魔法狂気 マジキチ☆なのは   作:トロ

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第六話まとめ

アリサ「誰か説明してくれよぉ!」

アリサがけなげな!だったので連日投稿です。


第七話【人として】

 早く。早く。

 一分一秒でも早く、高町なのはは新たなジュエルシードの反応目掛けて急行していた。

 学校側には早退するとだけ告げて、覚えたての飛行魔法を使って空を駆けるその表情は、新たな魔法を存分に操れることへの興奮が現れていた。

 飛行魔法と同時にシューターを複数展開。分割思考(マルチタスク)によって別々の意志の下に周囲を飛び回るシューターは、なのはの内心の興奮を如実に表わしていた。

 

「ワクワクするわ! ドキドキもするの! きっと初恋だってこんなに夢中にはなれないわ! ずっと待っていたの、一秒だって忘れてなかった! 会いたくて会いたくて、きっとこの気持ちが幸せなの!」

 

 空を描く少女の姿は遥か上空。その姿を隠すことなく飛翔するなのはの心は既に暴走を始めたジュエルシードに向けられていた。

 次はどんな怪物が現れるのだろうか。

 前回と同じ動物を元にした物か。

 それとも最初のように不定形の物か。

 もしくはこれまでとはまるで違う怪物なのか。

 ドキドキに小さな胸が膨れて弾けそうになる。ワクワクで脳髄が溶けて身体中の穴から染み出そうになる。

 

「見つけたぁ!」

 

 そして、ジュエルシードの反応が確認されたプールに辿り着いて、なのはは喜びに声を荒げた。

 だが未だに暴走まで至っていないのか、眼下では無邪気に遊ぶ人達の雑音(・・)しか聞こえない。

 

「ちぇ……早く着きすぎちゃった」

 

 子どもらしく唇を尖らせて不満を口にする。

 しかし、後どの程度待てばいいのだろうか。

 待ち遠しい。今すぐにでも砲火の口火を切って、この世の極上を味わい尽くしてみせ――。

 

 ――貴女はまだ戻れるよ。

 

 ――いや、まずはユーノが来るまで待機し、結界が張られるのを確認してからジュエルシード暴走体の封印に取り掛かるべきだ。

 今から戦えば、何も知らない人々が戦いに巻き込まれる。あの日の悲劇を忘れるな。お前が生んだ地獄を二度と再現するな。これ以上、その手を真紅で汚してはいけない。この世界は自分だけではなく、沢山の人達が生活している。ほら、下を見れば笑い合う人々の暖かな光景がある。これを壊してはいけない。間違ってはいけない。犯した罪を繰り返す必要は無い。

 

 ――だから、お願い……!

 

「黙れ」

 

 ――あ……。

 

 ぐちゃりと潰す。桜色の光が一つ消える。

 

 思考停止。

 

『どうかしましたか?』

 

「ううん、なんでもない……」

 

 今のは一体なんだったのか。気持ち悪い思考を分離させて脳内でひと思いにすり潰してみせたが答えは出ない。堪ったゴミを処理したような心地よさと、理由の分からない後味の悪さによる不快感で顔が歪む。

 そんななのはに対して、レイジングハートが真紅の輝きを点滅させて主張してきた。

 

『それよりも、一つ提案があるのですが』

 

「何? つまらないことは聞きたくないよ?」

 

 なのははそわそわと体を揺らし、今にも魔法をぶちまけたいという欲求を我慢しているせいか、語気は荒々しかった。不快感による苛立ちもそこには含まれていた。

 早く、早く私を試したい。

 この数日の練習の成果を存分に発揮して、さらなる高みへと到達したい。

 あぁでも、でもまだ駄目。

 私だって少しは我慢できるもん。

 ――などという可愛らしいことを思ったかどうかは分からないが、『では、こちらを』と告げたレイジングハートからもたらされた提案を聞いた直後、なのはの頬が限界まで吊り上がった。

 

「ひひっ! なんだ、そうなんだレイジングハート! もう、そういうことならもっと早く教えてほしかったよ!」

 

『申し訳ありません。どちら(・・・)を優先すべきか判断に時間がかかりました。ですが、今後は確実にマスターのサポートを優先いたします』

 

「? レイジングハートの言ってることはたまに分からないわ? ……でも、今はそんなことよりも……」

 

 なのはの目が再び暴走直前のジュエルシードへと向けられる。それに対して、レイジングハートを眼下のプールへと向けた。その先端に魔力の輝きが灯る。だがそれは魔法としての構築をなされていない純粋な魔力の塊。

 それをジュエルシードに向けるということ、その意味するところはつまり――。

 

