◇part:1◇イクス・イグレック
「ともかく……パンジーさんの指示でここにいる訳だけれど」
イクスはそう言うと小さくため息をつく。ここはハクダンシティの中心部から少し離れたモダンな町並みが広がるストリートだ。そんなストリートに彼らがいるのは、パンジーがイクスたち五人を三グループに分けたから、というのがある。
イクスとイグレックはここにいる訳だが、それからどうすればいいのかは一切指示が出ていない。
「好きに回れとかそういうことなのかな……」
イグレックが言うと、イクスはたぶん、とだけ言って頷いた。
◇part:2◇トロバ・サナ
トロバとサナはイクスたちと逆の方向に立っていた。場所をいえば、ちょうどミアレシティへと向かう道路の出口付近である。
「でも、実際に私たちだけでポケモンを見つけられるのかな?」
「一人よりかは六人いた方が見つけやすいんだろ。僕も解らないけれど、困った人をほうっておくわけにはいかないじゃないか」
「そうだけど……」
「さ。一先ずあたりを見渡すことにしよう。……今のところ、変わった様子はないようだね」
「初めて来たのに、『変わった』なんて分かるの?」
「何となくだよ」
そう言って、トロバはシニカルに微笑んだ。
◇part:3◇ティエルノ・パンジー
ティエルノとパンジーはポケモンセンターの前に立っていた。
「……ほんとうに見つかるのかなあ」
ティエルノが呟くと、ゴーグルを付けていたパンジーが訊ねる。
「大丈夫よ。六人もいるんだから、どこかで一人が見つけてくれるはずよ。この街は、そう広くないから。これがもし、ミアレシティとかだったらまた話は変わっただろうけれど」
「そりゃ、ミアレシティとかで探すとなったら、僕たちだって骨が折れるよ。そんなこと、しようとも思わないなあ」
「私だってそんなことしたくないわよ……。おっと、あれは」
パンジーの言葉を聞いて、ティエルノもそちらを見る。
屋根の上に、一匹のポケモンが載っているのが見て取れた。
目付きの悪い、パンダのような生き物。一発でそれがポケモンだと解った。
「なんだろう、あのポケモン……?」
そう言うと、ティエルノはポケモン図鑑を取り出す。
ポケモン図鑑は、簡単に、そのポケモンの名前を導く。
「……『ヤンチャム』? 聞いたことないなあ……」
「ちょっと待って。それって、ポケモン図鑑?」
パンジーがそれを見て、とても驚いた表情を示した。ティエルノは取り敢えず小さく頷く。
「なんてこと……、まさかこんなところで『図鑑所有者』に出会えるだなんて!」
「図鑑所有者?」
「図鑑を持つ、人間のことよ。選ばれた存在として、有名なんだから」
◇part:1◇
図鑑所有者。
その響きはとても誇らしいものだ。
古くは『ポケモン研究始まりの地』であるカントーから始まり、そして今やポケモン図鑑というものを持つ人間こそが選ばれた人間――そんな勘違いを持った団体が生まれるほどに、図鑑所有者という存在は良くも悪くも成長した。
そして『図鑑を持つことこそがステータスだ!』と言わんばかりに図鑑を開発していく集団も居た。
しかし、ポケモン図鑑とは、本当に特殊な技術の結晶であり――知識をかじっただけの人間が作ったものは、ただの模倣に過ぎなかった。また、それが報道されていくと、益々ポケモン図鑑というものが神格化されていった。
ポケモン図鑑こそ持てば、強くなるのではないか? かつてそんな研究をした科学者がいた。しかしそんなことは全くあり得なかった。
何故ならば、持つことで力を得るのではなく、『生まれながらにして』力を持っているのだから。
そんな存在を、博士が厳選していく。それはあまりにも気の遠い作業だ。
だから、図鑑所有者が見つかるのは幾年かに一回、それも多くて三人だった。
しかし、今回は違う。五人も居る。それを見たとき、あまりにも滑稽でイレギュラーだったため、失笑してしまった。
だが、見つかってしまったからには、その数の図鑑を用意せねばならない。何時もならばそこまで時間がかからないのだろうが、三年の歳月をかけて制作することとなった。それほど、ポケモン図鑑は希少性が高い。
「……と、ここまでが僕の知る『ポケモン図鑑』についての情報さ。他に質問は?」
そう言われてイクスとイグレックは言葉を失っていた。イクスがポケモン図鑑で今まで見つけたポケモンを、イグレックに見せていたのだが、途中で誰かが現れたのだ。
