「Z?」
捕らわれの身となった大男に話をするクセロシキ。
「そう。その名前はZ……。この地方を監視する役目を持つ。かつてはこの地方では無い、別の地方に居た。今は地方という概念で名づけられているかもしれないが、私の頃は一つの王国に過ぎなかった」
「『ポケジニア』……。モンスターボールも開発されていない太古の昔に存在したといわれる、ポケモンと人間のユートピア」
クセロシキの言葉に頷く大男。
「しかし、それも今や過去の話。今や世界は地方という概念で括られている存在となっている。ポケモン協会という、害悪のせいでな」
クセロシキの背後から、声が聞こえた。
クセロシキが振り返ると、そこに立っていたのは見覚えのある人物だった。
いや、忘れるはずが無かった。
「……フラダリ様。戻ってくるのはもっと後だと聞いていたゾ」
「予定が早まった。もっと言えば、ホウエンで色々とゴタゴタがあったものでね、巻き込まれる前に帰ってきた。だが、情報は手に入った」
そう言ってフラダリは一枚のフロッピーを差し出す。
受け取るクセロシキは、首を傾げてフラダリに訊ねる。
「……これは?」
「『世界の区分を一つにする』プログラム、Azoth計画のデータ……とでも言えばいいか?」
「世界の区分を……一つに?」
「貴様、まさか最終兵器を使うつもりか……。それも、私欲のために」
大男は鉄格子を握り、フラダリを睨みつける。
しかしながらそれに臆することなく、フラダリは鉄格子に近づく。
「貴様がそれを言える立場か? AZ。……いや、ポケジニアの王」
フラダリの言葉を聞いて、AZは溜息を吐く。
「脅迫は聞かんぞ、フラダリ。あきらめろ、お前の求める道はその先に残っていない。最終兵器を使って得られるものは無い。世界は破壊され、ポケモンは死滅し、その先に残っているのは絶望のみだ」
「それはただの戯言だ」
AZの忠告をフラダリは一笑に付し、そのまま立ち去って行った。
「忠告はしたぞ、フラダリ。この先に何が待ち受けていようとも……お前はそれを受け入れるというのか」
「私はただ、私が追い求める『美しい世界』を探すだけだよ」
言って、フラダリは部屋を後にした。
◇◇◇
修行は続いていた。
ブラックの下でイクスたちが修行を行う形となっているが、自主性を孕んだものとなっていた。ポケモンバトルをして、お互いの技を見つめあう。そしてそれについて対策を練る。それが彼の考えた修行だった。
「……ほんとうにこれだけで強くなるのでしょうか?」
そう言ったのはカルネだった。
カルネの問いに首を傾げるブラック。
「カルネさん、それはいったいどういう意味ですか?」
「だから、こんなことは誰だって出来ることです。わざわざイッシュからあなたが来る程のものでも……」
「果たして、ほんとうにそうかな?」
「?」
「……この修行は簡単に出来るけれど、それによる結果は一目瞭然だ。そりゃあそうだ。ずっと実戦を続けていくのだから、レベルも上がる」
「けれど……、もっと効率がいいものは? このまま手を拱いている場合じゃないのは、あなただって十分に解っているはずでしょう?! だから先ずは……ひゃん?!」
会話の途中でカルネが変な声を上げた理由はただ一つ。
ブラックがリュックに入っていた『おいしい水』をカルネの頬に当てたためだ。
「冷えているぞ。こういう時はクールダウンすることも大事だ」
「……ありがとう」
カルネは溜息を吐いて、おいしい水を一口。
「ハリボーグ、『はっぱカッター』!」
「テールナー、『ほのおのうず』!」
カルネが水を飲んだ同じタイミングで、イクスとイグレックのバトルが終了したようだった。
同時に、テールナーとハリボーグの身体がまばゆい光に包まれる。
「これは……」
「これって……!」
イクスとイグレックがその現象が何であるかを直ぐに予測して、顔を綻ばせる。
そして、光が収束すると――、ハリボーグはブリガロン、テールナーはマフォクシーに進化を遂げた。