「あははっ! こういうの、鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギスって言うんだよレイジングハート!」

 

『勉強になります。――解放、来ました』

 

 哄笑と共にレイジングハートより涙のような魔力が一筋落下する。それは限界まで到達していたジュエルシード目掛けて落下していった。

 直後、なのはの魔力で最後の一押しをされたジュエルシードが覚醒する。戦いに赴くために蓄えていた膨大な魔力の殆どを注ぐことで目覚めたそれは、本来の規模を遥かに凌駕する暴走を果たして見せた。

 轟と水が膨れ上がる。なのはの狂気で満たされた魔力を受けたジュエルシードは、これまでとは違う正しき暴走。

 恐ろしきは、これが悪意ではないことにある。

 全ては幼き少女の無垢。穢れなき醜悪によって、晴天の空の下、狂気の意志が鎌首をあげる。

 空を突く膨大な水の竜巻。

 あらゆる全てを巻き込み貪る、高町なのはの願いを叶えた(・・・・・・)怪物が、ここに生まれた。

 

「ぎゃはっ! 見てよレイジングハート! ジェットコースターみたい!」

 

『楽しんでいますね』

 

「えぇ、えぇ! だってこんなにも面白いもの! 素晴らしいわ! 私の想像なんて簡単に超えちゃった! 分からないよぅ! 分からないことだらけだよぅ!」

 

 それでも、逆巻く竜巻は高町なのはという狂気の一部に他ならない。

 無辜の人を守る。

 平和な日常を守る。

 そんな建前など一瞬にして消し飛ばして、早く戦いたいからという理由だけで、レイジングハートの提案を聞き、ユーノを待たずにジュエルシードを暴走――起動させたのだ。

 結果、笑う少女の直下にて、平和な日常が地獄と化す。

 荒れ狂う水に飲まれて悶死する人が居た。

 弾きだされた勢いで地面に激突して内臓をぶちまけた人が居た。

 恐慌する人に倒されて涙する人が居た。

 現実を認識できずに発狂する人が居た。

 笑顔と安寧は何処にも無かった。

 恐怖と混沌だけがそこにはあった。

 至福で彩る災禍に泣いた(おねがい、やめて)

 そして最悪なことに、罪悪感など彼女には無かった。

 

 喜びだけが、彼女にはあった。

 

「始めましょう、レイジングハート」

 

『いつでもどうぞ』

 

 なのははその渦に巻き込まれた人々を一切考慮せずに、レイジングハートの先端を差し向ける。猛りを孕んだ魔力が異常な肥大を示した。ユーノの予測通り以前の倍にまで威力を増したディバインバスターを放つことへの躊躇いは存在しない。

 少女の瞳に映っているのは、高町なのは(天才)の礎となる暴走体()のことだけだ。

のことだけだ。

 それ以外の有象無象を彼女の世界は許容しない。

 叫べばいい。

 嘆けばいい。

 その悉くを己が糧とし、この身はさらなる高みを頂く。

 

「まずはお試し」

 

 収束は僅かに数秒、先端に展開される魔法陣が束ねた魔力を破壊に変えて、ここに極限の災禍を解き放つ。

 

「耐えてほしいな」

 

『Divine Buster』

 

 なのは本人としては多少の加減を行ったディバインバスターが遥か空より神罰の如く竜巻へと振り下ろされた。

 しかし、空と地面を繋げる桜色の柱は、プール一帯を丸ごと飲み込む程に強大。その余波だけで周辺一帯に衝撃波が奔る。

 体の底から響く重低音が心地よい。胎の奥が熱くなる感覚に頬を染め上げて、数秒の掃射の後に広がった煙幕の向こう側、未だに規模を衰えさせない竜巻を見てなのはは「あはっ」と小さく笑った。

 

「いいわ。とっても素敵よ君。そうでなきゃつまらないもの」

 

『対象、魔力減衰ならびに肉体損傷は殆ど見られず……戦術プランの更新を行いますか?』

 

「要らないわ。戦うのは試したいことを試してからよ」

 

『了解、気を付けてくださいマスター』

 

「ありがとう、レイジングハート」

 

 こちらの意を汲み取ってくれる素敵な相棒にキスを一つ落として、なのははこちらを脅威と認めた暴走体へと降下していく。

 近づくにつれて、対峙する暴走体が発露する魔力の猛りに声を抑えきれずに笑ってしまう。この数日、なのはは何度とだって心の底から喜びを露わにしていた。それでも毎日更新される喜びの最高値は、新たな敵を前に再び更新を果たす。

 

「げひっ!」

 

