ハクダンシティジムは街の北東にある。
ちなみに今いるのはイクスのみだ。ほかのみんなはどうしたか? といえば、トレーナーズスクールで待つとのことである。別に先に行っててもいい――イクスはそう言ったが、サナが「みんなで行かないと旅にならないでしょ!」とのことで、仕方なくその言葉に従うこととなった。
かくして、今彼はハクダンシティジムの前に立っているのだった。
「……何を怯えているんだ、俺は」
イクスは自問自答する。別に、ここに来たくないわけではない。寧ろ来たかったんじゃないか――と。
そんなことを孕みながら……彼はジムの中へと入っていった。
「オース、未来のチャンピオン!」
入って最初に声をかけられたのは、小太りの男だった。
ジムはとても狭く、真ん中に穴が開いていた。
「ここは、ハクダンシティジムですよね?」
イクスが訊ねると、小太りの男は頷く。
「ああ、そうだとも! あ、もしかしてそうだと思っていないんだね? 分かるよ~。でもここは確かに! ハクダンシティジムさ! 間違ってなんていないよ」
「そ、そうですか……」
「ハクダンシティジムは虫タイプのジムだ。……君の手持ちは?」
「ハリマロンとヤヤコマ……かな。一応レベル10にまではあげているけれど」
「ならば、一応倒せそうじゃないですかね。虫タイプは飛行タイプの技に弱いですからね……まあ、私から言えるのはこの程度です」
「なんだ、至極気になる」
「まあまあ、頑張ってください……」
そう言って、男は真ん中の穴へと誘導する。穴はよく見れば棒が下へと伸びていた。下に向かえばジムがある――大方そういうことなのだろう。そう考えて、彼はそこへと飛び込んだ。
◇◇◇
ジムトレーナーを倒して、漸く彼はジムの最奥部まで辿りついた。
「おっ、君がパンジーが言ってたオトコノコだね?」
そこに居たのは、カメラを構えていた女性だった。
こくり、とイクスは頷く。それを見て、女性は小さく微笑む。
「いいんじゃない、いいんじゃないの! 勝負に挑むその表情、いいんじゃない、いいんじゃないの!」
「……バトルのルールは」
「そうですね。交換アリで、一匹が倒れたら終わり……これが、カロスリーグのルール! だったらこれに従うっきゃない! いいんじゃない、いいんじゃないの!」
それを聞くと、イクスは改めてボールを見る。ハリマロンも、ヤヤコマもやる気満々だと言わんばかりに大きく頷いた。
「おっ、ポケモンもばっちりだね! いいね、私はシャッターチャンスを狙うように……あっ、シャッターチャンスってのはほんとに一瞬だからね、0コンマ何秒の世界だから! だからこそ、反射神経を問われるのさ、カメラマンというのは。……えーっとなんだっけ。そうだそうだ。いいね、私はシャッターチャンスを狙うように勝利も狙っちゃうんだからね! ……えーと、あ、私の名前言ってないね。私はビオラって言います。今更過ぎますが。……それじゃ、よろしくお願いします!」
そう言って、ビオラはボールを高く投げた。それを見てイクスもボールを投げる。
そして、同時にボールが地に落ちた。
出てきたポケモンは、イクスがハリマロン、ビオラがアメタマだった。
(アメタマ……ということは、草タイプのハリマロンには有利! ということは先ずは……)
「ハリマロン! 『やどりぎのたね』!」
そう言うと、ハリマロンは種をアメタマめがけて投げつける。種は見事アメタマの足元へ届き――そこですくすくと育った。
「アメタマ、『みずあそび』!」
次にアメタマは水を吹き出した。直ぐにそれが雨のように降り注ぐ。みずあそびという技は炎の威力を弱める技だ。しかし、今は関係ない。何故ならイクスは炎技を仕えるポケモンが居ないから――だ。
そして、やどりぎが容赦なくアメタマの体力を吸い取っていく。ダメージは一回毎ならば低いが、それが蓄積されればあっというまに体力は尽きる。
「さあ……どうする」
イクスは思わず呟いてしまった。
対して、ビオラは表情を崩さずに、
「私はジムリーダーよ? そう簡単に諦めるわけがないでしょう? ……アメタマ、『でんこうせっか』!!」
そう言ったのと同時に、アメタマはハリマロンへと駆け出していった。