僕と翔子はFクラス   作:青い隕石

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一人のサブカル好きとして、非常に悲しい事件がありました。

失ったものが大きすぎて、未だに嘘であってほしいという気持ちがあります。

今はまだ支援金でしか貢献できていませんが、今後も様々な形で受けた恩を少しでも返していければと思っています。


31話:敗北フラグその1『序盤戦で有利になる』

 

 

 

 何故こうなってしまったのか。自分、吉井明久は訳が分からなかった。

 

 眼の前には活発そうな笑顔で笑う天王寺君と、頭を深く抱えている久保君。諦め顔の木下さんに、ムッツリーニと絡んでいる工藤さん。

 

 後ろを振り返ると、事の成り行きを黙って見守る翔子とあたふたしている瑞希。視界の端で思案顔をしているインテリゴリラ。現状を止めようとする人物は誰もいないみたいだ。

 

 

 事の発端は、天王寺くんの一言だった、と思う。

 

 

 

 

 ~十数分前~

 

 Fクラスの自分、霧島翔子、姫路瑞希の3人と、Aクラスの久保利光、木下優子、工藤愛子、そして天王寺雄介の4人。計7人が教室の中央付近に陣取っていた。

 

 この内、天王寺君を除いた6人は昨年中盤から自分の学力上昇プロジェクトに参加してくれたこともあり、友人と言っていい仲であるため会ってすぐに会話の花が咲いていた。初対面となった天王寺君に関しても、驚くほど早く打ち解けることができた。

 

 「へぇ~・・・じゃあ天王寺君がこの学校に来たのはつい最近なんだね」

 

 「おう!元は関西の学校にいたんやけどな。こんなおもろい高校あるって知ったらもういくしかないやろ!ってことで急遽こっちに引っ越したんや」

 

 「・・・・・・すごい行動力」

 

 あっけらかんと笑う天王寺に、明久と翔子は苦笑する。

 

 天王寺は生まれも育ちもバリバリの関西であり、関東圏に来た回数は片手で足りるほどだという。そんな状態で単身こちらまで来たというのだから呆れるというか何というか。後ろで頭を抱えている久保を見る限り、彼も進級早々天王寺に振り回されていることが見て取れた。

 

 話題の尽きない集団を遠くから距離をおいて見守っているのは、他のFクラス生徒らだ。

 

 試験召喚戦争終了後にいきなりやってきたAクラスメンバー。しかも全員が成績最上位で構成されている。おまけに全員が容姿端麗と来ているため、学年の間では結構な有名人となっている。

 

 女子が3人ということもあり男子生徒が近づこうとしているのだが、聞こえてくる会話の内容に割り込むことができずに二の足を踏んでいる状態だ。

 

 秀吉や康太は接点があるため加わろうと思えば加わることができたのだが、Aクラスメンバーは明久、翔子らと話したいだろうということで輪の中に入らずに見守っていた。最も康太は首からぶら下げている黒光りする獲物を片手にシャッター音を響かせていたが。

 

 女子がいるのに話せない、楽しく会話しているFクラス男子は明久だけという状況に周囲からパルいオーラが醸し出されているが、さすがの彼らもこの状況で暴れてしまうほど自制心が効かないわけではない。

 

 パルパルしい感情を抑えつつも見守ること数分、自然と彼らの脳内には一つの疑問が浮かぶこととなった。

 

 『Aクラスは一体何をしに来たのか?』

 

 当然ではあるが、学校にいる間は授業という苦痛、もとい時間がある。Fクラス、Eクラス以外のクラスは現在進行系で自習のはずであり、休憩時間にしてはいささか来てからが長い。

 

 真面目なAクラスが明久との会話を優先してサボりに興じる・・・なんてことはないだろうし、何らかの用事か?しかし今はただ駄弁っているだけである。

 

 天王寺と積極的に話す明久、翔子、瑞希。頭を抱えながらも見守る久保くんに、手持ち無沙汰になったのか二人で会話を始める優子と愛子。

 

 いよいよ目的がわからなくなった時、勢いよく教室の扉が開いた。

 

 音に反応した生徒がそちらを見て、反射的に身構えた。その動作に反応した生徒も扉の方に視線を向け、同じように足を一歩引いた。

 

 何てことはない、その身を持って体験してきた恐怖に、体が勝手に反応しただけだ。 

 

 「天王寺、すまんな。少し遅くなった」

 

 角刈りの頭をかきながら入ってきたのは、筋骨隆々とした体格を持つ文月学園のガーディアンこと、西村教諭だった。

 

 生活態度に厳しく、成績不良の生徒には容赦ない補修を課す。上位クラスからは慕われ、下位クラスからは恐れられる。当然ながら、テストの点数という点数が超低空飛行を続けているFクラス生徒にとって鉄人の存在は悪魔そのものである。そこでもっと勉強しなければ!という発想が出てこないところが彼ららしいが。

 

 大股で明久らの集団に近づいてくる鉄人。それをみて一歩下がり身構える明久。お前もか。

 

 そして、鉄人に声をかけられた天王寺はあっけらかんとした声を上げ、迎え入れた。

 

 「すみません西村教諭。忙しい中いきなり呼んでしもうて・・・」

 

