【大都会ミアレシティ!】
4番道路を抜け、イクスたちはミアレシティへと到着した。
ミアレシティ。
カロス地方のほぼ中心に位置する大都市だ。真ん中にはプリズムタワーが建っており、街のどこからでも見ることが出来る。
高級ブティックに三ツ星レストラン、テレビ局に新聞社、ホロキャスターを開発した研究所まである、カロス地方最大の都市といえよう。
そんな街に、彼らはやってきた。
「うおー、すげえ! タクシーもバンバン走ってるし、ゴーゴートもいる! おー、あれがプリズムタワーか!」
イクスはミアレシティに着くやいなやまるで子供のように(確かに彼らは子供であるのだが)騒ぎ出した。
ちょうど、そんな時だった。
「イクスさんたちですね?」
「あなたたちをお待ちしておりました」
唐突に声をかけられ、イクスたちは振り返る。そこには、白い服装を着た男女が立っていた。
「はじめまして。わたくし、シーナと言います」
「僕はデクシオ。それぞれ、二年前に図鑑をもらった図鑑所有者だよ。そういう面からすれば君たちの先輩に当たることになる」
二年前。
それを聞いて、イクスたちは思い出す。
二年前――世界は大きく一変した。
世界を揺るがす大きな事件が起きたのだ。
『最終兵器を復活させよ』と謳った新興宗教が、各地で暴動を起こし、ポケモンと人を離別させようとした。
その時の暴動を食い止めたのが――、そこにいるジーナとデクシオなのだ。
「お会い出来て光栄です」
そう言ってイグレックは一歩出る。
そしてイグレックは握手を交わした。
「いやあ……とはいえ今は実際に図鑑所有者としては活動していないけれどね。図鑑も既に博士に返したから、僕たちはただのトレーナーだよ」
「どうして、返してしまったんですか?」
イグレックの問に、デクシオは少しだけしょんぼりとした。
「……まあ、いろいろとあってね」
デクシオの言葉を聞いて、イクスたちはそれ以上追求しないこととした。
「そうだった、イクスさんたち。博士が呼んでいます。どうやら、忘れ物があったらしいの」
そう切り出したのは、シーナだった。
「ちょうど僕らも博士の研究所に行こうと思っていたんです! 改めてポケモンをいただいたお礼がしたくて……」
トロバの言葉に、うんうんとシーナは頷く。
「そうだね、だったら急いで……というわけでもないけれど、向かいましょうか。プラターヌ博士のポケモン研究所はここからそう遠くはありません。私たちについてきてください」
そう言って、シーナとデクシオは歩き出した。イクスたちはただ、それに従うだけだった。
◇◇◇
ミアレシティの南部にある、プラターヌポケモン研究所。
その三階にある、博士の部屋へイクスたちは訪れた。
エレベータで三階まで上がると、ちょうどそれを知っているかのように、プラターヌ博士が待ち構えていた。
「やあ、ここまでご苦労さま! イクスくんたち!」
プラターヌはそう、涼しい表情で言った。
対して、ジーナとデクシオの表情は厳しい。
「博士、彼らにフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメを渡しにハクダンまで出向いたというのに、アレを忘れて、しかもここまで来ていただいたんですよ?」
「君たちふたりは相変わらず堅いなあ……。ほら、これだよ、みんな」
そう言って、プラターヌはあるものを取り出した。
それは宝箱だった。
そして、プラターヌはそれを開ける。
するとそこには……光り輝く石があった。
「……これは?」
「これはメガストーンというんだ」
「メガストーン?」
「君たち、ヒトカゲの最終進化系はなんだか解るかい?」
「リザードン、ですか」
プラターヌの問にいち早く答えたのは、トロバだった。
「そうだ、リザードンだ。そして、そのリザードンには新たな進化の可能性があることを……君たちは知っているかい?」
「新たな進化……?」
そのキーワードはイクスたちをクギ付けにさせた。
そして、プラターヌはその言葉を口にした。
「そう……新たな進化『メガシンカ』……。その実態はよく解っていない。そして、このメガシンカの初めて観測された場所……それはここカロス地方。今は全世界で観測されていることもあるらしいけれど……先ずはこのカロス地方からどうして『メガシンカ』というものが始まったのか? 研究を続けている、というわけさ」
プラターヌはそう言って、本棚から一冊の本を取り出した。
本を開き、中身を読み始める。
