pokemon XY   作:natsuki

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プロローグ

 美しい、青々とした空。

 緑に生い茂った森の恵み。

 その両方にあふれた、カロス地方という場所がある。

 その南にあるのは――アサメタウンだ。街の中心には大きなアーチがあり、それが象徴となっている。

 

「引っ越してまだ二週間なのに……もうあの子友達が居るっていうのよ」

 

 女性は電話でそう言うと、目の前を少年が駆けていった。

 慌てて、女性は電話口を抑えると、少年に声をかける。

 

「あっ、イクス。どこへ行くのー!」

 

 イクスと呼ばれた少年は振り返り、答える。

 

「ちょっと友達と待ち合わせー!」

 

 そう言ってイクスは家を飛び出した。

 イクスという少年は、この二週間前にカロス地方・アサメタウンに引っ越してきたばかりだ。そして、今彼は直ぐに出来てしまった友達のもとへと向かっていた。

 家を出ると、同じタイミングで一人の少女もとなりから出てきた。

 

「おはよう、イグレック」

「おはよう、イクス」

 

 そう言って、二人は帽子を取り、お辞儀する。イグレックの足元には、クルマユがいた。なんでも、昔ある女性とポケモン交換してもらったものらしい。

 

「クルマユも『おはよう』って」

 

 そう言うと、クルマユは少しだけ口を綻ばせた。

 

「おはよう、クルマユ」

 

 そういつもの動作を済ませて、彼らは歩き出す。

 

「そういえば、ティエルノはどうして僕たちを呼び寄せたんだろう?」

 

 ティエルノは彼の友達のひとりである。巨漢だが、ダンスが得意であり、いずれポケモンでダンスチームを組みたいと思っているほどのダンス好きだった。

 

「なんでも、ビッグニュースですって。なんでしょうね?」

「……まあ、聞けば解る話か」

 

 そんなことを呟いて、イクスたちはアサメタウンの中心にあるカフェへと向かった。

 

 カフェテリアには、既に三人の少年少女が座っていた。

 巨漢の黒のTシャツを着た少年がティエルノ。

 ピンクのTシャツと肩からカバンを提げている少女がサナ。

 緑のリュックを背負った茶髪の少年がトロバ。

 それぞれ三人が腰掛けていた。

 

「おーい、こっちこっち!」

 

 サナが声をかけると、イクスはそちらに向かい、腰掛けた。イグレックもそれに従った。

 

「あれ? まだ待ち合わせ時間前だよね?」

「そーだけど、待ちきれないじゃない!」

 

 そう言って、テーブルから身を乗り出したのはサナだった。

 

「さ、サナ、落ち着いて……。それで、ビッグニュースってのは?」

「そうですよ、ティエルノ。教えてあげなくちゃ」

「おう、そうだったな」

 

 トロバに促され、ティエルノはあるものを取り出した。

 それは小さなカバンだった。カバンを開けると中にいたのは――、

 

「ぽ、ポケモンだ……!」

 

 モンスターボールが六つあった。

 それも、三種類ずつ別々にわけられていた。

 中には三匹のポケモンが入っていた。

 

「そう。ポケモンだよ。そして、これも」

 

 さらにティエルノは自らが提げているカバンからあるものを取り出した。

 それは長方形のスマートデバイスだった。それが五つ。ちょうどここにいる人間の分だけ用意されていた。

 

「これは……?」

「これはポケモン図鑑っていうんだ。誰だっけ、あの博士の名前……えーと」

「プラターヌ?」

「そうそう、今はミアレシティにある第二研究所で研究しているらしくって、これが昨日送られてきたんだよ」

 

 ティエルノが言うと、イクスは感極まって、言った。

 

「早くポケモンを決めようぜ! どれがいいかなー!」

「イクス、ちょっと待って。そういうのもいいけど、先ずはそれぞれのポケモンについて教えてあげなくちゃ。……さすがに、タイプくらいは解るよね?」

「馬鹿にしちゃいけませんねーティエルノくん」

 

 そう言って、イクスは指を振る。

 

「ほうほう。ならば……フェアリータイプは何に強いの?」

「うぐっ。いきなり、最近発見されたばかりのタイプと来たか……! ええと、ドラゴンタイプに無効ってのは覚えているんだけどなあ……」

「正解は、攻撃するのがフェアリータイプならば、格闘とドラゴンに強く、攻撃を受けるのがフェアリータイプならば格闘、悪、虫タイプに強いです。ドラゴンはその中でも『まったくダメージを受けない』わけだから……一番はドラゴン、ってことになるのかなあ」

 

 トロバは言った。イクスは頭を掻き毟ると、

 

「まだまだ勉強が足りないなー。……まっ、それはともかくどんなポケモンが入っているんだ? 開けてみてみようぜ!」

 

 イクスがそう言うと、六つのモンスターボールを凡て開け放った。

 凄まじい光の中から出てきたのは――六匹のポケモンだった。

 頭と背中を硬い殻で覆われていて、頭の刺が鋭いポケモンがハリマロン。ニコニコ笑って、こちらに向かって手を振っていた。

 小さい狐のようなポケモンがフォッコ。赤い目でじっとこちらを見つめているが、ハリマロンみたいに自分をアピールすることもない。クールな性格なのだろうか。しかし、時折ハリマロンの方を見て犬歯を剥き出しにしている。

