オリ主「お前は誰だ」
■■■「私の中の私」
さっきまで命だったものがプールに転がっているので連日投稿続行です。
黒衣の少女、フェイト・テスタロッサがその場に居合わせたのは、ある意味では高町なのはの暴走が一つの要因だった。
ロストロギア・ジュエルシード。端的に言えば次元干渉型のエネルギー結晶体とも呼べるこの物質の回収を、母親であるプレシア・テスタロッサに命じられて彼女はこの管理外世界と呼ばれる世界の一つである地球へと来訪していた。
いつの間にか性格が豹変し、虐待ともいえる扱いをプレシアから受けるようになったフェイト。そんな彼女が、母親からの愛を再び得るために赴いた任務への覚悟は悲壮であり、同時に強固なものだ。
――必ずジュエルシードを集めて、記憶に残る優しい母さんともう一度やり直すんだ。
そのためならば可能な限りのことをしようという覚悟をしていた。あらゆる苦難を踏破すると誓っていた。
それでも、これを許すことは出来ない。元が優しく穏やかな性格だから、フェイトは地球への転移直後、結界すら張らずに魔法での蹂躙を行うなのはの非道に耐えられず、何も考えずにそこへと飛び出していた。
――フェイト! 言われたとおり結界は張り直したよ!
「ありがとうアルフ。無理言ってごめんね」
――それよりも、気を付けておくれよ。
「大丈夫……絶対に、負けないから」
大事な家族であり、命を共有した使い魔でもある狼の使い魔、アルフへ決意と感謝を告げて数瞬、フェイト・テスタロッサは地獄の権化たる高町なのはへ眼光鋭く向き合った。
「貴女、は?」
「言ったはず……答えたくはない!」
初め、この世界で何が起きているのか様子見していたフェイトは、高町なのはがこの日犯した罪の殆どを見ていた。
もっと早く介入するべきだった。意図が分からないからと見に徹したのは間違いだった。
こみ上げる悔恨をグッと堪えて、代わりに魔力をかき集める。
それでも高町なのはの所業を許すわけにはいかない。この人の皮を被った悪魔の一部始終を見ていたからこそフェイトは確信していた。
相互理解は不可能。アレは、人の姿をしているだけで、自分とは別の生物だと。
「撃ち抜け轟雷……!」
故にフェイトは即座に戦闘態勢へと移行した。
振りかぶったデバイスが魔力を変換した紫電を放つ。秘められた奔流は一切の躊躇もなく、未だ混乱の中にあるなのは目掛けて解放の号を待っていた。
初手より小細工も加減も無し。相手が動揺している今に付け入り、一気に決着をつけて見せる。
「サンダースマッシャー!」
「ッ!? プロテクション!」
詠唱と共に放たれた金色の紫電を前に、なのはは咄嗟にプロテクションを展開することしか出来なかった。
魔力を読む余裕も暇もない。問答無用の雷は桜色の障壁と激突し――付加された雷によってなのはの全身に激痛を走らせた。
「ぎぁぁぁあああ!!??」
直撃を耐えたというのに、迸る雷の痛みでなのはが苦悶の声をあげる。
痛みと驚愕。焦燥と混乱。
混沌とした感情と思考が隙を生む。しかし、ディバインバスターと似た性質の砲撃を受けても未だ健在。どうにか飛行魔法を崩さずに意識を保ったなのはだったが、それを見越して既にフェイトは行動に移っていた。
「バルディッシュ!」
フェイトの命と魔力を汲み取って、その手のデバイスが魔力の刃を形成する。直後、痛みに顔を顰めながらもフェイトと向きなおったなのはの視界からフェイトの姿が一瞬にして消え去った。
「速ッ!?」
「はぁぁぁぁぁ!!」
勇ましく気勢を発してなのはの頭上からバルディッシュを振り下ろす。辛うじて魔力の流れと声で反応したなのはがバルディッシュをレイジングハートで受け止めた。
だが鎌形の形状をした魔力刃のため、バルディッシュ本体を受け止めても、魔力刃はそのままなのはの左肩へ深々と突き刺さる。
初めて受ける魔力ダメージによる痛み。バリアジャケットを貫いた刃はため込んだ魔力を根こそぎ奪い、体の内部に感じる異物が痛みを発して脳髄を焼く。
「いぃぃあぁああ!!??」
暴走体から受けた物理的痛みとは別種のものになのはの両目が見開き、奇声と共に口から泡を吹いて苦悶に表情を歪める。
「ぁぁぁあああ! バインドぉぉぉ!! 」
痛みで白熱する思考の中、咄嗟に選択したのは最も手慣れた始まりの魔法。その背中より吐き出せるだけの鎖を顕現させて、一気にフェイトへと襲い掛からせる。
