一生分の奇跡を使ってしまったかも知れません。なので、来世分の奇跡を全部前借りしてこっちの作品もランキング入りを目指していきたいと思います。夢はでっかく。
PS:『天気の子』、最高でした。
「・・・驚いたな」
目の前の光景を見ながら、僕は静かに眼鏡にてを掛けた。
本日昼過ぎ、何を血迷ったのかFクラスに行こうと言い出した人物が約一名いた。丁度試験召喚戦争終了の報が届き、自習に一区切りがいた時だった。
「よっしゃ、勝ったFクラスの顔でも拝んでくるで!」
といって一人で勝手に出ていこうとした馬鹿がいた。馬鹿というか、代表である。あまりに自然な宣言だったため呆けてしまったが、慌てて肩を掴んで止めた。
勢い付いていたせいか、ガックンと動きを止める代表。何するんや!という目で睨んできたが、そう言いたいのはこっちの方である。戦後対談真っ只中に突撃かまして場を荒らそうとする学年首席がどこにいるのだろうか。いたらクラスの恥である。
木下さんや佐藤さんを呼んで説得にあたったところ、話の中で代表の主張が見えてきた。
『Fクラスの戦力を確認したい』
代表、天王寺君は笑顔を絶やさず、自分たちに考えを披露してきた。
原因の発端は、昨日の話し合いである。自分、木下さん、工藤さんがFクラスへ配属となったであろう親友について話していたときに、彼とレイチェルさんが加わって来て盛り上がった話題。FクラスがAクラスに仕掛けてくるかも知れない、というものだ。
自分が確認した限りでは、吉井君、霧島さん、姫路さん、ブラッドエッジさん、土屋君の5人が要注意人物に挙げられる。前の4人は言わずもがなだが、工藤さんの発言で土屋くんもマーク対象に入った。
工藤さんの話によると、保健体育学年一位は彼だという。何故そんな生徒がFクラスなのかと思ったが、どうやら他の科目が壊滅的とのことだ。武器はたった1教科だけ。しかし、一つだけでも戦況をひっくり返せるものがあるとすれば無視できない。
全く想定していなかった要注意人物が、他にいるかもしれない。
そう思い始めていた時に、代表は動こうとした。最初は反対していた自分も、今後のことを見据えて偵察へ行くことに賛成した。もちろん、見張り役を大いに付けての体制でだが。
1日一緒にいただけで分かったことだが、とにかくこの代表は余計なことに首を突っ込みたがる。ストッパーがいないとどこまで暴走するのか、分かったものではない。
僕、木下さん、アルカードさん、工藤さんの4人体制で天王寺君包囲網を作成する。工藤さんが機能するかどうかは甚だ疑問だが、まあいないよりはマシだろう。
クラスの臨時代表を佐藤さんに頼み、西村教諭に許可をとって現Fクラス教室に向かう。
到着してからは吉井くんたちとの雑談を挟みつつ、それとなく会話の中から探ってみた。結果、何人かの注意人物が浮かび上がってきた。いずれも、全く警戒していなかった(というよりは、失礼だが名前も知らなかった)人物ばかりであり、改めてFクラスの人材の豊富さに内心舌を巻いた。
聞けば、今回のEクラス戦は吉井くんら高得点者4人共戦闘に加わらなかったらしい。正確に言えば霧島さんはサポートに入ったそうだが、それでもほとんど自力のみの力で、極めて不利な状況から勝利したという。
まだ新学期2日目で急に成績が上がったとは思えない。
(・・・指揮の力か?)