「一説には三千年前に栄えた王国がその鍵を握っているとも聞くんだけれどね。その王国はカロスを強大な力で統治していたとも、王の荘厳な感じで侵略していたとも言われているが……三千年も昔のことを知る人間は、到底生きてやしないからね。そういうのも解らないんだよ」
プラターヌはそう言って時計を見た。
「……さて、イクスくんたちも、出かけようではないか。ジーナ、デクシオ。すまないけれど、ここに暫く居てもらってもいいかな? そう時間はかからないと思うから」
「どちらへ?」
「ちょっと、『カフェ・ソレイユ』まで。イクスくんたちもぜひ来た方がいいと思うんだ」
「どうしてですか?」
トロバが訊ねると、プラターヌは彼の手首についている機械――ホロキャスターを指差す。
「ホロキャスターを開発した、フラダリさんって聞いたことはないかな? これから彼と会う約束があってね……。それじゃ、二人ともよろしく頼むよ」
その言葉を聞いて、ジーナとデクシオはゆっくりと頷き、イクスたちに大きく手を振った。
◇◇◇
カフェ・ソレイユはミアレシティの南に位置する、カロス地方でも有名なカフェである。
その理由は、カフェ・ソレイユにある有名な人間が来ているから――だが、実際にその姿を見ることはそう滅多にない。
プラターヌを先頭にして、イクスたちはカフェ・ソレイユに入る。中はこじんまりとしていて、新聞を読むサラリーマンや、お気に入りのポケモンと一緒にコーヒーをたしなむ女性と、その人となりは様々だ。
「あ、いたいた。彼がフラダリだよ。……あれ? 何か取り込み中のようだね……」
そこに居たのは、まるでカエンジシの鬣の如き髪型をした男――フラダリが居た。
対して彼と口論を交わしているのは、羽のような飾りがついた白い衣装を着た女性だった。しかし、それは誰だって見たことのある人間の姿だった。
「あれって……カルネさんじゃないですか!? カロス地方一の大女優の!!」
イグレックがそう言って、イクスは漸くどうして彼女たちが驚いているのか理解した。イクスはこのカロス地方に来て日が浅いから、気付かないのにも無理はない。
しかしながら、彼らは衆目を気にもせず、何を口論しているのだろうか?
「カルネさん。あなたは大女優だ。とても若々しいし、美しい。だが、それをしわしわのおばあちゃんになっても続けることが出来るでしょうか?」
フラダリは非常にのっぺりとした口調で、淡々と告げた。
「フラダリさん。先程からあなたは何を言いたいのでしょう?」
対して、カルネもそれに平坦に、ただし若干低い声で答える。彼女の地位的な意味でもあからさまな怒りは表現出来ないが、しかし怒っているというのは大体の人が感じられるくらいには彼女は不機嫌だった。
「美しい世界、正しい世界……。そうなれば、永遠の美をも手に入れることが出来るとは思いませんか」
「愚問ね、そんなものを手に入れて、何になるというのかしら? 私にも解るように……そうだ。そこに居る若いトレーナーさんたちにも解るように言ってくれるといいのだけれど」
そう言われてフラダリは振り返る。そしてそこにいたプラターヌを見て、彼は一歩出た。
「おお、プラターヌ。私が用事で呼んだのに、実はこれから私の方に仕事が入っていてね……すまない」
そう言って、フラダリはカフェを出ていった。
フラダリの背後を眺めて、プラターヌは呟く。
「出鼻を挫かれてしまったよ」
肩を竦めたプラターヌを横目に、カルネがイクスの目の前に立っていた。
さすがにイクスも何が何だか解らないので、思い切って彼女に訊ねる。
「あの……何か?」
「いや……。あなたはポケモンをもらったばっかりなのよね」
カルネの言葉に、イクスは頷く。
「実は私もポケモンを育てているのよ。……もし、今度会えたら戦ってみたいわね」
最後にじゃあねとウインクをイクスたちに送って、カルネもカフェを後にした。
「それじゃあ、改めてこれからのことを話そうか。みんな、ちょっとそこのテーブルに座ってくれるかい?」
プラターヌに誘われ、イクスたちは腰掛ける。
椅子に座ると、プラターヌが話をはじめる。
「さて……先程見せたとおり、メガストーンという、まだこの地方に眠るたくさんの『知らないこと』がある。メガストーンにメガシンカがその例えだ。……君たちは未来あるトレーナーだ。だから、君たちの目で、それを見て欲しい。知らないことを、世界を見て欲しい。僕はそう思って、君たちにポケモン図鑑を渡した……」
「それじゃあ、これからもポケモン図鑑とポケモンは……」
トロバの気持ちを汲んだのか、プラターヌは頷く。
「ああ。ずっと、君たちのものだよ。僕に奪う権利なんてもうないさ」
その言葉に全員が喜んだのは――言うまでもない。