僕と翔子はFクラス   作:青い隕石

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間に合った!(間に合ってない)

今回もよろしくお願いします。


23話:事前の準備って大事ですよね

 

 カリカリカリ・・・とシャーペンが紙の上を走る音が部屋の中に響く。本来ならばその音は決して大きいとはいえないもので、他の要因、例えば人の会話や足音があった場合には簡単にかき消されてしまうほど弱弱しい。

 それなのに響いているとなれば、理由はおのずと限られてくる。

 

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 

 目一杯入ろうとすれば生徒100人は詰め込めるだけのキャパシティはあるだろう大部屋。廊下側には『自習室』と書かれてあるプレートが扉の上に設置されている。

 自習室自体は朝のSHR前からでも利用でき、実際に早めに登校してこの部屋で勉学に励む生徒も少なからずいる。しかし本日は新学期2日目、赤い門の大学を目指しているならば話は別だが、文月学園はちょっとだけ特殊な試みをしている以外には取り柄がない私立高校である(学園長は進学校と銘打っているが)。この時期まで頑張る一般生徒はさすがにいなかった。

 

 自習室内にいる人物は4名、内1名は学年主任という肩書を持つ教師、高橋女史である。ピシッと着こなすスーツにはしわ1つ入っておらず、メガネの奥の瞳は一見優しいようで隙がない。事実、彼女の瞳は一心不乱に問題を解く3人の生徒に注がれている。

 止まらないシャーペンの音を生み出している残りの3人は、よく言えば3通りの個性を持っている。

 

 一人は大和撫子という言葉が相応しい長い黒髪の女子生徒である。昨年の前半から首席争いの常連となるほどの超高成績を出し続け、生活態度に関しても全く問題ない。それどころか「彼女を見本にしなさい」と言えるほどだろう。

 

 もう一人は桃色の髪を持つ女子生徒である。先の少女とは違い、若干ふんわりとした印象を受ける。成績は首席争いにこそ加わっていないが、というより上位4人が異次元なだけだが、上位10人には必ずと言っていいほど彼女の名前があるため、いい意味で教師の覚えがいい。

 

 最後の一人は、明るい茶髪の生徒である。去年の前学期から様々な伝説を残してくれた彼は、今では黒髪の女子と同じくらいまで、つまり首席争いをするまで成績を上げている。生活態度は・・・・・・前と比べれば少しはマトモになったといえないこともない。

 

 そんな3人の共通点を見つけるとするなら、一つは極めて成績優秀なこと、もう一つは全員が現在、Fクラスに所属していることだろう。

 

 

「・・・残り5分です」

 

 

 高橋女史の声が響く。その声に反応した明久と瑞希はちらっと顔を上げ、すぐに目線を落とした。翔子はよほど集中しているのか、紙面から目をずらすそぶりも見せなかった。

 

 仮の話だが、もしも3人と共に補充試験を受けることになった生徒がいたとすれば、その生徒は全教師から心からの同情を受けることが出来るだろう。なぜなら、3人の問題を解くスピードが常人の域を超えているからだ。自分とは次元が違うスピードで問題を解いている人物が近くに複数人いたとすれば、自信という言葉が置手紙を残して家出しても仕方がない。

 

 カリカリカリ・・・と音が続く。誰も持っているシャーペンを止める気配はない。3人が解いた解答用紙の束は尋常ではない厚さとなっていた。

 

 

 

 

 

 「へー・・・本当にいいのか?」

 

 にやにやとした笑みを浮かべた代表が、腕を組みながらそんな言葉を口にした。どことなくからかいの混じった口調だが、代表の視線の先・・・声を掛けられた、あー・・・

 

 「・・・・・・中村?」

 

 「中林よ!?」

 

 ・・・中林はそれを受け取る余裕はなかったみてえだ。勢いよく俺らの教室に入ってきた所までは良かったが、そのせいで皆の注目を集めてしまったみたいだ。入ってきたのが男子だったらまだ良かったが、中林は女子である。このことで、女子分が著しく不足しているFクラスの野郎どもの好奇、いや興味深い視線を独占する形となってしまったみたいだ。遠巻きにとはいえ、決して少なくない異性に好奇の目でジロジロと見られてはいい気持ちはしないだろう。

 

 「全く・・・人の注目を集めるんだったら予め慣れとかねえと駄目だぞ?」

 

 「ラグナ、多分お前の考えは外れてるぞ」

 

 諭すような口調で言った言葉はしかし、隣に立つ代表に否定された。マジか。結構自身があったんだがなあ、と思いながら頭を掻く。人の感情を読み取るのは得意ではないが、たまには当たってくれてもいいじゃねえか。それに比べ、代表は言い方からして中林の考えを理解しているみたいだ。そうじゃなかったら人の意見を否定できないはずだしな。

 とか考えながら視線を送っていると、代表は苦笑いの表情を浮かべた。初めて見る表情だった。

 

 「少し訓練すればお前でも初歩的なことは出来るようになるぞ」

 

 「・・・あんた本当はさとり妖怪なんじゃねえのか?いやそうだろ。絶対サードアイ隠しているだろ。ちょっくら服脱いでみてくれ」

 

 ガタッ、という音が違う教室から複数聞こえてきた気がしたが、そんなことお構いなしに代表に詰め寄った。やましいことはないとはいえ、自分の考えを見透かされるのはどうも落ち着かない。

 

 「おいおい、俺にそっち系の趣味はねえぞ。」

 

 「いや代表俺だってねえよ。つーかそういう奴今まで会ったこともねえし・・・」

 

 「日本はともかく海外には結構いるみたいだが、お前はこっちに来る前も会わなかったのか?」

 