横目で、教室の壁に寄りかかっているFクラス代表だという人物を見る。我関せず、といった態度でのんびりと構えている坂本くん、という者。吉井君が話すにはかなりの切れ者で、2戦とも彼なくして勝利は無かったとの事だ。
厄介だ、と感じた。優秀な代表と、超高得点者の面々。一つ読み間違えたら、相手の剣先がそのまま突き刺さってしまう可能性だってある。
(いや、今知れただけでも僥倖だな)
他愛のない会話をしつつ、思考をまとめる。そうやって結構な収穫だったなと少し気を抜いた所で代表が動いた。後になって思った。代表と一緒にいる時に休める時間なんて無いと。
そうして始まった、代表と吉井くんとの模擬戦での一騎打ち。正直、吉井くんを甘く見ていた。
最も得意な教科とは言え、800点台後半という点数。数字が表示された瞬間、クラス中からどよめきが起こったのだが、それも当然だ。半分の400点を超えることすら非常に大変なことなのだ。むしろ更に半分、200点を全教科で取れば、Aクラスを十分に狙えるほどの成績となる。
まだまだ、成長していると感じた。自分たちが霧島さんの頼みで、吉井くんの勉強を見始めた時は、あまりの酷さに唖然としてしまったが、どんどんと知識を吸収して気づけば自分たちもあっという間に抜き去ってしまった。
天才。自然とそんな言葉が出てきた。才能という面ではない。吉井くんは『努力の天才』だった。やると決めたら徹底的に集中して貫き通す。人間、誰しもサボりたくなる時はあるのだが、その兆候がほとんど表れない。
彼の話を聞くと、今までゲームや漫画を手に取ると、異常なまでの集中力を見せていたと言われることが何度か合ったらしい。
その情熱が、勉強に向いた。
もし吉井君が振り分け試験を受けていたら首席になっていた可能性は低くない。代表の点数は聞いているが、正直今の吉井くんと互角ほどだろう。
振り分け試験の件で先程、霧島さんから欠席の謝罪を受けたが、それは別に気にしていないといっておいた。霧島さん本人は、半年間も教師役に呼んでおいたのに自分のせいで吉井君がFクラスになってしまったと思っているのだろう。
寂しい気持ちが無いと言えば嘘にはなるが、全く無駄になったというわけではない。教師役を努めたことで、自分たちも成績が二回りほど上がったのだ。人にわかりやすく教えるためには、まず自分がしっかり理解していないといけない。教えていくに従い、なんとなくで覚えていた箇所がどんどん無くなっていった。
吉井君には越されてしまったが、自分の成績向上もあり、そんなに大きくは離されていない。遠くないうちに追い抜いてみせるさ、と思いながら、模擬戦を観戦する。
状況は、明らかに吉井君有利だ。開始から5分が経ったが、吉井君の点数にはほとんど変化がない。対して代表の点数は既に200点以上削られている。
「だが、吉井くんは勝てないだろうな」
ぼそり、と呟く。点数の高さ、操作技術、勢い・・・・・・それら全てをひっくり返す物がある。
代表の召喚獣が大きく後ろに吹き飛ばされる。吹き飛ばされながら、
確かに笑った。
『観察処分者』の仕事は、教師の手伝いだ。
もちろん、テストの採点とかではなく、嵩張る書類の運搬が主な内容となる。科学が発展したとは言え、さすがに全て電子化するというのは無理がある現代、テストや教科書、資料に関しては全て紙媒体だ。
3階建ての校舎において、様々な学年、クラスへの届け物となると、少人数では時間がかかってしまう。懲罰の意味合いがあるとは言え、観察処分者を長時間拘束するのは学問の趣旨に合わないという意見もある。話し合った教師らは文月学園ならではの案によって解決を図った。
それが、召喚獣操作による荷物運搬である。普段は実体のない召喚獣だが、設定を変更することで物に触れることが可能になるのだ。しかも、成人男性の数倍の力を持たせることが可能で、人間と違って疲れ知らずだ。
操作方法さえ覚えれば、誰でも簡単に力仕事が可能になる。1ヶ月の操作指導を経て、明久の召喚獣は文月学園中を縦横無尽に駆け回る存在となった。半年間、結構な頻度で雑用をすることで、生徒の中では1位と言っていいほどの操作技術を、彼は手に入れることができたのだ。
1年生の時に数回だけ操作実習を行っただけの他の生徒とは、天と地ほどの差がある。
点数と、操作技術。この2つだけを考えた場合、第二学年最強は明久と言って過言ではなかった。
「はぁっ!」
掛け声に乗せて、鋭い一閃を放つ。力のこもったその攻撃は、相手の大太刀を真っ向から受け止め、そのまま押し切った。
『教科 日本史
Aクラス 天王寺雄介(代表) 553点
VS
Fクラス 吉井明久 841点』
戦況はこちら有利。点数の開きが、時間経過とともに徐々に大きくなってくる。
天王寺君もかなり食らいついてきてるが、攻撃は単調なものの繰り返しだ。下手というわけではない。慣れていないが故の、真っ直ぐな動きだ。だからこそ、読みやすい。
武器を巧みに操って、どんどんダメージを蓄積させていく。攻撃の殆どをしっかりと受け止め、カウンターも決めている。もはや点数差は、はっきりと優勢を意識できるほどに開いている。
だが、それなのに心から不安が消えない。
召喚獣を操作する傍ら、天王寺くんの姿を時々確認する。余所見するなと言われそうだが、相手の動きや表情を見るだけでも、次どんなことをしてきそうなのかを予想できる。それを鑑みて視線を送っているのだが・・・
(・・・ずっと笑っている?)
