【食いしん坊のアイツ!】
コボクタウン。
カロス地方の西側に位置する小さな田舎町だ。観光資源といえるのが、町の北側にあるショボンヌ城だろう。ショボンヌ城は三千年前、このカロス地方にあった王国のものだとされている。中はこじんまりとしたもので、しかし三千年前のものが良く残っていることから、隠れた観光スポットになっている。
そんな場所にイクスはやって来た、のだが――。
「メガシンカ……ふむ。あまり聞いたことはないな。申し訳ない。わざわざここまで来ていただいたのに……」
コボクタウンの町長の家で、メガシンカに関する情報が聞けるかと思っていたが、そんなことは何とも骨折り損だった。
「どうするかなぁ……」
そんなことを言いながら、イクスはメインストリートを歩いていた。とはいえこの町はとても小さな町だ。城下町の名残で町は高い塀に囲まれている。少し前にこの町の塀を残すか否か会議があったようだったが、結局彼らは時代よりも景観を優先した。結果としてこの町はカロス地方でも有名な町となっているのだ。
ショボンヌ城へイクスは向かった。理由は特に無いが、急ぐ用事も彼にはなかったからだ。
ショボンヌ城はひどく閑散としていた。確かにこの城は知る人ぞ知る観光スポットではあるのだが、だからといってまったく知名度が無いわけではなかった。
「……あっ、イクっち」
「イクっちってなんだよ、それ」
城に入ると、サナがイクスを待ち構えていたかのように此方を見ていた。
「イクっちもメガシンカを調べに来たんだよね?」
「まぁ、ここが一番近いし、城みたいに古い建物もある。もしかしたら……だなんて思ったんだが、そんなことはなかったな」
イクスはそう言うと、サナも小さく微笑んだ。
「……もし、よろしければこの城の案内をさせてはいただけないでしょうか?」
そう声を聞いて、そちらを向くと、そこには若い男が立っていた。トレーナーの袖には黄色の腕章がしてある。
「あぁ、私はこのショボンヌ城の案内役を務めております。どうです? この城と、カロスにあった王国について、少しばかりお話が出来ればと思うのですが……」
男が言うと、サナは大きく頷く。男は「それでは」とだけ言って、話を始めた。
◇◇◇
三千年前。
カロス地方は深い深い森に包まれていた。ポケモンがありとあらゆる場所に居を構え、争いはあったもののほどほどに。……要するに、何もない平和な世界だった。
ポケモンとの共存のため、細々と暮らしてきた人間は、一つの場所に集まって、共に生きようと決意した。
それが、私たち人間です。
私たち人間は集まり、王国を作りました。その名前はあまりにも古いためか、記録にはまったく残っていないのが残念なところですが……領土はちょうど今のカロス地方より少し広いくらいだったそうです。
そうして王国は生まれ、とても栄えました。他の国との交流も順調に進み、人々は豊かな生活を送っていたと聞きます。
……ですが、あるとき起きてしまったのです。
それが起きた理由は詳しく解明されていませんが……しかし、ひどく些細なことだったのです。
些細なことだったが、それによって世界を揺るがすあの出来事が起きたのですから……世界は本当に理解出来ません。
……何があった、って? 解りました、お教えしましょう。ただし、非常に簡単なことです。
戦争、ですよ。
戦争が起きて、凡てを破壊し――燃やし尽くしたのです。
原因は単なることだったとされています。そうして、ポケモンを愛する王はそれを止めようとしました。
しかし出来なかったのです。
もう人々は……そんなたったひとりの声で止まらないくらいに熱気に包まれていたのです。
王の傍らにはいつも一匹のポケモンがいました。
そのポケモンと王はとても仲良く……まるで友達のようだったと言われています。
そのポケモンも、戦争に駆り出されました。
戦争が終わりました。
多くのポケモンが、人が、死にました。
カロス地方は大きく悲しみに包まれました。
戦争が終わって、ポケモンが死んで。
一番悲しんだのは、王でした。
王はポケモンの亡骸を抱えて――ただただ泣いていました。
◇◇◇
「……悲しいお話ね」
男の話を聞いて、サナはそう言った。少しだけ声が変な感じだったのは、彼女も感極まって泣いていたからかもしれない。
それを聞いて男は頷く。
「ええ、ええ。そうです。……ですが残念ながらこの続きは私たちにはわかりません」
「えっ?」
「何分昔の話でして。残っている資料も少ないのです」
そう言って男は肩を竦めた。
――その時だった。
「おい! また七番道路にあいつが現れたぞ!!」
それを聞いて、男は舌打ちする。
その言葉を言ったのは先程七番道路の方に立っていた男だった。彼はどうやらコボクタウンの守衛のような役割をしているようだった。
「あ、アイツって?」
イクスが訊ねる。
「アイツとは……いや、今ここで説明するよりも実際に見てもあったほうがいいでしょう。一先ず、一緒に来てください」
その言葉に従って、イクスとサナはその男のあとを追った。