 抑えられない。衝動は幼い体を引き裂くように、流れた血潮の雨に濡れ、至高の一時に酔いしれる。

 

「げひゃ! あひっ! ひひひっ! ひひゃひゃひゃ!」

 

 悪ではない。善でもない。

 どこまでも己のみ。あらゆる全てが己が糧。ご馳走を前に打ち震える歓喜に酔って、なのはは暴走体と対峙する。

 

「それじゃあ、楽しもうか」

 

 対峙の最中、自分を呼ぶ声が聞こえてきたが、相手がクラスメートだと分かった時点でなのはの脳内から相手への興味は一切無くなった。

 いや、この最高の体験に横やりを入れられたようで少し不愉快ですらあった。

 何故あそこにクラスメートが居るのか。マルチタスクのおかげで暴走体を警戒しながら確認できたはいいものの、うっかり意識を奪われたら暴走体に先手を打たれる隙を見せてしまったかもしれない。

 

「ん?」

 

 なのははふとクラスメートを見ただけで不快感を覚えたことに首を傾げた。

 何を苛立つことがあるのか。あれらはそもそも見る必要すらない存在でしかないというのに。

 何かがおかしい。自分の中の何かがずれている。

 

「あはっ」

 

 知らず、なのはは笑った。

 魔法という未知の技術はおろか、こうして発露した肉体との乖離による異常すら楽しく思える。

 知ることが未知で、己すらも未知。知り得たこと以上に知らないことは積み重なり、もっともっとと体が欲する。

 

「でも今はこの戦いだよねぇ!」

 

 チャージは一瞬、なのはは抜き打ちでディバインバスターを暴走体目掛けて撃ち放った。

 先程よりも威力で劣る一撃は竜巻に弾かれて周囲に拡散する。桜の光が乱反射して散る様は幻想的ではあったが、その輝きによって破砕された瓦礫が周囲に飛散し、生き残った少ない人達が悲鳴をあげる。

 当然、なのははこちらの一撃が弾かれた事実に笑みを深めるばかり。一方、暴走体も受け身に回るばかりではない。反撃とばかりに内部にため込んだ水の塊はおろか、瓦礫や溺死体といった物に至るまでなのは目掛けて飛ばしてきた。

 

「ふふっ、まるでシューティングゲームね」

 

 飛来する質量弾の数々の合間を掻い潜る。先日の暴走体との戦いで掴んだ魔力の流れをなぞるように、今日覚えたばかりの飛行魔法で飛翔する。ただのゲームでは味わえない三次元戦闘の粋。時に避け、シューターで逸らし、プロテクションで防ぎながら、なのはも返礼とばかりにシューターを四方から暴走体へと差し向けた。

 

「行きなさい!」

 

 加減したとはいえディバインバスターですら一撃では致命傷には届かず、生半可な魔法では弾かれるのが関の山。しかし、あらんかぎりの魔力を込めたシューターは竜巻の内側に沈みこむと、その内側に居た暴走体の本体にすらダメージを通してみせた。

 

『敵、暴走体の魔力減衰を確認』

 

「竜巻に魔力を使っている分、本体は案外弱いのかな?」

 

『警告、断定するには情報が足りません』

 

「そのとおりねレイジングハート。えぇ、油断せずにいこう!」

 

 なのはと暴走体の射撃戦は過熱する。

 前面に高密度の弾幕を展開する暴走体と、少数ながら威力のある一撃を当てていくなのはのスタイルは対照的だ。

 一撃が直撃すれば倒れるなのはと並大抵のダメージは無視できる暴走体とでは戦闘スタイルが違うのも当然。それでも、攻撃にのみ集中できる暴走体と回避にも意識を割かなければならないなのはとでは積み重なる疲労の度合いが違う。

 今は冷静に暴走体の攻撃を受け流し続けているが、なのはは笑い声をあげて戦いながらも、思考の片隅で冷静にこのままでは押し切られると判断していた。

 勿論、逆転の手は幾つか思いついている。相手は鈍く、大きく、面制圧力が高いけれど、所詮はそれだけだ。

 狙いは一点。耐久力を上回る特大の火力を叩き込むことのみ。

 

「私が消し飛ぶか、魔力が溜まるのが先か。ときめくわ、ゾクゾクしちゃう」

 

 思考を寸断し、それぞれに独立したシューターの操作権限を与える。

 三つ、四つ、五つ、六つ―何故最初から二つあった?―七つ、八つ、九つ、数えて十八のマルチタスクによる並列思考。

 合わせて十七の光弾がなのはの周囲に展開される。

 いずれもが回避の最中に溜めに溜めた魔力を注いだ特注品。

 これらを防衛に回し、消滅までに全力の魔法を構築してみせる。

 