 胸と背中から白い泡が出ている水色のポケモンはケロマツ。ボールから出てからずっとぼうっとどこか一点を見つめている。

 ハリマロンのペアは既にハイタッチして仲良くなっているが、フォッコのペアはツンとお互いを意識しているものの、向かい合うことはない。ケロマツに至っては相手を意識しているか(そもそもそこにいると理解しているか)すら怪しかった。

 

「なんというか……普通のポケモンが居ないよね……。どれも極端な性格ばかりというか……」

 

 イグレックのファーストインプレッションが、まさにそうだった。

 イクスはそんなことを気にもせずに、ポケモンを選び始めていた。

 

「どれにしようかなあ……。ハリマロンも捨てがたい、しかしフォッコもいい」

「ケロマツは?」

「なんかどんくさそうだからなあ。少なくとも、俺は選ばねえ」

 

 ……ケロマツはどうやら、イクスのお気に召さなかったらしい。

 

「……よし、選んだっ!」

 

 三人がちょうど選び終えたのは、イクスとイグレックも選び終わったときと同じだった。

 

「あ、みんな一緒だね! それじゃ、一斉に見せ合いっこしない?」

 

 サナの一言で、全員ポケモンを見せ合うことにした。

 

「それじゃ、いっせーの……せっ!」

 

 そして全員がポケモンを見せ合った。

 イクスがハリマロン。

 イグレックがフォッコ。

 サナがフォッコ。

 ティエルノがケロマツ。

 そして、トロバがハリマロンという結果になった。

 

「なんだかんだでみんなそれっぽい……」

 

 イグレックが言うと、みんな一斉に笑い出した。

 

「それじゃ、旅しようか……と行きたいんだけどさ。どうせみんなポケモンを持ったのは初めてのことじゃないか。だからさ……ポケモンバトルをしないか?」

「いいなそれ!」

 

 ティエルノの提案にいち早くオーケーを出したのはイクスだった。

 イクスは足をばたつかせる。今でもすぐバトルをしたいようだった。

 

「やっぱイクスはせっかちだねえ……。どうする? なんなら、イグレックとやることにしようか。僕が審判をやるから。それで次はサナとトロバがやるっていうわけで、一緒にやればいいじゃないか」

 

 ティエルノの言葉を聞いているのか知らないが、イクスは駆け出してすぐそばにある広場へと向かった。

 やれやれ、と呟きながらティエルノを先頭に、ゆっくりと追っかけていった。

 

 ◇◇◇

 

 広場にはもうイクスが待ち構えていた。この広場ではポケモンバトルも出来るように整備されており、白線がひかれている。イクスは道路の反対側に立っており、イグレックが道路側の場所へ立てば、もうバトルが始まる状態へとなっていた。

 それを見て、トロバとサナもバトルの準備を行う。

 完了したのを確認して、ティエルノが言った。

 

「それじゃ――バトル・スタート!!」

「フォッコ、『たいあたり』!」

「ハリマロン、『ひっかく』!!」

 

 ティエルノの言葉と同時に、イクスとイグレックはそれぞれのポケモンに命令を下した。

 ハリマロンとフォッコはそれを聞いて、お互いに中心へと走っていく。

 フォッコがまっすぐ向かうのを見て、イクスは、

 

「飛ぶんだ!」

 

 そう叫ぶと、ハリマロンは空高くジャンプした。

 フォッコはそんな突然の事態に対応できず、一瞬スピードを緩めるのを遅くしてしまう。

 

「いまだ、そこをねらえ!!」

 

 フォッコが背中を向いている、その瞬間を――ハリマロンは忠実に狙って、ひっかく攻撃を与えた。

 

 

「あーん、負けちゃったあ」

 

 あっという間に勝敗が決した。

 また、サナも似たようなことを言っていたので、どうやらあっちはトロバが勝ったらしい。

 

「まあ、初めてのバトルだったからね」

 

 そう言ってティエルノはバッグからスプレータイプのきずぐすりを取り出して、それをポケモンに吹き付けていった。

 それが終わると、ティエルノは立ち上がる。

 

「とりあえず、明日七時に、またここで会おう! そして、一緒に旅立つんだ。そうだなあ……ミアレシティにはポケモンダンスの有名なチームがいると聞くし、そこまでは行きたいかな」

「ミアレシティって大きなタワーがあるんでしょ? そこ登ってみたいなあ……」

「ミアレシティだったらゴーゴートに乗れますよね。あれ一度乗ってみたかったんですよ」

 

 各々がミアレシティのことを語って妄想に浸ってしまった。

 旅立ちの日は――明日だ。

 

 ◇◇◇

 

 その頃。

 凡てを赤で身に包んだ女性がいた。

 髪も、スーツも、サングラスも、靴も、みんな赤一色だ。

 その女性が遠くからイクスたちを眺めていた。耳にはインカムをつけており、誰かと会話しているようだった。

 

「……はい、彼らの手に渡った模様です。……はい、……はい。いかがなさいますか?」

 

 相手からの言葉を聞いて、女性は小さく頷き、

 

「解りました。――では」

 

 通信を切って、その場を後にした。


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