表情が、かなり明るいのだ。最初の衝突時こそ驚いた声を上げたが、それ以降はずっと笑みを絶やしていない。自分の攻撃が外れようと、ダメージを受けようと、一度たりとも悲観的な表情になっていないのだ。
どんな時でも笑顔を絶やさない。無意識のうちに、彼と、我らが代表、ゴリラを重ね合わせていた。すぐに思考を打ち切った。天王寺君とあの畜生を比べるなんて、なんて非常識なことをしてしまったのだろうか。あとで謝らないと。
召喚獣同士の、幾度目か分からない激突。そこで、大きな動きがあった。武器がぶつかりあった瞬間、天王寺くんの召喚獣が持つ大太刀が弾かれ、明後日の方向に飛んでいったのだ。
今日一番の歓声が、周囲から沸き起こる。それを全身に感じながら、袈裟懸けの要領でサーベルを振り切った。
確かな手応えを感じた。
『教科 日本史
Aクラス 天王寺雄介(代表) 237点
VS
Fクラス 吉井明久 824点』
決まった。そう感じた。召喚獣を走らせながら確信を抱いた。600点近くの差は優勢を通り越して勝勢だ。おまけに相手は武器なしの丸腰状態だ。まな板の上の鯉状態、どう考えても負けはない。
それなのに、天王寺君は笑っていた。笑いながら、右手を掲げた。
ハッとした。その腕には、文月学園生徒なら見慣れたものが装備されていた。
腕輪。400点以上の証にして、戦況をひっくり返す切り札。
「ほんならいくでええええ!」
腕にはめられた腕輪が、アメジスト色に光るのが見えた。しかし、こちらの召喚獣は既に武器の射程圏内まで踏み込んでいた。
(間に合え!!)
効果が出る前に斬る!勢いのままサーベルを振り下ろして、
召喚獣に当たった瞬間サーベルが止まった。
「・・・・・・へ?」
変な声が漏れた。生身の召喚獣相手に、力を込めた攻撃が通らなかった。
先程までと変わって、紫色のオーラを放つ、天王寺君の召喚獣。そのオーラが視えない障壁であるかのように、自分の攻撃が効かなかった。
我に返って、追撃をかける。
振るう。振るう。ひたすらにサーベルをふるい続け、その攻撃の全てが当たった。なのに、相手はびくともしない。足に太い根が張ってあるかのように、1mmたりとも動かない。
『教科 日本史
Aクラス 天王寺雄介(代表) 233点
VS
Fクラス 吉井明久 824点』
十数度に及ぶ斬撃が、結果として表示される。全くといっていいほど、点数に変化がない。
埒が明かない。腕輪には腕輪だ。すぐさま腕輪を起動させる。
「いくよ・・・『潰れろ!』」
右手を掲げ、宣言を行う。フィールドに重力が満ちる。それはすぐさま指向性を持ち、相手の召喚獣に降りかかって・・・・・・
『超変身』
瞬きした瞬間、その姿が消えた。一瞬、青色の残滓の錯覚が見えた。
次パートで決着を付ける予定。