だがそれらを即座に察したフェイトは、鍔迫り合いからなのはの顔を蹴り飛ばして距離を取ると、再び信じられない速度で一気にバインドの波から離脱した。
「痛っ……! 顔を足蹴にするなんて!」
「だからどうした! これまでもこれからも! 貴女に与える痛みの全ては踏みにじられた誰かの分だ!」
「誰か? そんなの知らないよ!」
フェイトの叫びに、なのはは理解の色を示さない。まるで、自分は誰も踏み躙っていないとでも言わんばかりの表情に、フェイトの表情がより一層険しくなった。
そうやってこの悪魔は一体どれほどの人間を己が快楽の糧としたのか。悲鳴と怨嗟すら舐めしゃぶる外道の精神を、フェイトもまた理解しようとは思わなかった。
「貴女はここで私が止める。絶対に止めてやる……!」
「あのね貴女、さっきからさぁ……言ってる意味が分からないのよ!」
「どの口でぇぇぇ!」
展開された金色に輝くシューターが間隙を置かず怒涛となのはへ襲い掛かる。フェイトの速度と同じく目で追うのは至難なその軌道を、なのはは魔力を読み、バインドの膨大な量による物量差で迎撃した。
虚空で魔法が弾けあって金と桜の花が咲く。互いの存在を否定するために撃たれる弾丸豪雨は戦火の如く。
互いに互角。
否。
戦場を走る金色の輝きが、形勢を傾かせている。
「押されてる……!? 私の魔法が知らない誰かに!?」
なのはは自身のバインドがフェイトのシューターに食われ、どうにか辿り着いた鎖もことごとくをバルディッシュに薙ぎ払われていることに歯噛みする。
そしてなのはを中心に円を描いて飛翔するフェイトの速度は徐々に加速している。隙を見せれば、一瞬にしてあの魔力刃に貫かれるのは明白。
「このぉ!」
苦し紛れにシューターを放つが、適当な散弾ではフェイトの影すら捉えられない。それどころか、その隙を縫って突進してきたフェイトの擦れ違いの一撃が、なのはのバリアジャケットを大きく引き裂く始末。
辛うじて追撃を試みても、振り返った先にはもうフェイトは存在しない。
「また消えて……!?」
「やぁ!」
今度は真下から奇襲したフェイトの刃を後ろに倒れ込むように身を引いてどうにか回避する。今度は追撃を考える暇すらない。体勢を整える間に再び魔力刃の輝きは眼前。顔面を狙った刃はなのはの頬を引き裂いて、魔力ダメージが苦痛となって体を揺さぶった。
「だったらこれ以上の数でぇ!」
全身を取り囲むようにバインドを放つ。狙いすらつけてはいない。触れた瞬間に絡みつくことだけを考えた触手は、暴走体ですら一瞬にして絡み取る規模の量。
だがその悉くが空を裂き、バルディッシュに切断され、シューターに砕かれ、悪戯に魔力を消耗するばかり。
培った技術が、才能が生んだ力の数々が全て届かない。
「駄目、駄目なの?」
確実になのはは追い込まれていた。
認める他ない。
高町なのはという天才が、届かない。
必死になって磨いた全てを上回れ、耳元まで敗北の足音が聞こえている。
負けてしまう。
何としても勝ちたいのに、どうしようもなく惨めに負けてしまう。
それはなんと――なんと、甘美なことだろうか。
「げひゃ! いひひひひ! 貴女こそがそうだった!!」
この僅かな戦いで、なのはは認めざるを得なかった。
名前も知らない好敵手、フェイト・テスタロッサもまたこの身に届く天賦の持ち主。
故にこのままでは届かない。凡人の操る天才の肉体では、天才が操る天才の肉体を越えられない。
勝敗を決するのは中身の差。肉体の才覚が同等であるならば、勝敗を決するのは経験と才能。
しかし、だからこそなのはは笑った。
「見つけたわ! 貴女なのね!? 貴女こそ私に必要なものだったのね!?」
足りなかったのはこれだ。天才の扱い方の手本となる存在。たとえ、才覚の方向性が違っても、天才の運用方法には必ず何かがあるはず。
もっと私に魅せろ。
頭の天辺から足の先までしゃぶりつくし、引き裂いた腹の中まで味わい尽くしてやる。
「好きよ! 大好きになってしまったの!」
それは、暴走体にもユーノにも感じなかった情動。口にすればなんとも容易い言葉で済ませられる気持ち。
今思えば、出会った瞬間の動揺は胸のトキメキによるものだったと断言できるから。
「これは愛よ!」
胸が高鳴る。
思いが弾ける。
「愛しているわ!