紫色の天然パーマに白衣を着た男だった。無精髭を生やしていて、少しだらしない。
「……あの、どうしてポケモン図鑑について、そこまで知っているんですか?」
そう。
彼女たちが特筆すべきポイントはそこだった。白衣の男がイグレックたちに話しかけてきたのも、そのポケモン図鑑を見せていたからだった。
「あぁ……言い忘れていたね、僕の名前は……」
がふっ!? と驚いた声を出したのと、その男の顔にポケモンがくっついてきたのは、ちょうどそのときだった。
そして。
「ちょっと。大丈夫、そこの人!」
パンジーを先頭にして、サナたちが此方に向かって走ってきた。
「みんな、どうして!?」
イグレックが言ったその言葉――つまりは何故パンジーたちがここに居るのか――その為には、少しばかり時間を戻す必要がある。
◇◇◇
ティエルノたちが一番初めにヤンチャムを見つけたすぐ、ヤンチャムは路地裏へと駆けていった。
「あっ!」
パンジーは決して逃がすことなんてしない。ただ、追いかけて追いかけて、必ずや捕まえる――ただ、それだけのために。
だから、彼女もまた、ヤンチャムを追いかけるために走り出す。それを見て、ティエルノも非常にゆっくりとではあるが走り始める。
ヤンチャムを先頭にしてトレーナー二人が走る。それは他の町ならば、非常に微笑ましい光景だろう。
この町でもその光景は通用する。だから、皆助けるようなことはしない。何故なら、悪戯者が何者か……誰も解らないのだから。
「あーっ、このままじゃ埒があかない!」
パンジーはそう言って髪を掻き乱す。そして彼女はモンスターボールを構え、
「エリキテル、お願い!」
掛け声とともに、ボールを投げた。地に落ちたボールからはエリキテルが姿を現す。
「エリキテル、『でんじは』!」
パンジーはエリキテルの『でんじは』でヤンチャムの素早さを落とし、捕まえる作戦に出た。
しかし、エリキテルの放った『でんじは』はその想い虚しくヤンチャムに当たることはなかった。
当たらなかったのを見て、ヤンチャムは此方を向く。
そして、べーっと大きく舌を出した。
「待てええ!!」
パンジーはとうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのか、今までよりも速く走った。ティエルノとエリキテルを若干置いていく形だったが。
◇part:2◇
さて、その頃サナたちと言えば、
「ねぇトロバ、そのアイス一口ちょーだい! たしか、ブリーの実だよね? 私のも一口あげるよ!」
「君のはモモンの実だっけ? あれ甘過ぎてさぁ、僕の口に合わないというか……あれ、意外と美味いな」
優雅にもアイスクリームを購入し、町を歩いていた。適度な身長差に二人で別々のアイスクリームを購入し交換し合うその光景は、恋人同士かと思わせる。
しかし、少なくともサナはそんなことを意識しておらず、さも当然といった表情だった。
対して、トロバの方は表情には出していないものの心の中ではすごい恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。幼馴染みとはいえ、年齢を重ねていくうちにそういうことは恥ずかしくなっていくものだ。
「あ、トロバ!」
そんなときだった。サナが前方を指差して声を上げた。
そこに居たのは、ヤンチャムだった。右から左へ駆けている。そして、少し遅れて、ティエルノとパンジーが走っていた。
「もしかしてあれが……?」
そう言って二人は目を見合わせ、彼らに追いつくために駆け出した。
◇◇◇
「……というのが事の顛末でして」
パンジーはその言葉で説明を終了した。白衣の男は顔からポケモンをひっぺがし、抱えていた。
「ふーん、噂には聞いていたがこいつがハクダンシティの……」
男はそういうとヤンチャムの身体を嘗めるように見つめる。
「あの、」
気になって、パンジーは訊ねる。
「もしかして、あなたの名前は……」
「解ってしまいましたか。まぁ、この子供たちには全く気付かれなかったのですが」
そう言って男は漸くヤンチャムから視線を逸らした。
「君たちと会うのは初めてのことだろう。だから、改めて自己紹介をしよう。私の名前はプラターヌ、この地方でポケモンの研究をしているよ」