元々好きなキャラということもあって、記念にハートフル短編を書こうとしましたが、得体の知れないナニカが出来上がりました。また一つ、お蔵入りが増えました。
そんな訳で最新話です。
ついにこの時が来てしまった。
俺は頭に手を当てながら、現状の打開策をひねり出そうとしていたが、いい案が全く思い浮かばない。
昨日の朝から考え続けてついぞ出てこなかった名案が、この場面で都合よく出てくるはずがない。そう思っていても、奇跡に縋りたくなるのは人間の性か。
問題から目を背け、後回しにするという選択は大抵の場合いい結果に結びつかない。時間が解決してくれる事例もないとは言えねぇが、放置している間に問題が大きくなる事だってある。
早めに対応していれば後々笑い話になることでも、時間が経てばとんでもない化け物に変貌していることが少なくない。問題の放置・隠蔽も重なって、次の日から周囲に白い目で見られることは確実だろう。最悪の場合、自分が白い目になるかもしれないが。
・・・・・・とまあ、『失敗をしたときはとにかく早く対処する』大切さを語ったわけだが、これを出来る人間はあまりいない。
対処できない、のではない。対処したくない、のだ。
早い行動が最善の結果に繋がる、と頭では理解していても、ミスを認め報告した時点で責められる。それが嫌だから目を背け、臭いものに蓋をするのだ。
その結果、時間を掛けて熟成された『モノ』が誕生すると言うわけである。そう、具体的に言えば今の状況のようなものが。
俺の目の前には1人の女子生徒が立っていた。
頭二つ分近く違う背丈。金髪に輝く長髪を、特徴的な形をしたリボンで結び、ツインテールを形成している。身に纏っているのは学校指定のセーラー服なのだが、校則違反にならない程度の黒い飾りが施されているせいか、外見も相まって人形のような印象を受ける。
何故だかは知らないが、彼女を見るたびに『まきますか まきませんか』というフレーズが頭の中に浮かんでくる。何故だかは知らないが。
女子生徒としてみても小柄に分類される身長と、1種の装飾を連想させる服装のためか、初めて彼女を見た者は、その美しい容姿も相まって、可憐さ・繊細さを感じ取るだろう。
だが、俺は知っている。決して短くない付き合いなのだ、その本質を嫌というほど理解している。
真紅の瞳でこちらを見る彼女。顔には笑顔を浮かべているが、からかいの感情が隠れているのを見逃さなかった。いつもより瞬きの回数が多いのは、こみ上げる笑いを堪えているときの癖だ。
「ふふ・・・こんなところにいたのね、ラグナ」
お嬢様声、と言えばいいのだろうか。高貴とも傲慢ともとれる声がこちらに向かって発せられる。
口に手を当てて微笑する姿は、どこからどうみても名家の娘だ。この容姿に惹かれ、彼女に告白する男子生徒は後を絶たないという。既に彼氏がいると言うことは周知の事実なのだが、それでも1週間に1回は告白を受けるというのだからその人気ぶりが伺える。
出来ることならぜひともその男子とくっついてほしいのだが。
「あや嫌だ、私は他の男に靡くような軽い女ではないわよ」
「知ってるっつーの」
頭を掻きながら俺は微笑む少女・・・レイチェル=アルカードを見やる。
明久や姫路よりも長い付き合いとなる彼女は、どこをどう間違ったのか、今は俺の恋人ということになっている。
・・・・・・まあ、日本に来る前に色々あったんだ。うん。
「そういえば、ラグナ。3月に言ったこと覚えているかしら?」
表情を変えずにいきなり切り込んできた。呼吸に合わせて小さく揺れるリボンは、細長い形状を保ったまま空に伸びている。重力に真正面から喧嘩を売っているその装飾のせいだろうか、俺は彼女のことをとある言葉で呼ぶことが多い。
「・・・何のことだ?『ウサギ』」
「とぼけても無駄よ。何ならこの場で、大声で、一言一句違わず言ってあげようかしら?」
「それは勘弁してくれ・・・」
思わず頭を抱えた俺に、ウサギの奴はクスクスと小さく笑う。それには、どこか小馬鹿にしたような態度が含まれていた。
事の始まりは3月の振り分け試験だ。そこで俺は名前を書き忘れるという痛恨のミスをしてしまったのだ。当然のごとく、氏名の未記入は問答無用で無得点扱いとなる。
自分で言うのもなんだが、俺の学力はAクラス上位程度はあった。TOP4には割り込めなかったものの、常に一桁順位をキープしていたこともあり、名前さえ書き忘れていなければ間違いなくAクラスに配属されていた。