これぞ恋慕と呼ぶに相応しい。僅かな会合でなのははフェイトを生涯を賭すに足る存在だと認めた。認めてしまった。
それはつまり、フェイト・テスタロッサへの恐ろしき宣誓に他ならなかった。
「ッ……気持ち悪い!」
なのはの狂言をバインドごと一言で断ち切り、フェイトがシューターでなのはを攻めたてながら加速する。
「あはは! もっと遊びましょう! 私に素敵な貴女を見せてちょうだい!」
バインドを維持したままなのはもシューターを展開して迎撃を開始した。フェイトと同じく十の光弾は、腐肉に殺到する害虫の如きバインドを引き連れて再度フェイトへと吶喊する。
だが単純な速度が違う。なのはが操れる限界では、フェイトの神速を追うには遅すぎた。
「だったら!」
レイジングハートの砲塔が唸る。この日、三度目となる砲撃魔法を前に、リンカーコアを中心に鋭い痛みが体を駆け抜けた。
しかし、なのはの笑みは崩れない。むしろこの痛みすら喜びに変えて、悪魔は三度、破滅の光を現出させるべく力を溜める。
捉えられないなら、逃れられない火力を以て打倒する。
フェイトに速度で勝つという考えは端から無い。
なのはに出来るのは、己が才覚の極地で全てを薙ぎ払うこと、ただそれのみ。
「させるかぁ!」
だがそれを黙して待つ程フェイトは優しくない。方向を一転、真正面からなのは目掛けて疾走する。
彼女もまた、なのはの火力に勝ろうという思いは無かった。先の横やりも、暴走体に威力の殆どが注がれたおかげでどうにか貫くことが出来ただけであり、遠距離戦では分が悪いことを認めている。
だからこそ決着は迅速に。フェイトは接近させまいと四方八方から襲い掛かるバインドとシューターの群れを、体に触れるぎりぎりを見切って掻い潜り、その切っ先を振りかぶった。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「いいわ! おいで! 貴女を思いっきり抱き締めさせて!」
今度はレイジングハートで受けるような真似はしない。事前に構築していたプロテクションを解放して、フェイトの斬撃を真っ向から受け止めた。
火花を散らす両者の魔力が大気を弾き、高音を響かせる。
込められた魔力量は互角。押し切ることも押し返すことも出来ず、二人の視線が交差した。
「うふふ! 見れば見るほど綺麗な瞳。その眼にずっと、私を映して?」
「ッ……ふざけるな! 誰が、誰が貴女なんかを……!」
「そう……だったら私の精一杯で、貴女を夢中にさせてあげる!」
プロテクション越しになのはがレイジングハートをフェイトに突きつける。
まるで発射直前の大砲の中身を覗きこむような感覚にフェイトの顔が青ざめた。
暴走体を薙ぎ払った一撃が――来る。
『Divine Buster』
レイジングハートの宝石にその名が灯ると同時、二人の間に広がった魔法陣の中心からなのはの思いが放たれた。
幼いながらも抱いた情欲を秘めた一撃は、なのはの愛。フェイトの全身に余すことなく吐瀉した魔力を見て、天才を汚すという快楽に頬を染めて顔を綻ばせた。
しかし、光が収まった直後、その眼が驚愕に見開く。
本来だったら、猛る想いに塗れて煤けたフェイトの姿が見られるはずだった。
なのに、光の向こう側には、誰もいない。
そして、なのはの全身が一際大きく揺さぶられた。
「え?」
何が起きたのか。唖然と体を見下ろすと、胸の中央から金色の魔力刃が伸びている。
振り返れば、義憤に燃える少女の瞳が鋭くなのはを映していた。
「これで、終わりだ……!」
そして、羽織ったマントの八割が焼けこげながらも無傷のフェイトがバルディッシュの刃をさらに深くねじ込んだ。
瞬間、駄目押しに刃から放出された雷が、なのはの体を内部から焼き尽くした。
「ぎゃああああああああ!!??」
最早、何も考えることが出来ない。非殺傷設定であっても、心臓から直接叩き込まれた魔法と雷の合わせ技による痛みは、いくらなのはが狂っているとはいえ耐えきれるものではなかった。
頭が沸騰する。血潮が蒸発する。
四肢の末端まで痛覚が剥き出しになり、全身の神経をくまなく針で突かれているような錯覚に陥る。
痛みで消えた意識が痛みで復活し、再度消えた意識がやはり浮上する。繰り返される連鎖地獄は、発狂してもおかしくない煉獄。
およそ一分間。完全になのはの意識が断絶するまでその痛みの荒波は続き――フェイトが刃を引き抜くと、なのははゆっくりと地面へと落ちていった。
「ッ……危なかった……!」
――フェイト!? 大丈夫かいフェイト!?
