イグレックがその声の源に辿り着いたとき、既にイクスたちもその場に居た。先ずは目の前の情景から、どうなっているのかを確認する。
サナは少し小高い岩場に腰掛けている。しかし、身体は震えていた。
そしてサナを取り囲むように――五匹のデルビルの姿があった。
「デルビルは縄張り意識がとても強いんですよ」
トロバはイグレックに聞こえるように小さく呟く。つまりは、サナは解らぬままデルビルたちの縄張りに入ってしまった――そういうことになる。
「五匹に対してこっちは四匹……少し戦力不足かな?」
「いや、戦力はあるに越したことはないよ。……ケロマツ、『あわ』だ!」
ティエルノはそう言うと、ケロマツは口からシャボン玉のような泡を吐き出した。それはデルビルたちに向かうと、ぶつかった瞬間にそれは破裂した。
「五匹全員に当たっている……!」
「これが群れバトルのいい特徴だよねぇ」
「群れバトル?」
イグレックはその単語を聞いたことが無かった。
「群れバトルとは今の状況をさすんだよ。複数対一、または複数対複数……そのバリエーションしかないけど、戦法が無限大に広がるというのは、言わなくても見えてくるかなぁ?」
ティエルノの言葉に、イグレックはこくこくと頷く。
バトルに戻ると、技を食らったデルビルたちは、一斉に炎を吐き出した。それは、フィールド一面を焼きだした。
それの意味は。
「……これが群れバトルの厄介でもあり、長所でもあるポイントさ。自分の攻撃が敵ポケモン全体に当たるけれど、それは敵にも同等の条件……というわけさ」
イクスとトロバのハリマロンは、その炎によるダメージをもろに受けてしまった。
「くっ……だけど、まだ此方が勝っているのは確かだね」
「ハリマロン、『すなかけ』だ!」
トロバは直ぐに反撃を開始した。しかし、とても草タイプの技で炎タイプに挑もうなど思ってはいない。
先ずは、外堀を埋める必要がある――というわけだ。
砂が目に入ってしまったデルビルたちは、暫く技の命中精度が下がる。そして、それは彼らにとってチャンスだった。
「ケロマツ、もう一度『あわ』だ!」
「ハリマロン、『ひっかく』!」
「フォッコ、『たいあたり』!」
そして四匹の攻撃がデルビルたちに当たり――デルビルたちはその場に倒れた。
◇◇◇
「……しかし、大変だったね」
あのあと、デルビルたちは森の奥に消えていった。
しかし、デルビルはこの北の森にはあまり居ないポケモンなのだ。ここまで群れを成して出てくること自体が、珍しい。
「……まったく。どうなっているんだろうね」
ティエルノはぶつくさいうが、ほかの人にとってはよく解らないことだった。
「カロス地方の生態系が……変わっている、ということ?」
イクスが言うと、ティエルノはポケモン図鑑を手にとった。
「ポケモン図鑑を見てもらえれば解るんだけどさ、デルビルはこの地域にいるはずのないポケモンなんだよ。だから……ここに居るのがおかしいのさ。僕らがもつこのポケモン図鑑の説明がおかしい可能性も、確かに否めないけれどね」
「デルビル……きっと、私たちが間違って縄張りに入ってしまったから、あんなに怒ってしまったんだわ」
イクスが言うと、ティエルノは首を横に振る。
「デルビルはこの辺には生息しないポケモンだよ。……彼らではなく、森に住む古来のポケモンの縄張りを、彼らが侵しているんだ。それは、僕らも例外ではないけどね」
ティエルノがそう言って頭を掻くと、立ち上がった。
「よし、それじゃあ……先へ進もうか。急がないと、ハクダンシティに着く前に日が暮れてしまうよ」
「そうね」
「そうだな」
「そうだね!」
ティエルノの言葉に、三人が頷いた。
◇◇◇
その頃。
とある研究施設。
「モミジー、まだ終わんないのー?」
緑色の髪をした、女性が青い髪の女性に問いかける。彼女たちは皆、似たような格好をしていた。共通点は――服装が凡て赤いことだ。緑の髪をした方は、ハーフパンツに七分丈のシャツ、そして肘までかかる手袋、膝丈のブーツを着用していた。対して、青い髪をした方は、スカートで、中にスパッツを履いている。そして手袋はつけておらず、代わりに長袖の服を着ていた。彼女たちはともに、ゴーグルを着用している。
モミジと呼ばれた女性が深い溜息をついて、椅子を回転し、訊ねた方へと向く。
「そんなこと言うけど、バラ、あんたはもう終わったの?」
「んー、五分五分」
「何がよ」
「終わる可能性と、終わらない可能性」
「で? 実際は?」
「まだ終わっていないのでした」
「バカ」
そう言うとモミジはバラの頭をごつん、とグーで叩く。
「グーはないでしょ!」
「巫山戯てる罰」
「えー」
バラはそう言って、空いている回転椅子に座る。
「そういえばさ、部下から来たんだけど」
「何?」
「――『あれ』が、無事に渡ったらしいよ」
バラの言葉に、モミジはぴくりと身体を震わせる。
「へえ……」
「どう? ビッグニュースだと思わない?」
「一面記事レベルね」
「でしょー」
バラは回転椅子をクルクルと回す。
モミジは再び機械の開発へ勤しむ。
そんな日常だったが、一部だけ非日常も紛れている。
それが彼女たち――フレア団のとある研究者の日常だった。
【次回予告】
私の妹はカメラマン!
第三話 VSヤンチャムⅠ
2013年10月8日投稿予定。