球体が浮遊していた。

 

『ディバインシューターです。付加能力などは無く、自在に操り目標へとぶつけるだけの誘導弾となります。いわゆる基礎的な射撃魔法ですが、魔力の空間への固定、空間把握を行い操作する技量、複数同時展開による魔力消費、及び操作難度の上昇と、これの操作を行えるようになるだけで魔導師としての技量の大幅な上達が見込めます』

 

「千里の道も一歩からってよく言うからね。うん、素晴らしいわレイジングハート」

 

 これなら部屋にこもって練習できるし、学校でもうまくやればできそうだ。

 確かに今となっては学校も家族も友達も全てがどうでもいいが、だからと言ってなるべくなら迷惑だってかけたくないという気持ちはある。

 だって私の精神年齢はさておき肉体的には十にも満たない少女だ。大人の庇護、社会のルール、そういった諸々を無視することは難しい。

 ともあれ、今は早速このディバインシューターを用いた練習に励もうとしよう。

 まずは試しに展開した一球を、脳裏で思い描いた通りに動かしてみる。この念じると動くという感覚は不思議なもので、まるで新しい指先が一つ生えた気分だ。

 

「そうだレイジングハート。私が昨日使ったあの鎖の魔法はなんだったのかな?」

 

『あれはチェーンバインドという本来ならば敵をその場に拘束する魔法です』

 

「ふーん、じゃあ普通は昨日みたいに沢山出してぶつけるんじゃないんだね」

 

『はい。ですが強制治癒での消耗が激しかった以上、敵手の拘束、防御、いずれにも対応できるチェーンバインドはあの時は最適だったと確信します』

 

「本当は私がもっと色々な魔法を使えればよかったんだけどね。そう言えば他にはどんな魔法があるの?」

 

『今練習で使用しているディバインシューターをはじめとした射撃魔法、近接刃を展開する近接魔法、飛行魔法、幻術、召喚、使用できるものからできないものまで多数存在します』

 

 

「そんなに沢山……って魔法なんだから沢山あるのも当たり前だよね。でもそれじゃあ私は今後どうすればいいのかな?」

 

『マスターの魔力量を考えて今後の戦術プランを考案しましたが、まずは射撃と防御の魔法を中心に修め、可能であれば飛行魔法の取得によって中、長距離を主体とした航空魔導師スタイルを目指すのがベストであると具申します』

 

「航空魔導師……素敵な響き、かっこいいなぁ」

 

『気にいっていただき感謝します』

 

 ディバインシューターを頭の上でくるくると回しながらレイジングハートとの雑談に興じる。話しながらだと難しいと思ったけど、これが意外と楽にできたので、私は会話の間にもシューターの数を一つずつ増やしてみた。

 そして一時間も話している間に、シューターの数は五個にまでなっていた。レイジングハートは凄いというけど、先日、千を超えるチェーンバインドを操った感覚があるせいか、この程度しか操れない自分の情けなさに溜息をつく。

 

「おっかしいなぁ。昨日はもっと大丈夫だったのに」

 

『おそらくですが、使用方法の違いによるものかもしれません。先日のマスターが使用したバインドは、その全てがマスターの体より現出して地べたを這うように暴走体に向かいました。あくまで手や足の延長線上であったのであそこまでの量を操れたのかと』

 

「そしてシューターは私の身体から離れているし、空をふわふわ動くから手足とは違う。そのせいで十八個しか使えないと」

 

『はい。とはいえ、シューターとバインドの操作難易度は本来そう違わないはずなのですが……』

 

 何故、バインドよりもシューターの操作のほうが苦手なのか、その理由に私は薄々気付いていたが、そこまでレイジングハートに説明する必要はないだろうと口を噤んだ。

 今の自分は高町なのはであって、高町なのは本人ではない。あくまで前世の誰かが乗り移った中身の違う者であることが、私がバインドを操れた理由なのかもしれなかった。

 常日頃から別の人間の肉体を操っている感覚、ならば、新たに手足が生えたとしてもすんなりとそれを受け入れることが出来る。あくまで仮定ではあるがそんなところだろう。

 まっ、一々考えたところで意味無きことなのは確か。大事なのは、今の私ではこの程度が限界であること。

 その不甲斐なさに苛立ちすらこみ上げる。

 私の身体ならもっとやれるはずだという確信が根底にはあった。そして私という才能を台無しにしているのが、他でもない私であるということも認めざるをえなかった。

 本来ならこの肉体に相応しい魂が宿ったはずなのに、記憶すらない人格と知識だけの凡人がこの肉体を今は支配している。

 悔しさと申し訳なさが交互に押し寄せる。私ならもっと上手く出来る。なのに出来ない、肉体を十全に活かしきれていない。

 だから私はレイジングハートとの会話すら止めてシューターの操作に集中する。

 後方で円を描いて動くシューターを二つ。私の目の前で玉突きを繰り返すシューターが三つ。次いで、前方の三つを前と左右に分けて展開、それぞれ別々の動きを行う。

 

「ふぅ……」

 

 感覚を鋭敏化させろ。もっと周りを意識しろ。この体が感じる空間を私自身が正しく認識しろ。

 

「……さらに、一つ」

 

 ランダムに、だが意識して動かす五つのシューターにさらに一つ追加。合計六つのシューターが舞う、回る、さらに一つ、私では意味がわからない、七つがぶつからず部屋を動きまわり、もう、一つ……駄目だ、激突した、落ち着け、慌てず八つ、いいぞ、ぶつけず高速で動かせ、思考をもっと加速させて、何だこの世界、時すらも遅くさせて、スローで動くシューターを、楽しい、より鋭角に、癖を読ませないように、私では届かない奇跡、九つ、十……。

 

《大変だなのは!》

 

「うわっ!?」

 

 突然、頭の中に響いた声に集中力が切れて、部屋の中を飛び回っていたシューターが一斉にコントロールを失った。

 

『術式破棄』

 

 すわ、部屋のあちこちにシューターが激突かとも思ったけど、その前にレイジングハートが展開したシューターを全て消滅させていた。

 

「ありがとう、レイジングハート」

 

『お役に立ててなによりです』

 

 事務的なレイジングハートの返事を聞きつつ、私は脳内に響いた声、ユーノ君へと意識を向けた。

 

《どうしたのユーノ君? 私、今、魔法の勉強をしてたんだけど?》

 

《ご、ごめんなさい。でもね! 今はそれよりも早くこっちに来てください! ジュエルシードの反応を検知したんだ!》

 

 魔法の練習を邪魔された苛立ちは、ユーノ君の報告で一瞬にして消し飛んだ。

 むしろ感謝だ。昨日の今日で再びの怪物退治、私はまた私の魔法を存分にぶつけることが出来るんだ!

 なんという僥倖!

 なんという至福!

 全てが私を中心に回っているかのようでゾクゾクしちゃう!

 

《わかった、すぐ行くよ》

 

《急いで、今回の相手は前回よりも厄介そうだ》

 

《素敵ね。昨日のあいつは柔らかすぎたもの》

 

 あぁ待ち遠しい。

 願わくば、高町なのはを存分に堪能できる相手でありますように。

 私はレイジングハートを手に掴むと、バリアジャケットを纏って勢いよく窓から外へと飛び出した。

 




次回、動物愛護団体ごめんなさい。
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