「うん……心配かけてごめんね、アルフ」
最後の一合。放たれたディバインバスターは再度展開された結界を貫いていた。
辛うじて反応してマントを盾に回避したが、僅か一瞬触れただけでバリアジャケットはこのあり様。もしも直撃していた場合、地面に倒れていたのは自分だった。
いや、そもそも暴走体との戦いで疲弊していたことを考慮すれば――。
「……ッ」
実感を噛みしめる余裕すらない紙一重の勝利。消耗で顔を青ざめさせながらも着地したフェイトに、同じくボロボロの少年――人間体に戻ったユーノが歩み寄ってきた。
「あ、ありがとう……おかげで、助かったよ」
「……気にしないで。これは、私の我儘だから」
プレシアの命令ではなく、己の怒りに従って戦ったのだ。それは恥ずべきことだとフェイトは思うが、ユーノは頭を振ってみせた。
「だけどありがとう。君が来たから、あの子達だけは助けられた」
ユーノが振り返った先、治癒を済ませて何とか一命をとりとめて穏やかに眠るすずかと、自分達が助かった安堵で再び泣き出したアリサが居た。
犠牲者は数えきれない。だが、助けた命を誇ってもいいはずだ。
「自己紹介がまだだったね。僕はユーノ・スクライア。君は?」
「フェイト……テスタロッサ」
「フェイト、か。うん、よろしくねフェイト。さて、一先ず今の内になのはを拘束してレイジングハートを回収しないと……そういえば君達は一体……もしかして、ジュエルシードを確保しにきた管理局の魔導士?」
「えっと、私達は……」
どう答えるべきか。正直にジュエルシードを取りに来たということは出来ない。ここに居る以上、彼もまたジュエルシードに何かしらの関わりを持つ人物なのは察していた。
そうして答えに窮していると、フェイトは「そう言えばジュエルシードが」と先程消滅した暴走体を思い出して周囲を探り。
ふと気づく。
倒れていたはずの高町なのはが、何処にも居ない。
「そっかぁ。フェイトちゃんって言うんだね」
声の方向、レイジングハートを地面に突き立てて何とか立っているなのはがそこには居た。その手には、封印処理をされたジュエルシードが握られている。
非殺傷設定だったために見た目には殆ど怪我は見られない。それでも魔力を消耗しつくし、筆舌し難い痛みを受けたなのはは本来起き上がることすら出来ないはずだ。
いや、この化け物を常識で考えるのが間違っていた。フェイトがバルディッシュを構えユーノが魔法陣を両手から展開する。
今度こそ、確実にトドメを刺す。
その覚悟で踏み込もうとした瞬間だった。
「遅いよ」
残された魔力をジュエルシードに注ぎ封印を解除する。
一時的な眠りから覚醒したジュエルシードは、現在の所有者であるなのはの願いを汲み取って、その内部に秘められた膨大な魔力を暴走させた。
「君は……なんてことをしたんだ!? ジュエルシードを意図的に暴走させればどうなるかなんて――」
「だって、ユーノ君は、私から魔法を取り上げるつもりだったんでしょう? そんなの嫌よ。絶対に嫌」
幼稚園児のような、まだ遊び足りない子どもの我儘。
ここで意識を失えば、レイジングハートを取られ、再びあの倦怠の日常に逆戻りとなる。
そんな恐ろしいことをしようとしているのだ。ならばなるべく守ろうとした約束など取るに足りないものでしかない。
「君は……一体どこまで……!」
「分からない? ううん、分かるわけないわ。ユーノ君に私の気持ちなんて」
ずっと、退屈していたのだ。
知らないことを知れるという感動を、人格が形成されてからこれまで味わったことがない異常。
記憶が無いのに、知識だけが蓄えられた現実。
狂わないわけがない。彼女の本質を知れば――ただの凡人が、こんな異常極まりない現実に耐えられるはずがないと分かるのに。
きっと、なのはの孤独を理解できるものはいない。
それこそ彼女自身以外に存在しないのだ。
「だから私は楽しいことを続けるの。えぇ、もう繕うのは止めましょう。私はねユーノ君、私以外の誰がどうなろうがどうでもいいんだ」
