今回もよろしくお願いします。
廊下を走るDクラスの面々。出鼻を挫かれてからいい思いをしてこなかっただけに、その足には自然と力が入る。下位クラスに振り回されてきた嫌な感情をぶつける為、そして戦争を終わられるため、相手のいる教室、Fクラス教室に向かって足を進めていく。
本来であれば、もっと早く終わっていたはずの戦争である、とDクラスの大半、いやほとんどの生徒は思っていた。当然である。敵は最下位であるFクラスであり、今日が初日のため回復試験すら受けていない状態である。回復試験を受けていないということは振り分け試験の点数で戦うということのため、10分もあれば決着がつくだろう、と高をくくっていた。
それがFクラスに押し込まれたばかりか既に30分以上の時間が経過している。さっさと圧勝して帰ろうとしていたDクラスは当てが外れたばかりか、いらない恥までかいてしまった。というのも、ほかのクラスは自分らの戦争により自習中となっている。教師が見ていないことをいいことに騒いでいるクラスがほとんどだろうが、それでも扉越しに廊下の状況ははっきりと伝わっているはずだ。つまり、下位クラスに押し込められたことも他クラスにはきっちり伝わっているのだ。
準備をしないで戦争に挑んだことを考えれば自業自得なのだが、Dクラスは格上としてのプライドを傷つけられたことになる。自分たちも下から数えたほうが早いとはいえ、最下位クラスに苦戦したというレッテルを貼られることは我慢ならないのだ。それに加え、時間がかかりすぎていることも、拍車をかけている。
だからこそ、Dクラスは全力で走った。この突撃で瞬時に勝負を決め、Fクラスなど敵ではない、という事を証明するために。さっさと終わらせ、自由時間を作るために。
だからこそ、Dクラスは最後まで気づかなかった。自分たちが負ける可能性が十分にあるということを。勝敗は初めから決定されたものではないということを。
「先生、お願いします!」
「承認します」
先を走っていた男子生徒が教師に声をかけると同時に、フィールドが出現した。展開したのは先ほどDクラスに加わった数学教師である。ゆえに、その範囲は日本史の教師と比べると明らかに狭いものであった。Fクラスの目の前で展開したというのに、Fクラス教室全体を囲えていない。まあ、扉さえフィールド内にあればよいので問題ないといえばそれまでだが。
ともかく、フィールドを展開したことで教室内にいるであろうFクラス生徒らも自分たちの接近に気付いたはずである。だが、出てくる気配はない。
後ろから続々と生徒が到着し、完全に教室前の廊下を占拠した状態になっても、相手は出てこなかった。
(籠った状態での持久戦に持ち込む気か?)
それはまずい。自分たちのクラスは面子的にも、感情的にも早期決着を望んでいる。教室内に同じ科目の教師がいた場合、回復試験を上手く使われゾンビ戦法なんてされたら、イライラによってクラスメートの感情が爆発する可能性がある。
そうならないためには、相手に回復の余裕を与えず押し切ることしかない。
「もう敵は袋の鼠だ!押し切れ!」
「おうよ!サモン!」
代表である自分の掛け声とともに、先頭に立ち人物が扉に手をかけ、一気に開いた。生徒はそのままの勢いでなだれ込もうとしたが、教室内から聞こえてきた声に足を止めた。
「勝負を仕掛ける!サモン!」
その声が、教室から少し離れている自分のところまで届いてきた。Fクラスの生徒が迎撃に召喚獣を出してきたみたいだ。できればもう少し前に出て状況を確かめたいが、これ以上進めば自分もフィールド内に入ってしまうため、前にいる人から口頭で伝えてもらうしかない。先頭の生徒に向かって叫んだ。
「おーい!どうなっている!?」
大声をだしたつもりだった。しかし、返事は返ってこなかった。こちらに顔を向けず、視線を教室の中に固定していた。・・・その横顔をよく見たら、目を見開いているようだった。
聞こえていなかったのかと思いもう一度声を出したら、ギギギギ、と壊れたおもちゃのようにようやくこちらを向いた。その顔は、一言でいうなら『驚愕』だった。
「だ、代表っ!相手の」
そこまで言いかけたところで教室内から物体が飛んできて、小さな放物線をかき、フィールドの壁に当たった。
それは男子生徒の召喚獣だった。頭に表示されている数字は既に0になっており、すぐに消滅した。
「戦死者は補習うううううううう!!」
そして点数がなくなったら地獄行き。生徒はどこからともなく現れた鉄人に担がれ、聞くものすべての心に響く絶叫を残して遠ざかって行った。
・・・彼はいったい何を見たんだ?最後まで言い終えることができずに消えていった彼だが、内容が気になる。次いで指示を出す。
「斉藤、中の様子はどうなっている!?」
「待ってろ、今すぐ見てくる。サモン!」
戦死したものからは情報をもらうことはできないため、先頭付近にいるまとめ役を頼んだ人物に声をかける。数学が得意という事で任命したのだが、どれほどの点数だろうか?
出てきた召喚獣は西洋風の鎧を身に纏って、腰に細剣(レイピア)を提げており中々の格好だった。次いで、点数も表示される。
『教科 数学
Dクラス 斉藤俊憲 185点』
185点。Bクラス、もしかすればAクラスにも匹敵する点数であり、クラスメートからも歓声が起こった。自分も思わず声で驚きを表現してしまった。それほど高い点数なのだ。
これなら行ける。彼を中心にして絶え間なく攻撃すれば、あっという間になだれ込めるはずだ。ようやく終わりが見えてきたが、逸る気持ちを抑えて、聞こえるように叫ぶ。
「斉藤、敵を蹴散らしてくれ!フィールドに入っている者は加勢するように!扉を突破次第、日本史に切り替えて全員で攻める。そうすれば勝ったも同然だ!なんとしてでも突破してくれ!」
「OK!、行くぜ!」
「「「分かった!」」」
フィールド内にいた生徒らが声を挙げ、扉から中に入り込もうとする。そのとき、小さな影が2つ、教室内から廊下に飛び出してきた。先ほどとは違いまだ教室に入っていないため、敵の召喚獣だろう。その姿をよくみようと背伸びをして、
「・・・・・・は?」
間抜けな声が出た。自分でもこんな声が出せるのか、というような変なものだった。周りのクラスメートに聞かれたら嗤われ、2週間くらいはネタにされそうなものだ。が、それはない。
自分以外の生徒も同じような声を出していたからだ。フィールド内にいる斉藤も、だ。
なぜなら・・・
「おお怖い。もうここまで来たのか。まあ、相手になってやるよ」
『Fクラス 坂本雄二(代表) 47点
Fクラス 島田美波 272点』
相手の代表が最前線にいたのだから。
耳元に、アラーム音が入ってきた。どうやら時間のようだ。せわしなく動かしていた手を止めて、うん、と背伸びをする。
アラーム音を発した腕時計を覗き込む。・・・問題用紙との格闘は40分間だったようだ。できればもう少し点数を上げたかったが仕方ない。勝つために最後まで解こうとして、その間に雄二が討たれては本末転倒である。
「先生、早いですが採点をお願いします」
筆記用具を片付けながら、先生に答案を渡す。チラッとラグナを見ると、順調に問題を解いているのが分かった。ラグナは時間いっぱい使って回復試験を受けることになっている。まあ、自分のほうが短いからと言って点数で負けるつもりはないが。
「まあ、ぼちぼち行きますか」
採点結果を待ちながらつぶやくのはFクラス生徒、吉井明久。
事態は終盤戦に差し掛かろうとしていた。
怖い、台風怖い。