「それじゃ――」

 

「なのはぁぁぁぁ!!!」

 

 だが、動き出そうとしたなのはは、世界が裏返るような感覚と自身を呼ぶ声によって止められた。

 

「ッ!?」

 

 慌てて緊急回避に移りながら声の主を探す。そして瓦礫の隙間を縫うようにしてこちらに駆け寄るフェレット、ユーノ・スクライアの姿を捉えた。

 

「あ、ユーノ君。遅かったね」

 

「なの、は……! 君は! 君はどうして!」

 

「? あぁ、ごめんなさい。我慢出来なくて先に始めちゃってたわ。うん、結界ありがとう、これで犠牲者がこれ以上でないように戦えるね!」

 

 にこやかにそうのたまう少女の異形に、ユーノは戦慄した。

 どの口で、犠牲が出ないで戦えると言った?

 崩壊した施設。そこら中に散乱した人間の部品と鮮血の花。結界を貫いたあの日以上の光景がそこにはあった。どんなに後悔しても、足りない絶望がそこにはあった。

 だが、高町なのはは言った。

 これ以上、被害は出ないと。

 

 災禍を生んだ張本人が、のたまいやがった。

 

「ふざけるな……! ふざけるな! 君はイカれてる! こんなこと……まともじゃない!」

 

 最早、言葉を繕うことすらしなかった。

 高町なのはは狂っている。ここに来るまでの途中、なのはが意図的にジュエルシードを覚醒させたことを知っているが故に。

 コレはもう放置してはいけない災禍と同類に成り下がった救いようのない悪魔だ。

 だが、それでも。

 それでも、今はこの怒りをぶつけるわけにはいかなかった。

 ユーノの口から溢れだした怒りは、結界の展開で一時的に止まっていたが、再度活動を開始した暴走体の竜巻が奏でる轟音に掻き消えてなのはの耳には届かない。

 そして、なのは自身ももうユーノのことを見てはいなかった。その底なしの漆黒が空けられたような眼球の先に映るのは暴走体のみ。

 加速する狂気と作り出された脅威が再び激突する。

 最早、先日までユーノが介入出来た領域を逸脱した戦いを、彼はただ見守ることしか出来なかった。

 

「どうして……どうして僕は……!」

 

 己の力不足に打ちひしがれる。

 だが出来ることをしなければならない。今度こそなのはが放つディバインバスターを完全に遮断するために、ユーノは術式の構築を始めるが――。

 

「う、うぅ……誰か、助けてよぉ……」

 

「え?」

 

 本来、結界内部に存在するはずの無い声にユーノが振り返った先、そこに居たのは、血塗れのすずかを抱いて震えるだけのアリサだった。

 その周囲を守るように、薄い障壁が展開されている。この絶望の中、それでも誰かを守りたいと抗った細やかな奇跡を見て――「ありえない」とユーノは戦慄いた。

 

「なん、で?」

 

 二人の少女を取り囲む桜色の障壁。それは間違いなく、この惨劇を生み出した張本人である高町なのはの魔力によって構成されていた。

 化け物同士の戦いによって摩耗した障壁は殆どの力を失っている。

 しかし、なけなしの魔力はそれでもアリサとすずかを見捨てることは無く、この脅威に必死の抵抗を示していた。

 儚く、健気で、だが美しい不屈の魔法(・・・・・)。あの狂人の魔力が感じられるという矛盾に、ユーノは言葉を暫く失った。

 

「後ちょっとぉ! もう少しだよ! もう少しだけ我慢すればさぁ!」

 

「ッ! そこの君! そこから動かないで!」

 

 だが上空より響き渡る最後通牒によって我に返ったユーノは、アリサとすずかに駆け寄りながら障壁を補強するようにプロテクションを展開した。

 

「え? フェレットが、喋って?」

 

「ごめん! 説明は後でするから今は頭を低くして踏ん張って! ――特大のやつが来る!」

 

 そう言い放つのと、遥か上空で桜色の太陽が顕現するのは同時だった。

 その威容に愕然とする。ユーノはおろか、魔法という存在すら知らないアリサすら涙することすら忘れて呆けていた。

 

「私達、死んじゃうの?」

 

 アリサがそう口走るのも仕方なかった。

 それは、試しに放ったディバインバスターでは比較にならない。本当の全力全開、珠玉の閃光。

 命を飲み込み、溶け爛れさせる破滅をここに。

 少女の無垢が世界を穿つ。

 

「いや、僕が守る」

 

 だが、ユーノはアリサの絶望を否定した。

 何としてでも耐えてみせると誓いを新たにしてみせた。

 