ふわりと浮き上がり、こちらを睨みつけるフェイトになのはは精一杯の微笑みを向けた。
天才の力を操る天才の人格。
あるべき器に相応しい中身が注がれた美しき少女がまぶしくて。
「さようならフェイトちゃん。私の名前は高町なのは、絶対に忘れちゃだめだよ?」
――次はもっともっと、楽しみたいもの。
そう言い残して、なのははその場を後にした。
「待て……ッ!?」
咄嗟に取り押さえようとしたフェイトだったが、直後、ジュエルシードの発露する魔力が際限なく膨れ上がり動きを止めた。
青い宝石を中心に、散乱した周囲の瓦礫が集められて巨大な人型を形成している。
最早、再度の封印を行うには、もう一度戦うほかなく、勝利したとはいえ、疲弊した今、逃走した高町なのはに構う余裕は何処にも無かった。
「……とりあえず今は戦おう」
「そうだね……アルフ、結界の再展開をお願い!」
何よりも今は、目の前の敵を叩くのが先決だ。
半壊したマントを脱ぎ捨てて、余剰魔力をバルディッシュへと回す。
いずれまたあの狂人とは激突するだろう。
もしかしたら次は勝てないかもしれない。
だけど、勝つ。
絶対に勝ち続ける。
――そうだ。我儘よりも、母さんのために今は……!
刃を振るい、優しき日々を取り戻す。
儚き夢を手にするため、フェイトは疲弊した体に鞭を打ち、この日最後の戦いへと赴くのであった。
―
「う……ぐ……!」
どうにかこうにかあの場を逃げ出した私は、近場の林に身を隠すと今度こそ限界を迎えてその場に崩れ落ちた。
もう指一本だって動かせる気がしない。
ジュエルシードの励起での消耗。
目覚めた暴走体との戦いでの消耗。
そして、フェイトちゃんとの戦いでの敗北。
自分でもよくぞまぁ負けたものの逃げおおせられたものだと感心してしまう。
「強かったなぁ、フェイトちゃん」
だけど思い出すのは先程の戦い。結局本人からは名前を聞けなかったけど、フェイト・テスタロッサと名乗った愛し子は、暴走体との戦いですら色あせるほどに素晴らしいひと時だった。
私とは違う才能を秘めた別種の天才、だけど、天才の扱い方を未だに理解できていない私にとって、彼女は良き指針になると思った。
『申し訳ありません。連戦を考慮しなかった私のミスでした』
多分、ジュエルシードを覚醒させたことを言っているのだろう。だけど、そのことについてレイジングハートを責める気はなかった。
「いいの、レイジングハート。それにね、きっと私はここで負けて正解だったの」
『それは何故でしょうか?』
「今までがご都合展開過ぎたのよ。魔法を覚えてまだ一週間程度の素人が、ここまで上手く戦えすぎた。戦えちゃったの」
しかも、高町なのはのスペックによるゴリ押しでこれまではどうにかなった。
だけど今日、私の身体と同レベルの力を秘めた強者と出会えた。出会い、負けたおかげで私の伸び切った天狗の鼻はすっかりへし折れたというわけだ。
「上がいるのは当たり前だよね。でもレイジングハート、最初からレベル100で一方的に戦うのはつまらないと思わない?」
私は蹂躙したいのでも、勝利したいのでもない。
あくまで私の願いは、高町なのはという才能を存分に味わい尽くすこと。
そのためだったら何だってしてみせる。地べたに落ちた糞だって食べてみせよう。
だがそれは、最初から完成した力を得たいということではないのだ。
「私は見たいの。私がどこまでいけるのか。全部を育て上げた時、きっと素敵な世界が広がっているに違いないわ」
鍛え、練り上げ、強くなる。
その果てに待つ道の終わり、凡人では届かない領域で見られる景色とは何なのか。
自分以外の全てを糧とし、自分以外の全てを削ぎ落し、自分だけで頂く極地。
未知の終焉。あぁ、それはきっと――。
「なんて様を、晒すのかしら?」
■■と呼ばれる、狂気の骸に違いない。
―
例のアレ
チェーンバインド
なんか相手とか拘束する魔法。オリ主はなのちゃんを操るのと同じラジコン感覚で複数同時に操っている。そう、操っているのである。