まあ、それはいい。自業自得、馬鹿なミスをした俺が悪いのだ。問題は、試験前にウサギと交わした会話にある。
こいつも成績優秀、もっと言えば俺と互角だ。それこそ10回試験勝負すれば勝敗が丁度半々になるくらいには成績が拮抗している。そんな訳もあって、一つ、約束を交わしたのである。
『振り分け試験で負けたほうは、勝ったほうの言うことを一つ聞くこと』
さて、そして今の状況だ。
ヤバい。いやヤバイ。
昨日の登校時点まで名前未記入に気づいておらず、封筒の中身と西村先生の説明でようやく事の次第を理解したのだ。
前にも言ったとおり、自分の振り分け試験での点数は0点だ。この点数でウサギとの勝敗を決めるのだが、結果など考えずとも分かる。0だ。虚無なのである。どうしろというのか。この状態で『レイチェルを倒せ』みたいな感じで王様に命令されたら俺は手に持ったひのきのぼうで王の頭をカチ割る。
幸い、自分の行く先はAではなくFクラスである。たまたま出会った姫路(驚いたことにコイツもFクラスだった)と一緒におんぼろ教室に向かい、ウサギと顔を合わせずに1日を過ごすことができた。
それが何の意味もない逃避だと言うことは自分でも分かっている。どうせ俺がFクラスだということもすぐにバレるだろう。だがそれでも、今一時の平穏を過ごしたかった。帰り道Aクラスに寄らなかったそれが原因である。
といっても、俺の家はバレているのだからいい笑顔と共に訪問されることを覚悟していたのだが、結局その日のエンカウントはなかった。
あれ、もしかしたらいけるんじゃね?とかすかにが、現実はそう甘くないことを知った。
第二学年となってからのファーストコンタクトは、新学期二日目に起きた。現在進行形で優雅にこちらを見つめるウサギ。外見だけはほんとにいい。中身が百鬼夜行も避けて通るほどの代物となっているが。
元Eクラス教室らしい、所々が欠けている椅子に座りながら朗らかに話しかけてきた。
「それじゃあラグナ、振り分け試験の結果でも聞きましょうか」
クスクスと笑うウサギ。もう勝敗は分かっているだろうに、本当性格が悪い。
「・・・ちなみにお前は総合何点だったんだ?」
「4815点よ」
「いや高ぇな!」
素でツッコミが出た。こいつ今まで4000点台前半だったはずなんだが、いつの間にワンランク上がったんだよ。
あれ、これ俺が万全でも負けてたんじゃね?と変な冷や汗が流れた。
「私なりに頑張ったのよ。あなたに勝って命令権を手に入れるためにね」
ウサギは薄目でこちらを見据えてきた。そりゃそうだ、春休み中もちょくちょく会話の話題に出たのだ。彼女が忘れるはずがない。
今になってあんな約束をしなければ良かったと思っても後の祭りだ。
「あー・・・そのだな、ウサギ。あまりだな、ぶっ飛んだ命令は止めてほしいんだが」
言葉を詰まらせながら、何とか懇願する。自分が強い立場に立ったと分かれば途端にぐいぐい推してくる性格なのだ、何を言われるか分かったもんじゃない。
負けた後に懇願などプライドのかけらもない行動だが、背に腹は変えられない。トンデモ命令されるよりはいい。
結構な覚悟を持っての行動だったのだが、彼女は考え込む仕草をした後、意外な答えを返してきた。
「そうね・・・・・・まあ、今は保留にしておくわ」
「・・・いいのか?」
ウサギのことだ。一晩かけて命令を練ってきたのかと思ったが、今回審判は下されなかった。
疑問に思ったが、それをかき消すように彼女が立ち上がり、軽く腕に寄り添ってきた。
「お、おい・・・・・・」
「静かに。始まるわよ」
小さく、それでいて強い口調を当てられ、思わず口を閉じる。ウサギの視線は俺から外れ、教室の中央のほうに向かっていた。
釣られるように、俺も視線を移す。机や椅子がどけられ、ぽっかりと空いた空間に3人の人物が立っていた。
1人は俺の親友、吉井明久。1人は確か、Aクラス代表と名乗った男子生徒。
そしてもう1人、西村先生。先ほど教室に来た彼の、野太い声が響いた。
「では、これよりFクラス吉井とAクラス天王寺による模擬戦を始める!教科は日本史!はじめっ!!」
「「試獣召喚!!」」
教師の声に追随するように、二人の声が重なる。一拍の時を置き、二人の召喚獣が形成された。
『教科 日本史
Aクラス 天王寺雄介(代表) 814点
VS
Fクラス 吉井明久 863点』
具現化された2匹は、一瞬の間も無く距離をつめ、激突した。
明久サイドの話は次回以降します。