「コーストカロス図鑑……」
イクスたちは新しく見る図鑑に目を輝かせていた。当然かもしれない。今までずっと持っていた図鑑とは違う、見たことのないポケモンがたくさん登場することを意味する図鑑になったということだ。
その図鑑を見て、イクスが一言。
「まだまだこの地方には、見たことのないポケモンがいっぱいいるってことだよな……」
その言葉にほかの人間も賛同するように頷く。
ジーナとデクシオとは既に分かれ、コウジンタウンへ向かうため再び彼らは歩いていた。
そして。
「あ、あれは……」
目の前に見えるのは、大きな白い建物。
「コウジンタウンに到着したんだー!」
それがコウジンタウンの博物館であることだと、彼らが知ったのはそれから少し後のことだった。
◇◇◇
コウジンタウンポケモンセンター。
「はあー、やっと着いたね」
「……そうだね」
イグレックの言葉にイクスは答える。しかしイクスの言葉はどこか重たい。疲れているのが原因だろう。
「とりあえずここから化石があるという洞窟へ向かうには……どうしたらいいんだろう」
サナが言った。それは彼らにとって共通の疑問であった。
これから化石の洞窟へはどう向かえばいいのか。
彼らにとって、一番の議題になっているのは『メガシンカ』についてだ。メガシンカは石が必要だと言われており、そのため、化石の採れる洞窟ならば何かあるのではないか――そう期待していたのだ。
「まあ……とりあえず、あればいいですけれど。無かったら完全に骨折り損の草臥れ儲けってやつですよ」
「骨折り損の……なんだって?」
「草臥れ儲け、です」
「トロバは相変わらず難しい言葉を使うのが大好きなのよねえ。ほんと」
サナは皮肉混じりに呟く。
イクスはその状況をどうにかしようと小さく咳払いした。
「……とにかく、先ずは洞窟へ向かおう。話はそれからだ」
◇◇◇
9番道路、トゲトゲ山道。
そこは普通の人間が歩くことを許されない、デコボコした道である。
「どうやって通ればいいのかしら……」
「あ、見て! あそこにサイホーンがいるわ!」
サナの言葉のあとに、イグレックは言った。
そこに居たのはサイホーンの群れだった。
そしてその群れを先導するトレジャーハンターの姿があった。
「あの……すいません! そのサイホーンに乗せていただけないですかー!」
イグレックは叫びながらトレジャーハンターへ近づく。
「構わないよ、そもそもこの山道はサイホーンに乗っていくことが出来るスポットとして有名になっているからね。若干観光地めいたものにもなっているし」
「へえ……はじめて知りました」
イグレックの言葉にトレジャーハンターは首を傾げる。
「そうかい。ここはそれなりに有名なのだけれどね。子供たちだけで旅をしているのを見るのも、僕にとっては充分珍しいことではあるけれど」
「ポケモン図鑑を埋める旅をしているんです」
そう言ってイグレックはポケモン図鑑をトレジャーハンターに見せた。
それを見てトレジャーハンターは目を丸くする。
「ほう! ポケモン図鑑を埋める旅をしているのか。このカロス地方は広大だからね。時にはポケモンの力を借りなくてはならない時だって出てくるだろう。そうして僕たちは育ってきたと言ってもいい。その気持ちを忘れてはならない、と僕も常日頃考えているからね」
そう言いながらトレジャーハンターはイクスたちをサイホーンに乗せてくれた。
「サイホーンの操縦の仕方は?」
「だいたいですが、知っています。母がサイホーンレーサーなので」
答えたのはイグレックだ。それを聞いてトレジャーハンターは頷く。
「ならば、大丈夫そうだね。それでは、良い旅を!」
そう言ってトレジャーハンターは手を振った。
イクスたちもそれに答えて、手を振りその場を離れた。
「さて! サイホーンに乗ることも出来たことだし、急いで洞窟へ向かいましょう!」
「オーッ!」
イクスたちは大きく腕を突き出した。
目指す場所、輝きの洞窟まではあと少しである。
トレジャーハンターはイクスたちが見えなくなるまで手を振った。見えなくなったあと、またサイホーンを乗りたいと思う人を待つために定位置へついた。
「すいません、サイホーンに乗りたいのですが」
声が聞こえた。
「解った。それじゃ好きなサイホーンに乗ってくれ」
異質な男だった。スーツもネクタイもサングラスも凡て赤で決めたファッションの男だった。髪も何だかよく解らない髪型をしており、至極目立つ男だった。
それでも、彼はそれを不審と思うことなく、男にサイホーンを渡した。
そして、男はサイホーンに乗り込み、イクスたちの後を追うように輝きの洞窟へと向かった。