メガシンカ。
それはポケモンに秘められた新たな可能性。
噂には聞いていたが――いざ目の前でそれを見ると、生命の神秘というものを感じるものである。
「これが……メガシンカ……」
トロバは興奮のあまり、身体を震わせていた。
「ははは! まさかこのような場所であなたのような人間が繰り出すメガシンカを目の当たりにすることが出来るとは! 今日はいい日だねえ!」
赤スーツの男は笑っていた。
「そんなことを言える余裕でも、あるのかしら?」
カルネは溜息を吐く。
このバトルを退屈と言わんばかりに。
「……何を溜息吐いているというのだ! そんなことをして、いいと思っているのか!?」
赤スーツの男は地団駄を踏む。
カルネは当然の如く、呟いた。
「だって、つまらないものはつまらない。そういうしかないでしょう? ……とはいえ、このバトルを簡単に決着着けるのも、難しいわけだし」
「だったら溜息を吐いている暇はあるのかな? 行け、カエンジシ!」
轟! と炎が矢の如く撃ち放たれる。
その攻撃にイクスたちは、カルネが逃げられない――と思っていた。なぜなら、その攻撃はポケモンでは無く、カルネを狙っていたのだから。
だが、カルネは一切動じることなど無かった。
「カルネさん!」
イクスは思わず叫ぶ。
だが、それでもカルネは動じない。
――そして、彼女はゆっくりと呟いた。
「サーナイト、『サイコキネシス』」
たったそれだけだった。
その一言だけで、サーナイトは念の力を撃ち放った。
それが炎の矢に激突し、一瞬で霧散する。
いや、それどころか。
サイコキネシスはそのままカエンジシへ一直線に向かう。
「か、カエンジシ……避けろ! 避けるんだ!」
「遅いよ」
一言。
カルネが放ったと同時に――カエンジシにサイコキネシスが命中する。
そしてカエンジシはその場に倒れ込む。戦闘不能だ。
「く……。まさかこんなところでやられるとは……! ここは退散……だ?」
そこで、漸く気付いた。
洞窟全体を揺るがす振動と、地面に皹が入っていることに。
「どういうこと……!」
「バトルの影響で、脆い床が崩れてしまう! みんな、急いで安全なところへ――」
そう言いかけた、その時だった。
刹那、床が崩れ落ち――イクスたちはそのまま落下していった。
◇◇◇
イクスが目を覚ますと、そこは別の空間だった。見上げると、少し高い位置にぽっかりと穴が開いている。とてもじゃないが、そこまで上ることは難しい。
「……イグレック、サナ、ティエルノ、トロバ、無事か?」
イクスのすぐそばにイグレックたちも倒れ込んでいた。
イクスの言葉を聞いて、四人はゆっくりと立ち上がる。
「ううん……イクス、大丈夫?」
イグレックの言葉に彼は頷く。
「それにしても……ここはいったいどこなんだ?」
イクスの言葉に、イグレックたちも首を傾げる。
「ここは……きっと何かが封印されていた場所ね」
声を聴き、そちらを向く。
そこに居たのはカルネとサーナイトだった。どうやらもうメガシンカの姿ではなくなっているようだった。
「封印、ですか?」
カルネの言葉を反芻するイクス。
「ええ、この空間は……きっと、あるポケモンを封印している場所だと思う。私の推測が正しければ――」
「おおう! これは……これは!」
遠くで、あの赤スーツの男の声が聞こえた。
「不味い。もう見つけてしまったのか!」
そう言って、カルネは走り出す。
それを追うように、イクスたちも走り出した。
その先に何があるのか――まだ彼らは知らない。
◇◇◇
そこにあったのは、大きな繭だった。
赤スーツの男は、イクスたちがやってきたのを見て笑みを浮かべる。
「これだよ、我々が真に求めていたのは! カロス地方の伝説のポケモン、その名は『イベルタル』! このポケモンこそ、フレア団の求めるポケモン!」
「あなたたち……このポケモンを使って、何をするつもりなの」
カルネは言った。
対して、赤スーツの男は頷く。
「残念ながらあまり知らない。強いて言うなら、『我々だけが生き残る』ために、イベルタルの力を利用するとでも言えばいいか」
「自分たちが生き残る為だけに、ポケモンの力を利用する、と? ふざけるな! このカロスはみんなのためにあるものだ!」
イクスは思わず自分の意見を叫んだ。
だが、その意見は赤スーツの男に聞き届けられない。
「……そんなきれいごと、子供のうちに捨て去ったよ。ボスも言っていた。もうこの世界は手詰まりだと、選ばれた人間のみが明日への切符を手に入れる。必ずしも全員が明日への切符を平等に手に入れる時代ではなくなったのだ……と!」