 敬語の中に混ざる独特の訛りが耳に残る。かしこまった言葉を使っても硬い印象を受けないのは、やはり彼から感じるオーラが要因なのかもしれない。

 

 「気にするな、天王寺。今日はまだ急な案件もないしな。それに、『面白いもの』を見せてくれると聞いている」

 

 「ええ、それはもうめっちゃくちゃワクワクするもんですわ!」

 

 「ほう!言い切るとはますます楽しみになってきたな」

 

 天王寺と鉄人は笑顔で会話をしながら一人の人物・・・明久を見やる。

 

 いきなり二人からの視線を向けられた明久はさらに一歩下がり、一瞬で辺りを見渡した。昔からの親交がある数人にはその行動の意味がわかった。あれは逃走経路を確認する仕草である。

 

 「僕何かまずいことしましたかね、鉄人」

 

 「真っ先にその可能性を思い浮かべる辺りがお前らしいな・・・」

 

 目ざとく逃亡を計画する明久に、鉄人は苦笑いを浮かべるしかなかった。仮にそうだとしても反省、謝罪をせずに逃げ出す行動を取るのが、らしいといえばらしいが。

 

 とはいえ、いきなり捕らえにこないのを見る限り、別件のようである。最初、教室に入ってきたときの発言から天王寺関連であることは確かのようだが、何故天王寺と初対面の自分にも声がかけられたのか?と明久は疑問に思った。

 

 その疑問に答えるように、天王寺は拳をまっすぐ前に向けた。

 

 「ま、回りくどいことは面倒やから言うで・・・

 

ワイはAクラス首席天王寺雄介や!今からFクラス吉井明久に模擬戦を仕掛けるで!」

 

にかっとした笑みを浮かべながらの宣戦布告に、明久は反応が遅れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今の状況である。

 

 Aクラス代表直々の模擬戦と聞いて、Fクラス生徒ら全員が自分たちに視線を向けている。 Aクラスが試召戦争をすること自体が珍しく、運が悪ければ在学中1度も見ることができない首席の戦闘。それが間近で見られるとなれば、全員が注目するのは当たり前だ。 

 

 さて、直々のご指名を受けた自分だが、困惑はしていても天王寺君との戦闘には前向きだ。

 

 いずれは倒さなければならないAクラス代表と打ち合えるのだ。勝てばクラスの士気を十二分に上げることができるし、仮に負けても情報を引き出せるという大きな利点がある。まあ負けるつもりはサラサラ無いけどね!

 

 雄二をちらっと見ると、腕を組みながら笑顔で小さくうなずいてくれた。Fクラス代表としても、今回の模擬戦には乗り気のようだ。まあ、自分以上に天王寺くんの情報を欲しているのは雄二だろうし。

 

 どうしてこうなった、という感情は一旦心の隅にしまい、天王寺くんと対峙する。

 

 幸いというべきか、今の自分には無傷の教科、日本史がある。あのマウンテンゴリラの策略でEクラスとの試験召喚戦争では秘密兵器のまま終わってしまったが、この場面で使用することができることには感謝だ。

 

 そう、今回の日本史は今までで一番の出来と言っていい。一番得意な教科かつ最高の出来という、文字通りこれ以上はないシチュエーションだ。

 

 逆を言えば、これで勝てない場合は・・・いや、今はいい。

 

 「鉄人お願いします」

 

 「西村先生、だ」

 

 小言を言いながら鉄人が日本史のフィールドを展開する。高橋女子と同じく、全教科のフィールド生成権利を持っている数少ない教師の一人だ。もしかすれば、それを見越して天王寺くんも鉄人に声をかけたのかもしれない。

 

 薄い青色をした『場』が完成する。その中に立つのは、自分、鉄人、そして天王寺くんだ。

 

 にかっと笑う天王寺くん。来た目的は判明したが、何故そのような行動に出たのかは未だ分からずじまいだ。だが、それを考えるのは後回しでいい。メリットしかないこの戦闘にまずは集中だ。

 

 周りの僅かな喧騒を掻き切るように、鉄人の合図が響いた。

 

 「では、これよりFクラス吉井とAクラス天王寺による模擬戦を始める!教科は日本史!はじめ!!」

 

 「「試獣召喚!!」」

 

 僕と天王寺君の言葉と共に、召喚獣たちが具現化する。

 

 

 

 『教科 日本史

 

Aクラス 天王寺雄介(代表) 814点

      VS

Fクラス 吉井明久      863点』

 

 

 

 点数は・・・勝ってる!

 

 自分たちの点数を見て周りの声が一気に騒がしくなった・・・その前に二匹の召喚獣は激突した。

 

 自分の召喚獣が持つサーベルと、天王寺君の召喚獣が持つ大太刀が真正面からぶつかり、

 

 

 

 

 

 

 大太刀を一瞬で弾き返した。

 

 

 「何やと!?」

 

 天王寺くんが驚愕の声を上げると同時に、自分の召喚獣は更に踏み込んだ。 

 

 一回の激突で分かるくらいには、明らかに二人の召喚獣の動きが違う。

 

 しかしそれは当然のことだ。

 

 

 

 何故なら僕は、『観察処分者』なのだから。

 

 

 

 





火ノ丸相撲、完結。

川田先生、5年間本当にありがとうございました。
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