 「・・・・・・おとうt、いや何でもない。一切いなかった1人たりともいなかった」

 

 「・・・・・・ここでの生活は楽しいか?」

 

 「ああ」

 

 「それなら良かった。まあ時々は家族に連らk「無視しないでよおおおおおお!!」・・・おお」

 

 代表から同情が込められた視線を受け取っていたが、突如として響いた大噴火によって中断された。

 

 「な・ん・で!あなたがここにいるんですかブラッドエッジさん!?」

 

 噴火した山の名前は中山さんだった。ぐいっと詰め寄ってくる彼女の気迫に押され、少し後ずさりをしてしまった。彼女は現在進行形でヒートアップしているようで、下がった俺の代わりに近くにいた代表に詰め寄った。

 気の強い女だな、嫌いじゃないぜ。それでいて表情、姿勢から真っ直ぐなオーラが出ている。・・・・・・あの兎も中井さんくらい純粋だったらと考えてしまったのは秘密だ。

 

 さて、俺の代わりに詰め寄られた雄二だったが、余裕の笑みを崩さないでいた。前の言葉から彼女だ来ることを予想していたようなので、冷静でいられるという事だろうか。

 

 「どうした、不安になったか?先生もいないし、今なら戦争発言取り消してやってもいいぞ」

 

 雄二の発言に、元々赤かった彼女の顔がさらに赤くなった。ぐぐぐっとさらに近寄り、代表につかみかからんばかりの勢いで真っ向から反発した

 

 「だ、誰がFクラスにビビるものですか!1人や2人高得点者がいるからって図に乗らないでよね!」

 

 「ほう」

 

 「今日の10時から開始よ!教師にはこっちが話しつけとくから教室を明け渡す準備をしておくことね!」

 

 頭にのぼった血の量と声の大きさは比例しているのか、教室中に響く声を出しながら中林さんは去って行った。・・・俺がいる理由、聞いていかなくてもよかったのか?

 

 

 

 

 

 「なあ代表?どうしてEクラスが俺たちに宣戦布告してくると確信してたんだ?」

 

 代表の指示でせわしなく動き回る生徒らを横目に見ながら、俺は当の本人に話を振ってみた。

 あの後、教室にいた生徒は大なり小なり動揺を見せた。昨日代表の計画に賛同し、Dクラスを倒したと思ったら、たった一日後に(設備的には)1ランク下のEクラスから宣戦布告を受けたのだ。

 代表がうまく皆をなだめ、試召戦争の準備に取り掛かったが、後から来た生徒に説明するために時間を取られることとなった。昨日より人数も少ないため、中々作業が進まないでいた。

 ・・・え、俺も手伝えって?断る。めんでえのは嫌いだ。とりあえず代表と話をしていれば作戦会議中なんだなって勘違いしてくれるだろ。

 

 「確信なんてしてないさ。ただ、常に悪い状況を考える癖があるからな。もしかしたら、って思ってはいた」

 

 「へえ、そういう考え方か」

 

 「色んなことに思考を向けれるようになって中々便利だぞ。ラグナ、お前も試してみないか?」

 

 「止めとくぜ。後ろ向きの考えなんて柄じゃねーよ」

 

 「はっはっは、それもそうだな」

 

 笑い声をあげる代表に釣られ、自分も笑みを浮かべる。常に周りの出来事におびえる自分を想像すると、なるほど確かに滑稽だ。

 

 「代表!今回はどれくらい机が必要なんだ?」

 

 「ん?んー・・・・・・10個もあれば十分だ。他は邪魔にならんよう端っこにでも寄せておけ」

 

 時々指示を仰いでくるクラスメートには返答をする。それを聞いた男子は、分かった、と短く返事をしてすぐに作業に戻った。1日だけですげえ信用である。この方についていけば間違いない、という信頼が既にクラスに出始めているみたいだ。

 

 「これだけ期待されているんじゃあ、今回の勝負にも負けるわけにはいかねえな、代表」

 

 「安心しろ。既に手は打ってあるさ」

 

 代表が笑う、と同時に3人の生徒が転がるように教室に入ってきた。男子1人、女子2人で構成されたそのグループは、走ってきたのか、ピンク髪の少女がにきつそうに息を上げていた。・・・ああ、明久、瑞希、翔子の3人だよ。

 

 「せ、セーフ・・・危なかったよ本当に・・・まだSHRの時間じゃないよね?」

 

 「・・・・・・うん、まだ余裕はある」

 

 「ぜえ・・・ぜえ・・・ふ、2人とも早すぎます・・・」

 

 「瑞希が遅いだけ!そんな空気抵抗大きそうな体しているんだからしっかり鍛えておかないとおいてかれるよ?」

 

 「幅ですか!?幅のことなんですか!?確かに翔子ちゃんには負けますがしっかりと体重管理はしt」

 

 「ああいやメロンの方」

 

 「だから今胸は関係ないですよね!?」

 

 ギャーギャーとわめきながらの登場に、一斉にクラス中の視線が集まる。特に、両手に華状態の明久に視線、というか殺気が集まりかけたが、かけただけで行動として表すものはいなかった。さすがにMVPに対して恩を仇で返すことはしたくない、というところか。

 

 「珍しくおせーな明久、あと2人も。何かあったのか?」

 

 「うん、ちょっと雄二に頼まれててね。まあ間に合ってよかったよ」

 

 明久は頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。明久も代表の指示かよ。どんな作戦を描いているんだよ、と思いながら代表を見ると、彼はいつもの顔をしていた。

 

 「なあに、打倒Aクラスに向けての準備さ」

 

 さらっと言う代表を見て、今回もとんでもないことが起こりそうだ、と予感、いや確信を抱いた俺がいた。

 





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