「僕が、君達を守るから!」

 

 しかし、少年の美しい誓いすら閃光は飲み込む。

 彩られた破滅。顕現した狂気。

 発露させるは異常の力。

 

「受け取って! 私の本気を!」

 

『Divine Buster』

 

「シュート!」

 

 そして二度、天より注ぐ極光が再び暴走体を丸ごと飲み込んだ。

 これ以上ない程崩壊したプール施設が、さらなる破壊に飲み干される。戦場で発生する爆撃ですらこの規模に到達するにはどれほどの火力が必要か。

 一個人が持つには危険すぎる力によってもたらされる壊滅は、一瞬の抵抗すら許さず暴走体を消滅させた。

 だが終わらない。

 ここで終わるなら、高町なのはが狂っているとは言われない。

 

「あはははは!」

 

 膨れ上がる我意。増長する狂気。底の見えない異形の意による破滅の光は、当然の如くすぐ傍にいたユーノ達にすら襲い掛かってきた。

 

「きゃああああああ!!??」

 

「ッ……ぅぁぁぁああああああ!!!」

 

 ディバインバスターが発生させた余波でユーノのプロテクションが軋みをあげる。結界を維持する余裕すらない。持てる全てをプロテクションに注ぎ、ユーノは背中越しで震えるアリサとすずかを守るために叫んだ。

 もう、他の全てを救うことは出来ない。

 そこに居た誰も彼もが死んだのだ。

 微笑ましい家族も。

 笑い合う友人も。

 愛し合う恋人も。

 誰も彼もが光の渦へ。飲まれて溶かされ消えて失せた。

 

「でも……! それでも僕は……!」

 

 この世界に来てから未だ半月も経っていない。たったそれだけの間に多くの人が死に、こうして今も誰かが死んだ。

 だがユーノは踏み止まった。体力と魔力の温存のために変身していたフェレット状態も解除して、一人の少年の姿に戻って体を張り、守るために抗った。

 未だに体調は万全とまでは言えず、精神面は絶不調。展開したプロテクションも常より精細が欠ける。

 だが耐える。

 ここで耐えなければきっともう耐えられない(・・・・・・)から。

 

「これ以上……誰かを……殺されてぇ……! たまるかぁぁぁ!」

 

 ユーノが吼えた。

 しかしその咆哮すら飲まれる。

 気高き抵抗すら消え去っていく。

 どんなにそれでもと叫んでも、全てを飲み干す狂気に届かず。

 

 ――もう、これ以上は……!

 

 精神論では持ち堪えられない限界。口惜しさに涙を流し、背後の二人に守れなかった懺悔を口にしようとして。

 

「……させない!」

 

 桜色の破滅を、横合いより放たれた金色の閃光が貫いた。

 

「誰ッ!?」

 

 突然の乱入に、ここまで一切見せなかった焦りの表情をなのはが初めて見せた。

 そこにはこれまでの余裕は一切存在しない。いや、天才という肉体を余さず堪能する凡人だからこそ、この乱入がもたらす意味を誰よりも理解していたのかもしれない。

 敵だ。

 これまで口にしていた建前としての敵ではない。

 本物が来たのだと、なのはの全身が感じ取る。

 その間に、ユーノが破棄したはずの結界はいつの間にか再展開されていた。そのことに気付くのに遅れて僅か、ユーノもまた遠間に存在する誰かを認識する。

 それは、なのはと同じく幼い少女であった。

 漆黒のマントを羽織った金髪の少女が、なのはと向かい合うようにして浮遊している。その手に握ったデバイスは先端より黄金の切っ先を展開しており、さながら死神を彷彿とさせた。

 

「名乗りたくない」

 

 誰というなのはの問いを、少女は静かに拒否する。その瞳には、この惨状を起こしたなのはへの明確な敵意が灯っていた。

 

「貴女のような人殺しに教える名前なんて、無い」

 

 淡々と怒りを告げた少女がなのはへと刃を向けて、敵意を隠さず続けて叫んだ。

 狂気に対して、幼き正義が鋭く吼えた。

 

「絶対に、教えてたまるもんか……!」

 

 

 




次回、頑張れフェイトちゃん

例のアレ

マルチタスク
いわゆる思考を分割させて別々のことをやろうっていうやつ。オリ主はこれを覚えて、思考が複数になった。つまりはそういうこと。

ディバインバスター
アニメ本編よりも威力がやばい。理由は常時リミッターを無視して魔力収束しているせい。意図して無視しているが、体にだいぶガタがきている模様。そのため隙が生まれている。つまりはそういうこと。
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